以前のやり取りも気まぐれならば
今回の出会いとて やはり彼にとっては
気まぐれから引き起こされたものだった
「…おや」
「む?」
じっとりと空気が湿り気を帯び 空模様も
降り出す一歩手前くらいにどんよりしていて
気晴らしに他校へケンカでも売ろうか、と
勢いと気分に任せて近くの高校…というより
ぶっちゃけ銀魂高校へ足を運び
その門前で神威は知った顔とかち合った
「こんにちは〜いいトコで会ったね」
「こんにちは…何か用でも?」
「特になかったんだけど、ちゃんが
いるんなら話は別かな?」
無表情で首を傾げる彼女へ 当人は言う
「あの時約束破ったでしょ?だから
ちょっと半殺しさせてもらおうかと思って」
「…やはり、私のせいなのか」
「おかげであの後もウチでもハゲが死ぬほど
ウザかったからねーアバラくらいは覚悟してよ」
ニコニコと微笑んだままで神威は作った拳を
振り上げる仕草を行うが
「構わん 覚悟は出来ている」
キッパリとそう言われて、一瞬そのポーズで
固まった後に拳を下ろす
「こっそり制服デートで過ごす時間:プライスレス」
「アレ?言い訳とかしないんだ」
「しても通じると思えぬからな」
「ふぅん、潔いねキミって…案外そういう子
嫌いじゃないよ?オレ」
「私はお主を好かぬがな」
「ケンカ売るんなら買うよ?今ヒマだし」
などと会話を交わすうち、門を出る生徒の
好奇と不審と恐怖の視線が容赦なく彼を刺す
もちろんここでも夜兎工の悪評は割合有名で
チラリと神威が視線を向けると、生徒は
肩をビクリと震わせて一目散に逃げ去る
「他の生徒に手を出すつもりか?」
訊ねる面持ちは相変わらず無表情だが
声音は先程よりも険を含んで鋭い
「まさか 雑魚なんて潰しても
ちっとも面白くないじゃん」
笑顔を崩さぬままで答える自分を
緑色の瞳が とっくりと眺めている
それを見つめるうち、神威の中でも
気晴らしの対象が決定した
「覚悟は出来てるって言ったよね?」
「うぬ」
「反省してるんなら、罪滅ぼしに
ちょっと付き合ってもらおうかな」
「…悪いが 兄上を待ってる故それは」
「断る権利をあげた覚えはないよ?」
言葉は和やかだが、有無を言わさぬ力があった
けれども彼女は引き下がらず果敢に反論を
「しかし私は「、遅くなってゴメンね!」
続けようとしたセリフを遮って
長い黒髪を風になびかせるまま一人の可憐な
女子生徒…のように見える男子生徒がやってくる
「兄上!」
兄のを前にして、傍目にも明らかなほど
彼女の表情が変わったのを見て
クスクスと愉快そうな笑い声があがる
「やっぱ君って面白い」
「…お主、笑い上戸か?」
これまたトンチンカンな返答に、神威は
ますます楽しそうに笑うばかり
の側まで駆け寄った兄は
その場で足を止めるとしばらく息を整える
そしてやや長い間を置いてから
ようやく顔をあげて神威の姿を目にして
驚きと困惑の混じった表情を浮かべる
「ええと…アナタは…?」
「この者は神威殿と言って神楽の」
「あ、君がこの子のお兄さん?
この子ちょっと借りていくけどいいよね」
言うや否や、説明の途中で白い手を掴み
強く引っ張ったまま彼は歩き出す
「え…あのちょっと!」
「大丈夫だよ 遅くなる前には返すから」
そうして、が曖昧に答える声を後ろに
半ば引きずられるようにしては
その場から連れて行かれた
「…せめて兄上に別れを告げるくらいの
間は欲しかったのだが」
「ちゃんって本当にブラコンなんだね
ウチとは大違いだ」
「それはお主が態度を改めれば済む話…痛」
軽くデコピンをかまされ、少し赤くなった
額を彼女は空いている手で擦る
「本当にちょっとやそっとじゃ表情
変わんないんだね、どれくらいやれば痛がるかな」
「…額を弾きながら市中を引き回すつもりか」
「それもいいねーいいヒマ潰しになりそう」
「ん?その口振りからすると…もしやお主
特に行く当ては無いのか?」
「いいじゃん、何か問題?」
ケロっと答えたセリフが全てを物語っていた
「子供かお主は」
「おやおや、あっちじゃ君の方が年下だろ?
