「ここまで辿りつくとは大したもんだが
あんたらの命運も、ここで尽きるわけだ





槍の穂先を向けられ 妙と九兵衛は身構える





「待て…その者達には手を出さぬ約束…」


「こちらに潜入してきた以上は、その約束は
聞けないとのご命令でね」


「貴様等…武人として恥ずかしくないのか…!」


「一々うるさいガキだ 黙らせてやる!





七男はの片腕を取り、あらぬ方へと力を入れる





「…ぐ、うぅ…っ!」


ちゃん!」


「止めろぉぉ!!」






声を無視し、七男は思い切り腕を捻り上げ


二人はたまらず相手を止めるべく駆け寄ろうとする





その背後から 気配を殺し襲いかからんと近づく
大柄の天人に気付いたのは、







ゴキリ…







鈍い音が大きく響き 全員の動きが止まる





七男から離された腕は、力なく垂れ下がった







「おやおや、案外モロい腕だな…まぁ
これに懲りて不用意な発言は慎むんだな」





ニヤリと笑う伏木に構わず は顔を
何とか持ち上げ、二人の背後を目で指す





「妙殿、九兵衛殿 後ろの兵に気をつけろ
…そやつ、かなり出来る」





その言葉に、妙と九兵衛は背後を振り仰ぎ
姿を見せている大柄の兵に戦闘態勢を取る





舌打ちと共に七男は腕を振り上げ







「人の話はぁぁ、ちゃんと聞けよ!」


「が…!?」





の後頭部に ヒジの強打を食らわせ
意識を断ち切った







「貴様…さんになんて事を!」


「あなたのその行動は侍の…いえ
男の風上にも置けない卑劣なものだわ







侮蔑の視線で睨む彼女等を鼻で笑い





「褒めてくれてありがとうよ
……それじゃ、そこの女どもは任せたぞ」





ぐったりとしたを抱え 七男は
鎧をまとった大柄の兵をけしかけ奥へと消える











第十一訓 強いお姉さんは好きですか?
私は好きです












「くくく…茶吉尼のワシに挑みかかろうとは
哀れな娘達よ、大人しくすれば痛くは済まんぞ!」







言いながら 兵士はそのまま振り上げていた
拳を床へと叩きつける





二人が飛んだ後の床は拳を打ち付けられた所を
中心に抉れ、ヒビが走っている







「妙ちゃん コイツは僕に任せてくれ!」


「気をつけて九ちゃん!」







飛び交う拳を紙一重でかわし、九兵衛が
瞬発力を活かし兵士へ切りかかるが





相手は巨体に似合わぬ素早さで身を捻り


或いは刀を頑強な手甲で受け止め、攻撃へと転じる







九兵衛の縦横無尽な剣閃は茶吉尼の兵に
距離を取る妙を狙うヒマを微塵も与えない







「チョコマカとすばしっこい女めぇ!」





いきり立った兵士が防いだ刀を掴むと


力任せに横へと投げ飛ばした





「ぐはっ!」


「九ちゃん!!」





鉄柵に叩きつけられた九兵衛へ駆け寄ろうとした
妙の前に 茶吉尼の兵が立ち塞がる





「まずは弱そうなお前から捕まえてやる!」







後退りする妙へ兵士の手が思い切り伸ばされ―





その手の平は、予想だにしない強さを持った
拳により跳ね上げられた







「例え弱くても、ケツ穴の小さい卑怯者の
手下のデグの棒なんかに私は決して屈しないわ」






大きく強く、そして恐ろしい自分を睨む
怯えの無い瞳に兵士は逆上する





「なっ…!?やる気か小娘ェェ!!」







殴りかからんと妙へ意識を向けた
その一瞬の隙を 九兵衛は見逃さない







「そこだっ!」





振り返り、横へと交わすが相手よりも
深く踏み込んだ九兵衛の刀が閃く





「ぐ…!?」





鎧のない腹に深い傷を受けたのを皮切りに


二度三度と切りつけられ、茶吉尼の兵士は倒れた







「大丈夫、九ちゃん?」


「ああ…行こう妙ちゃん 今ならまだ
さんを助けられる」


「ぐ…貴様等、何者だ!?」





