相手が目ぇ覚ましたのは、妙なモン
拾っちまったか、と若干後悔しかけた折だった
「…ここは?」
「おー気がついたか」
二度三度瞬きしてこっちを見る目は
別れた時と寸分違わぬ無表情
「お主は神威の部下の…」
「阿伏兎ってんだ、人の名前くらい覚えとけ」
「さほど言葉を交わした覚えも無いのにか」
出会い頭からきっついコト言ってくれるじゃねぇか
「まあいい 申し遅れてすまぬな私は」
「知ってるよ、っつーんだろおたく
それともって呼ばれる方がお望みかい?」
「どちらでも構わぬが…ここはどこだろうか」
「どこだと思う?」
「…先程の基地でないことだけは確かかと」
ソレぐらいはバカでも分かる理屈だな
「ま、平たく言やぁ春雨第七師団の船の中だな」
「な…となると宇宙にいるのか!?」
寝台から上半身起こして辺りを見回す様子にゃ
若干の焦りはあるようだが
表情だけは全く持って変化ナシ
「安心しろ、まーだ地球の上空漂ってるだけだ
どこら辺かまでは言えねぇけど」
答えてやりゃ、ちっとの間睨まれて
すぐさま包帯だらけのテメェの身体へ目線が移る
「無頼も希少動物も絶滅が危惧される昨今です」
「……手当てはお主が?」
「あー…見つけた時ゃ、マジ死体だと思ったわ」
というより、よくもまーあんだけ器用な
死に方が出来るもんだ
…あちらさんの兵が思ったより手ごたえ無くて
腹いせついでにあちこち壊すついでで
妙な部屋の壁ブチ破ったら毒ガス出てきて
で、死体畑の中にこの娘がいたワケだが
瀕死になったお陰で毒ガス逃れるとか
悪運が強いというか、何というか
「よく分からぬが…あの場にいたお主に
助けられたと解釈してよいのか」
「まーそういうこった、成り行きたぁいえ
感謝してもらいたいもんだ」
「そうか、感謝致す」
額面通り受け取って頭を下げられたもんだから
ちょっとばかり呆気に取られちまった
「なんつーか…素直だなアンタ」
「助けてもらったならば礼を言う
当たり前のことではないか」
ま…言ってることは正しいんだけどよ
普通、この状況で頭を下げる奴って
中々いないんじゃねぇのか?
仮にも敵陣だしココ ついでに無精ヒゲの
むさいおっさんと二人っきりだし今
…テメーで言ってて ちと悲しいが
「して、お主は何故ゆえあの場所に?」
「そりゃーあのバカ団長の尻拭いに
決まってんだろーが、そっちは?」
「仕事だ」
「同じ穴のムジナってヤツか」
言えば無言のまま 首が縦に振られる
曲がりなりにもっつー二つ名で行動してる
物騒な女だから当然っちゃ当然か
「…あ!私の槍っ!どこだ!?」
「ギャーギャー騒ぐなっつの、ちゃんと
こっちで預かってるから安心し「返してくれ」
近っ…んな身ぃ乗り出して顔近づけられても
嬉しくも何ともねぇんだけど
どうせ迫られるなら、宇宙一の美女のが断然いい
逆にもう少し 女としての警戒心とかねぇのかこいつ
「ハイどうぞ〜って感じでこっちが簡単に
返すと思ってんのか?お嬢ちゃんよ」
「…なら自分で探す故」
立ち上がって部屋を出ようとする怪我人の前へ
ため息混じりに立ち塞がる
「オイオイ、勝手に船ん中うろつかれても
こっちとしちゃ困るんだがな?」
見下ろしてやりゃ、大人しく引き下がって
寝台へ腰を下ろしはしたものの
緑色の目ん玉だけは相変わらずこっちを
ガン見したままで 非常に居心地が悪い
ちっと間空けて、同じように寝台腰かけるが
しばらく経っても隣の反応は全くもって変化ナシ
腹も減ってきたので、懐から取り出した
非常食代わりの虫を食い始める
が、それでも娘っ子の表情は変わらない
別にオレみたいなおっさんを必要以上に意識されても
嬉しくないし うっとうしいし
大人しいのはありがたいんだが
なーんかちょっぴり腹立ってきた…
「これ食うか?」
やや押し付けるようにしてデカめの虫を
一匹手渡ししてやると、視線はそっちへ移った
「あんだよ、安心しろ毒はねぇから」
笑いながらワザとオレの分の虫を噛み千切る
さーて、こっからが見ものだな
ここまですりゃあ大概の相手は引くか戸惑うか
気持ち悪げに眉しかめっか
「いただきます」
間違ってもそのまま信じてコイツを
口に運ぶなんてことはオォォォイ!?
「何で食ってんだアンタ!!」
「お主が食うかと差し出したのだろう」
「いやまぁそーだけど!」
「ならいいではないか 毒が無いなら
出されたモノは食すのが礼儀だ」
いや間違ってないけど間違ってる!
無表情でこんな気味悪ぃ虫をムシャムシャ
頭から食えるなんて女として間違ってる!
つーか一応敵方なんだけどそんなホイホイ
人の言葉信じちゃっていいの?!
「初めて食したが、案外美味だな
これは地球にもいる虫なのだろうか?」
「いねぇよこんな奇天烈な生物!
別の惑星からの持ち込みに決まってんだろ!!」
「ぬ、そうか…ワザワザ分けてくれるとは
重ね重ね迷惑をかけるな」
なんだろコイツ…あのすっとこどっこいよか
話が通じるかと思ってたけど
やっぱ似たり寄ったりっぽい気がする
無自覚で相手振り回す
迷惑極まりないヤツ特有のニオイがするぅぅ!
出たい、ものスゴくこの部屋出たい
こーいうタイプにあんまり関わると
精神衛生上よくないのは経験済みだ
…だが、目ぇ離した隙に万が一逃げられたり
下手に団長と顔合わせしちまったら
それはそれで面倒が増えるから、監視兼ねた
足止めをする羽目になったってのに
初っ端からくじけちゃ元も子もねぇぞオレ!
とにかく、ある程度話は通じるっぽいから
交渉さえ先済ましときゃ後はどうとでも…て
「一刻も早く兄上に無事な姿を見せねば!」