ぽっかりと、頭上よりも遥かに遠く開いた
丸い穴はちょうどスイカ大ぐらいで


例えどれだけ手を伸ばそうとも


淵のすぐ側にすら届きっこない事が

現在地の深さを伺わせる





「…誰か、誰かおらぬのか!」





穴へ向けて叫ぶ彼女の声はやや掠れ気味


待てど答えが返らぬことに、見上げていた
緑色の目が諦めの色を濃くして


土壁に囲まれたその場でひざを抱えてうつむく





…と、足元にふっと影が差し込んだ





ちゃん!?何やってんのそこで!!」


「見ての通りだ、助けてくれマミ崎殿」


山崎です!首がもげそうな名前と
ドッキングすんのだけは止めて!」






若干涙目になりつつ、覗き込んでいる山崎は
底で座り込んでる作務衣少女へ呼びかける





「それで…どうしてこんな穴の中にいるの?」


「足を滑らせ、この敷地に入ったら落ちた」


毎度のコトながら省きすぎでしょ!
とにかく 助けを呼んでくるから待ってて」


「あ、どうせなら兄上に無事だと報告を…」


呼びかけが聞き入れられないまま穴の淵から
覗いていた顔が消えて







…それほど経たずに戻ってきた





「おぉ、早かったな…して助けは」


ゴメン…最悪なことに、仕掛け人しか
手の空いてる人いなかったよ…」





暗い面持ちでうな垂れた山崎の隣に





「仕掛けに獲物がハマってると聞いて」


ひょいと現れた沖田が、穴へ携帯を向け早速撮影











「出オチこそ最大の初見殺し」











「にしてもだ…土方用の仕掛けにかかるたぁ
つくづく運ねーな、お似合いだがな」


「製作者が言うことですかぁぁぁ!?」


「ともあれ、手数だがここから
引き上げてはもらえぬだろうか」





言って彼女は両手を天へ…いや
穴の外にいる二人へ向けて伸ばす





「まぁ落ち着けぃ、いつからハマった?」


「そうだな…通りかかったのは今朝方ぐらい」


「どんだけ長時間ここにいたの!?」







一応言っておくが 現時刻はちょうど午後の
二時から三時へ変わる辺り…大体『八つ時』だ





「そりゃ腹の一つ減っててもおかしくは
ねぇかもな、なー?」


「察しの通りだ」


あん?聞こえねぇなー」


「お主の言う通り空腹だ」


はぁ?もう少しハッキリ言えよぉ」


「…なにか恵んではもらえぬか」


「なんか蚊の鳴くよーな声が聞こえたねぃ
"お願いしますご主人様"つけてくれねーと
何言ってるか全然聞き取れやしねぇよ」


「沖田隊長それ何のプレイぃぃぃ!?」





喉を痛め気味な少女を見下ろし、耳を当てて
言葉を催促する沖田の表情は


この上なくホラー色強めだった





「お願いしま…ご主じ、ケホッ!ケホケホ…」


いや無理に言わなくていいから!むしろ
オレがひとっ走り行って買ってくるよ!!」





へたり込んだままの相手を見かねて


動いた山崎の襟首を、彼は乱暴に引っつかむ





おい山崎ぃお前さっきいいモン持ってたろ?
それさっさと出せよぉ?オラ」


「え、ちょヤメ…アッー!