倒れたまま問いかける兵に九兵衛と妙は
振り向かぬまま 答えた







「ただの通りすがりの侍と…」


女友達よ、覚えておきなさい!」









二人は地下のフロアを駆けながら、残っている
兵隊を蹴散らしつつ、伏木の足取りを追い





七男が消えたらしい非常階段を突き止め


そこを守るゴロツキの顔を殴り飛ばし
妙は、ドアを開けて階段へと急ぐ







「きゃあっ…!」







しかしドアの外側の床に 踏み込んだ者へ
電流を流す仕掛けが設置されていた





短い悲鳴と共に倒れる妙へと駆け寄り







妙ちゃん!うっ…!?」







九兵衛もまた、仕掛けられたトラップの
電流により その場に倒れこみ





二人は程なく気を失った…













屋敷にいる間、は田足に始終
言い寄られ続けていた





それを袖にしながらも 不当に
扱われる妹への処遇を進言するが


まともに取り合ってもらえず


彼は日々、埒の開かない堂々巡りの中で
への罪悪感と己の無力を噛み締めていた







分かった!お前にだけ田足家に伝わる秘密
こっそりと教えてやろう

…その代わり、ワシのペットとなれ』





ある日もたらされた"その取引"
彼にとっても悪くないものだった







"秘密"を活用し、隙を見てここを二人で
逃げ出して自由に暮らす事を考え





深夜 主人の部屋へとは出向いた









『…そうそう、もう一つ言っておくぞ
明日には お前の妹は捨てに行くからな』


そんな!聞いてないですよそんな事っ』


"取引"を交わした以上、お前に口を挟む権利は
もうない ワシはお前さえいればよいのだ
…アレは前から目障りだった





葉巻をもみ消しながらせせら笑う田足の言葉は


の逆鱗に触れた







『…今からこんな所出て行ってやる!
アンタの養子になった事が間違いだった!』








最大級の敵意と怒りを込めて言い放ち
部屋を出ようとした彼を 主は許しはしなかった





『ワシがお前を手放すと思うているのか!』





激昂と共に襲い掛かかられ、は思わず
悲鳴を上げて抵抗する







寝台に押し倒され 上から圧し掛かられ


それでも屈する事なく身をくねらせて
暴れもがくへ、業を煮やしたのか







何故だ 何故皆ワシを拒み続ける…


お前まで今まで世話してやった恩を
忘れおって…お前などもう要らぬ!!





田足は両手を伸ばし 白い首を掴むと


力を入れて、絞め始めた…












最下層まで降りた二人はフロアを上下しながら
移動し、囮を勤めていた







「はー…はー…ま、待ってくださ…土方さ…」





虫の息で数歩遅れてついてくる


立ち止まった土方は苛立ち混じりの視線を向ける





「ったく 何回休む気だっつの
そんなんじゃの意味ねーだろーが!」


「ぼっ、僕は…肉体…ろうど…不向き…!」


「ったく志願したならもうちょっと気張れや
今時女でもお前よりゃ体力あんぞピーマン兄貴」


「…あなたもっ…ピーマン言わな…げふげほ!





重病人さながらな咳をするを片目に
舌打ちしつつ土方が周囲をうかがう







二人が現在いるのは宇宙船の連絡通路のような
やたらと広く端が長い廊下


幾つかの出っ張った壁の柱の他に目立つモノはなく





の十数歩後ろには左右に分かれた廊下が広がり
その床に転がる追っ手達の姿がちらほら見える







「この一服が終わったら上に登んぞ
精々今の内に息整え」





言いつつタバコを取り出した土方の動きが止まる





「…?ど、どうしまし…」


「追いかけっこは終了ですよ お二方」





響いた第三者の声に、場の空気が張り詰め







二人の進行方向 廊下の端からするりと
槍を片手に持つ伏木が現れ、歩み寄る





「一人たぁ随分潔いじゃねぇか…
で、テメェは何番目だ?


