『兄の邪魔をするでない出来損ないが』





能力がやや劣る、ただそれだけで
早々に田足の帝王学と実父へ見放され





『役に立たぬなら死ねばよい』





田足一族としての教育を叩き込まれた兄もまた
彼の味方など 最後の瞬間までしなかった







肉親に疎まれ、周囲に認められぬ弟は





『偉くなって…偉くなって誰も彼も
一切合財僕の下へ這いつくばらせてやる…!』






幼い姿に似合わぬ憤怒の形相で強く誓った









「銀時、神楽、総悟殿…」





フロアに現れる影を見つめる亡羊とした瞳は


最後に現れたの姿を認めた瞬間
その緑眼に焦点を取り戻した





「兄上…兄上っ、どうして!?


「決まってるでしょう 皆で君を迎えに来たの」


「あらら〜何捕まってんですかぃ土方さん」


新八ぃ!姐御達と一緒に何遊んでるアルか!?」





四人の登場に カプセルの向こうにいる二人も
何やら喚きつつ透明な壁を叩くも


彼らの声は遮断されているようでこちらに聞こえない







舞ったチリが治まる内、室内の様子と


片方の腕と足の自由を奪われた妹の惨状
目の当たりになり 彼は愕然とする





「こんな…あの時よりひどい……が何を
いや、に何をしたんですかこの拷問狂!!


「どっちかっつーと拷問狂はお妙じゃね?」


「中の人ネタは止めて下さいよ!」





のツッコミと同時に、カプセル内の新八も
同様の動きを見せていた







不機嫌な顔をより一層濃くして





「拷問狂とは人聞きの悪い…兄殺しの罪人
片割れへ 天に代わって制裁を加えたまで」





田足が足の杭を力を込めて蹴りつける





「…罪は認める、けれど咎無き者まで巻き込っ」


搾り出すように放った言葉は鳩尾への蹴りで途切れる





に何するアルかこのチ○コ顔!!」







三人がそれぞれの武器を構え、動こうとする刹那





「動くな!」


田足の一声と共に伏木二人が槍の刃を
の首筋へと近づけ 彼らの動きを止めた





「貴様等が包囲網を突破したのは予想外だが
ほぼ計画通りに事が運んだ…」


「武器を捨てなさい、彼女が死に ガスの注入で
お仲間がこの世から消え去る様を見たくないなら」







彼らの要求に、銀時と神楽と沖田はそれぞれ
自分達の武器を田足へ向けて投げつける


が 伏木達の見事な槍捌きで遠くへ弾かれてしまう











第十三訓 残金が記憶より少ないとガッカリ











「ちっ、刺さりゃ良かったのに」


「うわっ今僕の方スレスレで刀飛びましたよ!
勢いだけで行動するの本当やめてもらえません!?」





黒い沖田の呟きに、間髪入れず三人を非難する







それには構わず銀時が 静かに問いかけた





「なぁ田足さんよぉ、と兄貴が憎いなら
何でさっさと殺さずまどろっこしいマネしてんだ?」







田足は懐から葉巻を取り出し、咥えると
煙を燻らせながら口を開く







「冥土の土産に教えてやろう 田足家は戦によって
栄えた一族…代々、家を継ぐものは武器の製造書
秘蔵分与された財産を個別に貯蓄し 次の代へ渡す」





紡ぐその口調には特に何の感慨も見受けられない





「父から兄に受け継がれた隠し財産は
兄が死んだ今 ワシが得るのが筋…


それをこの兄妹は卑劣にも、兄の隠し財産を
騙して聞き出し 殺して奪った!


「っ白々しい嘘を真実が如く…!」





怒気をはらんだの呻きは
首筋を浅く斬られて止まる







「隠し財産の存在は真実であろう?
なぁ…







全員の視線が集まる中…





「ええ アナタの仰る通りです





は 首を縦に振った







「そ、んな…兄上…!?」


「……オィオィ、ずいぶんあっさり認めたな」


「調べればわかる事ですから…けれど誤解を
しないで、僕らはそれが目的だったわけじゃ」


「貴様等の余計な戯言はいらん!」





言葉と共に、田足は怒りに任せを蹴る


左目の切り傷が衝撃で開き 鮮血が舞う





!』







四人の顔が険しくなるが、田足の蹴りは止まない







「お前達兄妹が兄を殺したのは事実!

