「正義」を負う 人で無くなった
私でさえも驚く人はいる









〜第十八話 本の虫の持つ希望〜








駅のホームに汽車が着いた途端、エドが荷物を
片手に勢いよく駆けていく







「早くしろよアル!」


「兄さん そんなに急がなくても…」





慌てるアルをせっついて





「うむ 図書館は逃げることはないぞ」


「いいから早く!」





たしなめるマッチョさんにも急かして





「そんなムダに急がなくても〜」


「るっせぇよ早くしろ!!」





ボソッと呟いた私にも律儀に怒鳴り返して





「来たぜセントラル!!」







エドが嬉しそうに叫んだ









ホームには、出迎えに軍人二人がやってきていた







「こちらが鋼の錬金術師殿でありますか」







視線からしてやるかな〜と思ったら





案の定 この二人もアルを鋼の錬金術師だと
キッチリ間違えていた









「こっ…これは失礼いたしました!!」


「ちっこいだなどと いえ その…」







マッチョさんに後ろを掴まれてなお手足を
ばたつかせるエドに二人が必死で弁解してた





だよね、こんなちんまいのが国家錬金術師って…







「おい お前すっげぇ失礼なこと考えたろ」


「やだなぁそんなこと、エドってば案外
被害妄想激しくない?」







疑わしげな顔するエドに我ながら大佐並
わざとらしいくらい爽やかな笑顔で返す







「少佐 こちらのお嬢さんは?」


「うむ、個人的な理由によりエルリック兄弟と
共に旅をしているという者だ」





マッチョさんの的確な説明に納得したらしく





「はぁ…そうですか」







軍人二人はその場ではそれ以上追及せず、





それに満足そうに頷くと マッチョさんが言った









「では我輩はこのまま中央司令部に報告に赴くゆえ」


「え?何?ここでお別れ?
お疲れさん残念だなぁバイバイ!!」



「うっわ〜露骨に嬉しそう」







エドがこっちを睨んで文句を言うより早く







「我輩も残念だ!!
まっこと楽しい旅であったぞ!!」






涙を流しながらマッチョさんが力一杯
エドを抱きしめた





「また後ほど会おう!!」







エドの身体から骨の砕けるような音がして







口からは魂がはみ出てた やーい、いい気味♪









「後は任せた!」


「はっ!」







うーん、マッチョさんのこの行動に動じないとは
この二人も中々肝が据わってるなぁ









エドはまた護衛をつけることに
嫌そうな顔をしてたけれど





傷の男がまだ捕まってないらしく





事態が落ち着くまでは護衛を引き受けてるらしい







「少佐ほど頼りにならないかもしれませんが
腕には自信がありますので安心してください」


「そうそう、仮にもエドは狙われてる
身なんだから〜ねぇ?」


「しょーがないなぁ…」


「「よろしくお願いします」だろ兄さん」







ため息混じりなアルの言葉に、金髪の
お兄さんの方の軍人が驚いた







兄…!?ええと この鎧の方は弟さん…?」


「はぁ」


「まー普通はだよねぇ」







横から口を挟むとアルごしにエドが殺気を放つ





けど、それは一切スルー(笑)







