事実を曝すのも「正義」なら
隠して守るのも「正義」かもしれない









〜第十九話 紛れた言葉〜








五日後 本の虫さんが複写を終えたと
教えてくれたから、皆でお宅にお邪魔した











私は出来上がるまでの間





本の虫さんを殺すかどうかを何度か考えた









図書館を丸ごと燃やしてでもラスト達が
処分を優先した資料







それがエド達の目に触れるのがマズイのは
何となく理解できた









でも、資料が無くなった事に絶望した姿と





手がかりが復活した二人の喜びようを
この目で見てしまったからか


少し ためらいが生まれた











「よっしゃ〜ようやくマルコーさんの
研究所が拝めるっ!」


「そうだね、僕もドキドキしてきたよ!」


「ニャハハ 二人とも本当楽しみなんだね」


「当ったり前だろ
今更わかりきったこと聞くなよ!







…結局 わくわくするこの二人を





再び絶望の淵に追い落とすことなんて
さすがの私でも出来なかった









まあ、いっか 私の目的はあくまで
人柱の監視だけだし





資料の処分なんて範囲外だしぃ〜





ちょっとくらい目こぼししても
バレないよね うん☆







…バレたらバレたで言い逃れりゃいいし











「ティム・マルコー氏の研究書の複写です」







机の上に山積みにされた書類の前に
誰もが唖然とした顔をした





私でさえ 実際ホント驚いたもん







「……本当にやった…」


「世の中にはすげー人がいるもんだなぁアル…」


「ニャハ〜この量はハンパなくない?」


「ああそうだなって、お前勝手に触ろうと
するなよ!」







イタズラ心で一つ持ち出そうとして
即効でエドに怒られた







「そうか こんなに量があったんじゃ
これ持って逃亡は無理だったんだねマルコーさん」


「私はそれよりもどうやってこの資料が突っ込んで
あったのかが気になるなぁ」


「ソレは言うなよ…だから触るなって!!
あの、これ本当にマルコーさんの?」







嬉しそうなエドに本の虫さんも笑顔で答える





「はい!間違いなく」









けれど次の言葉で、皆が固まった





「ティム・マルコー著の料理研究所
「今日の献立一〇〇〇種」ですっ!!」





『は?』









エドやアル、軍人さんたちや私も
山と詰まれた資料に手を伸ばす





そこに記されていたのは―







彼女が言った通りの内容だった









「「砂糖大さじ1に水少々を加え…」
本当に今日の献立一〇〇〇種だわ…」







完全にレシピにしか見えないそれに


軍人さん二人は完全に呆れ果てる





男の軍人さんに問い詰められて、
本の虫さんは本当に困っていた







…嘘ついてるようには見えないなぁ





けど、このレシピが建物ごと燃やしてでも
処分したかった資料にも見えない









「お二方 これはムダ足だったのでは?」





ため息つきつつたずねる軍人







けれど二人は資料を見つめてお互いに
意見を交し合っている





その様子は、研究資料とかを見てる時と


まったく同じような雰囲気だった









「…何かつかんだの?」


「まぁね」





自身ありげに頷くアル







エドは本の虫さんにもう一度確認を取ると







「あんたすげーよ ありがとな」





不敵に笑って 資料を一塊、脇に抱える





「アル これ持って中央図書館に戻ろう!」


「うん あそこなら辞書が揃ってるしね」









早々に移動しようとする二人に
資料を同じく抱えながら、一声かける







「ねぇ二人とも、ここまで役に立ってくれた
本の虫さんに何もしないのは人としてどうよ?」







二人ははっとしたように顔を見合わせて







の言う通りだね、兄さん」


「そうだった忘れてたーっとお礼お礼」





コードやら署名を書いたメモと銀時計を
女の軍人さんに渡して





「そこに書いてある金額引き出して
シェスカに渡してあげて」





ドアに出る前にエドが指示する







「シェスカ本当にありがとな じゃ!」


「それじゃどうも〜ニャハッ」







私の後に男の軍人さんも資料を抱えて
ドアを閉めて、一様に外へと出る











「ねーエド 一体いくら書いたの?」


「オレ的にこの資料の価値に見合うぐらいだよ」





さらりと答えるエドを更に問い詰めようとして





 「キャ―――!!


