皆さんは


"緑化推進月間""自然と触れ合う体験学習"
などという演目で行われる行事の類を

経験したコトがあるだろうか?





まあ、要するに名前は違えどやってる事は


"校内のゴミ拾い"だの

"近所や近場の森林公園等でのクラス用
オリエンテーリング"だったりするアレである


大概は五月や十月辺りに行うこれらの行事だが


何の気まぐれか 銀魂高校で半ば実験的に
導入されて十一月にも行われることになった





名目は…"水源地を救おう清掃月間"







「何だってこんなくっそ寒ぃ時期に、クラス総出で
ゴミ拾いとかやんなきゃなんねーワケ?」


「先生 サボって一人だけ火に当たんないで下さい」





渋い顔で一斗缶に手をかざす銀八を遠目で見やり





「全くだよなぁ…これがバイトだったら
時給で830円ぐらいもらえそうなモンなのに」





ため息混じりに、長谷川は手にした袋へ
落ちていたコンビニ弁当の容器を放り込む





池の周囲でゴミを集めるジャージ姿の生徒達も


寒さのせいかモチベーションのせいか

彼と同様にどこかやる気が無い者ばかりだ





「正直そろそろ年末も近いってーのに
タダ働きとか勘弁して欲しいわ、マジで」


高校生らしからぬ世知辛いセリフを吐きながら
転がっていた缶を拾い上げ





「真面目にやってんのかテメェ!!」





冷えた空気を震わす低い声に驚いて


「ごっ、ゴメンゴメン土方く…ってアレ?」





思わず振り返り様に謝る長谷川の視界にいた
土方は、全く顔をあわせていなかった











「やんなきゃいけない事ってさー
強制されると急にダルくなんだよねー」












ソレもそのハズ…彼が咎めたてていたのは





「おい桂、何だよそのふざけた格好は」


釣竿らしきモノと竹で編まれた魚篭を持参し
スタンバってる桂だったのだから





「見れば分かるだろう、釣り道具一式だ」


「オレ達がやんのはゴミ拾いだろーが
遊びに来たわけじゃねぇんだぞ」


「オレとて遊びじゃないぞ」





自信満々に笑って、当人は釣竿を少し掲げた





「ここではカッパが現れるらしいからな
掃除がてら 保護をするべく装備を整えたんだ」


「どっからの情報?」


反射的にツッコむ新八の視線も
周囲の空気同様 冷め切っている


そんな級友の姿を見かねて、長谷川は言った





「止めとけよヅラっち こんなキタネー池に
カッパ所か魚すらいねぇって」


「いや、魚は池にいるようだぞマダオ殿」


と 彼の説得を無視して横から口を挟んだのは

無表情でゴミ袋を引きずる





「いやいやちゃん、流石にソレは
見間違いじゃねーの?」


「あーホントだ 魚泳いでるネ
ピッチピチ跳ねてるアル」


「えちょっ神楽ちゃんまで…あ、本当だ





池の透明度は低く 木の葉やゴミや虫の死骸が
あちこちで浮いて濁った暗緑色だったけれど


それでも眼を凝らせば、光を反射して

閃く鱗魚のヒレらしきシルエットが見えた





「へぇ…よく気付いたモンだ」


「兄上と少し休憩を挟みながら眺めていたら
眼に入ったものでな」


「ホラ見ろ、魚がいるぐらいだからカッパが
いたとしてもおかしくは無いだろう」


「そーいう問題じゃねぇよ!」







あぁ、こりゃ脱線しそうな気がするなぁ…


長谷川が抱いた予感めいたものは
直後に現実となっていく





「それじゃゴミ拾いも飽きてきたトコだし
いっちょ釣りとしゃれ込みやすかねぃ」


「あに言ってんだ総悟 風紀委員が校内行事を
蔑ろにしていいと思ってんのか」


ちょーどいい餌も目の前にいることだし」


「よし、テメェ今からゴミ決定な」





ひょいっと横から割って入った沖田と神楽が
バチリと見えない火花を散らし





「魚釣る気なら負けないアルよ」


「へー、オレとやろうってか?おもしれぇ」


「ちょっと!何対決風の雰囲気出してるの
大体今はゴミ拾い中なんだけど!?」






3Zの良心である新八のツッコミも空しく





「おっ、なんだなんだ?」


「なんかゴミ拾いよりチョー楽しそ〜」


「魚釣りするっつっても、道具ねーぞ」


え?それならそこら辺の木の枝かなんかと
ヒモとか テキトーでいいんじゃね?」





あっという間に情報が広まって

ゴミ拾いに飽きた生徒達が勝手に動き出し





「テグスっぽいモンだったら あっちの
茂みの辺りにやたら落ちてたぞ」


「「何教えてんの先生ぃぃぃ!!」」





サラッと教師まで公認して、各自でゴミ拾い
そっちのけで釣りをやり始めてしまった







「まったく…真面目にゴミ拾いをやってるのは
オレ達だけですねお妙さん」


「あら?こんな所にも大きなゴミがあるわ
重そうだからこの場で燃やしてしまいましょうか」


「いやー照れなくても大丈夫ですよハハハ
それよりゴミ拾いが終わったら休憩がてら釣り」


「結構です」


笑顔を崩さないまま、お妙はキレのいい
セリフとを隣の近藤へ叩き込む







それを適当な廃材に腰かけて眺めつつ





「ったく…こうなると思ったけどな」





苦々しくため息をついている長谷川だが


そこら辺の木の枝とテグス製のお手軽釣竿が
設置してある時点で、同じ穴の狢だったりする





「……ん、お、これはデカイな」


