「正義」を掲げた争いの跡地でも
人は 強く生きていける









〜第十五話 静かな故郷〜








列車を降りて私たちが辿り着いたのは
本当に何もない田舎町だった







「わー本当に 何もないや でも
嫌いじゃないよ、こういう田舎っぽいとこ」


「それ褒めてんのか?貶してんのか?」


「褒めてるほうだよ 一応」









エドの後ろ アルを担ぐマッチョさんの
隣に並んで一緒に緩やかな坂を登る







その上にある一軒の家から、
黒い犬が走って エドに駆け寄った





犬を撫でてから、エドは家の方を向く







「よう ピナコばっちゃん
また たのむよ」







家の前には 小柄なオバーちゃんがいた







「大勢で来たねぇ エド」


「んーまぁな、こっち アームストロング少佐
で、こっちは







エドが指差して私たちを紹介し、







「ピナコ・ロックベルだよ」







オバーちゃんが順番に握手してくれた









「よろしく ピナコ殿」


「ニャハハ よろしく〜」







握手を終えてふとアルの方を見ると
さっきの黒い犬がアルによりかかってた







「デン 久しぶりー」


「へー、デンって言うんだ その犬」


「うん、とっても賢い犬なんだ」







人懐っこそうだなーと思い、撫でようと
手を伸ばすと 差し出した手を舐めてきた





わ、くすぐったい











「しかししばらく見ないうちに…
エドはちっさくなったねぇ







うわー言っちゃったオバーちゃん





しかもマッチョさんと比較してるから
余計エドが豆粒に見えるだろうし







間髪入れず始まるののしり合戦









「ねぇアル あれってどっちもどっちだよね?」


「…、あの二人に聞こえてたらマズイよ」







大丈夫だって 二人ともデカイ声で
騒いでるから聞こえないって





なんて思ってたら







「こらー!!エドー!!」







元気のいい女の子の叫びとともに、
エドの頭にレンチが降ってきました







「メンテナンスに来る時は先に電話の一本でも
入れるように言ってあるでしょー!」









家のベランダから 金髪の女の子が叫んでた







エドが起き上がって叫び返す







「てめーウィンリィ!!殺す気か!!」


「あはは!おかえり!」


「おう!」







あ この二人、幼なじみなんだ













家の中にお邪魔させてもらって









で、なに?アルも壊れちゃってるわけ?
あんたら一体どんな生活してんのよ」







エドに二度目のレンチ攻撃を食らわし、
アルにもそう訊ねるウィンリィ







「いやぁ」


「照れる所じゃないと思うよ〜アル」


「てゆうかこの子 誰なの?」







こっちを見るウィンリィに 私は笑って答える







「私は、ちょっと色々あってエド達と
一緒に旅をしてるの〜」


「へぇ そうなの」


「さっきのレンチ ナーイスショットだったよ!
すごいよウィンちゃん」


「あらありがとう、ウィンリィでいいわよ」







サムズアップして笑う私の態度が気に入ったのか
あっちも嬉しそうに微笑んだ







「そんな所で意気投合すんなよ」







渋い顔して座ったままのエドがツッコむ









「―で その賢者の石の資料とやらを
手に入れるために一日も早く中央に行きたいって
言うのかい?」


「そう 大至急やってほしいんだ」







ピナコばっちゃんがエドの足を揃えて







「うーん 腕だけじゃなく足も調整が必要だね」







言うと、ウィンリィがニヤニヤ笑って









「あら 一応身長は伸びてんのね
この前測った時は○センチだったっけ」


「へーエドって○センチなんだ
この前165とか言ってたのに」


「だぁぁお前ら オレの背の事は言うな!!」











とりあえず三日間で歩けるようになるらしく







その間はしばらくスペアで我慢するよう
ばっちゃんがエドに言った













「…ったくなんなんだあの凶暴女は!!」


「ははは 何を今更」







私とエドとアルは 庭で三人揃って座り込む





エドはウィンリィにどつかれたのが
気に入らなくてご機嫌斜めだ









「ところでさ 機械鎧って三日で出来るの?」


「普通はそんな短い期間じゃ 無理だろうね」







苦笑交じりにアルが答え、エドが引き継ぐ







「でも、ばっちゃんもウィンリィも
腕のいい機械鎧技師だから」









…言われてみれば 二人とも自信満々だった







「そっか よく分かんないけどすごいね」


「まぁ、二人の腕は信頼してっからな
しかし は―――三日か…」







エドが寝転んで空を見上げ 眉間にしわを寄せた









「…とりあえずやる事が無いとなると
本当にヒマだな ここ図書館もなんも無いし」







アルがエドを見つめてやんわり言う







「ここしばらくハードだったから
たまには ヒマもいいんじゃない?」


「私もそう思う〜ちょっとはのんびりしなよ」







けど、エドはジタバタして







「〜〜〜ヒマなのは性に合わねぇ!!」


「うわー本当にガキだねエド」


「うるせぇよ、こちとらまだ15だ!」







そういう問題じゃないってば ほら
アルだって呆れてるでしょー











「そうだ そんなにヒマなら
母さんの墓参りに行っといでよ」







ふと思いついたアルの言葉に、エドも
