街では異国の祭りが商店やロフトを彩って
そろそろ月の終わりと共に 若の大切な
ご友人である妙殿のお誕生日も近づいてくる
「今日も…絶好のゴスロリ日和です」
通いつけの店でもフェアとして様々な
コスプレ習慣を行っているし
異国では表立ったパーティーもあるぐらいだ
なので若に女子らしい服装を着せるのは
全然おかしい事ではない、むしろそれこそが
私の いや柳生家の悲願っ!
…しかし単にゴスロリを奨めても若が拒まれるのは
これまでの経験から自明の理
ならば戦略を持って慎重に行くべし、という事で
「若の為、一肌脱いでい「お断り申す」
理由もロクに聞かず断りますかアナタは…
「あ、ちょっと何処へ行く気ですか?
まだ私はアナタに一言も説明をしておりませんよ」
「…いきなり呼び止めておいて、肌を見せろと
迫る破廉恥な者の頼みを聞くつもりは無い」
「いえですから誤解ですって
頼みますからキチンと話を聞いてください」
表情は通常通り何の色も見せぬまま
先程より、やや強く構えた気配を放ちながら
殿は立ち止まって私の言葉を待つ
…ここは話を聞く気になった事を喜びましょう
「先程も少し申しましたが、若の為に
ご友人として協力して頂きたいのですよ」
元々の発端は"ご友人の誕生日を内輪で
ささやかに祝いたい"との若の願いからで
それにパーティーの支援だけではなく仮装も提案し
受け入れられたはいいが…若はあろう事か
ゴスロリではなく、ゾンビを選んでいた
異国の流儀には叶っているものの 親しきお方の
祝い事に死人の姿はどうかと思えど
張り切っている若にはどうしても伝えづらく…
「なので参加する女性陣であるアナタに
女子らしき服装をして頂き、ソレをそれとなく
若に勧めて欲しいのですよ」
と、建前と本音半々で言葉を伝える
ご友人自らが服を着て それを勧めてくるなら
若からコスプレの抵抗を幾分か減らせるやもしれない
上手く行けばご自分から着てくださるかも
それをキッカケに、ゆくゆくは若が女子らしさを
取り戻して下さるやも……!
「露出を上げるなら身近から」
「なるほど、理由は納得した…だがしかし
神楽や妙殿には声をかけぬのか?」
「無論お二方にも後ほど説得へ向かいますが…」
コホン、と咳払いをして私は向き直る
「アナタ自身の服装に関して個人的に
不満があるので一番に優先させて頂きました」
「私の作務衣に…不満?」
表情は動かずとも、首を傾いだ様子は
自覚が無いことが丸分かりで
思わず眉間にシワを寄せつつ溜息が出た
「そもそも季節構わず長袖長裾でいる事が既に
嘆かわしいのに あまつ仮想や変装の際にも露出が
ほぼ無いなどサービス精神に欠け過ぎてます!」
若とて、普段着はまだしも特別な状況下には
それなりにおみ腕やおみ足を晒していたというのに
この娘には毛ほども露出要素が無い
柔肌は無闇に出せばよいものでもないですが
惜しみ過ぎるにも 程度と限度がある
「この機会に年頃の女子の自覚を取り戻しましょう
さぁ!恥ずかしがらずコレを!!」
用意した魔女の服を見せつつ一歩迫れば
相手は、無表情で後退った
…いきなり肩ともも露出はハードルが高すぎたか?
否 ここで始めから挫けていては到底
妙殿への説得も若への意識改善も成功しない
これは私が越えるべき試練…そう、試練なのだ!
