うっすらと日が昇り始めた町中の
まだ開いてねぇ店の、シャッター前で


自前のオンボロチャリを止める





寺子屋目指すガキどもが少し先の通路を通りすぎ


後ろから、犬連れたババァが追い越して

杖突いたジジィと前の方ですれ違う





生温ぃ風がいくら吹いたところで
自慢のリーゼントにこもった熱気は中々取れず


ぬぐってもぬぐっても汗は遠慮なく顔を伝う





「しっかし…暑っちーな」





朝っぱらに始めたチャリでの町内散歩は
思ったよりも長続きしてはいる


個人的にはバイクで吹かしてぇトコだけど


生憎と、お通ちゃん優先の生活でそれ以上
余計に割ける金はない


でも ペダルこぎながら浴びる風や
流す風景は割合キライじゃねぇ





「それにしても…マジ暑っちー」





温暖化だか何だか知らねーけど、今年も夏は暑い


ま、お通ちゃんを思うオレらの気持ちの方が
トーゼンより熱いけどな!


とはいえノド乾いてきたし自販機で飲みモンでも







「お、お主は…タカチン殿、だったか?」





危なく尻ポケットから出した財布を落としかけた











「通行人を追い越す前にはまずひとベル」











うげっ出た…不気味女





「出会い頭にその顔は失礼だろう」


うるせー!
オレの顔にイチャモンつけてんじゃねーよ!!」


「何故ゆえ怒るかお主は」





そんなカワイイ面して首かしげても、オレは
あん時された事をまだ許しちゃいねぇんだからな!









アレは…忘れもしねぇ、お通ちゃんの
エクササイズDVD限定版を買った帰り


浮かれた気分をジャマするよーに

この女は道端でオレにガンくれやがって





『あん?何ガン飛ばしてんだよ?』





肩をいからせてツッパってみても
瞬きすらしねぇのがとにかく不気味で


無視して帰ろうと足を踏み出しかけて





逆に、あっちがおもむろに近づいてくる





『な、なんだよ文句あんのかテメェ?』







とっさについつい身構えて…アレ?


この女確か、前にお通ちゃんの
ゲリラライブで新ちゃんに絡んでたヤツ


てーか ソーファの大会で戦ったこともあったような…





なんて考えちまったのがマズかった





避けるヒマもなく チャームポイントの
突き出た前歯を引っ張られ






『イデデデデデデデ!!』


『あ、やはり本物か』


ニセモンなワケねーだろ!
テメふざけんなよ!!とっとと離せ!!』



『おおすまぬ、してそのマゲは自前か?』


『イチャモンつけてんのか?!あぁ!!』


思わずエリんとこつかんで殴ろうとしたら





『何してんですかさんんんんっ…
て、タカチン!?






新ちゃんが割って入ってソレは未遂に終わった









その時に新ちゃんからこの女―
一コ上の知り合いだって教えられたけど





不気味だし、第一印象が最悪だったから


ぶっちゃけ積極的に関わりたくない







…のに、なんでこっちじっと見てんだよ





「何か用でもあるのかよ?」


「いや お主とこうして会うのも
珍しいな、と思っただけなのだが」


「あんだよ散歩してちゃ悪いっつーのか?
そういうアンタこそ何してたんだよ」


「そこの公園で稽古だ」


「稽古って…新ちゃんみたいに剣の?」





この女も道場の跡取りだったりすんのか?


でも、それなら自分の屋敷でやるよな普通





「私の流派は…槍だがな」


「え…ソレ最悪捕まるんじゃねぇの?」


「他者に迷惑はかけぬよう努めておるぞ」


「そーいう問題じゃねぇってーの」





さっきからオレをおちょくってるようにしか
思えないんだけど…何なのこの女





こみ上げるイライラを飲み込んで、代わりに





サンだっけ?アンタさ…ホント
新ちゃんとはどういう関係?」


前の時に聞きそびれたことを訊ねる







緑色の目で真っ直ぐオレを見据えて
サンは答えを返した





「仲間であり、恩人だな」





意味は…あんまりよく分かんなかったけど





「恋人っつーワケじゃねぇんだな?」


「それはない 第一私には兄上がいる」


「…は?兄貴?兄貴いんのかアンタ」





何となく呟いた言葉に、次の瞬間





「いるとも!最愛にして敬愛の兄上がな!!」


いままでの無表情っぷりがウソのように

サンの顔がやたら楽しそうに輝いた







意外すぎてちょっとビックリしたけど


べ…別にただ驚いただけで、お通ちゃんの方が
圧倒的にカワイイんだからな





「あっそ、そりゃよかったな それじゃ」


とっとと帰ろうとしたけれども、まだ何か
モノ言いたげに視線が絡み付いてくる


ウンザリしつつも足を止めて顔を向ければ
すぐさま言葉が返された





「お主が乗っているそれは…すくーたぁの一種か?」


はぁ?バカちっげーよチャリだチャリ!
何アンタ チャリ知らねーの!?」


「すまぬが知らん」





マジかよ…どんだけド田舎住んでたんだ

スクーター知っててチャリ知らねーとかありえねー





「それは乗っていて楽しいものか?」


「あん?当たり前ぇーだろ…
あ、絶対乗せねぇからな!絶対だぞ!!


