その時私が感じたのは 薄っぺらい「正義」感でなく
ただ、そいつの愚かしさに対する「怒り」だった









〜第九話 悲しき犠牲者〜








雨の降りそうな午後の日 静か過ぎるタッカーの家で
私とエドとアルは 彼の「完成品」を見た







「人語を理解する合成獣だよ」







その合成獣はやたらと毛の長い犬みたいだった









見ててごらん いいかい?この人はエドワード」


「えど わーど?」





タッカーの言葉を 合成獣が復唱する


何だか妙に甲高い声





「そうだ よくできたね」


「よく でき た?」







タッカーが合成獣の頭を撫でる











私達は部屋の中に入り 合成獣に少し近寄る









「信じらんねー 本当に喋ってる…」







エドが唖然としたように合成獣を見つめる





「あー査定に間に合ってよかった
これで首が繋がった」







安堵するタッカーの側で 合成獣はエドの名前を
繰り返し、繰り返し復唱している







「凄いね兄さん…あれ? どうかした?


「んー 何か、引っかかるんだよね…」









私の頭の中で 何かがおかしいと告げている







静か過ぎる家、甲高い声で喋る合成獣







いつもなら真っ先に迎えてくれるはずの
ニーナとアレキサンダーがいない…









その時 私の耳に入ってきたのは







「えど わーど…えどわーど
お にい ちゃ







甲高く喋る 合成獣の呟き





――まさか









「タッカーさん 人語を理解する合成獣の研究が
認められて資格とったのいつだっけ?」


「ええと…2年前だね」


「奥さんがいなくなったのは?」


「……2年前だね」







私の想像を裏付けるかのように エドが
タッカーに質問を繰り返す









「もひとつ質問いいかな」





嫌な予感が 胸を過ぎる









「ニーナとアレキサンダー 何処に行った?」







「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」





タッカーのその台詞が 全てを物語っていた







エドはタッカーの襟首を掴んで アイツを壁に叩きつける





「兄さん!!」


「エド!!」


ああそういう事だ!!
この野郎…やりやがったなこの野郎!!







ギリギリと腕の力を強めて エドは続ける





「二年前はてめぇの妻を!!そして今度は
娘と犬を使って合成獣を錬成しやがった!!」








凄い剣幕で睨みつけながら エドが
責めているにもかかわらず







「医学に代表されるように人類の進歩は
無数の人体実験のたまものだろう?」





まるで自分のやった事が さも当たり前かのように
悪びれずこの男は言う









自分のやった事が 正しいと思っているの?







仮にも実の家族を手にかける その行為が
正義だとでも言うの?










エドの怒りに いつの間にか私も同調していた









「こんな事が許されると思ってんのか!?
こんな…人の命をもてあそぶような事が!!」





「人の命!?はは そう、人の命ね!

鋼の錬金術師!!君のその手足と弟!!
それも君が言う"命をもてあそんだ"結果だろう!?」











確かに二人は 禁忌を犯してしまった


許される行為ではない







でも、二人は自分達の罪の重さに気付いている


逃げたり目を逸らさず

キチンと受け止めて悔いている







何も知らない他人が
正義面して後ろ指を差す権利はない






少なくとも、目の前にいるこの男には









「…反吐が出るね、自分が神様になったつもり?
自分の罪を棚に上げて よく言うよ」







エドがぶち切れる前に 私は奴にそう吐き捨てる







ちゃん…だっけ、君は部外者だろ?
君に私の正しさがわかる訳無いだろう」


「関係ないよ 正義ぶってるつもりでも
あんたのやった事は明らかに罪だ









タッカーが 喉の奥をクツクツと鳴らして言う







「よくゆうよ…君の存在そのものが罪だろう!

君の持つナイフに 並外れた回復力!

