風に冷気が混ざり始めた頃合の庭先で


鍛錬用の竹槍や薙刀を手に、各々鍛錬に
励む女人達の姿があちこちで見受けられた





そして私達は今しがた手合わせを終えたばかりで





「流石は妙殿、その技をもう自らのものに
しているようだ…動きにも無駄が無い」


「熱心に教えてくれたちゃんのおかげよ」





汗を拭いニコリと笑う妙殿の世辞に、少々
気恥ずかしさを感じつつも笑み返す







「姉御ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」





…と、庭に血相を変えた神楽が駆け込んできた





「あら、こんにちは神楽ちゃん?
どうしたのそんなに息を切らせて」


「相談があって来たネ…ってアレ?
みんな集まって何してるアルか?」


「護身術を頼まれてな」


「省かずに話せヨ」











「大小よりも柔らかさ重視で」











季節柄もあるし、近頃は何かと物騒だから

女といえども身を護る術を覚えた方がいい





妙殿からの提案により 志村家にて
薙刀の講座が開かれることとなり


簡単なもので構わないからと、不肖ながら
私は"講師"として技を教えることを頼まれた





そう言うと…神楽はニヤリと笑った





「へー、出世したモンアルなぁ〜」


「いや 私はただ型と技を教えただけ故
ほめられるべきは妙殿と通いの者達だろう」


「いっちょ前に謙遜アルか?赤ピーマン娘〜」


「本当、照れちゃってカワイイわね」


たっ妙殿まで…止してはもらえないものか…





「して神楽よ、何を相談しにここへ?」





問えば ハッと神楽が目を見開いて


「そうだったネ…
姉御ぉ!私ボインになりたいアル!


「…はいぃ?





何故か場の空気がより冷たさを増した気がした









話を聞けば、銀時とまた諍いを起こしたらしく





「雑誌で満足するワケねーだろ!私だって
ヒロインらしく流行の服着こなしてみたいネぇぇ!」



「オメーじゃ宝の持ち腐れだ酢昆布娘
悔しかったらまな板から果実を実らせてみろ」


胸なんて飾りネ!エロい奴にはそれが
分かんないだけアル」


「なんでもエロい人のせいにすんなー
努力が足りねぇんだよ、努力が」





バカにしたその一言にガマンがならず





「二年後設定の例もあるし、私だって
努力すればすぐボインになるアルぅぅぅ!!」








やる気の無い相手へ言い捨て、自らの胸を
大きくするべく"頼れる者"の元へ来たとのこと







「私悔しいネ…あの天パ見返すために
ボインになる方法を教えてほしいヨ!」





泣きじゃくる神楽の頭を撫でて慰めてから





みんな〜ちょっと鍛錬止めてくれる?」


「どうしたの?妙ちゃん」





手を止め、集まった女人達へ


妙殿は笑みを浮かべて言った





「今から実践訓練を兼ねて女の天敵・エロ天パを
みんなで殲滅しに行きましょう」



「え、ちょっと…姉御ォォォォ!







止める神楽の声も空しく、彼女らはそのまま
万事屋へ向かって進軍していった







「しばらくは戻らぬかもな、あの様子では」


「そんなぁぁ…殲滅より先にボインになる方法
教えて欲しかったネぇぇぇ…」





ガックリとうな垂れる神楽の側で、私も
自らの胸元へと目を落とす


今の今まであまり気にはしておらなんだが





「…やはり胸は、あった方がいいのだろうか」





兄上に問うてみた事は数度あるが どうしてか
困ったような笑みではぐらかされてしまっていた


あれはもしや…私に気を使って下さっていて


本当は胸が無い事を残念に思われていたとか…?







急に沸き起こった不安にいても立ってもいられぬ
私の肩を、神楽が一つ叩いた


その瞳には確固たる意志が光っている






一緒にボインになる方法探しに行くアル」



「……お供仕ろう」







私達は、互いの胸を大きくする手段を探すべく

知り合いの女子へと訊ねて回った







「胸ならあたしの方が欲しいくらいなんだけど」


「なにとぞ、ご教授願えないものか」





お良殿と花子殿は、顔を見合わせ一つ唸る





「やっぱり地道なマッサージが一番なんちゃうん?」


「かもね、あと誰かに揉んでもらうってーのも
効き目があるって効いた事あるけど?」


「誰かって…男アルか?」


「っさ、流石にそれは……」





兄上のお手を煩わせるワケには参らぬし

何よりも…は、恥ずかしい





「なーんやちゃん、恥ずかしいなら
ウチが代わりに揉んだげよか?」



「いやあの丁重にお断り申す故っ」





手を動かしつつにじり寄る花子殿から
距離を取り、私は即座に断りを入れる





「まぁ別に人に揉んでもらうのが嫌なら
自分で揉んだってかまわないんだけどね」


「私は元々そのつもりネ」







丁重に礼をして別れ、次に訊ねるは鍛冶屋







「真偽はともかく…昔から、牛乳を飲めば
胸が大きくなるって言われてはいるけど」


「で、鉄子は試してみたアルか?」





逸らし気味の視線と重い沈黙が

言わずとも 全てを物語っていた





「そうか…すまぬ」


悪かったネ、でも個人差もあるアルから
そんなに落ち込まなくても大丈夫ヨ」


「いや…いいんだ」







気まずい空気を残してその場を後にし


以前世話になった店の 女店主の所へうかがう







あら?ずいぶんとご無沙汰ね、お嬢ちゃん」


「む…店主殿にお訪ねしたいのだが
胸を大きく出来る商品はあるだろうか?」


「ウチには生憎無いね、あっても効果の薄い
中古品ばかりさ…そっち系のサプリでも飲むか
最近流行の化粧品でも試した方が早いよ」


「化粧品でそんな都合のいいもんがあるアルか?」


「巷じゃ評判らしいよ?…今もTVでやってるし」





示された小型のTVの画面を二人で覗き込めば





『先日発売された豊胸化粧品"フ・エールカップ"

