すっかり衣替えも済み、日に日に暑さを増す
初夏の空気が漂う廊下で


無表情のまま これ以上ない必死さで

は廊下をひた走る





「急がねば、休みが終わる…!」





まばらに歩く生徒達を器用に擦り抜け


一人の生徒の脇を謝り様に通り過ぎ







その、生徒の腕が無造作に 視界の端で
揺れていた黒い三つ編みを思い切りつかむ






「っ、い、痛たたたたたたた」


風紀委員の目の前でどーどーと
廊下突っ走るたぁいい度胸してんじゃねぇか」


「も、申し訳ない 見逃してくれぬか総悟殿
今行かねば兄上のための菓子パンが売り切れて」


「校則違反しといて見逃せるワケねぇだろぃ
ずいぶん太い神経してきたじゃねぇの〜」


「すすすまぬお叱りなら後ほど赴く故っ…!」





どれほどが謝罪を述べても、三つ編みを
引っ張る手は全くもって緩まない


むしろ徐々に力が増して、表情とは裏腹に

本気で痛がっている様子が見て取れる


…対してどこか満足げで、赤子のように
とても穏やかな微笑みを浮かべ


沖田は三つ編みを引いてを連れて行く





うぬぁあぁ!購買が!購買が閉まるっ…!
後生だ頼む行かせてくれぇぇぇ!!


「違反者のクセにどこへ行こうというんでぃ」





容赦もへったくれもなく生徒指導室へと
連行されていくその様子を





「どこのムスカだお前さんは…せめて
髪引っ張るのだきゃー止めたんさい」


職員用トイレから出てきた直後に目撃し
全蔵が哀れみから咎めれば


整った可愛らしい顔立ちが彼の方を向き





「今日も痔病で長トイレですかぃ?
症状悪化させられたくなきゃそのまま便所に
引っ込んでてくだせぇよ」


「おまっ…堂々と教師脅迫!?


