例えそいつの掲げる「正義」が正しくても
人間が神を語って裁きを行う権利はない









〜第十一話 神を語る者〜








そこにたどり着いた時、状況は悲惨そのものだった







鎧の右脇腹部分がごっそりと抉れ
片足がもげて倒れているアル





右手の機械鎧が壊されたエド







エドの前にたたずむ 傷の男









「今 用があるのは鋼の錬金術師…貴様だけだ」


「そうか じゃあ約束しろ
弟には手を出さないと」







エドの声には 諦めの響きが交じっていた





死に抗う事を諦めた、死を受け入れるような









「約束は守ろう」





傷の男がゆっくりと エドを殺そうと近づく









エドは 逃げようとしない





アルが逃げろと必死に叫んでいるのに





「やめろおおおおぉぉぉ!!」







―――させない!







私は すぐさま駆け寄って、傷の男の背にナイフを





ぬっ!?





殺気に気づかれたのか すんでの所で
ナイフは空を切った







私は振り返った傷の男から即座に距離をとる







「「…!」」









二人は私がいる事への驚き





傷の男は 私が生きている事への驚き
こっちを凝視している









「娘…生きているだと!?
己れの人体破壊で死んだはずだ!!」



「ところがどっこい 生きてるよ〜運がいいから私」







ニャハハと笑って見せるけど、実は一寸焦ってる





この男がさっきの私の戦いを 口走ろうものなら


先ず間違いなく、エドとアルに疑われる







その前に―息の根を止める、今度こそ!









「まあいい…邪魔をする者は全て滅す!」







サングラス越しに 傷の男の殺意が伝わってくる







「…やってみなよ!」





ゴキリと腕を鳴らす傷の男に、私はナイフを向け









唐突に 後ろから銃声が鳴り響いた





「そこまでだ!」





視線を向けると 大佐達が銃を手に
こちらに近づいてきたのが見えた









「危ない所だったな 鋼の、ちゃん」


大佐!こいつは…」







傷の男と対峙する大佐達を見て





あーそう言えば大佐達もエド達を探してたんだっけ


今更ながらにそんな事を思い出す







「その男は一連の国家錬金術師殺しの容疑者…
だったが この状況から見て確実になったな」


「それはいいから―」





もうちょっと早く来てよね、と
軽口を叩こうとしてた所に





「タッカー邸の殺害事件も貴様の犯行だな?」







大佐の口から 信じられない一言が飛び出した







その言葉に、エドが傷の男を睨む











…え タッカー邸で殺害事件?







じゃあ ニーナは?







突然のその話に、思考が上手くついていかない











「ニーナは…一体どうなったの?」







私の言葉に答えるものは誰一人としていない









皮肉なことに、それが答えだと理解した









「…錬金術師とは元来あるべき姿の物を
異形の物へと変成する者…
それすなわち万物の創造主たる神への冒涜」







響く呟きが 肯定の意を表していた







「我は神の代行者として裁きを下す者なり!」









その言葉に、何処からともなく怒りが沸きあがった











ニーナを殺したのも 裁きなワケ?









随分身勝手な台詞を吐いてくれるじゃないか













神様なんていやしないし、人間に裁きを行う
権利なんてありはしない














「マスタング大佐!」


「おまえ達は手を出すな」







大佐が傷の男に戦いを挑もうと手袋をはめている
でも、そんなことは関係ない





大佐には悪いけど、囮になってもらってる間に





その思い上がった正義感を首ごと刈り取ってやる







私はこっそりナイフを構えた










「私を焔の錬金術師と知って
なお戦いを挑むか!!」








向かいくる傷の男に大佐が火花を





生み出そうとした まさにその瞬間







中尉がいきなり大佐に足払いをかけた





仰け反る形で傷の男の手をかわした大佐と
入れ替わるように銃口を向ける中尉







すんでのところで傷の男が避けたから
弾は全段外れてしまった









…あまりのことに私は動くことすら忘れて
その場で硬直してしまった







「いきなり何をするんだ君は!!」


「雨の日は無能なんですから
下がっててください大佐!」





大佐の非難を一言であっさり潰した!?





「―あと、ちゃんもエド君と一緒に
こっちに来て大人しくしてないと流れ弾が当たるわよ





私もさらっと牽制された!!?