しばし穴の向こうでやり取りが展開され







程なくして、沖田が穴へと何かを放り投げる





「とりあえずコレでも胃にぶち込んで飢えをしのげぃ」





ビンがデコに直撃し、流石に痛かったか
僅かに涙目になって額をさすり


は落ちてきた物体をつかみ取る


「牛乳とパンか…このパン、封が開いておるが」


ヒデェ!さっきまでオレが食ってた
あんぱんを…しかも牛乳まだ飲んでないのに!!」


「まー残飯だけどよけりゃ食えよ、金は
後払いでカンベンしてやらぁ」


「もうやだこの上司!」


「了解した…山崎殿、すまぬがありがたくもらうぞ」





ああ、さらば昼飯用のあんぱん…と切なげに
眺めていた山崎であったが


彼女の口に運ばれていくパンを見つめる内





脳裏にふ、と邪な妄想が過ぎる







「待てよ…あれオレの食いかけだったから…
ってコトは……か、間接キ


カシャ、と軽い音が鳴り響いて





山崎が視線を向ければ いつの間にか
沖田が携帯をいじりながらニヤりと一言


「アトで加工でもして隊員の皆に変態趣味
強要した証拠として披露してやろっかねぃ」


公開処刑ぃぃ!?
沖田隊長それだきゃ平にご容赦を!!」







ひと心地ついてか、の声色は幾分か
明るさを取り戻したようだった





「ともあれ人に気付いてもらえたし
…これで無事脱出が出来そうだ」


あん?今回の土方抹殺落とし穴を
なめてもらっちゃ困るってモンだぜぃ?」





ちっちっち、と指を振り 自信ありげに沖田は言う





「油で滑るようにした土壁に這い上がろうと
もがくヤツを蹴落とす様々な罠!
極めつけは穴の底に仕掛けた時限爆弾でぃ!!


