受け入れなくてはならずとも、覚悟を
ためらってしまう状況は往々にある





「さっちゃん、アツアツの内に
遠慮しないでめしあがれ?おかわりあるからね」





もったいなくも満面の笑みでもてなしてくれる妙殿


が、すすめてくるのは手ずから作ってくれた
自信作の玉子焼き





色は黒く 形も私の知る玉子焼きとは異なるが





食卓に並んだ茶碗などの中身が皆
一様に黒ければ、特に目立ちはしない





「…妙殿、私なぞのためにこの時間に
料理を振舞ってくださらなくとも」


何言ってるのよ!ごはんまだなんでしょ?
ちゃあんと食べなきゃダメよ、はい あーん」


ハシでつまんだ黒い塊が口元へ運ばれる





…これ以上は向き合っていても無駄だと観念し

思い切って 塊を口の中へ入れる







「どう?今回のは味に一工夫してあるのよ」





砂を噛む感触と、まるまま炭にしたドングリ
比ではない苦味と渋みが口中へ広がってゆく





「…少し 焼きすぎでは?」


「あらゴメンなさい、ちょっとタイミング間違ったの
けど しっかり焼いた方がいいと思って」


「むぅ…」


「さ、冷めないうちにどーぞ?」





好意を無碍には出来ず、炭に似た何かを次々に
口へと放り込んで胃袋へ掻き落とす


…食べ終えて 私は無事でいられるだろうか











「三杯目をそっと出される立場の
肩身の狭さは共通?」












家を空ける日は なるべく少なく済むようにする


しかしながら互いに止むを得ず 一日ないし
数日の間、帰れぬ日もまた存在する





「家に…戻られないのですか」


『ゴメンね、どうしても外せない仕事頼まれちゃって
けど なるべく早めに帰るから心配しないで?』


「分かりました…ご無事でお戻りになられる事を
願ってお待ちしております、兄上」



『大げさに言わなくていいから 怖いよ





それでも 兄上が戻られぬ事は滅多に無く





再びご尊顔を拝見するまで とてもではないが
気楽に構えてなどいられない







「気にしすぎネ、どんだけブラコン街道驀進する
つもりアルか 地平の果てまで行くつもりアルか」


「しかし何かあってからでは遅いではないか
私とて出来る事なら兄上の旅路に着いて
行きたかったのを断腸の想いで」


自宅警備員ならぬ兄貴警備員?お前あの
ゴリラとかメス豚みてーになりてーの?」


「…生涯を賭して兄上のお側にお仕え出来るなら
それもまたよし」


よくねぇよ!まだ若い身空でんな取り返しの
つかねぇコース選ぶんじゃねぇ!!」








雑談半分、気を紛らわすべく万事屋に
顔を出していたその日





新八のコトで相談に来ていたらしい妙殿が言った





「けど女の子が一人で家にいるなんて危ないわ
ちゃん、ウチに泊まりにいらっしゃい」


「お心遣いは嬉しいのだが…しかし妙殿や
新八に迷惑がかからぬだろうか」


「いいのよ こないだ銀さんがブタ箱
ぶち込まれた時にも神楽ちゃん泊まってってたし
今更遠慮なんてしないで、ねっ?


「ねぇちょっと あん時のコトは
思い出させないでくれる?アレ冤罪だからね!」






ああ…言われればあったな、そのような事が









面接に二人と立ち会った際 僅かの年月が我慢できず


"外へ出たい"と呟いた銀時の姿があまりに
情けなくも 痛ましかった故





脱出不可能と名高い牢獄からの脱獄を果たした
桂殿から手解きを受け







『さて…まずはこの塀を乗り越えるか』





人目につかぬ位置からの塀越えから、合流しての
脱出を脳裏に描きつつ 槍を構えた



…だがしかし





待ってぇぇ!それ余罪ついちゃうからっ!!』


『下手したらが捕まるネ、銀ちゃんのは
自業自得だから放っておいて平気アル!』





新八と神楽に止められた為、結局計画の
実行には至らずじまい


しかもその後、この男は自力で監獄内を
暴れまわって出てきたと言うのだから
世話の無い話だが









ぼんやりと過去を振り返っていると





銀時が腰かけるソファーの片側が音を立てて破け


めくれ上がった断面から、あやめ殿が
身を乗り出しつつ現れる





使って銀さんに点数稼ぎしようなんて
ずいぶんセコいんじゃなくて?お妙さん!


「おぉあやめ殿こんにちは」


「あら猿飛さん、いつもいらない聞き耳立てて
くれやがってご苦労様です」


「今回は割合普通の出方アルな」


「どこがだよ!つーかヒトん家のソファーに
何してくれてんのぉぉ!!」



「いつもながら自然な潜入…見事なものだ」


「感心してんじゃねぇ そこの能面ピーマン娘」







あやめ殿はこちらを見下ろし、轟然と腕を組み
普段と変わらぬ様子で続ける





「別にアナタの事なんて一ミリたりとも心配じゃ
ないけど、どうしても寂しいって言うんなら
居候させてあげてもいいわよ?