ちょっと中尉が恐ろしい人に見えました







ちなみに大佐は中尉の無能発言
大ダメージを受けて、その場で固まってます





「あ そうか
こう湿ってちゃ火花出せないよな」





タバコさんも容赦なく追い討ちかけたし









雨の日=大佐無能はいいこと知ったな、なんて
ちょっとお得な気分に浸りつつも





とりあえず中尉に言われた通り、
エドと一緒にタバコさんの側まで退避する





…悔しいけど、下手に動くと
中尉にマジで撃たれそうだもん












「国家錬金術師!そしてわが使命を邪魔する者!
この場の全員滅ぼす!!」










殺気混じりの傷の男の叫びを遮って








「やってみるがよい」







傷の男の背後に現れた巨大な軍人が放った一撃が





いともたやすく壁にめり込んだ





避けた傷の男のすぐ側で、軍人の拳が
壁から引き抜かれ







「我輩の一撃をかわすとは やりおるやりおる」







低音の物々しい台詞と共に壁がめり込んだ所から
徐々に崩れていく音が重なり





「この豪腕の錬金術師…アレックス・ルイ・
アームストロングをな!!」






そう言った軍人の背後で 建物が完全に崩壊した









すごいごついオッサン軍人が出たんですけど





何ですかこの濃ゆいマッチョさんは







呆然と見守る中、傷の男とマッチョさんの
戦いが始まった











「わがアームストロング家に代々伝わりし
芸術的錬金法を!!」








言いながら放り投げた一抱えほどの壁の欠片を
右拳で思い切り殴る







拳が当たった瞬間、欠片は光を帯びて
大きな槍のような物質に変わり





殴った勢いを乗せて傷の男へと飛来する









「何アレ、ひょっとして錬金術!?」





思わずエドに訊ねると、首を縦に振って





両腕の篭手に書かれた錬成陣…アレの効果で
殴ったものを練成できる仕組みみたいだ…」


「そんな練成方法もあるんだ…」







槍を避けた傷の男に向けて
マッチョさんが地面を殴り





相手の方向に幾つかの円垂体を生み出して


それに足止めを食らいながらも
側の一つを破壊する傷の男







「でも この戦いが続いたら
イーストシティが壊滅しちゃいそうだね」


「洒落になんねーよそれ…」





現に先程までの練成で 地面や何かが
すごい状態になっている





少佐!あんまり市街を破壊せんでください!!」


「何を言う!!」






タバコさんの非難に、マッチョさんは
振り向きもせずに声を張り上げる







「破壊の裏に創造あり!創造の裏に破壊あり!
破壊と創造は表裏一体!!」










拳を高々と突き上げ、そして何故か
上半身を脱いで 見事な筋肉をさらした









「壊して創る!!これすなわち
大宇宙の法則なり!!」












自論の錬金術&マッチョ自慢し始めたよ





色んな意味ですごい国家錬金術師だねこの人











「なぜ脱ぐ」


「て言うかなんて無茶な錬金術…」







心なしか 周りの皆だけじゃなく
傷の男まで呆れてるように見えるのは





私の目の錯覚かな?







「なぁに…同じ錬金術師ならムチャとは思わんさ」





中尉の呟きが聞こえていたらしく
マッチョさんは傷の男を見据えて





「そうだろう?傷の男よ」


「奴も錬金術師だと言うのか!?」







あ、大佐が無能のダメージから立ち直った







「やっぱりそうか」


「やっぱりそうかって、どういうこと?」







私の質問に答えてくれているのか


或いはひとり言のつもりなのか







「錬金術の練成課程は大きく分けて
「理解」「分解」「再構築」の三つ」





エドが傷の男を見つめながら呟く





「なるほど つまり奴は二番目の「分解」
課程で練成を止めているという事か」


「ああそっか…って、あれ?







続く大佐の言葉に 私は首をかしげた







「自分も錬金術師って…じゃあ奴の言う
神の道に自ら背いてるじゃないですか!」









タバコさんの言う通りだ





どうしてあいつは、憎んでる筈の力
憎い奴を打ち滅ぼしている?







まるであいつの行動は











色々な思いが渦巻く中 私は激しさを増す
マッチョさんと傷の男の戦いを見つめていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ようやく書けました、大佐無能発言!


大佐:無能って言うなーーー!!


エド:つか、またのキャラが変わってないか?


狐狗狸:まあ、相手と戦う決意をしたのに水差されたり
いきなり少佐出てきたら普通はあーなるって


アル:確かに 僕らも初めて少佐を見た時、
「誰このゴツイ人!?」って思ったもん


エド:あー…少佐はインパクトでかいからなー




謎が明らかになるのは次回以降!(ゴメンナサイ!!)


様 読んでいただきありがとうございました!