「手加減ねぇ…それはこちらの台詞ですよ!」





射程距離に入り直し、伏木は変わらず
突きの連打で攻める







身体で捌いて避ける動作と自分へ斬りかかる
動作が先程までとは違うものの


繰る槍の速さもまた増している為





土方は伏木次男に決定打を与えらえてはいない







「古臭い時代の遺物が伝統の伏木派に逆らうとは
とんだお笑い種ですね!!」






あからさまな侮蔑を浮かべる伏木の槍が肩を射抜く







短い舌打ちを一つして足を止めた土方へ





「あの憎き派を根絶やし、あの方と我等が
栄える為にさっさと死んでいただけますか!?」





必殺の鋭い突きが 放たれ…彼はニヤリと笑った







「待ってたぜ…この一瞬をよぉぉぉぉ!







必殺の、鋭い突きが喉元へと突き刺さるほんの手前


土方が刀で槍の穂先を跳ね上げた





互いの衝撃がぶつかり、砕けたのは…


伏木の槍の刃







有り得ない…特別に鍛えた槍の刃が…!?」


「時代の新旧?伝統?の因縁?
んなもん全部知ったこっちゃねーんだよ!





烈白の気合と共に繰り出された一撃が胴を割く





「く…古臭い侍が…我等本家の…有守流…に…!」







うつ伏せで倒れる伏木の側で、息を整えながら
土方は煙草を取り出し火をつけて


一服の煙と共に言葉を吐いた







「ウチの大将に手ぇ出して真撰組にケンカ売った
不届き者は斬る……そんだけだ」








静かになったフロア内に、微かに
上の階からの喧騒が土方の耳へと届き





「っとあのヤロ捕まってねぇだろな…」





慌てて煙草を踏み消し 元来た通路から
ビル内階段から一階上へ上がりかけ







「ちっ…オレもヤキが回ったもんだ」





上階と下階から押し寄せた兵に土方は
完全に取り囲まれた……











第十二訓 トランシーバー持つとガキの頃
やったスパイごっこ思い出しテンション上がる












人気の無い通路の中、無線機を取り出した
伏木が周波数を合わせる







「…私だ そちらの状況はどうだ?」





聞こえてきたのは 七男らしき声





『五兄と六兄がやられちゃったみたいだぜ』


「こちらも三番目と四番目が倒された
あの銀髪の侍…かなりの手練だな」





兄の言葉に、七男はどこか他人事のように答える





『二兄ちゃんもやられたらしいよ〜
でもへばった黒髪は兵隊がとっ捕まえたってさ』


「こちらもメガネを一人捕まえている」


『あ、それじゃオレの勝ちだ〜こっちは
生意気な女どもを二人ほど捕ったもんね』


「すると後は銀髪と二人のガキ、それと
兄の四人ほどか…時間の問題だな」







少しの間を置き 軽い口調をガラリと
変えて七男は口を開いた





『後ちょっとだね、大兄ちゃん』







伏木も、無線を片手に頷く





「…ああ もう少しで我等の夢が叶うな」







低く呟いたその声はどこか喜びが滲んでいる







『邪魔な派が皆消えて、あの方の庇護の下
新たに有守流が復活するんだな』


「長い苦渋の日々も…全てはあの頃の栄光を
取り戻す為を思えば何でもない」





初めて 伏木の表情に感情の色が灯る





「復活した暁には有守流を立派な殺人術として
唯一無二に磨き上げ、我等を追いやった天人を
一匹残らず狩りつくしてくれよう」





浮かぶは、邪悪そのものの笑み







『…なぁ大兄ちゃん アイツはどうする?』


「あぁ、あの男か…決まっているだろう」







何かを察したらしく、七男はそれ以上追求せず





『悪人だねぇ〜大兄ちゃん 同情しちゃうぜ
オレらに全部奪われちまうなんて』





無線の向こうでせせら笑った











「はっ…ひぃ…も…らめ……」







土方と別れ孤軍奮闘していたは 虫の息だった





どうにか騙しすかして逃げおおせても
体力の無さが災いし、兵隊を振り切れずにいた







「いたぞ!兄貴だ、捕まえぶぎゅあ!!





台詞途中で兵隊はぶっ飛ばされて全滅する


代わっての前に現れたのは、銀時





うぉ!ピーマン兄貴かよ 大串君達は?」


「はー…はひ…、ぎ、銀さん…!
ピーマン言わな…ゲハゲハゲハゲハ!!