「陰湿にも程があるぅぅぅ!!」


「なるほど、用意周到だな総悟殿は
それなら瞳孔マヨ殿とてひとたまりも無かろう」


「今アンタ自ら引っかかってるからその罠に!
前々から知ってたけど どんだけバカなの!?」






狡猾に目標をいたぶる歪んだ性格ですら


常識のすっぽ抜けた相手にとっては
肯定的にスルーされてしまう一例である





「でもま、このスイッチさえ押さなきゃ爆発は
しn「テメェ見回りサボってなにしてやがんだ」





ひけらかしていたリモコンを後ろから取り上げられ

沖田は反射的に取り返そうと動くが


それすら予期して、土方は距離を取る





「なに人のモン取ってんですか、警察が盗み
働いていいと思ってんで?」


職務違反器物損壊山ほどやってるお前が
言うな!とにかくコイツは没収、あと山崎切腹」


オレもぉぉ!?てか副長そのリモコンは…」


「いーから返しやがれ土方ぁぁぁ!!」





問答無用でバズーカぶっ放し始めた沖田により
普段通りのケンカが始ま


「っちゃダメだろ!誰かあの二人止めてぇぇぇ!」





出来るでしょうか?いいえ、誰にも





ACネタ!?まさかの時系列無視スルーだよ!」





悲痛な叫びが戦場へと響き渡り―







「総悟殿、底の方でカチカチと音がするのだが」





淡々とした一声によって 止まった







最悪なことに、先程地面に落ちた弾みで


爆弾の起動スイッチがONになったらしい





「おい、その穴ん中に槍ムスメいんのか?
てかなんでいるわけ?」


今気付いたんですかぃ?むしろ混乱に乗じて
叩き落としゃよかったなー」


「逆に叩き落されてぇかコルァ?」


リターンマッチしてる場合じゃないっす副長!」





好機と見て、山崎がこれまでの経緯を簡潔かつ
ダイジェスト仕立てで説明した







「へ…ちょ、おいマジか?」


「オレが土方さん抹殺の罠に関して
手ぇ抜くとでも思ってんで?」





ムカつく程の説得力が土方を完全に納得させた





「と…とりあえずさっきのスイッチだスイッチ!
アレもう一度押せば爆弾止まんだなっ…あ、アレ」


「って、どこやったんですかぃ土方さん」


うっせー!さっきのドンパチで吹っ飛んだんだよ」


「マズイじゃないですかそれ!てーか壊れてたら
一巻の終わりですよ!!」


黙って探せ山崎ぃ!…あ、あったあった」





やや遠い地面に飛ばされていたリモコンを見つけて


一息つきつつ 土方はそれへ手を伸ばし





…ぶっとい足が"メギャ"とリモコンを踏みつける





「うわっ、今なんか踏んづけちゃった!」


「近藤さんんんんんん!」





慌てて上げられた足の下のリモコンを確認するも


…既にご臨終されていた





「え?え??オレなんかしちゃった?」


「ええ、今の局長の行動が確実に
民間人一名を一歩死に追いやりました


「そんな重いのオレの罪!?」







とにかく、現時点での大雑把な状況を全員が認識し





「…爆発まであとどれぐらいだろうか」


「ボタン押して10分ぐらいの設定だぜぃ」


「「短っ!」」





起爆までの僅かな時間でを助けるため


ここにいる人間で出来うる限りの作戦を立てた







槍使って駆け上がる技あったろ?
アレで這い上がってくりゃいいじゃねえか」


「いや…落下の際、足を捻ったようでな
正直立つのも難儀している」


うそぉ!?無表情だから全然気付かなかった!」





長身の近藤を半ば落としかけても届かない穴の
高さのため、ロープで引っ張り上げる作戦に出たが





「ウボァ!!」


ちゃあぁぁぁん!!」


「ちょっ、今土壁からいかがわしい形の
やたらデケェ突起出ませんでした!?」





ちょいちょい妨害トラップで穴の底へ戻され





「くそっ、爆弾の方をどうにかした方が早いな
…おい!掘り出せそうか?」


「…ダメだ 表面だけしか掘り起こせぬ」


そうだ!レスキューみたく誰かがロープで
降りて、ちゃん抱えて上げてもらえば…」


「時間と人手が足りなすぎらぁ、ったく
こんな卑劣な罠どこのどいつが作りやがった?」


「「「オメェだぁぁぁぁ!!」」」





刻一刻とタイムリミットが近づいていた


縁起でもねぇよバカヤロウ!身内の不祥事で
人死にとかホント勘弁してくれっ!!」


「…すまぬ、もうダメかもしれん」


「「ちゃん!」」


「兄上に…幸せに出来ず申し訳ないと伝えてくれ
それと、迷惑をかけ通しで済まなかった


やめろぉぉぉ!お前これ以上フラグ立てんな!

頼むからウツENDでオレらの心にこれ以上
トラウマ植えつけんなぁぁぁ!!」






上からの呼びかけと反比例し、ボロボロの彼女は
穴の中でグタっともたれかかる





「ああ…最後に兄上の内掛け姿…見たかっ…」


「見ればいいだろいくらでもよぉ!こっから出て
存分に拝めよ、いつものしぶとさ出しやがれ!!」



チキショー!爆弾さえ止められりゃ…!!」





近藤の言に それまで無言だった沖田が口を開く





「おい爆弾の表面は出てるっつったな」


「…言ったが?」


「本体ぶっ壊さずに表面の鉄板だけ切れるか?」







指示に"何か"を感じ取り 最後の力を振り絞ると

は身を起こし槍を奔らせ


爆弾の表面カバーだけを斬り崩す





「おい総悟、何しようってん…何しやがる!


「このマヨ借りやすぜぃ?土方さん」





懐から業務用の特大マヨネーズを奪うと


沖田はためらい無くフタを開け…穴の底へ


正確には爆弾の上へと中身を垂らしていく





「なにしてんのお前ぇぇぇぇ!?」


「隊長…ついにおかしくなっ…グベッ!





呆気に取られる周囲を他所にマヨが全部
ひねり出された…と、同時に爆弾が





バチバチと黒い煙を上げ カウントを止めた







「爆弾が…止まった?」


「え?どういうことなの総悟!?


「平たく言やぁ電気回路をショートさせて
爆弾ぶっ壊したんでさぁ」


先にやれよそうゆうのは、後でお前
たっぷり説教すっからな?…救助続行!」





こうして、ドヤ顔してる元凶に
もてあそばれた彼女は一命をとりとめた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ネタに走りすぎた結果がコレだよ!
他の隊士は討ち入りや巡回などで不在の設定


沖田:これはひどい、サーバー元に
消されねぇのが奇跡でさぁ


狐狗狸:(・ω・`)<辛辣にも程がある


山崎:隊長がアレなのは元からですけど
罪の無い一般市民まで巻き込まんでくださいよ


土方:よーし山崎お前アトで裏来いや
それと総悟!テメェマヨネーズ弁償しろぉ!


近藤:そこぉぉ!?にしても両足持って
逆さづり時にゃ生きた心地しなかったわー
マジあのまま落とされるかと思った


沖田:土方だったら迷い無く落としやした


土方:上等だテメェそこに直れぇぇ!!




あくまでフィクションなので、今回の
爆弾解除法は真似「「しねーよ!!」」


様 読んでいただきありがとうございました!