ワシの怒りと苦しみ…奪った財産の残りと
貴様等全員の命で払わぬ限り収まらぬわ!!」





蹴られる度に上がる血飛沫が辺りに散って…









「兄を殺された苦しみね…随分歪んだ兄弟愛だが
アンタ 一人きりの肉親と引き裂かれた奴
苦しみは分かるのかぃ?」







よく通る低い声が、田足の動きを止めた





「テメェの罪を悔いて 肉親にそれを背負わしたと
後悔し続けて…ただ謝る為に汚れ塗れ傷だらけで
下水すすって生きてた奴の気持ちが分かんのか?」





異形の主を真正面から睨みつける銀時の目は
恐ろしく鋭く、そして強い光を宿している







天に代わって制裁だぁ?ただ金が欲しくて
コイツらにした嫌がらせを正当化してぇだけだろ


弱みと仲間盾に女虐めて
神気取りしてんじゃねぇぞセクハラ顔面が!








彼の啖呵に、初めて田足は気圧された







「だっ黙れ黙れ!
貴様等にワシの気持ちが分かるものか!


クズカスだと罵られ続け 屈辱に塗れながらも
ようやくこの地位を手に入れたんじゃ…

それを、落ち目などで手放してたまるか!!


もう一度田足の栄華を復活させ
今度こそ全てを足元にひれ伏さ
ぐっ!?





激昂していたその口から 突如血が吹きだす







銀時達と、そして田足本人が驚く中





腹から生えた槍の穂先がするりと引き抜かれる







刺し貫かれた腹から溢れる血を抑えながら
田足は声を震わせ…背後の伏木達へ目を向ける


片割れの槍には、新しい血がベットリ





「トチ狂ったか伏木!
ワワ、ワシに何かあれば天導衆のあの方が」


「残念ながら あの方の命令なんですよ

あなたのお命と共に、田足の全てを奪えとね」





厭らしい笑みを浮かべる七男の言葉を
引き継ぐように 長男は口を開く





「傲慢な父、怠惰な兄 そして世の中の
全てを憎んでさぞお辛かったでしょう…


せめて 安らかな眠りを差し上げますよ







槍が閃いて、驚いた顔のままの田足の首が
ごろごろと床に転がり落ちた








カプセルの中にいる二人と外の五人が声を失う







その様子を見やり、伏木二人はまるで
世間話をするかのように語り始める





「このお方は最後まで可哀想な方でした


肉親にも周囲にも愛されず、唯一の
拠り所は地位のみ」


「両者が死に、邪魔者も消えてようやく
望みの居場所を手に入れた…それなのに」


「知ってるぜぃ、骨肉の争いが祟って
組織としては落ち目に来てんだろぃ?」





伏木二人は寸分違わぬ動きで頷く





「流石は真撰組 話が早くて助かります」


「長い争いで疲弊した組織力の回復に血眼で
藁に縋るように兄に継がれた隠し財産を探されてた」







片割れの…恐らく長男が邪悪な笑みを浮かべた







「そう…我等が組織を牛耳っていた事にも
気付かぬほど必死にね」


「全部、お前らのしわざだったアルか!」





吼える神楽へ 二人はゆるりと首を振る





「いえいえ、武器密売は田足様の命令ですよ?」


「ただ、兄妹の所在を突き止め
進言したのは我々ですがね…」


「テメェらは、始めからそれが目的だったワケか」







冷めた言い方をする銀時と裏腹に
伏木達はいよいよ熱のこもった声色で話す







「折角の手駒をみすみす潰す手は無いと、
あの方は仰られた…そして任務遂行の暁に
我等が流派の復活をお約束されたのです」


「こちらも悲願復興と組織の運営をする以上
金はいくらあっても困りません」


「むしろ好都合とみて利用させて
いただこうかと狙っていた次第です」







そして 槍の穂先をへとあてがい





「さて、昔話も終えた所だ 妹の命が惜しくば
隠し財産の場所を吐いていただこうか…お兄さん?