現在、女性客の間で爆発的な人気となっており
品薄状態が続いております!』





花野アナが、店で並んでいた客にインタビューを
繰り広げている光景が映っていた





『わたくしはこのメーカーの化粧品シリーズを
愛用しているので、興味本位で買ってみようかと
思いましたでございまする』


『ヤッパリ従来ノモノト比ベテ肌ノ張リガ段違イデスネ
オィ、今何デ口元押サエタカメラマン?


『あのっちょ、カメラ止めて下さいっ
私はたまたま通りかかっただけなので…!』







知った顔も数人見かけ、試す価値はありそうだったが





「むぅ…この値段は、高いな」


「酢昆布が一万個分くらい買えるアル」





容易く手の出せぬ値段にあえなく断念した









胸に関しての方法を訊ねていく内







「アンタらバカじゃないの?胸ってのはね
育てるんじゃなくて作るモンなのよ」





珍しくも姉妹揃って出歩いていた阿音殿は
また違った意見を披露してくれた





「パッド入れたりヌーブラで周囲の肉集めて
美乳に仕立てるのだって努力のウチでしょ!」


「なるほど…一理あるな」


「でっしょー?何だったら知り合い価格で
その辺安く譲ってあげるけど、興味ない?


「姉上それ半分押し売り てゆうかニセ乳なんて
いずれはバレるから意味ないでしょーに」


お黙り百音!どーせ脱ぐ時暗くしてすぐ
ベッドに入りゃー分かんないからいいのよ!」



「…、あんまり参考にならなさそうだし
とっとと次に進むアルよ」







また、道端で火花を散らす薫殿とあやめ殿も





「胸を大きくするよりも、自分に合った
ブラのサイズを選ぶ方が先じゃないのん?」


「それに関しては同意見ね、キレイな形を
今の内に作っておいた方が苦労しないでしょうし」





胸当て下着を着けることを奨めてきた





「えーワイヤーとか引っかかりそうでいやーヨ」


「同感だ 戦う際に邪魔になりそう…」


「「だったらスポブラ付けなさいよ」」







かと思えば、真逆の意見として







「おっぱいの大きさ云々で悩むのならば
いっそ胸を無くしてみるのはどうだろう?」


「…その発想はなかった!」


「お前天才アルな!!意味無いけど」





サラシを巻いて胸を潰すという画期的な案が
九兵衛殿から出されたりもした…が









「色々意見は集まったけど、正直どれも
決め手に欠けるアルなー…」





どれが最善手か悩み、川原にて立ち往生してしまう





「むぅ…神楽、かくなる上はあの者から
外国の知恵を借りるというのはどうか」


「ダメよ、アイツは貧乳フェチだって
銀ちゃん言ってた」





緩く首を横に振られ 私は溜息を吐いた





「にしてもつくづくうらやましいネ巨乳キャラ
くの一ポジションだと胸も出るもんアルか?」


「…言われれば月詠殿も大きかったな」


「ちくしょーアイツら三人とも
300グラムずつでいいから乳寄越せヨ」



「言っても詮無き事だ…こうなれば出来うる限り
一通り方法を試してみるしか無いかもな」





求める大きさの胸に育つまでどれ程かかるかも

そもそも本当に効果があるかも分からないが


行わぬよりマシ





言い聞かせていた私達の前に…妙殿が現れる





「二人とも こんな所にいたのね?」


「姉御…」


「ずいぶん悩んでいたみたいだけど大丈夫よ
元凶はキッチリ裁いたから


「そ、そうか…しかし……」


「神楽ちゃんやちゃんの気持ちも分かるわ」





口ごもる私達を抱きしめ、妙殿は微笑んで言った





「けど、胸で女の子の価値は決まったりしない


だからあなた達はあなた達らしく成長すればいいの
焦って胸を大きくなんてしなくてもいいのよ」


「あ…姉御ぉぉぉぉ!!





遠くで鐘の音が響く夕暮れ時 私と神楽は

優しく紡がれたその言葉によって
全てが許されたような安堵感に包まれていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ダニーは"普通"乳派らしいけれども
私は巨より貧、もっと言えば美乳派で


妙:遺言はそれでいいのかしら?(薙刀突きつけ)


狐狗狸:スイマセンでした…平伏しますので
有守流の技モーションは本気でご勘弁を


神楽:あのメンドい技覚えたアルか!さすが姉御!!


狐狗狸:お妙さん筋が良いですから、基本の
四型全てと技の一つを習得したんですよ


お良:店の都合とかあるから日によって集まる子も
まちまちだけど、まあ好評よね?護身術講座


花子:お値段も手頃やしなぁ


狐狗狸:え…金取ってるの?(汗)


妙:あら?何か文句でも?


狐狗狸:…ありません(よくよく考えたら
二人の説得もアレ実は…ガクブル)




さり気なく十徳の娘さんや栗子ちゃん
あの人の彼女まで出演でお送りしました


様 読んでいただきありがとうございました!