『どうじゃ 悪い話ではあるまい』







二人の母は病で亡くなり、父は戦争に
駆り出され 罪人として首を晒された





道場もろとも家を追い出され、兄妹が
細々と生きていた所


田足がを養子にしたいと申し出た







『僕を養子にと言うのなら、妹も…
も一緒に引き取ってください!


出来ないなら僕はその話をお断りします』


『随分と強気じゃのう…父も死んで家も無く
子供二人じゃ生き辛いのではないか?』





固太りの巨体を燻らせ、ガマに似た顔面に
いやらしい笑みを浮かべてささやく田足へ







『アナタの噂くらい聞いてますよ田足さん
…確か僕らの前にも、何人か養子を
取られてますよねぇ?』





動じずキレイな微笑を浮かべる


だが、その緑目は鷹のように鋭い





『全員、行方不明事故死って言われてる
みたいですけど…しかる筋へそれを話したら
どうなるでしょうか?』


『…お前達ガキのたわ言を、誰がまともに
取り合うものか!』


今の時期ならば子供のたわ言であっても
力を貸してくれる人達も多いでしょうねぇ?』







戦争は終わったとはいえ、天人に対する
反感を根強く覚えている権力者や
住人達も少なくない





相手に対し、こちらにも法や人の情や
…更には武力行使による手段があると


美しいアルトの響きで 脅し返し
結果として相手の実力行使を牽制する







そして頑ななの態度に折れ、田足は
二人を養子に引き取った







…が 事実上の権利を握った途端





は、引き離されてしまった











第七訓 野球チーム出来る位子供いたら
エンゲル指数ハンパねーぞ 作る前によく考えて












田足の屋敷兼会社へたどり着いた銀時達は







「しつこい奴等め、とっとと帰れ!





戌亥族らしき門番に入り口で阻まれていた





「いーじゃねぇかちょっとくらい、俺ら
中にいる社長に用があんだよ」


ウソを吐け!貴様等の様な輩に田足様が
お会いになるワケ無かろう!!」


「よーしよしよしポチ、ドッグフードやるから
それで手を打って私達見逃すね!」


「ちょ、やめなよ神楽ちゃぁぁぁぁん!!」







門番に騒ぎかかる万事屋トリオを尻目に
は小声で二人へささやく







「…土方さんに沖田さんは警察でしょう
こんな時こそ権限で何とかならないんですか?」


「言ったろ 俺らは非番なんだよ」


「それに逮捕状もねぇですから、今ん所は」









トリオと交代に妙が門番の前に立ち





少ない色気と零れんばかりの笑顔で言う







「お願いしますわ門番さん、ちょっとだけ
お目こぼしをして欲しいんです…ね?


「貴様のような貧相な女に頼まれても
何も感じんわ 出直して来い!」





けんもほろろに追い払う門番へ、妙は
笑顔を張り付かせたまま殴りかかろうとし


慌てて抑える万事屋トリオ







「…困ったな この作りでは中に入れない」





壁の破壊や乗り越えての侵入が不可能だと
気付き、腕を組んだまま九兵衛が唸る







「仕方ありませんね、僕の出番ですか…」







ため息をつき、は骨格と声帯を
"仕事用"へと変貌させ 門番へと近寄っていく







「だから、何度頼もうと無駄だと」


「そこをなんとか…お願いできませんか?