「それにしても何故 鎧のお姿で…?」







うっわー確信ついてきたよこの人









二人は顔を見合わせて、汗をかきながら







「「趣味で」」









今度は軍人二人が顔を見合わせてささやく









趣味って!?少尉殿 趣味って
何でありますか!?」


「わからないわ なんなのこの子たち!!」







まる聞こえなひそひそ話からは
ものすっごく戸惑いのオーラが滲んでる





気を取り直して、黒髪の泣きボクロの女軍人が


今度は私に質問してきた







「あ、あの 失礼ですがそちらのさんは
どういった目的でこの二人と旅を…?」





私は ワザと満面の笑みを浮かべて言った





「慰謝料払いと面白半分です♪」







思ったとおり、また二人で顔をつき合わせて
ヒソヒソ話を始める







慰謝料って何よ慰謝料って!?」


「少尉殿 この人たち本当に何なんですか!?」









うーん この二人もマッチョさんの部下だけ
あって、イジリがいあって面白いかも









「あ!!見えてきた見えてきた!」







居たたまれない空気に耐えかねたのか
エドとアルが言いながら窓の外を見る







「ああ あれが国内最大の蔵書量を誇る
国立中央図書館です」







窓の外からは、かなり立派な建物が見えた





あれが図書館かぁ…初めて見るけど
案外しっかりした造りしてるなぁ







「そしてその両隣に位置する建物が
お二方の目的とする第一分館







馬車が 目的地にたどり着き







「ここには様々な研究資料や過去の記録
各種名簿等が収められて……いるの…」





説明を聞きながら 皆が降りたその先には





「…ですが…」











目の前に広がるのは、焼け落ちた建物の
残骸 ただそれだけ








「つい先日 不審火によって中の蔵書ごと
全焼してしまいました」







呆然と エドとアルが立ち尽くす











不審火とは言われてるけど、私は知ってる







言うまでも無くラスト達の仕業







…ひょっとしたらエンヴィーかもしれない
こんなえげつない真似は













「ティム・マルコーの賢者の石に関する研究資料…
やっぱり目録には載ってませんね」







二人はめげずに本館の受付に聞いたけれど





返ってきた答えは否定的だった







「ここに無いって事はそんな資料は存在しないか
あっても先日の火災で焼失したってことでしょう?」









エドとアルの落胆っぷりはかなりヒドイ







思わず、こっちが申し訳ないと思うくらい









「どうもお世話になりました…」


「ちょっと大丈夫?」


「大丈夫じゃないよ」







うわぁ…こりゃしばらく声かけれないなぁ







二人に着いて本館を出ようとしたら、
本を整理してた一人が受付の人に呟いた







あ!シェスカなら知ってるかも
ほら この前まで第一分館にいた…」


「ああ!」





振り返るエドとアルの眼に、少し光が戻る





「シェスカの住所なら調べればすぐわかるわ
会ってみる?」


「誰?分館の蔵書に詳しい人?」


「詳しいって言うか…あれは文字通り
「本の虫」ね」









苦笑いする受付の人の反応に







私は何となく 本に埋もれて暮らす
ビン底メガネの人を想像した













皆で 教えてもらった住所の家に
たどり着き、ノッカーを鳴らす





けど 反応が全く無い







「留守ですかね?」


「明かりがついてるから いると思うけど
失礼します…」


「エド それ下手すると不法侵」







私は、思わず言葉をとぎった









開かれた入り口のドアから見えた部屋は







「うわっ何だこの本の山!!」







これでもか!ってほど積み重なった
本の山 山 山!!