「…一度だけでもダメだろうか?タカチン殿」





乗せる気は、マジでなかったんだけど


じっと見つめてくるあの眼差しには
とうとう勝てなかった


もうカンベンしてくれよ…







頭が痛くなりつつも乗り方をレクチャーし





「パクったらマジ許さねーからな」


念押しに頷いて、サンがチャリにまたがり





ペダルへ両足乗っけた途端…一歩も
進む事なく地面に愛機ごとぶっ倒れた



「んなっ、何でまたがった途端コケんだよ!


「おお…これは身体で体勢を取らねば倒れるのか」


「見りゃ分かるだろ どんだけバカだよアンタ」


「…そこまで悪し様に罵ることなかろう」


な、なんだよやろうってのか!?





身構えるけど、相手はため息を一つつくと
オレを無視してチャリにまたがり


またも盛大に地面へコケる





懲りずに起き上がって、身体を叩いて

もう一度チャリに乗っちゃあまたコケて





「っだぁあ!乗り方がなってねーよ!!」





見てらんなくなってオレは後ろを支える





「バランス覚えるまで補助してやるよ
チャリぶっ壊されても困るからな」


「む、すまぬな手間をかけて」


「てゆうかアンタそんなコケて痛くねーのか」


「痛いが、まぁ耐えれぬ程ではない」





声一つ上げずに起き上がってケロッと言う辺り
根性はムダにあるらしい…ちょっとだけ尊敬









乗ってこぎ出す瞬間に合わせてチャリを押す





そんなちゃちい練習を側の公園の広間で
付き合わされて、それでも20回は軽く転倒して







けど…ようやくバランスがつかめたのか





「お…おお!こげてる!走れているぞ!!


「見りゃ分かるって、どーだいサン!」


「むぅ…これは楽しいな」





チャリで広間を走り回るサンを見て

不覚にも、ちょっと嬉しくなったりした





「満足したんなら、そろそろ降りてくれよ」


うぬ ありがとうタカチン殿」


ちょっとだけ笑った…ように見える相手が
足をペダルから離そうとして





倒れかけたバランスを立て直すうち


フラフラと、チャリが公園からはみ出していく





「っおい!どこ行く気だよ」


おぉっ、とっ止まらぬ…
どうやって止めるのだコレは?」


「ブレーキかけりゃいーんだよブレーキ…って」





言いかけて、車線にチャリが飛び出しちまってる
事実に気付いてオレは叫ぶ





「今だけは止まらず走れぇぇぇぇ!!」







よし!ギリギリ車に跳ねられずスリ抜けた!!





「どこでもいいから歩道で止まってくれ!
オレもすぐそっち行くから!


「と、とにかく止まればいいのか?」


「ハンドルんトコにブレーキあっk…前ぇぇ!







今度は横から飛び出してきたおっさんを
サンはどうにか避けるけど





うおぅい!危ねぇじゃねーかクソガキ!」





おっさんが入れたケリの衝撃で、チャリは
下り坂へと後ろ向きに流れていく






「ぬあぁぁぁ!?」







―その後の光景は 恐らく一生オレの目に
焼きついたまま離れないだろう






おっさんキックの衝撃で両手が離れても尚
サンは根性でバランスを取り


下りながらウィリーしていくチャリに乗ったまま


坂の途中を歩いてたチャラそうな女とかを
見事にかわしていく奇跡の運転技術を垣間見せて





やっとオレの忠告を思い出してブレーキかけたら


本人が投げ出されて電柱にぶつかった挙げ句

後を追ったチャリに押し潰されていた







「ちょっ…大丈夫かサンんんん!?





駆け寄るけど、頭から血がダクダク出てる時点で
既に大丈夫そうじゃないのは丸分かりで





「す…すまぬタカチン殿…乗り物は、無事か?」


「チャリより自分の身の心配しろよ!!」





この時ばかりは本気で泣きそうになった


つーか、久々に泣いちまった







…幸い、チャリは無傷ですみ


あのヒトも三途からは戻って来れた
(意味不明ながら本人が言うには)らしいけど





しばらくあの無表情顔もチャリもトラウマになった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ソーファ大会では曖昧にしか出なかったので
しっかり意識して出演させてみました


高屋:みましたじゃねぇ!マジで心臓が
止まるかと思ったっつーの!!(涙目)


新八:うん…君はよくがんばったよタカチン


高屋:うぅっ、新ちゃんも大変だよな…


新八:まあ、悪い人じゃないんだけどね…
むしろ悪いのは管理人さんだから全面的に


狐狗狸:否定できません(平伏)…でも
タカチンも何だかんだでイケメンだよ(中身は)


高屋:()の中が具体的すぎんだよぉぉ!
なんだよ出っ歯か?!出っ歯がワリーの!?



新八:コンプレックス刺激しないでくださいよ!




発想は某サイト様の短編と中の人のキャラから
…重ね重ね、甘くなくて申し訳なし


様 読んでいただきありがとうございました!