なんですかこの金額!!」



「こんな金ポンと出すなんて

なんなのあの子!!」








後ろの家から聞こえてきた二人分の大声に
アルと軍人さんが思わず振り返る









「…本当に一体いくら書いたのさ?」


「しつけぇよ、資料の価値に
見合うぐらいだってば」







答えてくれそうにもないから、相手を
変えてアルに質問する







「錬金術師って 実はお金持ちなの?


「んーまぁ、兄さんは腐っても
国家錬金術師だしね」







鎧を通して聞こえる苦笑い







うーん、ナイス税金の無駄遣い☆





今度こっそり身包み剥いで 幾らぐらい
持ってるのか調べてやろうかしら?















中央図書館でエドが持ち帰った
資料の説明をしてくれた









錬金術師は技術の悪用を防ぐ為に
研究書の暗号化をするらしく







持ち帰った料理書レシピは





暗号化された研究書に違いないらしい









「ほえー、そんな代物だったんだぁ」


「書いた本人にしかわからないって…
そんなのどうやって解読するんですか」


「知識とひらめきとあとはひたすら
根気の作業だよ」


「うわ…気が遠くなりそうですよ」





口をひしゃげる軍人さんに私も頷き





「そうだよねぇ、聞いた本人脅して
直接聞いたほうが早…痛ぁ!







と言ったら立ち上がったエドに
本のカドでどつかれた







「本のカドで殴ること無いじゃん!
軽いジョークなのにぃ」


「笑えねぇからその手のネタは
やめろよなホント!」







怒りながらまた席に着きなおすエドの後姿を





いつかアンテナこっそり剥ぎ取ってやる
恨み混じりに睨みつけた









「でも料理研究書に似せてる分
まだ解読しやすいと思いますよ」





アルは私達のやりとりを普通にスルーして
軍人さんに説明を続ける





「錬金術ってのは台所から発生したものだ
って言う人もいる位ですしね」


「ふぅん初めはコックが錬金術師だったの?」


「うーん 料理を作る過程が術の原則に色々
見立てやす…って話の腰折んないで







はいはい、と返事をして口を閉じておく









「兄さんの研究手帳なんて旅行気風に
書いてあるから僕が読んでもさっぱりで」


「そうかぁ?」


「へー、エドが書いてたこれ研究手帳だったんだ」


「ちょ
なに人の手帳勝手に見てんだぁ!!」










軽いジョークの一環なのに、ムキになって
手帳奪い返しちゃって 楽しいなぁ







エドは気を取り直して資料に向かい







「…さて!!さくさく解読して真実とやらを
拝ませてもらおうか!!」





アルと共に意気揚々と暗号解読を始めた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今更ながら、資料を手に入れるまでに十九話
かかってるこの状況にため息が出ます


エド:話をまとめる手際が悪いからだろ?
あと、決めた最終回までがちと長いし


狐狗狸:そだよなぁー私みたいな凡人は もう少し
短くすりゃよかったなぁ…いっそ今からでも


アル:それやると怒るキャラがいると思うよ、
特にウロボロス組とかね


狐狗狸:DAーYOーNE〜、じゃあラッシュバレー位で
適当に終わゲブアァッ!(脳天にナイフ刺さり)


エド:うわ、ザックリいってる…こりゃ即死だな


アル:これ…のナイフだよ 兄さん


エド:後書きには参加できない決まりを破ってまで
作者に攻撃を仕掛けるとは…やるなアイツ




次回 資料の暗号を二人が解読する…のを
キリのいい所にする為に伸ばしました(謝)


様 読んでいただきありがとうございました!