盛んな動きと沈み込みを繰り返す糸を
グラサン越しから慎重に見計らい





今にも折れそうな程の引きが来たタイミングで


一気に竿を取り、ぐっと手前に引き倒して


「おぉっしゃあぁぁぁぁ!!」





見事な大きさの鯉…とビニール製の人を模した
大人の商品的なブツを釣り上げた


「ってまたコレがついてきてんのかよぉぉ!!」





大きく落胆しながらも彼は、釣った鯉は再び
池へと返し ブツはキチンと袋へ放る


そうして疑似餌を仕掛け直して糸を垂れ







おお、池の中のゴミも回収しているとは
見上げた心がけだなマダオ殿」





腰かけ直した長谷川へ、ゴミを集めがてら
寄ったが話しかけてきた





「まっまあな ワリと海とか好だしさ
釣り人としてのマナーは守るほうなんだぜ?」


「うぬ、良いことだ」


「てーかそれ言うならさ毎回こんなクソ寒い中
ゴミ拾ってるちゃんのがエラいんじゃね?」


「私は当然のことをしているまでだ
マダオ殿も息抜きが終わったなら行うのだぞ」





感心している口調のせいか、表情が若干
和らいでいるように見えて


どことなく落ち着かない気分を味わいつつ





「あのさーちゃん、前々から言おうと
思ってたんだけどさ」


む?何だろうか」





場の空気に任せて彼は 頼りなく笑って呟く





「苗字でいいから、この世界でくらいは
普通の呼び方してくれないかな」


「…私は普通に呼んでいるつもりなのだが」


「いやいや、それ本編と悪友の影響だからね
当人的には出来たら訂正求めてるから」





言った瞬間…彼女は済まなそうに眉を下げた


「そうか、それは悪かった泰三殿」


…あ…いや別にちゃんはワザと
やってるわけじゃなかったワケだし…」





え?オレが悪いの?いや悪くないじゃん
むしろ正しいこと言ったんだけど


けど当人悪気無いみたいだし、てーか
何かそんな顔されたら悪いのこっちじゃね?


てゆうか名前で呼ばれてるし?え!?





と内側がてんてこ舞ってる長谷川を





「「フィィィィッシュ!!」」


「イギャアアァァァァァァァ!?」


神楽と沖田の改造釣竿が同時に釣り上げた





お前なに横取りしてるアルか!
コレは私の釣ったマダオアルよ!」


いーや、オレが先に釣ったマダオでぃ」


「イダダダダダ!ちょ!議論より先に放して!
釣り対象じゃないからリリースしてぇぇぇ!!」








…どうにかボコボコ顔の近藤と横たわることを
免れて、戻ってきた彼へ


珍しく戸惑いを浮かべては訊ねる





「だ、大丈夫だったか 泰三殿」


「ああうん、平気平気…」





得意の笑みを浮かべる当人の内側で


嬉しさと情けなさと、妙な据わりの悪さ

交じり合って…自嘲に変わった





「……やっぱオレ、マダオでいいわ」


そうか?よく分からぬなお主は」


「あーうん 分かんなくていいんだよ
男はそういうイキモノなんだから」





首を傾げる三つ編みの同級生へ小さく笑んで

長谷川は釣竿と景色とに目を向ける







「釣ったどぉぉぉ!」


「どういうアレだぁぁぁぁ!?」





何故か伝説のネッ○ーに非常に酷似した
生物らしきモノを釣り上げて

保護しようとする桂を、止めにかかる銀八





「お前らはマトモなもんを釣れぇぇぇ!!」





相変わらず人ばかり釣る二人へ叫ぶツッコミ役





手を抜いたり適当にサボるクラスメートの中


黙々と一人清掃をこなし、時折誰かを
注意しては恐れられる屁怒路男爵







そんな当たり前となった光景に

何とも言えない安堵感を抱いて





「ん?引いているようだぞマダオ殿」


お、ホントだサンキューちゃん」


引いたエモノを釣り上げようとした矢先







「お前ら池でギャーギャー騒ぐなぁ!小学生か!!」


「いたあぁぁぁ!本当にカッパいたぁぁぁ!!」


やかましわ!カッパじゃないっつーの!」







唐突に現れた全身緑色のメガネかけたオッサン
視野に認めた途端に 彼の顔が青ざめた





「げ…アレ今のバイト先の店長じゃん!
この辺りに住んでたのかよっ」





顔を合わせたくない一心で長谷川は行動を起こす





「ぬ?どこ行くのだマダオ殿!


「ゴメンちゃん、オレちょっと体調
悪くなったから早退するって言っといて!!」



「そうか…お大事にな」







上手く誤魔化されてくれる事を願いつつ





彼女と次会ったらお礼言おう、と誓って
彼は池から逃げ出した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:絡むキャラの内情を語るべきか
語らないべきかで大抵いつも悩んだりします


長谷川:いや普通に語ってるし、てゆうか
十一月にもなって釣りはないでしょ?


狐狗狸:文句ならネタ提供に貢献した
ダニーにお言い ついでにこの話自体が
一種の釣りだからいいんですよ


長谷川:誰に向けて!?誰狙いの釣りだよ!!?


狐狗狸:しみったれてしょぼくれて情けない
オッサン高校生との微妙な青春距離感好き


長谷川:ドピンポイント過ぎだろがぁぁぁぁ!




マダオ好きーの皆様スイマセンでした
ラストのカッパは、もちろん海老名さんです


様 読んでいただきありがとうございました!