色気全開でつ、と音もなく門番にしなだれ


上目遣いの緑色の目を潤ませ が頼み込む





門番の目の色がころりと変わった







「…緑色の目の女 お主の名は何という?」


と申します」






門番はせわしなく左右に首を振り
の耳元へ口を近づけてささやく





「あとで勤め先の住所を教えるならば
主に免じて見逃してやろう うん」







かくして銀時達は無事に内部へと侵入した









「流石お兄ちゃん、タマつきのカマなだけに
野郎を手玉にとんのはお手のモンか」





敷地を歩く銀時が揶揄するようにへ言う


彼が文句をつけるより早く、銀時は妙に
渾身の一撃を受け 鼻血を滴らせた





「あら?カマに負けた私は何なのかしら?」


「そうアル天パ 言葉を選ぶね
姐御のプライド今ズッタズタアルよ」


「まるで本物の女性のようだったな…」







呟く九兵衛に、は苦笑交じりで返す





「仕事で慣れてますし、ある意味あの頃
鍛えられたようなものですから」


「あの頃って やっぱり…?」







新八の言葉に、彼は首を縦に振る











田足へ引き取られて、すぐに二人は引き裂かれ
形見の槍も奪われてしまった





が 別の星の珍しい素材を使って
作られていた由来が目に留まってか


壊さないでと必死で頼むに心動かされてか


主人は槍を壊さず、飾りとして倉庫へ置いていた







後にそれを知ったは 出入りしていた
職人の一人をたぶらかし、


槍を組み立て式へ改造させると







…これ、取り返してきたよ』


これは形見の…!?でも、形が』


『奴等に見つからないように組み立て式に
こっそり改造したの』





主の目を盗んで会いに行った際に、信玄袋に
包んだそれをへと手渡す





『僕が持ってたらバレるから、君に渡すね
でも…決して見つからないようにするんだ』


『……分かり申した』







唯一の形見を守り抜く為


そして妹が無闇に人を傷つけない
知っていたからこそ、託した







念押しと根回しの甲斐あって 形見は
うまく隠され、奪取の発覚もなかった







…それがあんな形で仇になるとは





双方とも、予想もしなかっただろう









「勝手に回想しといて、その締めはねーだろ
あんな形って何?ウンコ型?
そこぼかさねーでしっかり文章化しろやコラ」


「銀さんんんん小説の法則無視ですか!?」


「てゆーか言い方が一々セクハラね」







ゴチャゴチャ言い合う合間に八人は建物の中に
入り込み 受付をぶっちぎりで無視して駆けた









「どうやら調べによると主な施設は地下
主はもっぱら上の階にいるらしいでさぁ」


「仕事早いね沖田君、じゃは上か下
どっちかに…っと大勢やって来た!