まあいいや まずはリクエストに答えて
市中弾き回しをやってみよーか」
僅かに呆れている彼女へニ発目のデコピンが
発射態勢へと入り
狙い定めた額の上に 一滴の雫が滴り落ちた
「「ん?」」
釣られるように二人が顔を上へ向ければ
次々と水滴が滴り落ちて地面へシミを作り出す
彼らが反射的に雨を防げる軒下へ入り込むと
程なく、ドリフの水芸のような量の雨が降り注ぐ
「あちゃー…降ってきちゃった」
「予報ではあまり降らぬと言っていたが
通り雨というヤツかもしれんな」
「ああそう…で、拭くもん無い?髪濡れちゃった」
無言で差し出された白いハンカチを
無造作に受け取った神威が頭を拭いて
そのままポケットへハンカチが
「使ったなら返せ」
捻じ込まれる寸前でが腕を掴んで
止めようとするが、あえなくかわされてしまう
「いーじゃん布っ切れの一枚や二枚」
「それは兄上に刺繍していただいた手拭いだ
命に代えても渡せない大事なものだ」
「…こんな布一枚が、ねぇ」
サギ草のワンポイントがおしゃれなハンカチを
頭上にかざす彼の右手目がけ
彼女は本気かつ真剣に取り返そうと
躍起になって腕を伸ばす
振り続ける雨雫と白い細腕を交わしつつ
変えた腕の位置に合わせて動く頭と緑眼に
軽く闘牛士のような気分を味わってから
神威は ハンカチを背中の隙間から
学ランの内側へと押し込んだ
「っお主、何て所に…!」
「あ、流石に人の服には手を出せないんだ」
恨めしげな視線に殊更機嫌をよくしながら
辺りを見回した蒼い目が、一件の某超有名
ファーストフード店へと止まる
「なんか腹減ってきたから あの店で
食べよっか?あ、もちろん君のオゴリね」
「さほど手持ちはないぞ」
「じゃーあるだけオゴってよ
サイフくらい持ってんだよね?」
「…オゴったら手拭いは返してくれ」
「考えとくよ」
雨脚がほんの少し弱まった隙に路地を駆け
「へぇ、ここじゃスマイルも売ってんだ
せっかくだから10個ほど注文しようかな」
「ありがとうございます(棒読み)
お客様、ご一緒にポテトもいかがですか?」
「…ぽてと?それは食べるものなのか?」
かたや、ハンバーガーとポテトが山…
と言うほどではないが多く積み重なり
かたや、一番小さな容器に満たされた
コーラだけがポツリと乗ったトレーを運び
二階の窓際に陣取った二人は
店員と多くの客にとってかなり印象的だった
「これだけあればオヤツ分くらいには十分かな」
「手持ちをほとんど巻き上げるとは、鬼かお主」
「ひっどいな〜ちゃんと君の分も
頼んであげたじゃない コーラとスマイル」
「そうなのか、感謝致す」
表情を変えず礼を言う彼女に満足して
「いっただっきまーす」
手を合わせ、食べ始めた神威のトレーから
見る見るウチにバーガーとポテトが減ってゆく
「おぉ…手品のようだ」
半ば感心しながら、コーラをちびりちびり
すすっては眉を軽くしかめるへ
「はい、あーん」
前触れ無く、一本のポテトが突き出される
「ぬ?」
「あーん」
楽しげに繰り返しながら口元へポテトを
寄せる神威だが、相手は無言で見つめ返すばかり
続いた言葉には 軽く不満が混じっていた
「食べないと殺しちゃうぞ?」
「…一々 物々しい頼み方をする必要はなかろう」
呆れたように呟いても、押し付けられたポテトを
素直にくわえるを見て
「本当に、君って変わってるよね」
小さく笑う神威は状況を心底楽しんでいて
そんな二人は傍から見れば、学生カップルに
見えなくも無い状態だった
「え…何やってんのあの二人…!」
二階の清掃に入ろうとしていたバイト中の長谷川が
そんな両者に見つかるまで あと五秒
それからちょっとした騒ぎがあって
「おいバカ兄貴、これお前のハンカチじゃ
無いだろ 誰のハンカチアルか?」
「あ」
帰宅した神威が うっかり忘れていた
ハンカチの存在を思い出すのがその日の夜で
面倒だから、とそのまま放置していたら
「うわ…何コレ」
結果 ハンカチ奪還を依頼された神楽によって
自室が無残なまでに荒らされ
お定まりの兄妹ゲンカが始まるまで、あと少し
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:続けざま3Zで神威 「正直者は〜」
の話がしっかりと尾を引いているようです
神威:そういう風に書いたクセに
狐狗狸:ええまあ…つか、神威兄さんも
ファーストフード店の利用はまさか始めて?
神威:んー、そだね 金も無いし
今まで特に寄ろうと思っても無かったから
狐狗狸:にしてもハンカチぐらい返してあげれば
よかったって話じゃないんですか?
神威:あーあれ?うっかり忘れてたんだよ
長谷川:オレがオチ要員って…それと
3Zだからって続けてやっつけはどうなの
神楽:黙るねタダスマイル販売候補外店員
某ファーストフード店、個人的にはポテトのみ
至高 スマイルは九ちゃんか月詠さんで
あ、さっちゃんでもOKでs(ry)
様 読んでいただきありがとうございました!