「物怖じせず一度身に着けてみてください
一歩上の自分へ踏み出すのでぶごっふ!」
詰め寄って勢いで腕を掴んだその途端
アゴに衝撃が走り、私はその場に倒れこむ
「すっすまぬが丁重にお断り致す…しからば」
槍底攻撃を食らわせて逃げるほどイヤとは…
若に負けず劣らず"重度"の症状ですね
「けれど、この程度で諦めませんよ?」
黄葉舞う中 私の戦いは始まったのだった
基本はロフト等に寄りつつも殿へお会いし
服を着ていただくよう、懇切丁寧に説得を行う
…が彼女の非常識振りにより会話が噛み合わず
いくつか見せる服装も何故か軒並みで
断られてばかりで手にすら取られず
時には、意外な邪魔が入る事さえあった
「あー悪いねちゃん、ソレ取りづらくてさ
いや助かるわぁ〜本当に」
「お役に立てて何よりだ」
「ちょっ、何をしているのですか敏木斉様!」
「決まってんだろ〜趣味のゴミ集めだよ
それよりオメーこそ何?その怪しげな服」
ゴミ捨て場でリヤカーを引く敏木斉様が
訝しげな瞳を私に向けて仰られ
「いつもの九兵衛への嫌がらせよりオメー
数倍ヒデェセンスだな、その服」
「何を仰います!これは若の愛らしさを
十二分に引き出すため計算されたデザインで…」
こうして合う旧知の方々に、服装についての
弁明を交えて長々話をしている合間に
肝心の相手を取り逃がすなどしょっちゅうで
「あの、何やってるんですか東城さん?」
「オメー九兵衛だけでなく、あのブラコンまで
ストーキングしだしたの?」
「変態がとうとうロリコン道驀進し始めたネ」
しかも大概は理解されず…所かこちらが
変態扱いされ咎めを受けたりもして
日を重ねても、計画は難航したまま
何の手ごたえも見せずにいた
「中々手強いですね…一体どこへ行ったやら」
「何をしていらっしゃるのですか?東城さん」
声をかけられ、振り返った先にいたのはオババ
眉をしかめる相手に彼女の行方を知らぬか
一応訊ねるけれど、返ったのは否定だけ
「あんな欠片も愛想のない不気味な小娘
わたくしが気にかける道理はございません
アレも前のあの女と同じく 柳生家に災いを
もたらす恐ろしい化け物ですからね」
「私としては台所を任されたアナタには
卵の賞味期限を気にかけて頂きたいですね」
さようでございますか、などと見え透いた
とぼけ方で誤魔化し去るオババを一瞥し
私は小さくため息をついた
……伝統と格式を重んじる柳生家では
彼女の存在は 最早"異質"とも取られている
「あの娘…武に秀でているだけではなく
鍛錬を怠らず続けていたのだろうな」
「確かにあの槍捌きには目を見張るものがあった」
いつかの手合わせの折にまみえた際
彼女は北大路と引き分け、私ですら危うい所で
倒しかねない力を有していた事は
今でも四天王の間で語り草となっている
…と 側の赤髪の四天王一角が渋い顔付きで
人中の辺りを押さえている事に気付く
「おや、どうしました南戸」
「いやー東城さん オレもあの娘の腕前と
ツラは悪くねーとは思ってますけど…性格がな」
「何を言う、武人の礼儀もそれなりに弁えている
今時珍しい女子ではないか」
…私としてはプリンを貪る大の大人も
今時珍しい部類に入ると思いますが?
「…だが、武術もあの娘自身もデタラメが過ぎる
あんなもの認めてなるものか!」
「だよな〜やっぱ女は可愛げのあるコに限るな
少なくとも、手合わせで問答無用に顔面の急所
狙ってきたりしねー女がいい」
「「自業自得だろ存在男性器」」
「オレの存在全否定か!?」
―無論、好意的に見る者は極端に少ない
「とっとと出て行け!ワシは認めんぞ
絶えた武術を未練がましく使い続ける者など!」
「父上!」
「パパ上かダディと呼べ!有守流には近頃
悪いウワサばかり耳に入る…ソレを使う
この娘だって得体が知れないじゃないか」
「まぁ色々とクセは強いだろうがな
そんな言うほど悪い子じゃねーだろ、輿矩よ」
ある事件の起こる前、屋敷に姿を現していた
彼女へ当主様が怒鳴ったコトもあった
見かねて諌める敏木斉様の言葉も聞き入れられず
「九兵衛 奴らはこの際いいとして
この女とだけは付き合いを切りなさいマジで」
「けれどこの人も、僕の大事な友人なんです」
「……いや この方の言い分も最もだ
私はこれにて失礼させていただく」
「あっ、待ってくれさん!」
結局、追い出す形で立ち去らせてしまい
この時 少しばかり平素の無表情が
哀しげに見えたような気がして心が痛んだ
風変わりながら友を放れず、自ら不幸を
背負って生きる彼女は若に近しく
…何処か放っておけない気にさせられる
若を含め 全員の持つ印象は
ある意味で正しいと知っていながら
「…いやコレは浮気とかじゃありませんよ
無論 私は生涯若に着いて行く所存です!」
余計な方向へ逸れましたが、全ては若に
女子として普通の幸せを取り戻して頂くため
その足がかりとして ついでに殿に
女子らしさを思い出してもらうだけの事!