表情を変える







「墓参りか…でもおまえそんなナリじゃ
行けないじゃん」


「少佐にかついで行ってもらうのも悪いから
僕は留守番してるよ」







何となく、アルの声が寂しそうに聞こえて





本当にいいの?と言いかけて、









何も言わない方がいい気がして口を閉じる







「機械鎧が直ったらすぐ中央に行くんだろ?
だったらヒマなうちにさ」


「そーだな…ちょこっと行って来るか…」















エドがデンをお供に連れてお墓参りに
行っている間、







マッチョさんは薪を割っていて







私はアルとウィンリィと家の中にいた











「へぇそうなんだ、慰謝料払うために
旅してるなんて 変わってるわね」


「ニャハハ そうかな?」


「それでね、ったら兄さんより
危ない事も平気でやるんだよ」


「ちょっとアル 余計な事言わないでよ〜」







二人との会話が結構弾むし、





部屋の中も色々と変わってるから退屈しない







「機械鎧のこと何も知らないんだけどさ
色々出来るウィンリィって何かカッコいいね」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」







満足そうに笑い、そしてウィンリィが質問した







「所ではどうして旅をしてるの?
両親とか 心配してない?









私は首を横に振って 笑って答える







「私ね、昔の記憶があまり無くて 色んな所を
一人で旅して回ってるんだ」







本当?と呟くウィンリィに、アルが
そう、と返すのを聞きながら続ける









「だから両親の記憶もないの、ゴメンね」


「いいのよ こっちこそゴメン」


「ウィンリィは 両親と仲良かったの?」







逆にたずねると、ウィンリィは頷いて







「うん 私の両親は外科医でね、人の役に
立つのがとても好きだった」









少し 寂しげな顔をするけれども







「イシュヴァールの内乱で死んじゃったけど
今でも自慢の両親よ」







浮かべた笑顔は 強くて優しかった









「そっか うらやましいなぁ」


「きっとおじさんとおばさんも、
ウィンリィが自慢の子供だと思ってるよ」


「そういうエドとアルのお父さんは
どういう人だったの?」







急に自分に聞かれて 慌てるアル







「え、何で?」


「お母さんは聞いたことあったけど
、 お父さんの事は無いなって思ったから」







アルは困ったように唸りながら







「父さんは…母さんが死ぬ前に出てったよ
だからあんまり覚えてないんだ」


「エドもお父さん 嫌いみたいだしね」







ふーとため息をつきながらウィンリィも言う









そっか、家庭の事情も色々あるんだなぁ











さすがにそろそろ口を閉じないと
ウィンリィが作業に集中できないよね?







「エドとアルはさ、自分達の家に
帰らなくていいの?」







最後のつもりで聞いた質問が マズかった









「僕らには 帰る家は無いんだ」







暗く落ち込むアルに、私は慌てふためく







「え、ゴメン 借金取りに差し押さえ
されてるとか?」









答えたのは、アルではなくウィンリィ







「エドはね、国家資格を取って旅立つ日に
自分の家を 焼いちゃったの


「…どうして?」









普通は自分の家を焼くことなんて出来ない筈







家には自分や家族の思い出が、
詰まっていると聞いているから











「僕らが元の身体を取り戻すまで、修羅の道を
歩む覚悟として 二人でやったんだ」











アルの言葉に 私は二人の決意の深さを垣間見た









自分達の大切な家を失くして、共に
元に戻るために歩く覚悟







私には無い強さと 悲しさがある











「……余計な事聞いちゃったかな?
ゴメンね 二人とも


「いいんだ、に悪気は無いよ」


「そうそう だって苦労してるみたいだし
お互い様ってヤツよ」







明るく微笑むアルとウィンリィの言葉に
私は幾分かホッとした









「あ、そうだ 私もここに泊まってっていいかな?」


「いいよ どうせばっちゃんもOKって
言うだろうし、皆泊まるでしょ?


「ニャハハ嬉しいな〜、じゃあいる間は
何か手伝うから 遠慮なく言ってね?」


「勿論手伝ってもらうわよ、早速そこの
スパナ取ってくれる 







言われて私は スパナを手渡した















それから三日間、私とマッチョさんは
居候として色々やりながら







ウィンリィやばっちゃんと仲良くなった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:リゼンブールについた話は本当は一話で
終わらせたかったんですが 出来ませんでした


ウィンリィ:相変わらず書くの遅いのよ


エド:だな、毎度毎度ギリギリだし


狐狗狸:二人とも 息ピッタリじゃない?


二人:全然(キッパリ)


アル:居候として色々って は何やってたの?


狐狗狸:洗い物とか料理の手伝いとか買出し?


エド:え、あいつ料理できんの?


ウィンリィ:エド、あんたそれ女の子に対して
失礼なんじゃない?


アル:僕もそう思う


エド:何 オレに対するイジメ!?


狐狗狸:上手い下手はともかく、一人で放浪
してたから 一応は出来ると思うよー




次はリゼンブール話終わると思います


様 読んでいただきありがとうございました!