「正義」の罪が引き起こした戦いの傷跡を知る者が
こんな辺境の村に隠れていたのか









〜第十四話 過去の爪跡〜








"傷の男"との戦いで 右腕を壊されたエドは
その右腕を治す為に、故郷に帰る事にした









宿に戻って エドとアルが用意してる横で





私は笑いながら一応訊ねる







「どうせ私の旅に当ては無いし、慰謝料払わなきゃ
いけないから ついてっても文句ないよね?


「…今更、慰謝料払う気あるのかよ」


「しっつれいだなーアリまくるよ!」







エドはまだ疑わしげに私を見ていたけれど、


短くため息をついて







「断りたいけど、お前の回復力と
ナイフの錬成陣のことも知りたいしな」


「僕らが断っても はついてくるでしょ?」


「ニャハハ、もちろん!」













ともあれ、無事にエドたちについていくことに
成功して 翌日、みんなで東方司令室に行くと





「聞いたぞエドワード・エルリック!!」





涙を流しながらマッチョさんこと
アームストロング少佐が


エドを思い切り抱きしめてた





うわぁ…今 思い切り骨の折れる音が聞こえた







一旦離れ、マッチョさんが拳を震わせ
涙を今だ流したままで







「母親を生き返らせようとしたその無垢な愛!
さらに己の命を捨てる覚悟で弟の魂を練成した
すさまじき愛!我輩感動!!








とか語ってまた抱きつこうとするけれど





さすがにエドが顔面に蹴りを入れて止めてた







そして間髪入れず大佐に詰め寄るエド









…何か汗かいてるなーって思ったら
しゃべっちゃったんだね、大佐









「と言う訳で その義肢屋の所まで我輩が
護衛を引き受けようではないか!」








で、右腕が無きゃ錬金術の使えないエドに
マッチョさんが護衛を申し出てきた











…初めは軍人で しかもかなりガタイが
いいんで引いてたけど







感動屋で筋肉見せたがりで結構楽しいオッサンだと
思わなかったから二度ビックリ









「護衛なんていらねーよ!」







とか言っていたけれど、中尉を初めとする
大人の意見にあっさり押されるエド







「だったら別に少佐じゃなくても!」


「エドはマッチョさん嫌い?


