「あれ?今誰かオナラしなかった?」







上に向かうエレベーターに乗った四人の内


唐突に呟いた銀時の言葉に、残る三人も
鼻を押さえながらざわつく





「私は知らないアル、きっとコイツね」


「オィオィ人に罪なすりつけんなよチャイナ
正直に吐いたらどうだぃ女のクセに」


そこ!くだらないケンカ始めないの!
今はどーだっていいでしょそんなん!!」


「何言ってんだ新八君 密室内に異臭
放たれたってのは問題だよコレ」





銀時は新八の肩を叩いて こう続ける





「ってことで白状しちまえよ新八」


何で僕なんですか!?そういう銀さんこそ
犯人なんじゃないんですか!!?」


「そうアル!こう言う場合、大抵
言いだしっぺが犯人だったりするね」





続く神楽の一言で、疑いの目を一身に浴びて
汗ダラダラになる銀時







「オィオィ 何を証拠に」





言いかけた言葉は、確実に彼から出てきた
二度目の鈍い音と異臭に遮られた







「「「くっさぁぁぁぁぁぁ!!」」」





たまらず途中でエレベーターを止め
二人ほど中から飛び出して深呼吸する











第八訓 エレベーター内でのオナラって気まずい











「耐え切れないアル これ一種の兵器ね」


「旦那ぁ、今日の朝飯はヘドロでも
食ってきたんですかぃ?」


「オィオィお前ら大げさ過ぎだって
仮にも主人公のオレがそんなクセェ屁だすかっての
よく嗅いでみ ほらフローラル臭が…くっせ!


「結局自分で臭いの認めてるじゃねぇか
この屁っこき主人公ぅぅぅぅぅ!!」






エレベーターの扉から首だけ出して新八が叫ぶ









彼らが止まった階は 1F同様、両端に
通路が見えるやや広いフロアで





壁や柱の所々に工事用の垂幕やら
カラーコーンが設置されていて殺風景な中


向かいの壁面だけは、全てガラス張り


大きな空と外の景色を透かしていた







「お〜結構いい眺めアル〜」


「言えてらぁ、下で働いてる奴等がゴミのようでぃ」


「「社会科見学に来た小学生!?
早くエレベーターに乗れっつの!!」」








ガラスの縁に走りよって風景を堪能し始めた
お子様二人組を、銀時と新八は叱る







二人が不満げにたらたらエレベーターへ…







「アイツらだ!見つけたぞォォォォ!!」


「「ほら来たぁぁぁぁぁぁ!!」」







戻る前に両端の通路から天人や浪人が
入り混じった軍勢が押し寄せてきた







「せっかくいい空気と景色を
楽しんでたのに 無粋な連中アル」


「ちょうど下の奴等が弱すぎて欲求不満だった
所でぃ、足引っ張んなよチャイナ」


「それこっちのセリフね 何でまた
お前と一緒に戦わなきゃならないアルか」





それぞれが獲物を構え、地を蹴って軍勢へ突進する







「神楽ちゃん!沖田さん!
二人とも何やってんの、早くこっちへ!!」








両者はエレベーターへ進まんとする追っ手を
薙ぎ倒しながら叫ぶ





銀ちゃんと新八は先に上へ向かっててヨ!
私はこいつら蹴散らしてから追いかけるネぇぇ!」


「精々死なねぇでくだせぇ旦那方ぁ!





逡巡する新八とは反対に 銀時は迷わず
エレベーターの開閉ボタンを押す







「勝手な行動しやがって、これだからガキはよぉ!