答える前に、進み出た妙殿が私の手を取る





ダメです アナタみたいな破廉恥な人の家に
ちゃんを居候させたら、取り返しのつかない
知識を身につけるに決まってます」


「いや、オメーんトコだって取り返しのつかない
っつー点じゃ一緒だろ 料理的な意味で」





次の瞬間、見事な背面蹴りが炸裂して
銀時が床に崩れ落ちる





よく分からぬ交渉(と銀時の負傷)が収まった頃には


兄上が帰るまでの短き合間、志村家に
居候させてもらうことと相成っていた











「お客様なんだからジッとしててくれていいのに」


「いや…居候させていただいている身で
何もせぬわけには参らぬ故 気にされるな」





食器を洗いつつ、私は妙殿へそう告げる





決死の思いであの食卓を乗り越えてからは


新八と交代で 積極的に台所に立つようにしている





…最も、塩むすびと簡素な鍋ぐらいしか
腕に自信は持てぬが 何もせぬよりマシだ







「本当 健気でいい子だなーちゃんは
将来優しいお嫁さんになれるよ」


「兄上を支えるよき妻にもなれるだろうかっ!」


「いやーそれはどうだろ…あ、ついでだから
何か手伝ってこうか?」


「そうだな では勲殿には布団を」


殺気に反応し、床を蹴って離れれば


外道丸殿の持っていた金棒に似た棍棒が
側に佇んでいた勲殿の頭目がけて打ち込まれた





間一髪で回避したため、棍棒の先は勲殿の
頭蓋ではなく床板へめりこんでいるが


構わず引き抜くと 血も凍る笑みを浮かべて


妙殿は口を開く





「最終警告はこの間しましたわよね?近藤さん」


いやあのお妙さん?その物騒なエモノは
ドコから、てゆうか笑顔で素振りって…
ウソですよね まさか本気で撲殺」





真っ青になってへたり込んでいた勲殿は


直後 立て続けに振り上げられた金棒によって
ほうほうの体で逃げ出してゆく







勲殿の好意は、残念ながら本日も妙殿に
伝わってはいないようだ







ため息を落として残る食器を片付け





掃除へ手順を移した辺りで 妙殿が戻って来た





「まったく逃げ足だけは早いわねあのゴリラ…

今度、ツッキーかあの人に頼んで息の根でも
止めてもらおうかしら」


「そこまで毛嫌いせずともちゃん?
アナタは口を挟まないでちょうだい」
…ぬ」





そこまで言われれば居候としても何も言えず


しばし黙して掃除に集中する





先日三途でも父上が、"ご好意に甘えろ"
仰ってはいたものの 何だか少しだけ落ち着かない


顔を合わせはするものの新八の口数も
普段と比べて少ないし 妙殿もその辺りで随分と
悩んでいるみたいなので手助けできたらよいのだが…







あらぁ〜懐かしいわ〜…」





楽しげな妙殿の声が気にかかり





新八の部屋へ赴けば、掃除の手を止めた妙殿が


開いた本に挟まったいくつかの写真
穏やかな眼差しで眺めているのが目に付いた





「それは…何だろうか?」


これ?記念に撮った写真のアルバムよ
最近のモノが多いけど…ちゃんも見る?」





一つ頷き、隣に座して覗き込んだ写真の中には


優しげに微笑む小さな妙殿や楽しそうな
メガネの無い子供の新八がいた







「これは…もしや九兵衛殿だろうか?」


「そう、梅雨入り前に撮ったんだったかしらね
それからこっちのは私の七五三に…」





聞きなれぬ行事や、何気ない日常に写された
過去の写し絵の 僅か数枚の中で


二人の父上や…母上らしき人がいるのを見て





誇らしげに語る妙殿の様子も相まって





うらやましくて ほんの少し幸せを
分けてもらっている心地になった








…と、一枚の写真の端に写る 可愛らしくも
恥ずかしそうな短い黒髪の少女が目に留まる





「妙殿、この少女は 誰であろうか?」


「え…ああ!これはねぇ、新ちゃんなの」


「そうなのか…何故新八が女装を?」


「昔はホント女の子みたいにカワイかったから
つい私のお古を着せて遊んでた事があるの

…昔は素直でカワイくて 優しい子だったのに」


「うぬ 兄上には及ばぬがとても愛らし
「ってちょっとぉぉぉ!ヒトの部屋入っといて
何勝手に見せてんですか姉上ぇぇぇぇ!!」






小気味よい音を立てて、襖を開いた新八が

写真の納められた本を乱暴にひったくる





…おお、珍しくこちらに関わってきたものだ





いいじゃないの掃除のついでだし、大体
アルバムを出しっぱなしにしてたの新ちゃんでしょ」


「だって"昔の君のアルバムを見てみたい"って
百々さんが言ってたから…」


「百々殿とはどなたなのだろうか?」