「うん落ち着け とりあえず深呼吸な
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」


「それ…ラマーズじゃな…ゲホゲフッ!







肺病患者で通るレベルの咳する彼の背を
擦る銀時の姿を見つけ、神楽と沖田もやって来る







「銀ちゃーん!」


「おや、旦那方が一緒とは 土方さん達は?」


「こっちが聞きてぇトコだがピーマンが
スタミナ切れでよ…妙と九兵衛はどうした?」


「姐御達とは会えなかったアル…」







ようやく息が整ってきたが、神楽の引きずる
シロモノを指差し 途切れ途切れに問う





「あの…それ、ひょっとして…伏木さん?


の居場所吐かせる為に連れて来たネ」





そこには本編第七訓でのふてぶてしい様子が
雲散霧消したボロ雑巾が一人





「これあのキモ兄弟の一人?オレぁてっきり
タコの国から来た天人浮浪者かと思ったわ」


「銃弾とかの盾代わりにもしてたんで
大分ガタがきて痛んじまいましたぃ」


「ナチュラルにどす黒い会話展開させないで
下さいよ…この人達本当に主人公とスタメン?」





半世紀ほど遅い意見を零しつつ、
ようやく一つの事に気付いた





「銀さん、新八君はどうしたんですか?」


「…まさか、銀ちゃん!」


落ち着けよ神楽!新八はこいつの一番上に
連れてかれた…まだ、生きてはいるハズだ」







彼もまた薄暗い世界を知るが故に
緑色の眼を丸くして驚いた







「何故です、目的はと僕だけでは…」


「それですが旦那 田足の野郎からはオレ達を
全員生きたまま捕まえる命が一応出てるそうで」





言いながら沖田が鋭い視線を向けると





「手筈では侵入者全員を、しし新兵器のある
フロアにつれて来る事に…」





伏木はすっかりと怯えきった目で答える







「もしかして…そこにも!」


「ええ、ももも勿論おりますとも…」


「よーし じゃキモ兄弟の何番目かさんにゃ
もうちっと働いてもらおうかね」







伏木の案内で、四人は新兵器の設置された
フロアへと移動する…最中







「所で新兵器って何?初耳なんだけど総一郎君」


総悟でさぁ旦那…少なくともエレベーターで
旦那がこいた屁の五倍は凶悪でさぁ」


何言ってるアル!銀ちゃんの足の裏の十倍ネ!」


「マジでか そいつぁヤベェな
いきなりA.D.1999年ラ○ォス級の兵器来たな」


「スゴいんですかそれは…ていうか何で某ゲームの
ラスボス関連?DS発売中だからですか?」





の的確なツッコミが飛びつつも
流れで新兵器についての説明が始まった









…そのフロアにて厳重に研究と製造・そして保管が
成されていた生物兵器は


正に害悪としか形容出来ぬモノだった







特殊な星の細菌を元に作り上げた
地球上には決して存在しない類の毒ガス





まだ密室でしか効果の無いそれは


吸った量が致死量を、体内堆積時間が十分を
越えた時点で対象の命を確実に奪い


更にはその死体の分解を極限まで早める
時限式となっていて 堆積するまでの間

吸った対象を麻痺させる性質をも持つ







「平たく言えば、十分以上たくさんのガスを
吸ったら死んで その死体がチリになる…と?」


「吸っちまったらチ○コまでチリだぁ?
何それ、吸血鬼計画ですかコノヤロー」


「銀ちゃんは頭の中が既にチリとなって
風にぶっ飛ばされてるから関係ないアル」


「それテメェの事だよな全部ぅ!」







…下らない言い合いでやや脱線したが





とにかく、現時点では専用の機械と設備
よる人体実験が繰り返され


短い時間・少ない量・そして屋外での使用を
可能にする為 日夜研究が進められているとか







「ったく金持ってるバカの悪巧み具合
江戸でも別の国でも代わり映えしねぇな」


「吸うと…助からないんですか?」


「今の所、十分が過ぎる前にガスから逃れ
早いウチに解毒剤を飲む事…だそうでさぁ」







説明が終わる頃に、折りよく目的地も
程なく近くなっていたので





瀕死の案内役をキッチリしめてその辺に捨て


四人は伝えられていた道順を進んで…







曲がった先の通路は、途中からブッツリ
隔壁に遮断されていた