うぅん…私の想像以上だねこれは









「本当に人が住んでるんですかここ!?」







とりあえず皆に続いて私も部屋に入った







「シェスカさーん いらっしゃいませんかー?」


「おーい!」







足場も殆ど無い本の山を歩きながら
声をかけて相手を探す







「とても人が住んでる環境には思えないけど…」


「まさかとっくに死んで埋まってたり…」









何かが聞こえた気がして、私とアルは
同時に黙り込んだ







「だれかーーーー」







耳を澄ますとかすかに女の人の声がする







「たすけてーーーーーーーーーーー」









それは 崩れた本の山の奥深くからだった







「うっわあ」


「兄さん人っ!!人が埋まってる!!」


「掘れ掘れ!!」







全員が崩れた本の山を掘り出して
埋まってた人を助け出した









「あああああすみませんすみません!!
うっかり本の山を崩してしまって…」





出てきたのは セミロングの茶髪に
メガネをかけた女の人だった





「このまま死ぬかと思いました
ありがとうございます〜〜〜!!」







どーいたしまして、とエドが何とかそう呟いた









まさか本当に埋まってるとはねー







本の虫って言葉も納得できるなぁ











「…仕事中だということを忘れて本ばかり
読んでいたものでクビになってしまいまして」







うーん、さすが本の虫と心の中で感心する







「病気の母をもっといい病院に入れてあげたいから
働かなくちゃならないんですけど…」









そこから本の虫さんは暗いオーラ
背負い始めて









「ああ〜〜本当に私ってば本を読む以外は
何をやっても鈍くさくてどこに行っても
仕事もらえなくて…」







しまいにはめそめそ泣きはじめちゃいました







「そうよダメ人間だわ社会のクズなのよう…」











雰囲気的に軍人さんもアルも声をかけれず







エドまで「大丈夫かよこのねーちゃん」って
考えてるの丸分かりな顔をする









しょーがない、いっちょ声かけやすくするか







「ニャハハ筋金入りだね そこまで行くと
いっそ清々しいくらいだよ」


お前空気読めよ!!







グッと親指立てて言った私にツッコミをいれて







「あーーー…ちょっと訊きたいんだけどさ
ティム・マルコー名義の研究書に心当たりあるかな」





勢いで言葉を濁しながらもエドが訊いた







ティムマルコー…と呟きつつ少し考え





ああ!はい覚えてます」







思い出したらしく本の虫さんは手を打つ







「活版印刷ばかりの書物の中でめずらしく
手書きでしかもジャンル外の書架に乱暴に
突っ込んであったのでよく覚えてます」





「…本当に分館にあったんだ…」









エドの言葉に 私もそう感じた







本当に、あの場所に資料があったんだ
…でも







「…てことはやっぱり丸焼けかよ……」





あーあ、また落ち込んじゃったよ





「仕方ないじゃん 最初から分かってたことだしさ〜」


「「ふりだしに戻る」だ…」


「どうもおじゃましました」







とぼとぼと歩くエドとアルの後ろから
本の虫さんの声がかかる







「あ…あの その研究書を読みたかったんですか?」


「そうだけど今となっては知る術も無しだ…」


「私 中身全部覚えてますけど」







さらりと言われたとんでもない一言に、
思わず皆で訊き返した







『は?』


「いえ だから…一度読んだ本の内容は
全部覚えてます 一字一句間違えず」









それって、この部屋にある本の山も
中身全部覚えてるってこと…!?








私が言うのも何だけど この人もビックリ人間









「時間かかりますけど複写しましょうか?」







その時のエドとアルの喜びようを
私は多分 一生忘れないと思う








「ありがとう本の虫!!」


「虫ですか…」


「私からもキングオブ本の虫の称号を
個人的にあげたいなぁ」


「そこまでですか…?」







なんか不満げな顔してるけど何でかなぁ
これでもほめてるんだけど?








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:一ヶ月以上の間を置いて、長編の続きを
書きました…なんでこんな伸びたんだろ


エド:書くのサボってたからだろ?


アル:兄さん いきなり確信ついたらマズイって


狐狗狸:……うん、突き詰めればそうだよね(泣)
けっこう疲れるんだぞ 原作沿いで話書くのも


エド:そもそも原作沿いとかで セリフを丸々
引用するのって、著作権に違反してねぇ?


アル:…兄さん 正論だけどそれ言ったら原作沿いを
書いてる人みんなが困るから


狐狗狸:そのジレンマを抱えながらも、3巻と
睨めっこしながら書き上げてますから


エド:3巻でこのペースじゃ、この長編の
最後までいけんのか先が思いやられるぜ


アル:兄さん 今日なんだかが乗り移った
みたいにKYだよ?


エド:あいつと一緒にすんな!


狐狗狸:…どっちも変わりない 痛っ(殴られ)




今回のネタに一つも触れずにスイマセン(いつもじゃ)


次回、研究書の写しを手に入れた二人だが…?


様 読んでいただきありがとうございました!