「そう言う問題じゃねぇ!」











けれど、帰ってきたのは否定の返事ばかり











「俺ぁ仕事が山積みだからすぐ中央に
帰らなきゃならん」





あ、仕事してたのねメガネさん







「私が東方司令部を離れる訳にはいかないだろう」





うん、そしたら本当に無能になっちゃうし







「大佐のお守りが大変なのよ…すぐサボるから」





それなんかわかるかも、お疲れ様です







「あんなやばいのから守りきれる自信無いし」


「以下同文」





君らは弱そうだからさして期待してないもん











「決まりだな!」


「勝手に決めんなよ!!」


「えーだって満場一致じゃん これ」


「オレの意思は無視か!?」







不満たらたらのエドに マッチョさんが
目を合わせながら







「子供は大人の言うことを聞くものだ!」


「子供扱いするな!!」


「15歳は子供でしょ?」


「うるせぇ
ならお前だってガキだろ!!」










うんうん、と頷くまわりの軍人方







…本当は君らより年上なんだけどなぁ
見た目が子供だから説得力ないよね、うん









「でもエドやアルも子供だってことは変わらないでしょ?」


「無論である!」


「この…アルも何か言ってやれ!」







私とマッチョさん 二対一の意見に
分が悪くなったエドがアルに話を振るが





アルは鎧の目を輝かせて







「兄さん!!ボクこの鎧の身体になってから
初めて子供扱いされたよ!!」








逆に嬉しそうにしてました









「まだ駄々をこねると言うのなら
命令違反という事で軍法会議にかけるが…」


「うおお!!汚ぇ!!」


「わー無能大佐くろーい、権力乱用ー」


「外野のちゃんは黙ってなさい」







棒読み気味の私の言葉に黒オーラをかもしだした
大佐が笑顔を崩さずにそう言った







マッチョさんが護衛なのは決定事項らしい









「荷物扱いの方が旅費より安いからな!」







有無を言わさず早速アルを箱詰めにした
マッチョさんを見て







ショックを受けたりがっかりする
エドやアルとは逆に、





好きになれそうかもとか思った













列車がイーストシティから発車する少し前







メガネさんが窓を叩いて尋ねてきた







「司令部の奴ら やっぱり忙しくて来れないってよ
代わりに俺が見送りだ」


「やっぱちゃんと働いてたんだねー」


 お前何気に悪辣だな」







私の一言を気にした風でもなく、
メガネさんが続ける







「いいっていいって
そうそう、ロイから伝言を預かってきた」


「大佐から?」







眉をひそめるエドに淡々と







「事故処理が面倒だから私の管轄内で
死ぬことは許さん」
 以上」


「ニャハハ 大佐らしい〜」


「了解 絶対てめーより先に死にません
クソ大佐」
って伝えといて」







怒りを込めて言うエドに





メガネさんが笑って







「あっはっは!憎まれっ子世にはばかるってな!
おめーもロイの野郎も長生きすんぜ!」


「メガネさんも結構しぶとそうに見えるけど?」


「ありがとよ ちゃんも長生きしろよ?」









汽笛が鳴り響く中 メガネさんが敬礼する









「じゃ道中気をつけてな 中央に寄る事が
あったら声かけろや」







マッチョさんも、左手ながら
エドも敬礼してたので





私も一応 敬礼を返しておいた















…ちなみにアルもちゃんと乗ってますよ?





荷物扱いの上に家畜車両で羊にまみれて♪







「一人じゃ寂しかろうと思ってな!」


「てめぇオレの弟をなんだと思ってんだ!!」


「むぅッ何が不満なのだ!広くて安くて賑やかで
至れり尽せりではないか!」


「ふざけんなーーーーーーっ!!!」


「ニャハハ、ナイスジョーク マッチョさん!」


「ナイスじゃねぇっ 
テメェもぶん殴るぞ!」








とまぁ そんな感じで列車に揺られながらエド達の
故郷の話とか聞いたりして 道中を過ごしていた









…っつっても 列車が発車するまでの
待ち時間とかが退屈で、







初めのうちからしょっちゅう寝てて 話なんかも
途切れ途切れで聞いたりしてた











軍の内乱のせいで何も無い でも、





都会には無いものがあるエドとアルの故郷に
ぼんやりと惹かれていた













「…おい 起きろ!」







何駅目かで エドに揺り起こされた







ふぁ!?なぁにエド もう君の故郷?」


「違ぇ!寝ぼけてねぇで とにかくさっさと降りろ!!」







寝ぼけていた私は わけのわからないまま
エドに引きずられる











途中下車した町で 私達はやたらと上手い
マッチョさんの絵を手がかりに人探しを初め、





その間 こうなった事情を







「うわ!アル羊くさっ!!」


「好きで臭くなったんじゃないやい!!」







羊くさいアルから色々と聞き出して―事態を理解











どうやらドクター・マルコーがこの町にいるらしい









こっちとしても、盗まれた資料と賢者の石と
マルコーが人柱として必要だから





見つかったのは願ったりかなったりだけど







まずいなぁ…私 会った途端に
正体バラされちゃうかも、マルコーに





そしたらかなり厄介なことになりそう









「あのさ〜ちょっといいかな?」







似顔絵を元に聞き出したマルコー…





今は医者のマウロとして生きているらしいけど





ともあれそいつの住所に 皆が向かおうとした時
私はおもむろに足を止めた









「む、どうかされたかな 譲?」


「どうしたの 具合でも悪くなった?」







こっちを覗き込むマッチョさんと心配げなアルに
私は笑顔を浮かべながら取り繕う







「いや〜何だか難しい話とか苦手でさ それに
賢者の石錬金術も、私は部外者だし…

邪魔にならないようにここで待ってようかなーって」







エドがものすごく訝しげな顔をする







今更遠慮なんてらしくねぇぞ お前、何か
変なもんでも食べたろ?」









何気に失礼だなエドは





アンテナごと髪の毛ざんばらにするよ?