「あれ?さんには紹介してませんでしたっけ
この人ですよ、僕の彼女です」





照れたように笑いながら 本を脇に置いた新八は


代わりにこちらへ機械を突きつける





確かこれは、以前兄上に献上したTSとかいう機械…


TVの画面のようになった片側へ 兄上ほどでは
無いものの見目麗しい女人が笑いかけているが


この女人、どことなく作り物めいている





「新八 この者は新手の天人なのか?」


違います!れっきとした人間ですっ!
百々さんに失礼な事言わないで下さいよ!!」



「む…す、すまなんだ」





鬼気迫る顔つきで叱られたので謝ったが


新八は私に構わず 機械の画面へ視線を向け
うわ言の様にしきりに何かを語りかけていた







気味は悪いが 折角なので少しばかり詳しく
話を聞こうと試みた所で肩を叩かれ


振り返れば、妙殿が首を横に振って





「…新ちゃんは放っておいて、早く掃除を
済ませちゃいましょ?」





……その瞳がひどく冷め 何かを諦めているか
見えたのは気のせいだろうか


まあ、ここ最近見慣れた光景なのでどうでもいいが









この日は 珍しく時間が一致していたので


妙殿と枕を並べて眠ることになった





「こうして一緒の部屋で寝るのって 仙望郷以来ね」


「あの時は、神楽と共に遅くまで会話に
打ち興じておりましたね」





その時は 私の寝巻きが作務衣であることを
しきりに"色気が無い"と言われていたが


…動きやすくてはダメなのだろうか?





「…ともあれ妙殿、この度は数日居候させて
いただき誠に感謝いたしております」


「もう そこまで畏まらなくたっていいのよ
私だって色々グチ聞いてもらって助かってるし」





何でもないかのように笑うけれど、私にとって
この数日は貴重で ありがたい時間だった







兄上の留守中 家を護ることに不満も疑問も無い





それでも…分かっていても、人気も
火の気もない家に戻った際の





置き去りにされたような


言い知れぬ不安は 拭えなくて










「困った時は、いつだって銀さん達や私へ気軽に
頼っていいんだから 遠慮しちゃダメよ?」



「そうともちゃん!オレ達真撰組だって
いつでも市民の味方になるぞぉぉ!!」






だからこそ、側の畳から出てきた勲殿が
槍ぶすまにされている物騒極まりない光景さえ


いつもの空気として 私を安心させてくれる





「…本当 妙殿には敵わぬなぁ」


ちょっちゃあぁぁぁん!いい顔して
眺めてないでフォローしてぇぇ!カワイイけど!」



「妙殿、その型であれば もう少し手首の返しを
小刻みにしてみるのはどうか」


まあ!少しキレがよくなったわ」


「そっちじゃなくてぇぇぇぇぇ!!」











騒がしくも賑やかな夜が明け 空が白む頃合





「戻ってくるまで 温かい玉子焼き作って
待ってるからね?いってらっしゃい」


「お、お手を煩わせるのもよくありませぬし
手早く戻りますゆえ 作らずとも大丈夫ですぞ





手を振り、見送ってくれる妙殿を見て


この日々が終わるのを 少し惜しく思った





「…いって参ります」





編んでもらった二つの三つ編みが 寒風に揺れる








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:当初の予定からかなりこじれました
…ジワジワ筆力を復活させて行きたいです


妙:不定期更新をいい事に散々サボっていた
ツケが回ってきたんです、自業自得でしょう?


狐狗狸:正論すぎて言葉も無い…アイドルオタ
だけでなくギャルゲーどハマリとか 弟に対する
受難が耐えなくて大変ですな


妙:ええ、本当あの時の新ちゃんは見てられなくて
辛かったわ…仕事やゴリラのグチも無視して
ゲームにばっかりハマっちゃってるし


新八:あの時の事は言わないで下さいよぉ!

僕だってアレから反省して、百々さんには刻限を
守って対話しているんですから!


銀時:それ全然反省してねーよな?依存から
全然抜け出せてねーよな!?オレもだけど!


神楽:お前もかヨ ったくゲームばっかり
やってないでちったぁ現実見るネ


狐狗狸:全くだね そんな事よりホラゲーやろうぜ


近藤:いーや!ここはラブチョリスの続編の
ラブチョリスマイナs


さっちゃん:いーえ銀チョリスに決まってるじゃ


妙:黙らっしゃいこの廃人どもがぁぁぁぁ!!




仲いい友達の家で家族の自慢聞いたり楽しく
過ごしたりっていいですよね…うらやましい
ウチの子 そこ変われ料理以外(爆)


様 読んでいただきありがとうございました!