じゃあオレらはちゃっちゃと大人の話し合い
済ませてくっから 暴れすぎんじゃねぇぞ!」







三人の視線が一瞬合い、互いに頷いて


エレベーターの扉は閉まった













屋敷の一室で不自由ない生活を
与えられたと裏腹に


外の粗末な小屋をあてがわれ、
朝晩ずっと働かされ





更には使用人や出入りしている者達からの


謂われのない暴力や拷問紛いの乱暴
日常的に受けた







耐え切れず抵抗したこともあったが


その度、田足はを殴りながら
こう怒鳴りつける







『誰のおかげで兄と暮らせると思ってる!
今度暴れたら、お前だけ放り出してやる!!』








肉親は最早しかいないにとって
それは絶望に等しかった





ゆえに、すべての処遇を我慢した







合間を縫って訪れる兄を心配させまいと、


乏しい表情を無に変え 苦難や感情を
表さないようになっていった







忌まわしくも抜け出せない田足邸の暮らしは


あの夜、終わりを告げたー













一方 下へ向かうエレベーターの内部では…







「四人で固まって行動しているよりは、二手
別れてさんを助けに行く方がいいと思う」




九兵衛の提案に、土方も賛成の意を見せる





「同感だな、こっちにゃ一人お荷物がいるしよ」







彼の視線は明らかにへと向けられている





「スイマセンねお荷物で
生憎僕は野蛮な争いとか慣れてないので」


「あら、じゃ私はそういうのに慣れてるって
言う意味かしらコラァ?」







ニッコリ笑った妙との間で
大きくゴングが鳴り響いた…気がした







「そこぉぉ!火花散らすんじゃねぇよ!
何性別超えた陰険な争い始めようとしてんの!?」






土方に諌められ、彼は咳払いを一つ





「失礼しました…じゃあ僕と土方さんがとして
最下層付近で動き回りましょうか」


はぁ?勝手に決めてんじゃねぇよ」


「二手で行く以上、足枷の僕は囮以外に
利用価値は無いでしょう?それに」





上目遣いに は艶っぽく微笑んでみせた





僕の護衛をすると言ったのはアナタです」


「…っと槍ムスメといい兄貴といいムカツクな」





機嫌悪そうに 土方は舌打ちを一つ落とす









適当な階のボタンを押してエレベーターを止め
辺りに追っ手がいないことを確認すると





「じゃあ私達はここからちゃんを
助けに行きましょう、九ちゃん」





頷く九兵衛と共に 妙がその階に降りる







「お妙さん、九兵衛さん!」





呼び止められ、振り向いた二人へ
真剣な緑色の視線が注がれる







を頼みます…どうかご無事で」







彼女等は笑みを浮かべて頷いた







「もちろん さんと土方さんも」


「僕らが無事にさんを助け出して見せる」







駆けて行く二人の姿を見送り、残った二人は
更に下の階へと目指す











侵入者の報告は、すぐさま田足の耳へと届いた







「ほう…兄妹に仲間がいたか」


「その様です、私の弟達が内部の兵隊を
総動員させて追っているようです」





口の端を薄く持ち上げ、伏木は続ける





「どうやら あの兄妹とは顔見知りのようで」


「…それを利用せぬ手は無いな」







青い顔にシワを更に寄せ 呟く田足の
言葉を拾い、伏木が口を開く





「そう言うだろうと思い、弟達には既に
全員生け捕りを命じております」


「ふん…仕事だけは出来るのだな」


「この稼業は長いもので」







男の浮かべる薄笑いに、僅かに嫌悪を表し


田足は淡々と命令を下す







「全員捕らえ、順繰りに処刑して
妹の亡骸の前で全てを吐き出させよ


「御意…その後の兄の処遇はいかがなされます?」





異形の主は 渋面をますます強くした





「ワシが死んだ兄のように情け深いと思うか?」


「いいえ 真相がなんにせよ
兄妹が田足様の兄上を殺したのは事実







慇懃なその口調に舌打ちを一つし、田足が
席を立ち 部屋を出て行こうと動く







「もうよい、例の兵器の階まで行くぞ
護衛を勤めよ!」


「…お心のままに」