…気を取り直して









「そんなんじゃないって それにそのマルコーって人も
大勢で押しかけたらビックリするだろうし…」







そう言うと マッチョさんは納得してくれたみたいで







「うむ…いいだろう、それでは
我々が戻るまで待っていて頂こう」


「ありがとうマッチョさん じゃあ
私ここで待ってるから〜」


「おう 帰りに呼ぶからそこ動くなよ









そう言って 私はエド達とその場で別れ、
彼等を待つ事にした













「…で 今回どうしてエド達を
つけてきてるのさ、ラスト







誰もいない事を確認して 静かに呟く









「あら、解ってたのねジャスティス…いえ、







物陰からふいに ラストが現れる







「そりゃ〜腐ってもそれなりに
実力持ってるつもりだし?」





ついでに、駅のホームで見かけてたし





「で 私としてはラストがここにいる
理由を聞きたいんだけど?」



「あなたが真面目に鋼の坊やを監視してるか
気になったから様子見してたんだけど…」









遠くで銃声が聞こえ、思わず互いに
その方向―マルコーの住所を見やる







けど、それ以上何も音が
聞こえてこなくなったので





ラストが話を続ける









「思わぬ収穫があったのよ」


「ああ ドクター・マルコーの事?







言うと ラストがその名に相応しい
艶然とした笑みを浮かべ







「そう、まさかこんな田舎に隠れていたとはね」


「なるほど それで途中下車の目的は
これからなんでしょ?」







そう、とラストが頷きながら







「盗んだ資料の隠し場所を白状させて 鋼の坊やに
見られる前に処分しておきたいのよ」







私は素っ気無いフリをして答える







「ふぅん ま、そっちはそっちで頑張ってよ
私は私で上手くやって見せるからさ〜」









へらへらと笑うと 相手も笑みを返し









「…期待してるわよ 







そう言って ラストが物陰に消えた













―そう、私は人柱の監視をしなくてはいけない









やがて果たされる 復讐のために











たとえ 利用されている身に過ぎなくても















戻ってきたエド達と一緒に ホームで列車を待った







ベンチに座るには マッチョさんが
余りにも邪魔だったから





私はアルの箱を背にして寝たフリ







(戻ってきてから エドが妙に機嫌悪かったし)









エドは結局 資料もそこにあった
賢者の石も諦めたらしかった







「町の人達の支えを奪ってまで元の身体に戻っても
後味悪いだけだなーって」







勿体無いけれど エドらしい理由だなと内心苦笑









しばらくエドとマッチョさんの会話を聞いていたら
マルコーの声が聞こえた







私の姿はアルの背中に隠れて マルコーに
見えていなかったようだ





そっとアルの背中から覗くと







マルコーがエドに何かメモを渡しながら、
話しているみたいだった







小声だから 内容が聞き取れなかったけれど







マルコーが去って また寝たフリをする私の耳に





ふいに、エドの声が聞こえた









「国立中央図書館第一分館」









紛れも無く 資料の隠し場所を示す内容









「なるほど「木を隠すには森」か…」


「ここに石の手がかりがある…!!」


「兄さん 道は続いている!」


「―――ああ!」







二人の声は 希望と期待に満ち溢れていた











…可哀想に







恐らくラストも今ごろ マルコーから
隠し場所を聞き出している筈







そして二人が来るよりも先に





資料を処分するだろう










報われぬマルコーの償いと
この先起こる二人の絶望に







私は同情せずにはいられなかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ようやく二巻終了〜てーか少し駆け足気味で
話を進めてしまいました


ラスト:駆け足過ぎなんじゃなくて?
話がかなり所々で飛んでいる上に急な展開過ぎるわよ


狐狗狸:らっラストさん…どこから(汗)


ラスト:そんな事はどうでもいいのよ、私の出番が
大分遅いのも含めてどういうこと?


狐狗狸:それは、そのー…傷の男の話が思ったより
長くかかったことに原因がふげぁっ!?(爪避け)


ラスト:あなた もう用済みよ


狐狗狸:きゃあぁぁぁごめんなさいぃぃ
次回からはちゃんと力入れて書きますからあぁぁぁ…




本当 今回は散々な出来でスイマセン


次はいよいよリゼンブールに着きます




様 読んでいただきありがとうございました!