ニタリと息を揃えて笑った伏木兄弟は


悪魔さながらの醜悪な姿をしていた









いかにも気だるげに息をつき、
ようやく口を開く







「確かに僕はあの日、主人に隠し財産の場所を
教えてもらいましたよ…」


「物分りのいい方で助かります それで
財産の残りはいずこに?」





訪ねられ 彼は優雅な仕草で首を横に振る





「…あなた達には見つけられませんよ」


「何を世迷いごとを、例え手をつけていようと
貴様一人ごときでは手に余る資産…」


「今の我等が総力を上げれば
どのような場所にあろうと見つけ出してみせる!」


「そして必ずや有守流を世間へと復興し「ですから
幾ら探そうとそんなものは無いんですよ」








ニッコリと誰もが見惚れるような笑みを浮かべて
はこう言い放った







「設計書だののノウハウは全部灰にして
金目のものは全て身分隠しと惑星外への逃走資金に
有効活用して、使いきってしまいましたので」







爆弾発言に 周囲の空気が凍りつく





伏木達は目と口をアホみたいにカッ開き


手下はおろか土方と新八までもが唖然となった







「やっぱりピーマン王子、済ましたツラして
煮ても焼いても食えねぇ野郎だ」


「国が傾くシロモノ帳消しにするたぁ
肝っ玉は存外図太いねぃ」


あなた方にだけは言われたくないですね」





表情を全く崩さず、ドSコンビに言い放つ







「それと…君って子がここまでおバカだと
僕は今まで思いもしなかったよ」


「ピーマン兄貴の言う通り、お前は頭まで
スッカスカのピーマンで出来てらぁ」







二人の叱責に、は心底落ち込んでしまう







「すまぬ 私は皆を自分の罪に
巻き込みたくなかった、ただそれだけなのに…」


アホか、テメェみたいなのが何でもかんでも
一人で背負って責任とろうなんざ十年早ぇーの!」


「それに毒だかなんだか知らねぇが、そんなもんで
オレらとこいつ等が簡単にくたばるかってんでぃ」


新八達は絶対助けるアル だからこんな
ちゃちい脅し振り切って見せるネ!」





三人の力強い眼差しと言葉が降り注ぎ





「みんなで一緒に帰ろう、!!」







最も強く呼びかけるに答え


顔を上げたの表情には
先程までの弱々しさなどカケラもなく





「…私は皆を助けたい だから、助けてくれ!





仲間を救い、最後まで戦わんとする強さがあった







『当たり前だ!』









ようやく我に帰った伏木兄弟が無線を手に命令を下す







全兵士よ!新兵器のフロアに集結せよ!!」


「侵入者四人を殺してしまえ!!」





彼らの怒気に当てられたように動き出す兵隊達に







「「「テメェらごとき
あり合わせで十分だぁぁぁぁぁぁ!!」」」






床を蹴って三人も攻撃を開始した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:尺食った分、六月中に終わらせる為
一日からの更新です


土方:何さらっと内輪事情バラしてんだよ!


銀時:つーかよ、そんな財産どーやったら
使い切れんだよ?豪遊でもしたんですか?


狐狗狸:だから記述されてた通り身分を隠すのと
惑星に逃げる為につぎ込んだんだって


沖田:兵器とやらのノウハウは
何で燃やしたんでぃ?


狐狗狸:本人にとって必要ないのと、今まで
積もってた恨みをぶつけたかったからじゃ?


新八:んなご都合的な…じゃあさんが
かぶき町にいたのは


狐狗狸:途中で資金がつきかけて、女装して
働いてた所をあのスナックに雇われたんでしょう




次回 彼らは道を切り開く事が出来るのか…!


様 読んでいただきありがとうございました!