「なぁ、何でオレらまで槍ムスメつけてんだ
これじゃ近藤さんと変わんねーぞ」


「アレと一緒にすんなぃ土方、面白けりゃ
いーじゃないですかぃ」





五人が物陰で固まり、先を行く
見つめながら小声でささやく





「てゆうか野郎ばっかでむさ苦しんだよ
とっとと帰るネお前ら」


「んだよ、この案思いついたなぁ
オレだぜチャイナぁ」


「あーもーお前らうっせぇよ!声デケェ!
に気付かれんだろーがぁ!」


「そういう銀さんの声もデケーよ!」







騒ぎ立てる彼らからちょっとだけ離れて





「……僕ら、端から見てるととても
怪しい集団だな」


「それは言わないで下さい」





九兵衛ともまた小声でささやき合う











第三訓 パンツや風呂の順番にこだわり
始めたら、妹は間違いなく反抗期












がある店のウィンドウの前で立ち止まり
同時に七人も少し離れた場所で足を止める







「あれは…ドレスやゴスロリ服の店だ」


「何ですぐわかんだよ?」





驚く土方へ 九兵衛はこともなげに答える





「東城がよく、僕に着せる服を買ってくる」


「懲りないですね あの人も」


「てーかのヤツ、ウェディングドレス
舐めるようにガン見してやせん?」


「えぇっ…そんな あの子がそういう服に
興味を示した所なんて一度も見た事」


「だぁから男と結婚する気なんだって」





銀時の発言になおも論議が飛び交いかけるが


が不意に彼らの方を向いたため、
みんなは慌てて姿を隠した









それから彼女は辺りを気にしながら


リサイクルショップや家具店や宅配営業所など





普段なら寄りそうも無い場所ばかりへ足を運んだ







オィオィ、これはひょっとすると
ひょっとしちゃうのか〜?」


男と同棲パターンまっしぐらアルな」


「何で嬉しそうなんですか…怒りますよしまいに」


「静かに 次はあの建物に行く気みたいだ」







の進行方向にある建物は







"Hコスプレ・SM専門店「アナタ好み」"と書かれた
如何わしいテナントが1Fにあるビル





「ちょ、さすがにあそこはマズイでしょおぉぉ!


!そこだけは入っちゃダメェェ!!」


「まー待て待てお兄ちゃんんん!」


「お前らが飛び出たら、せっかくの尾行が
台無しになるアルよ!」





物陰から飛び出そうとすると新八を
神楽と銀時がどうにか取り押さえ





「とうとうもそっちに目覚めたようでぃ
言ってくれりゃオレが直々に」


「総悟テメェ、どっから出したその首輪!
つーか何しに行く気だ!!