「銀ちゃーん 何かシャッター閉まってるアル」


おぃぃ!?ここまで来たのに閉店って
そりゃねぇだろチ○コヅラ親分んんんん!!」


「誰の事言ってるんですか!?」


「お三方、バカやってるヒマねぇみたいですぜぃ」





沖田の視線を辿ると、四人が来た通路から
兵隊がぞろぞろと押し寄せてきた







「…どうやら最後っ屁咬まされたようでぃ」













隔壁の奥にある、最新式の機械制御で
オートロックされた広大なフロアに


その場所の二割を占める機械が鎮座していた







「科学と天人の技術と素材を使い、造られた
このガス発生機は素晴らしいですねぇ」





世辞を浮かべ、一歩分寄る伏木を







「兄者…範囲はごく限られてるだろうけど
あまり機械の側には寄るのは…」





その場を動かぬまま同じ顔の七男が咎める





何を恐れる?そう簡単にこの機械は壊れまい


それに万一ガスが漏れた時に作動する換気扇が
設置されているから安心だ…ねぇ?田足様





芝居染みた口上も、黙す田足にはただ不快なだけだ







巨大で複雑な形状の機械からはケーブルやパイプが
枝のように無数に伸び絡まり


その内数本のパイプが、すぐ側にある透明な
楕円状の大きいカプセルケースの天井と繋がる







象一頭が納まるサイズのカプセルの中には


気を失った妙と九兵衛 ケースに張り付く
新八と土方がいた






いや…二人は張り付いているのではない





新八は大声で誰かへと呼びかけ


そして土方は、その場所から脱出するべく
拳を血だらけにしながらケースを叩いている







「罪があるのは私だけの筈…何故このような
理不尽な仕打ちを行い続けるのだ」







震えるような弱々しい声は、のものだった





伏木の長兄と末弟に 双方の槍の穂先を
交差した状態で首へとあてがわれ


片腕を有り得ない方向へぶら下げて


崩した正座の片足を杭で貫かれ
床に縫いとめられた作務衣の少女を







全ては貴様の罪のせいよ、言葉を慎め
目の前でガスを注入し 仲間をこの世から
消滅させてもいいのだぞ?」





背後に幾人もの天人と浪士の兵隊をはべらせた
不機嫌な面の田足が睨みつける





「喜ぶがいい、残りの奴等が揃い次第
お前と一緒にこのカプセルの中で葬ってやる」


「まぁまぁ…最後のチャンスを与えるのは
どうでしょう、白状したら彼等だけ見逃すとか」







非情な田足を宥め、情をチラつかせる伏木





それが敵を自白に誘う手である事も
彼らがどの道約束を護る気がない事も


相手の望む情報など 本当に何も知らない事も

は嫌と言うほど理解していた







「知らぬものは知らぬ、それは兄上も同意だ
けれど罪なら私だけを裁け!


瞬間 田足は彼女の顔を蹴り上げる





「煩い!貴様の都合など聞かぬわ!!」







口の端を切り、血を一筋流しながらも
その言葉は止まらない





「あの者達は…何も関係が無い!」


「…なら今すぐあの世へ送ってやろう
だが、要らぬ事をさえずる舌はいらんな





目だけの合図で伏木の一人がの顔を
押さえ、無理やり口から舌を引きずり出す







残る片割れが槍の刃を舌にあてがい





「さぁ絶望の内に死んでゆ」





切り落とす合図の為、上げた腕を
降ろそうとした主の次の言葉は


フロアの横壁が崩壊した音に飲み込まれた







ガレキが崩れてチリが舞い 室内の者達の視線が
徐々に形を現す影に集中する







「どーも、万事屋でーす ピーマン王国の
王子と共に姫を連れ戻しに来ました〜」





気だるげな物言いで、銀時が最初に現れた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:捕まった皆の処遇と新兵器について
一気に語り倒しました


銀時:んだよ、MGSのアイツの影響か?
にしちゃあやたら中途半端じゃねーか


狐狗狸:無茶言うな こっちは武器だの兵器だのは
まったくのドシロートなんだから


新八:さんもそうですけど、敵の伏木さんも
メチャクチャな目に遭ってません?


狐狗狸:ドSっ子コンビじゃ仕方ない 歪みねぇの




次回 ついに"田足家の秘密"が明かされる!?


様 読んでいただきありがとうございました!