即座に斜線が似合うニマニマした笑みを
携えながら一歩も引く事なく圧力をかける





「ま、精々尻にお気をつけて…オラ行くぞ


「購買が…兄上の使いが…っくぅ…!」











「Sは不意打ちにも弱い」











絶望と諦観が入り混じってうな垂れる彼女の姿を
一層嬉々として引きずる沖田を見つめて





「…なにしてんの服部先生?邪魔なんだけど
そこ突っ立ってると」


「いや、アンタんトコの生徒
本気でロクなのいねーよな、末恐ろしいわ」





その場で思わず尻を押さえた全蔵は、やってきた
銀八へとこれまた思わず吐き出し





「は?…ああ、オレの責任じゃないっすよアレ
もって生まれた地ってヤツでしょアンタ同様」


「オレのは後天性だっつーの」





なんぞと余分な二言三言を交わしながら彼らは


廊下を通り過ぎる二人組…の片方をそう評する











まるで女性のようにきめ細かな肌、愛らしくも
きりりと整った顔立ちに円らな茶色の瞳


蜂蜜色…と形容しても差し支えの無さそうな
色素の薄い髪をさわやかに揺らし


低くも甘さの残る声で穏やかに笑いかければ


十人中の八〜九人ほどが騙されそうな外見





反面、その外見から想像できないほどの
強い加虐性を所持し 周囲に対して余す所無く
そのドSっぷりを発揮する事に

自らの労力を惜しまない行動派の暴君であり


結果、対象となった者達全ての反応
(大概は怒りとか苦痛とか嘆き)を楽しむ





正に筋金入りのサディスティック星の皇子な内面





3Zの風紀委員・沖田 総悟はそんな感じで

今日も今日とて我が道を突っ走る





ちなみに加虐の対象はほぼ目に映るモノ全て


自ら仕組むのも好きだが、ヒドい目に巻き込まれた
相手を更に徹底的に貶めるのも好んで行い


もっぱら後者の被害に遭いやすいのが

同じ風紀委員・会長の近藤だったりする







ぎゃあぁぁぁ!た、助けてぇぇぇ!」


「あらら、こらまた愉快なコトになってやすねぇ
今度ぁまたナニやらかしたんで?近藤さん」


それがさ大変なんだ総悟ぉ!お妙さんったら
毎度毎度オレの告白に照れちゃってさ

"頭冷やせ"なーんてテラスにくくりつけられちった」


「この階からヒモなしバンジーたぁ酔狂で」


酔狂で死ぬのは嫌ァァァァ!このままじゃ頭
パッカーンて割れちゃう!お願い引き上げて総悟!!」






実際しゃべってる合間も唯一身体を支えている
足元のヒモが緩んで解けかかっており


落下ルート一択目前DEADorALIVE
ギリギリをリアルタイムでさ迷っている近藤へ


慌てず騒がず近寄り、彼は伸ばした手で





ポケットの中から携帯取り出し一枚パシャリ





「え、何で今写真とったの?ねぇ」


「さすが最新の携帯のカメラは高性能でぃ
その体勢にも関わらずバッチリ撮れてまさ」


「あ、本当に?よかっ…よくなーい!
携帯で撮影するヒマあるなら助けて!」


「そいじゃー苦痛から解放するとしますかね」


涼しい顔をして、携帯をしまい





代わりに土方の私物らしき業務用マヨネーズ
握り締めて沖田は更に近藤へ迫る





「ちょっ待って総悟、そのマヨネーズで
ナニするの?待って待って待て、なんでズボン
降ろしてんの?ねぇちょ、待て待て待てま


もちろん、彼が待つはずなんて微塵も無く





"ア゛ッー!"と汚くも切ないゴリラのダミ声が
辺り一面に響き渡り


哀れ土方のマヨネーズは、食物上
最も悲惨で冒涜的な使用法で消費された









そんな、やりたい放題な沖田に目を付けられ


被害をこうむる頻度が高くなってきており





…実際、本日の獲物の一人としても
認知されてしまっている人物は





不運にも掃除当番として彼と組みながら


表情一つ変えないまませっせと働いている







一方で沖田は、掃除に飽きたのか


窓の桟なんかをわざとらしく
指でつーっとなぞって呼びかける





「おい、窓がホコリだらけで汚ぇったら
ありゃしねぇよ…お前しっかり拭いた?」


「む?拭いたハズだったが…すまない
もう一度やり直しておく」


「おーしっかりピカピカにしとけぃ
その節穴の眼球でも見えるようによーくな」





思惑通り、窓へと集中し始めた相手を尻目に


教室を抜け出そうとした彼は







後ろ頭をホウキで思い切りどつかれた





「なにに押し付けてサボってるネ
どこの小姑アルかオメー」


「あにすんでぃチャイナ、テメーこそ
しゃしゃり出てくんじゃねーよそこ退け」


「言われなくても退けるアル、目の前の
でっかい粗大ゴミを撤去しまーすヨ」


わぷっ…げほっ、テメ…上等じゃねーか
テメーは産廃ゴミで分別せず捨ててやらぁ」





成り行きで掃除用具を駆使しての神楽と
沖田との一試合が教室で開催され





「ちり取りセイバァァァァ!」


「なんのっ!食らいやがれ ダブル雑巾流
牛乳腐敗臭スプラァァァッシュ!!」






やかましい叫び声と、殴る蹴るアリの
乱打も交えて盛大にホコリが立ちあがる





…だがしかし





「「イダッ!!」」


「掃除中に教室を汚すな」





最終的に終戦は、両者同時にモップ片手の
の的確な柄の一打を喰らってもたらされた





…こうして、多少の乱入は入りながらも
掃除を無事に終えた彼女ではあったのだが







兄上っ…なんだ総悟殿か」


「露骨にガッカリしてんじゃねーよ
今日も兄貴待ちがてらオナってんのか?」





―二度あることは三度ある







放課後、一人兄を待つがいる教室へ


沖田が滑り込むように駆け込んでくる





「む?まあ兄上を待ってはいるが…して総悟殿
そこまで息切らせて何があった?」


「うるせぇ関係ねーよバk「…総悟ぉぉぉぉ!」





雄たけびに近い、土方の声が廊下から響き