怪しい笑みを浮かべた沖田の襟首を土方が
引っつかんで留める





「そんなに騒いだら見つか…」







九兵衛の制止の声も 時既に遅く





が振り返った先に映ったのは…







横手の路地から現れた、血飛沫に塗れた妙





『怖っっ』





尾行中で無ければ、七人の唱和は
辺り一帯に響くものとなっていただろう







呆然と硬直したに気付いてか


妙がニコリと微笑を浮かべる





「あら こんにちはちゃん
ずいぶんご無沙汰してたわねぇ」


「う、うぬ…すまぬな妙殿 所でその姿は?」


「あなたの麗しのお兄さんのとばっちりで
ストーカーの被害が酷くてねぇぇ」





声に滲むどす黒いものに反応してか
が少しだけ怖気づく







「そんな事 初めて聞いたぞ妙ちゃん…」


「ありゃりゃ、近藤さんもずいぶんと
間の悪い時に会いに行ったようで」


「この間も見知らぬ男にお兄さんの事をしつこく
聞かれたから お仲間かと思ってゴリラを
フルボッコにして尋問してたのよv」





いつもと変わらず笑顔で恐ろしいことを
さらりと口にする妙





「オィオィ、本当に命日迎えやがったよあのゴリラ」


「本気でシャレになってないです
我が姉ながら、恐ろしすぎますよ…」







僅かに悲しげな顔をして、は頭を下げる





「それはすまない事をした…
本当にすまぬ 許して欲しい」


ちゃんは悪くないわ、悪いのは
あなたのお兄さんとそこのゴリラよ」







物陰にいる者たちの反応は様々だ







「姐御の言う通りアルな」


「否定できねぇ所が悔しいけどな」


「近藤さん…せめて安らかに眠ってくだせぇ」


「妙ちゃんも僕に一言言ってくれれば
手伝ったのに…」


あの、僕にも咎は無いと思うんですが」





小声で呟くだが、無論頷くものも誰もいない







しかしは尚も真剣に頭を下げ続ける







「妙殿 どうか兄上を嫌わないで
仲良くして頂けないでしょうか…お願いです





ちゃん…何か悩みでもあるの?」





優しげな中にも真摯な響きを含んだ声に





「………それは」







戸惑いながらもが次の言葉を口に…







しようとした所で路地から血塗れのゴリラ


いや むしろ血染まりの近藤が現れた







は反射的に身を引くと、





「すまぬ、用事があるゆえ 失礼致す」





妙に一礼し 逃げるようにその場を去った







「おや〜ちゃん、あんなに慌てて
どうしたんでしょうねぇ お妙さん」







事情を知らぬのん気な一言が、妙の神経を
おもっくそ逆なでしまくった







「全面的にテメェのせいだゴリラァァァァ!!」





妙の制裁ラッシュが始まり





「アーーーーーーーーーーーーッ!!」


それどんな発音んんん!?ちょ、もう
ゴリラですらなくなるから!止めてあげてぇぇ!」


「お妙ちゃん、もうその男はただの肉塊だ
むしろ赤黒く染まった肉のぼ


「そこ、生々しい言い方やめろぉぉ!!」





もはやユッケと化していく近藤を助けるべく
土方と九兵衛が声張り上げて駆け出して行く







「オレァ楽しそうなんでここで見てやす
旦那達でを追ってくだせぇ」





愉快そうに笑いながらの沖田の言葉に







「よーし それじゃオレらはを追うか」


「そうですね」


「ゴリラユッケは任せたアル」


「ねぇいいの!?それでいいの!?」





色々な問題点をスルーしながら、
四人はの追跡を再開した











彼女は進行方向上の建物の前で曲がると
辺りを警戒しつつ 複雑に道を進み







そして、一件の家の前で足を止める









「ここは…ウチじゃないですか!?」


「ってことは、単なる帰り道だったアルか?」





神楽の言葉を はあっさり否定する





「普段のなら、こんなに回りくどい道
通ってきたりしませんもの」


「とにかく事実を聞くなら今だな
つーわけでお邪魔しまーす」


「ちょっ銀さん 勝手にあがっちゃダメでしょ!」







四人が家へと上がると、そこには







居間で荷物をまとめているの姿があった







「兄上に銀時達 どうしてここに!?」





彼らの姿に気付き、彼女は姿勢を正す





「それはこっちのセリフだよ
君は一体何やってるワケ!?」


「つーかよぉ 何だよその荷物
どっかの野郎の家に押しかけ女房に行くのか?」


「とぼけても無駄アルよ、私達ちゃーんと
この目で色んな証拠を目撃したネ!」


「直球ですか銀さんんん!?つかほぼ状況証拠ぉ!」







二人の言葉に肯定も否定もせず、





は衝撃的なことを口にした







「近々 ここを出て行こうと思ってな」







四人は、言葉の意味を飲み込むまで
少々その場で呆然としていた







出て行くって…荷物とかどうするんですか?」


「私の荷物などそれほど多くもないし
処分の手配は済んでいる」


 どこか行く当てがアルあるか?」


「…確かなのは 私はここには
もういられないだろう事だけだ」







寂しげに言ってから、は三人へ顔を向ける





「銀時、新八、神楽 お主らに頼みがある
兄上を…出来る限り見守っていて欲しい」






そして口の端を持ち上げて
滅多に見せない微笑で 言い切った





「後ほど、皆には出来る限り別れを
告げておくつもりだ」








荷造りを再開し始めたに代わり





別れってお前 そんな面倒くさい
男に惚れこんだわけ?」


「いきなり家を出るって…せめてさんに
相談くらいしても良かったんじゃ」


「どんな男なのかちょっとぐらい教えろヨ」





三人が口々に追求するが、は答えない







ねぇ、何かあったの
怒らないから 話してちょうだい」





何度も優しく、そう問いかけるけれども





すみませぬ…兄上 それだけは」





かぶりを振り続ける彼女の様子に







とうとう の堪忍袋の緒が切れた







「いい加減にしなさい !」





兄に怒鳴られたことにより


彼女は叱られた犬のごとく
しゅんとうな垂れる…かと思われた







だが、はキッと兄を睨みつけ





「兄上には全く関係の無い事です!
放っておいていただきたい!!」








激昂したように叫び散らして自室へ
駆け込むと 音を立ててふすまを閉じた









兄至上主義が あろうことか





に反抗し、ケンカをするという
天地が引っくり返ってもあり得ぬ光景に


兄本人も他の三人も呆気にとられてしまった







が僕に 隠し事や反抗なんて
今まで無かったのに…どうしちゃったの?」





失望に満ちたの一言で、更にその場に
何とも言えない気まずい空気が流れ出す







「やっぱりこれは男が出来たに違いないネ
あの反抗的な態度、間違いないアル」


「今がお互い 兄妹離れすんのに一番いい
タイミングじゃねーの?」


二人とも空気読めぇぇぇ!
じゃ僕ら買い物ありますんで 失礼しました!!」





どうでもよさげにの心を抉りそうな
発言をする二人を連れ出しながら


新八はそそくさと家を出て行った








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:長編第三話にしてエラい展開ですな
近藤さんの安否が気になるところです


新八:何他人事みたいに言ってんのぉぉ!?


妙:ちっ…後もう少しだったのによぉぉ…


九兵衛:それ以上は妙ちゃんの服や拳が
汚れるから止した方がいい


土方:せめて生死の心配してやってくれよ
ウソでもいいからぁ!!



銀時:つかの進行方向にあった
如何わしい店のくだりは何だったわけ?


狐狗狸:アレは単に通り過ぎる方向に
目立つ位置であっただけのお店です


神楽:セコ過ぎるブラフかましてんじゃねぇヨ


沖田:まったくでぃ、アニメの最終章も
結局ハッタリだったしよぉ


土方:たく誰だあんなジャケ描いた奴ァァ!
ちょっと叩っ斬ってくるぁ!!


狐狗狸:話ずれてるし!アニメスタッフに
暴行とか止めてあげてぇぇぇぇ!!




次回、彼女の涙のワケとは…!?


様 読んでいただきありがとうございました!