強い決意がついに実り、私はようやく
彼女を逃げ場なき状況にまで追い詰めた
「いい加減、サイトでのこのジャンルも長いので
観念して服を着ていただきましょうか」
たじろぐ相手へ 構わず携えた服を突きつける
外注し取り寄せたこの服達(露出控えめ)は
本来、若に用意されたものですが…
この人なら身長も体型も若とさほど
離れていないから着用に問題は無い
一つ惜しむらくば、もう少し胸があった方が
よろしかった所でしょうが
妙殿ほどひどくは無いので良しとしましょう
「お…お主もいい加減諦めが悪いのだな」
「当たり前です、若の為ならば私は例え
火の中水の中スカートの中にすら飛び込みます」
もし二年後(予想)みたく若が工事を
行ってしまったらと思うと…そうなる前に
手を打ちたいのです早急に!!
「熱意は認めるが…私にその手の服は似合わぬ」
「いえ、見た所肌もキレイですし
美乳の若と並んでも遜色は無いと思いますよ」
…私の一言に緑色の瞳が僅かに揺れたのを
見逃しはしなかった
この発言に嘘は無い 素体は悪く無いし
後は絶対領域で引き上げればイケそうな気がする
「可愛らしいアナタのお姿に、きっと
お兄様もお喜びになられるかと」
笑みつつ弱点である"兄"の一言を持ち出せば
表情は変わらぬまでも、少し服に
興味を持って気持ちが揺れ動いていた
あと一息ですか…パワーを萌えに!
「さぁ遠慮なさらず一度着てみましょう!」
勝利を確信し、勢いに任せ肩を掴んだ瞬間
「いいですともっ!!」
二人分の拳が私を後ろへと下がらせた
「…東城、お前が変態行為を働いてるとの話は
本当だったのか」
もう一人は…他でもない 若ご本人でした
「違います若っ、私は変態ではありません!
仮に変態としても変態という名の紳s」
言いかけた台詞は強烈な飛び蹴りに遮られ
「それ以上は版権的にも生理的にも許せない」
「おお…見事なトドメだな九兵衛殿」
途切れ行く意識の中、お二人のその台詞だけを
最後に耳にし…こうして私の戦いは終わった
―健闘も空しく、妙殿の屋敷に集まった者達は
思い思いの魑魅魍魎に仮装しており
若と殿は何故かキョンシーの姿をしていた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:単行本出たし折角のハロウィンに
かこつけて東城さんがご登場です
東城:出るなり駄洒落はよして下さい
作品の品格がぐっと下がるじゃありませんか
狐狗狸:…いや、そんなつもりは無かったんです
東城:しかし彼女の異常なガードの固さは
夢小説的にも女子としても誠に頂けませんね
狐狗狸:露出が低いのは私のオリキャラでは
デフォですけど、あの子は顕著だよねぇ…
東城:ええ なので強く服をオススメしたのに
どうして二人とも着てくれないのか…
狐狗狸:……その魔改造済みのF Fやら
東 方コスとアナタの迫り方に問題があるんでは?
ある事件は勿論、"田足事件"を指してます
様 読んでいただきありがとうございました!