明らかに人体錬成が関わっている証拠だ!!」









―やっぱり あの時こいつに見られていた







存在が罪だって事は 自分でも
嫌と言うほど知っていた


今更他人に罵られようが どうでもよかったのに









「正義ぶっているのはどっちだ…
君も私と同じ 罪人なんだよ!!











何故か今だけ 心臓が鳴いた







「…っ!」











まるで、私のその声が合図だったかのようにエドが
タッカーを思い切り殴る







「がふっ…はははは 同じだよ、君達も 私も!!


「ちがう!」


ちがわないさ!目の前に可能性が
あったから試した!」


「ちがう!」


「たとえそれが禁忌であると知っていても
試さずにはいられなかった!」



「ちがう!!」









鈍い音が絶え間なく響く 壁に、床に血が飛び散る







エドを止めなきゃ 恐らくタッカーは死ぬだろう





でも、私は止める気にはならなかった









「兄さん それ以上やったら死んでしまう







アルが止めに入って エドはようやく殴るのを止めた









私はやっと 身体を動かす気になって


再びエドが手を出さないよう
二人の間に割って入る







「アルの言う通りだよ そいつは殺さなくても死刑になる
エドはあいつと違うんだよ?









やっと、搾り出した言葉 いつも通り 軽く…





「いいや同じさ 君もそう思っているくせに、偽善者





背後からのその一言に


貼り付けていた笑顔も限界だった







私は振り向いて、ためらう事無く
タッカーの頭目掛けてナイフを振るった







けれど、刃が届く寸前で 右手が動かなくなった





鋼と鎧 それぞれの腕


痛いくらいに私の右手を掴んでいた









「ダメだよっ 殺しちゃダメだ!


「止めるんだ…











…このまま 二人を殺してでも
ナイフを振り下ろす事は出来た









けれど、彼等の目は余りにも必死だったから







もう 何かをする気にならなくなった











「……わかった 止めておくよ」









私がナイフを納めると タッカーがボソリと呟いた







「はは…きれいごとだけでやっていけるかよ」





「タッカーさん…これ以上喋ったら
今度は僕がぶち切れる









アルフォンスの一括で沈黙したタッカーに
侮蔑の眼差しを投げ


私達は "ニーナ"に別れを告げた







「ニーナ…ごめんね















階段にいる二人を見上げて


なるべくいつも通りの声で聞く







「…ずっとそのまま黙ってる気?」


「…………うるさい 話しかけるな、







エドは座ったまま 微動だにしない





「雨に濡れてると エドだって風邪引くぞ〜?
…アルだって 鎧錆びたら大変でしょ?」





「……ごめん 、しばらく二人だけにさせて」







アルがすまなさそうに こっちを見る









「………わかった、先に宿に戻ってるから」







私はエドとアルを東方司令部の階段に残し
雨に降られながら宿へと歩き出した













人間なんて愚かだと思っていた


愚かで悲しいと聞かされてもいた





この手で殺した事なんか数え切れないほどある…







…でも







たった一人の女の子がいなくなっただけなのに


どうしてこんなに哀しいのだろう?












「…ニーナ……一緒に遊ぼうって、約束してたのに…」









呟いた声は 雨音にかき消された








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:はい 第五話の辛いシーンをようやく書きました

…あああ、読むのも書くのも辛かったざんす


エド:気持ちはわかるが もう少し更新スピードあげろよ


アル:兄さん それは言っちゃダメだって


狐狗狸:が別れたあの後 エドとアルが
大佐と話すあのシーンに繋がってると思われます


エド:ってオレ達のやり取り無視かよ!?


狐狗狸:ちなみに二人は何気に 
異常回復についても調べてたけど
何も分からなかったそうです


アル:わー!何てカオスな補足説明!?


狐狗狸:ナイフについてはまーこれから徐々に説明が
されてくと思うので 今日はここまで!


二人:強制終了!?




次回には傷の男登場っす バトルシーンが入るので
気合入れて書きたいと思います!


様 読んでいただきありがとうございました!