駆けつける警備員を軽く一蹴しながら進み







少し奥 何本か柱の突き立つ円形状のフロア
壁面に並んだエレベーターに着いた八人は


ボタンを押して、その前で待つ







「大きな建物の割には エレベーターが
二つしかないなんてセコいわね」


「きっと立てたヤツはどケチよ姐御
ケツの穴も絶対ちっちぇえアル!」


「どこで覚えたのそんな単語!?」







会話を交わす彼らの他に、
周囲のフロアには人の姿は見当たらない







「…妙だな、さっきの警備員以外
誰もオレらを追ってこねぇぞ」


「やり易くていいじゃないですかぃ、例え
罠でもぶっとばしゃ済む話でさ」


「お二人っ…とも、僕は…早くっを…」


「青い顔をしているが大丈夫か?」


「カンベンしてくれよ、あの程度の走りで
それってどんだけ体力ねぇんだお兄ちゃん」





玉の汗で息絶え絶えを、銀時は
呆れた顔で眺めていた







エレベーターのランプは
上階と下階からそれぞれ1Fへ近づき…









おやおや これはこれは大勢のお客さんが
いらっしゃいましたねぇ」





八人のいるフロアの側の柱から


滲み出るように、槍を持った男が現れた





「せっかく妹さんが庇ってくださったのに
ワザワザ来ていただけるとは…
手間が省けて助かりますよ」







彼の姿を見た途端、真っ先に土方が
抜いた刀を男へと構える





「っテメェ…ウチの大将刺しといて
のこのこ面出すとはいい度胸じゃねぇか!」







男は首を少し横に傾け、口の端を歪め





「はて…申し訳ないのですが あなた方とは
コレが初対面なのですよ」


安い言い逃れだねぃ、オレらは
テメーのツラしっかり見てんだよ」


「あぁ…あなた方が言っているのは
二番目の兄の事でしょう」


「おたく、実は双子とか三つ子ってオチ?
んな古典的でベタなウソはそれこそねぇって」


「残念ながらウソではないんです
…何なら今、ご挨拶いたしましょう







パキン、と指を鳴らすと 物陰や通路から
目の前の男と同じ姿の男達が現れる




フロアに現れた男の数は…六人







『同じ顔が…六人も!?』







まるで分身したような男達に囲まれ
以外の七人は思わず戦闘態勢をとる









「私があなた方の上司を刺した者ですよ
…どうもご挨拶が遅れました」





囲む男達の一人が二人へ向けて呟く





「同じ顔ばっかでどれが一番上か
全然わかんないアル」


「スイマセンね、一番上は今
田足様の護衛を勤めているので…」


「まさか、あなた達クローンなんじゃ」


違います 七つ子なんです私達」





問いかけられたセリフを、男達は
別々に淀みなく受け継いで答える







「…犬猫じゃあるめぇし、同じツラが
七つもあるなんざ気色悪ぃんだよ」


「全くだな土方君 棒が七つよりも
穴が七つあった方がいいに決まってらぁ」


「「誰もんな事言ってねぇよ!
つーかそっちのが気色悪いわ!!」」






Wツッコミからやや遅れて





「僕は穴より棒の方が」


「そこから離れて九兵衛さんんん!」







真顔で言いかけた九兵衛の一言も
新八はもれなくカットした







「あなた達は…何者なんですか?」







問いかける妙に 男達は揃った動作で







『私達は有守流の本流 伏木に連なる者です』


『本流ぅぅ?』









今ひとつ飲み込めぬ七人に答えたのは
ようやく息を整え終えた





「有守流は昔から二つの派閥に分かれてまして
が継いだのは派の型なんです」


「そう、そして私達が知っているのが
本家本元の型を教える伏木派です」


「…戦争のせいで流派は潰れたって聞いてるが?」


「事実上はその通りですよ…しかし槍術を
知る者全てが絶えたわけではありません」


「腕の立つ奴はうまくパトロン見つけて
別の星とかで好きなだけ暴れてるんですよ」







言いながら男達は包囲をじわじわと狭める







「田足様の命令により、そこのお兄さんを
引き渡していただきますよ?」










八人はそれぞれ無言で目配せをし


背後で、チンとエレベーターの到着音が響くと





『今だ!!』





銀時と土方の二人が床を蹴り、迫る
伏木達を弾く間に


六人は一斉に開いたエレベーターの扉に
三人ずつ固まって飛び込む







「逃がすかぁぁぁ!」







即座にボタンを連打する合間に伏木達が
エレベーターへと駆け込もうとするが





「「させるかよっ!」」







二人が彼らを木刀と刀で弾き返しつつ
閉まる扉の向こうに身を滑らせ





―まさに間一髪の所で両方の扉が閉まった











「…ちっ、二手に分かれたか」


「慌てるな 奴等の目的は十中八九
のあの女だ」







伏木は同じ五つの姿を見やり、命令を下す







「警備室に連絡を取り、奴等をそれぞれ
追い詰め 後は手筈通りに…」


『承知した 兄者』





彼らは、建物内部へそれぞれ散ってゆく








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:七話経ってようやく敵地潜入、自分で
書いてて何ですが気色悪いです伏木兄弟


新八:全国の伏木さんに謝れぇぇぇ!!


九兵衛:七つ子だとさぞかし出産も大へ


土方:生々しい発言やめろぉぉぉ!!(汗)


神楽:デカい会社の割にエレベーターが二つって
マジセコいアル、もっと増やせヨ


狐狗狸:通常客用のエレベーターですから
二つで十分なんです…荷物搬送用とかは
もっと奥にあるワケだし


銀時:てーかやたらと兄貴の回想が
入ってきてるのは何?文章稼ぎ?


狐狗狸:否定はしませんが話の展開とあの事件に
大きな関わりがあるので外せないのです


沖田:大した展開でもねぇクセに(呆)


妙:誰の色気が少ないんじゃコルァァァ!


狐狗狸:ギャァァァごめんなs




二手に分かれた銀さん達の取った行動は…!


様 読んでいただきありがとうございました!