二番目です また会えるとは奇遇ですね」


「ああそうだな、オレもテメェのヘチマ面
かっさばきてぇと思ってたんだよ」





鋭い眼光を表に現し刀を抜き放つ土方だが
伏木の歩みは 毛ほども変わらない







「私は伏木兄弟の中で突きを極めた者
神速の突きの腕前は、お見せした通りですよ」





スラスラと言葉を紡ぎ 己の獲物を
両手へと持ち替えた伏木が駆け出す





「苦しむ事無く串刺しにしてあげましょう
あなたの上司のようにね!」


「やれるもんならやってみろやコラァァァ!」







同時に床を蹴り上げた土方が迎え撃つ







…が、眼前で伏木が槍の石突きを前方の床に
叩きつけ棒高跳びの要領で舞い上がる





「なっ…テメェ!」







土方の頭上を追い越し へと
間合いを詰める伏木







突き出された槍が彼の身体を貫く前に


先回りした土方が横合いから
柄の部分を刃で弾き飛ばす





「おやおや中々素早いようで」





間に入った彼に笑いかけ、伏木が上下左右に
突きを繰り出してくる


その全てに反応し刀で弾きながらも
隙を見て切りかかる土方だが





槍の柄で剣撃を受け流され その槍が
勢いに合わせて横へと薙ぎ払われる


軌道の延長線には またもや







鋼同士がぶつかる音が響くも
受け止めきれずに土方の頬を浅く切る





「っ土方さん!」


「…なぁにが神速の突きだエッラそうに
弱い奴標的にしてるだけじゃねぇか」


「これも作戦の内ですし
万一攻撃を受けても、死にはしませんよ多分」





悪びれる事無く言い切り 攻撃を続ける伏木









繰り出される突きの連打は"神速"
自称するだけの鋭さを持ち合わせ





切っ先が、急所だけでなくをも狙うため







自然と防戦を強いられ続け


積み重ねられた傷が 土方の動きを鈍らせてゆく







「土方さん…アナタ、どうして僕を」


「言ったろ、オレはお前の護衛で着いてくって

それにテメェに死なれちゃ 槍ムスメを
誰が説得すんだ?オレは御免だそんな役」







刀を横に薙ぎ払い、距離を取らせた伏木と
対峙したそのままで 土方は叫ぶ







「だからとっとと先行って、あのバカ女
殴って連れ戻して来い!」






「…土方さん ご無事で!









元来た廊下へと駆けて行くを、伏木は嘲笑う





「お兄さん一人で逃げ回れるほどこちらは
甘くないのですがね…」


あん?オレと合流するまで持ちこたえる
根性ぐれぇあんだろ、あのピーマン野郎は」







男の顔から 笑みが消えた







「枷が無くなったからと言って私に勝てると
お思いですか…狗の分際で高慢が過ぎるのでは?」





打って変わって 不敵な笑みを浮かべる土方







「悪ぃが アイツさえいなきゃ
オレぁ余計な手加減しねーで済むんだよ!」









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:お妙さんと九ちゃんが茶吉尼へと
立ち向かう下りと、土方さんの見せ場が今回の見所


女子三人:腕折るなァァァ!!(顔面パンチ)


狐狗狸:痛い!てゆか一々その辺り反応してたら
この後の展開について来れないってば


新八:これ以上何をさせる気ですか?!


狐狗狸:そりゃま次回明らかになりますよ
そろそろ伏線回収して締めに向かいますし


土方:にしてもあの兄貴、本気で体力ねぇな


狐狗狸:運動神経的なものは一切合財
に持ってかれたからね




逃げたを待ち受けるのは…?


様 読んでいただきありがとうございました!