おっといけない…こいつらは手出ししちゃ
いけないんでした、忘れてました」





倒れた近藤を見つめ、男は薄ら笑いを浮かべる


いつの間にか 男の手にした槍の穂先が
赤い血で塗れていた





お主…何をしたか 分かっているのか!」


「元はといえば、アナタが自首などするから
この男はこんな目に合ったのですよ」





「テメェの御託はどうでもいいんだよ」


「アンタ 死ぬ覚悟はできてるかぃ?」






殺意をたぎらせ、今にも斬りかからんと
する土方と沖田に 男は肩をすくめた





「これは仕方ありませんね、わかりました
今は退散しましょう…」







へ悪魔のように笑いかけると





「お忘れなく、我が主は あなた方
兄妹を見逃しはしませんよ」








男は槍を石垣に突き立てるようにして隙間に穿ち


身体を持ち上げるように上へと駆け上がる行動
瞬間的に繰り返して 石垣を登り切り逃げてゆく







「くっそ…逃がすかあぁぁ!!





土方の怒号が 辺りに響き渡った











第五訓 去り際の頼みや書き置き手紙は
軒並み死亡フラグ












その後 すぐさま検問が敷かれるも
男は依然、逃走を続けていた







土方と沖田は救急車を呼び、近藤と
の二人を近くの病院へと搬送した







「近藤さんはどうやら 命に別状はないらしい」


「…そいつぁ何よりで
あの槍男の足取りの方は、どうなりやした?」


「目下逃走中だと…クッソ!





苛立ちを隠せず、ゴミ箱を蹴る土方







沖田も 普段の減らず口はどこへやら
神妙な顔をして黙っている









張り詰めた空気の流れる廊下に







ちょっとさん!そんなひどい怪我で
動いちゃ駄目です 安静にしてないと…!!」





別室から戸惑ったような声が聞こえ、







「……医師殿 すまぬ」







呟きに続いて 微かな打撃音が鳴り





静かになった部屋から、手当てを受けた
が出てきた







「おまっ 何やってんだよぉぉぉ!」


「仕方なかろう…医師殿には悪いが
私は行かねばならぬのだ 今すぐに」





気絶する医師を一瞥し、そのまま
外へ行こうと歩き出した









「……ちょっと待てや!」





それを遮り、襟首を掴み
土方は乱暴に彼女を壁に押し付けた







「人を巻き込んどいて 何も言わずに黙って
行くんじゃねぇ、知ってる事全部吐け!


「土方さん 仮にも怪我人に乱暴は
よくないでさぁ」


「近藤さんが刺されてんだぞ…
ここまでされて、黙ってられるか!


「だからと言って、に当たっても
しょうがねぇだろぃ」






苦々しい舌打ちとともに、


襟首を掴んでいた手が離される







少し苦しそうに息を吐くが、







「すまない」





土方に向けられた緑玉の目に浮かぶのは
恨みではなく 謝罪の色







「自首をして罪を償えば、或いはと思った」





作り物めいた整った顔立ちに暗く 影が差す





「だが そんなもので済まされるほど
あの者達の恨みは浅くは無かった」


あの者達ってのは?」







沖田の言葉に答えず は自らに
言い聞かせるかのように続ける







全ては私のせいだ、だから
武士の娘らしく責任を取って来る」


「おい!どこへ行く気だ!!」







振り向くことなくは最後に
こう告げて 姿を消した







「兄上を…頼む」







――――――――――――――――――――







「…ってことは お前さんは近藤が刺されたのを
聞いて病院に来た時に、そいつらの会話を
コソコソ盗み聞きしたと」





淡々と言い放つ銀時に語り終えた山崎が
猛烈な勢いで首を振る





「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!
たまたまですよたまたま!