一礼し、伏木が主の側へと続く











「ほあちゃァァァァァ!!」





途中下車した上階のエリアで、神楽と沖田が
力の限り暴れながら室内を移動し続ける





「ったく、ぞろぞろ団体さんで来やがるたぁ
金持ちってなぁ無駄に兵養ってんな!」


全くアル!雑魚に無駄金使うぐらいなら
景気よく私に恵むヨロシ!」


「テメーは右から左に食い潰すだろチャイナ!
だったらオレらに寄付した方が有効活用できらぃ」


「ふざけるなヨ税金ドロボー!!」







口ゲンカの最中もキッチリ兵隊を蹴散らし







気付けば、いつの間にか工事中のビニールを
ブチ破った先にある改装中のエリア内


神楽と沖田はただ二人の人間と対峙していた







「元気のいいお子様方ですな、しかし
お遊びが過ぎるようで」


「我等 伏木の五男と六男がキツイお灸を
お二人に据えてあげましょうか」





槍を手に、不敵に笑う伏木達







「ご丁寧に案内役がワザワザ来てくれた
みたいだねぃ 待ちくたびれたぜぃ」


「ガキなめてっと痛い目みるって教えちゃるネ!」







室内の半分が鉄骨だけとなっており





残る床や壁のあちこちが穴だらけの
非常に不安定な一室の中 二人は吼える


…が、彼らは笑みを浮かべて微動だにしない







「なんでぃ、威勢がいいのは最初だけかぃ?」


「ビビって腹でも下したアルか?
私達におしおきするんじゃなかったのかヨ〜」





思い切り憎たらしい面をする沖田と神楽


しかし、伏木達の態度は変わらない







「そのつもりですが…子供にしてはあなた方は
随分とお強いようなので」


「どうです?ここで一つ相談があるのですが」





彼らは声を揃えて、両者へと告げる





「「我等の仲間となり 共にあの方の元で
その力を存分に振るいませんか?」」






「…つまんねぇ寝言が聞こえた気がしやしたが
お宅ら、脳ミソの方は大丈夫なんで?」


を追い詰めたお前らに
私が味方すると思ってるアルか!!」







神楽の激に 伏木達は優雅に首を横に振る







「私達はあなた方の為を思って言っているのです」


派のあの兄妹に味方していても
百害あって一利なし、所か身の安全すら危うい」


「こちらに敵対している限り あなた方も
あの娘と同じ末路を辿るのです」


「命を狙われていたにも関わらず、友人や
兄を守ろうと 我等の"警告"を片付けたり
妨害に駆けずり回るあの姿…」


あんな哀れな姿になりたくなければ
大人しく従った方が身のためですよ?」









伏木達の言葉に答えたのは、一発の弾丸







「テメェら…それ以上クセェ口開いたら
鉛弾ぶち込んで気味悪いオブジェにしてやるネ





硝煙が漂う銃口を向けたまま神楽が
射るような鋭い視線を投げる







「別にオレぁ頭もピーマン同様空な
どーなろうと構わねぇけどな」





軽く言い放つ、沖田の視線もまた虎のようで





「ただ、気に入りの玩具どもを勝手に
傷物にされんなぁムカツクんでぃ」








刀を伏木へ突きつけ 両者の声音が揃う







「「とっととかかって来やがれ、キモ槍兄弟!」」









わざとらしいため息と共に、伏木達は
ようやく槍を構えなおす







「せっかく救いの手を差し伸べたのに、残念だ」


「恨むなら、自分達を死地へと巻き込んだ
兄妹を恨むんだな!!」






二人の男が同時に彼らへ襲いかかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:エレベーターの展開で思わず書いた
ネタなんですが…本誌と被ってたらどうしよ


銀時:ちょ、今回オレ屁ぇ扱いただけ!?


神楽:うるさいアルこのヘタレ天パ


狐狗狸:まーまー次回以降は格好いいから
我慢してくださいよ(多分)


新八:多分っつった!今確実に多分っつった!!


沖田:所での姿が見えねぇけど、実は
死んでたとかやらかさねぇよな?


狐狗狸:…次回をお楽しみにねー(逃亡)




伏木兄弟に立ち向かう沖田と神楽、そして
分かれて行動する銀時達は…!


様 読んでいただきありがとうございました!