げ、あのヤロもう嗅ぎつけやがった…」


「お主 また十四郎殿に何か「オイ
お前 絶対ぇあの野郎にゃ何も言うなよ」



聞く耳持たず あっという間に沖田は

掃除用具入れロッカーへ身を隠す





ロッカーの戸が閉められてほどなく


負けず劣らずの速度で叫び声の張本人が入室する







沖田の被害を一番に受けているのが
彼であることは、最早全国規模の事実であろう





「おい…総悟のバカ見やがらなかったか?」


「ど…どうした十四郎殿、目が血走っておるぞ」


「あの野郎オレのマヨネーズ全部盗んで
一体全体、何やらかしたと思う?」


「さあ…」





首を傾げる相手へ、土方は小さく笑いかけ





「…所構わず男子便所に撒き散らかしやがった
今日という今日はマジ許さねぇ!!」



一瞬で鬼の形相へと早変わりして詰め寄る





で、見たのか?見てねぇのか?言っとくが
匿ってんならテメェも斬…もとい人為的に
不幸な目に合わせんぞゴルァ」





普段よりも割り増しで開いた瞳孔に
ドスを利かせた低い声は本編顔負けの迫力


ソレで間近に迫られ詰問されたもんだから


流石のも、少しばかりたじろぐ





もちろん件の彼はすぐ側のロッカー内であり


教えたならたちまち引きずり出され
その後の争いに巻き込まれることは必死


隠し通そうと正直に話そうと


間違いなく、厄介な目に合うだろう


今こそ正に【前門の虎、後門の狼】





眉一つ動かさず 視線を外さぬそのままで





考えて…彼女は、口を開いた







「…ここにはおらぬ、すまぬな」


「……チッ 邪魔したな」









教室から彼の姿が消え、足音が遠ざかったのを
見計らって沖田はロッカーから出てきて一言





「中々ウソが上手いじゃねーか、ご苦労


「…後で謝るか、汚した厠の掃除くらいは
しておくべきだと思うぞ」


あんだよ 風紀委員に命令すんのか?
何なら共犯として土方にチクってもいーんだぜぃ」


不敵さと傲慢さの入り混じった嫌な笑みが





「…あまりミツバ殿を心配させるな」





浮かびかけて その言葉でかき消され


打って変わって彼は目を見開く





「っな…なんで姉ちゃんが出てくんだよ!


「以前、一度道端で屈んでいるのを見かけて
助けた事があってな…お主の話もした」


「余計な事言ったんじゃねぇだろうな」





途端に鋭さを増した瞳と声色へ、少女は
怯えも焦りも見せずに答える





「級友と仲がよい事と、恩を受けた事くらいか」


「…あぁ?恩?


「覚えておらぬか 転入した折の事だ」





彼女の兄はその美麗な見た目からか男女問わず

…いや、最近では特に男にもてるので


反感を買った他クラスや学年違いの女子から
妬み混じりの嫌がらせを受ける事は
これまでの転入先でも頻繁にあり


銀魂高校でも、例外なくその洗礼は受けている







が示したのは その嫌がらせの一環で


盗まれた兄の私物を校内中探し回っていた
ある日の夕暮れの一件





『ったく、這いつくばり方がなっちゃいねぇ』





外の植え込みで屈んでいた彼女の目の前へ


少しだけ薄汚れた制服を叩きながら


沖田は、無造作に"探し物"を投げ出し
つまらなさそうに呟く





お前、一人で探しモンとかバカじゃねーの?
こーいう時のための風紀委員だろーが 頭に詰まってんの
脳ミソじゃなくてウンコか?』


『…感謝いたす』


『二度目はねぇからな』





…その日を境に彼が絡んでくる回数が増え


逆に、兄の受ける嫌がらせが減り始め


"周囲と打ち解けるきっかけをまた一つ
もらった"
と告げた時の 彼の姉の顔を思い出し





語る少女が少しだけ…柔らかな笑みを浮かべる





「ミツバ殿は喜んでおったぞ…"そーちゃん
ちゃんとクラスに馴染めてるんだ"
って」


「っ…ば、…余計な話しやがって」


「ウソは言っておらぬが?」





瞬間、気まずげに視線を泳がす沖田を見やり


ため息混じりに淡々と彼女は続け





「だからこれを期に少し行動を改めてほs…


近寄り様の水平チョップを目に当てられる





うるせぇ能面ブス それ以上空気読まずに
余計な口聞いたら出したて沖茶飲ませんぞ」





言いながら彼は股間を指差すが、言われた側は
不思議そうに首を傾げるばかり





「そんな所から茶は出ぬぞ?」


「だったら出たモン飲め」


「断る」


「兄貴のが飲めてオレのが飲めねぇのか」


飲んだ覚えは無いぞ 療法としては
流行ったと知ってはいるが」


「何で知ってんだよキモッ、マジお前変態」


「何故ゆえそうなる…ああ照れ隠しか」





最後のセリフにより、普段より血色がよくなった
級友からの、二度目の水平チョップが炸裂した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ドSの不意を突かれた慌てぶり
書きたくて…予定日大幅ズレて執筆orz


沖田:その結果がコレですかぃ?大した大作家で


狐狗狸:Sなトコだけ存分発揮はやめてよ
そんなだからにやんちゃ坊主的な心配さr
…イダダダダ!髪の毛抜ける!マジ抜ける!!


銀八:余計なコト言うから…つかアイツ
ア バ茶の知識あんのにセクハラ発言スルーて


狐狗狸:おかしくないですよ、むしろ
マジレスor通じないのはデフォなんです痛だだ


沖田:貧相だから触るトコもねぇし
案外責め方が限定されちまうんでさ


土方:さわやかにドS談義かましてんじゃねぇ
つーかマジ覚悟しろ総悟テメェェェ!!(怒)




個人的に3Zじゃミツバさんは病弱だけど
生きてるんじゃないかと考えてます


で、珍しく外出てた時にウチの子と会って
総悟の話をした捏造ミラクルを妄想
…長い蛇足で本当スイマセンでした


様 読んでいただきありがとうございました!