男だけにたまたまだなんて、上手い事言って
逃れようなんてさすがゴリラの部下ね」


「姉上!全然うまくないですから!!」


「それでお前ら慌ててるアルか…けど
ゴリラが襲われるなんて寝耳に硫酸アル」


水だから!硫酸流したら死ぬって神楽ちゃん!」





笑顔でかんなり危ない発言をする妙や神楽に対する
新八のツッコミは こんな時でも的確だ







「武器密売ルートのハッキリとした出元が
割れたから、報告の後 検挙までの指示を
仰ぐ所だったってのに…」


武器密売…最近になってそんな噂を
耳にするようになったな、そう言えば」





九兵衛の言葉に 彼は頷いて答える





「そうなんですよ、最近になって江戸に
色々と武器を流出し始めてる組織があるらしく
ウチも調査を進めてたんですよ」


「そいつぁ物騒なこって…もののついでに
その辺りの事をちっと教えちゃくれんかね?」







ここだけの話ですよ、と念を押し 彼は
辺りを見回し、手を当てて小声でささやく







「組織の大本を仕切っているのは、どうやら
田足って言う天人の資産家のようで」


田足ですって!?
どうして今頃になってその名前が…!」


さんっ落ち着いて下さい!」





山崎に掴みかかる彼を新八は押し留める







「ねぇさん ちゃんが残した手紙に
何か手がかりは無いのかしら?」


「…読んでみます」







は懐から手紙を取り出し 封を破き





銀時達も、横合いから手紙を覗き込む











―この手紙を読んでいる時 既に私は
皆の前から姿を消していると思われる







いつかは来ると思っていた





田足家の者があの事件の事を恨み


とうとう私達兄妹がここに居る事を探しだし
警告や脅迫を行ってきた





始めは私だけを標的としていたが


回数も増え、兄上や私の周囲にも
些細ではあるが確実に及んできている







このままでは取り返しのつかぬことになる









……この手紙を読んでいる者に
頼みたいことがある





もし田足家の者が現れ 何か聞かれたなら


犯人は であり
兄のは無関係
ということを伝えてほしい





無論、これを読んでいるお主を含め
私に関わったすべての者達も同意である


罰されるべきは 私一人だけだ







私はこれから 警察の者達に話をつけ
出頭し、すべての罪を自白しに行く


田足家に対し、全て自分に咎がある事を
認め どんな刑罰をも受け入れる覚悟だ







最後になってしまったが





兄上、お身体に気をつけてくださいませ
そして いつまでも愛しております











「手紙でものブラコンぶりは
変わんねぇのかよ」


「それ今更言うセリフですか銀さん」


「何言ってるネ、からブラコン
取ったら骨しか残らないアル」


「そこまで言う事無いでしょ!?」







彼らの掛け合いは 最早の耳には
届いていなかった









「じゃあ、あの嫌がらせや視線は田足が…」







表情を無くした彼の胸中を察する事は
誰であっても 難しいに違いない







手紙を片手に握り締めたまま





「……すみません、一人にさせてください」





しおらしく頭を下げ、は家の中へと消える









玄関にいたまま全員がそれを見つめたまま佇み





それまで黙っていた山崎が口を開く





「近藤さんが刺された時といい…ちゃん
田足と何か関わりがあるんですか?」








大まかな経緯しか聞いていない彼には
その二つの接点は分からなかった





しかし、他の五人には理解できた







最近のの行動と、連動するように
起きていた事柄の意味が








「…ずいぶん面倒くさい男に
つけ狙われたもんじゃねぇか」


さんが万事屋に来なかったのは
僕等が巻き込まれないように…?


「それじゃあ、あの変な男は
ゴリラの仲間じゃなかったのね」


「あんなのが何匹もいたら 世の中終わりネ」


「こっそり敷地に侵入してたのも 僕に
類が及ばぬための配慮だったのか…?」


「いや九兵衛さん 侵入する事自体
あんまり誉められたことじゃ…」







周囲に何とも言えない空気が満ちるのを察し





「あ、じゃあオレはこれで」





早々に山崎がその場を立ち去る













フゥと息を吐いて、まず動いたのは銀時





銀さん どこへ行くんですか?」


「どこって、帰るに決まってんだろ」







鋭い視線を向け続ける妙に、振りかえらず
彼は背中越しで言葉を続ける







「あいつが助けてくれって言ったわけでも
金貰って依頼されたわけでもねぇしな」


「ちょっ銀さん!」





新八が止めるのも聞かず銀時はさっさと
先へと歩き 徐々に姿が遠くなる







それを恨みがましい目で見つめて





お前それでも主人公か!見損なったアル!
私あの天パ一発殴ってくるヨ」


「更に待って神楽ちゃぁぁぁぁん!!」





殺意オーラを充満させ握り拳を振り上げて


突進していく神楽を止めるために
慌てて新八も駆け出していった









九兵衛が片目を細め 冷たく言い放つ







「…あんなに薄情な男だとは思わなかった」


「そうね、でもこれは私達では
どうする事もできない問題だわ」





家を見つめ、寂しげに妙は呟く







程なく二人も 家の前から去った








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ようやくの行動の意味が明らかに


銀時:死亡フラグ立てすぎぃぃ!
マジこの長編で殺す気じゃねぇかぁぁ!


狐狗狸:簡単に死なないって、仮にも夢主だし
あの人との共演考えてるし


新八:マジであれ実現させんですか!?


神楽:これ書き終えたらスタンド温泉篇
書くとかほざいてた割には乗り気アル


狐狗狸:速効で長編事情バラすなぁぁぁ!!


銀時:てかの奴ァなんで九兵衛ん家に
顔出してたわけ?


狐狗狸:あの槍男の監視から束の間
逃れる為に時折 息抜きに来てたんですよ


九兵衛:なるほど…僕とさんはさほど
深い関係ではないから、出入りの可能性は
薄いと思われているのを予想して…

狐狗狸:それに万一疑われても名高い柳生への
手出しは田足といえどおいそれとは出来ないと
踏んだ上でこっそり来てたの


妙:ちゃんは九ちゃんの安全が保障されて
いるのを配慮した上で行動してたのね


新八:あのー二人とも、それでも
こっそり敷地に侵入するのはどうかと…




次回、決意をした彼の前に…!


様 読んでいただきありがとうございました!