「あなたの杵で 月にいるウサギよろしく私を
ぐちゃぐちゃに突き回してこねくり回してく」


言葉半ばで、さっちゃん臼は万事屋から
MAXパワーで一階の地面へと放り投げられた







奇しくも時期は中秋の名月へ差しかかり


ヒマを持て余しながら、月見でもしようかと

のんびり雑談を繰り広げながら万事屋へ
帰宅した三人が居間へ入れば


そこに 見慣れない大き目の臼が一つ





「出掛けには…無かったですよねコレ」


「オレぁ花咲ジジイになった覚えなんざ
全くもってねぇぞ、第一時期外れだろコレ」


「月見ってコトでモチつけばいいアル!」


やだよ面倒くせぇ つーか杵ないし
金が出てくんならいくらでもモチつきすっけど」





そんな会話を繰り広げ、ゴミ捨て場にでも
葬り去ろうと銀時が臼に近寄ったら


彼女お得意のスーパーハリボテテクだと判明した





「ちょっと銀さん!いくら何でも二階から
叩きつけるのはヤバいでしょ!?」


「平気だろ、どーせ生命力は頭文字G並だし」


「いや遠目に見ても大惨事っぽいんですけど」


「臼メッコメコアル おまけに血溜り出来てるネ」





道行く人がドン引きする程の惨状の中


しかし さっちゃんは身を起こした











「秋の空も女心も、当人にすら正直分かり辛い」











「…うう、あれ?全然痛くない
血のニオイがするのにどうしてかしら」


もそもそと身体を動かしながらその場を離れ


…彼女は下敷きにした人物の存在に気付いた





「あらやだちょっ…、大丈夫?」





さっちゃん+臼の重量×フルパワーの衝突

という凶悪な地面サンド方程式により
ボロ雑巾になったが血塗れの顔を上げ





「あ、あやめど…の…こんにち…」


挨拶を言い切る前に倒れ伏す





「え、ちょっと待って やだ息してない
本当に待って!ここで死なれても困るわよ!!


脈を取りつつ戸惑うさっちゃんの側へ


成り行きの一部始終を眺めてた万事屋トリオも
流石に血相を変えて駆けつけた









「毎度手間をかけてすまぬな、皆のもの」





無事復活を果したは あの惨状がウソの様な
平素の無表情で四人へ礼を告げる


メガネを軽く押し上げ、ため息をつくさっちゃん





「だってあのまま死なれたら私
とっても寝覚めが悪いじゃないのよ」





直撃の事実は偶然として、あのまま死なれれば
自分が原因となってしまう


本人としてもソレは流石に不本意だったらしい





「ねぇ…気になってたんだけど、それ何?





膝上の、血に染まった巾着袋を指差され

緑眼が一旦下がってから再び彼らへ向くと





「兄上からの差し入れ「「省かない!」」


すっかりお馴染みになったやり取りと同時に

Wメガネのツッコミが炸裂する





「いや…兄上が月見団子を作り過ぎたので
差し入れしてくるよう仰られて」


「通りかかった理由は大体理解出来たわ」


「にしてもお前どんだけ運悪ぃんだよ
普通避けるとかしねぇか?バカなの?死ぬの?


「投げた張本人が言わないで下さいよ」


「そーね、危うく猿カニ合戦になるトコだったヨ」


「ならカニは誰「額面通り受け取んなアフォ娘!」





銀時にチョップ食らった箇所を擦りながら





「折悪しく巾着が落ちかけてな、防いでいたら
叫びが聞こえてああなった」


無表情のまま答えては巾着袋を手にし





「というワケで、受け取って欲しい」





それを新八へと差し出した





「え…あの、これひょっとして」


「団子入ってるアルか?」


当然だ 私はその為に来た故」





無言のまま三人は、巾着袋の中身を確認する







流石に血塗れなのは袋と団子を包む外装のみだが

本体の形は恐ろしくイビツに…


いや…あの惨劇に相応しい形状だった





「銀ちゃーん…コレ、えいりあんの卵のカラみた」


「言うな 団子が食えなくなるっ!」





首を傾げる彼女へ、無理矢理笑みを繕い新八は言う


「あのさん、気持ちは嬉しいんですけど
出来れば作り直していただけると」


「せっかく兄上がお裾分けしてくれた団子を
受け取れないと申すかっ!!」



「いるかぁぁぁ!そんな禍々しい月見団子!!」







賑やかになる四人のやり取りを すっかり
蚊帳の外で眺める羽目になったさっちゃんが呟く





「…ズルイわったら、何だかんだ銀さんに
心配してもらったり自然に会話に加われて」





思わず言ったものの、両者間に恋愛感情が無い事
それが単なる僻みから来るモノだとも

半ば自覚があるから 自分以外には聞こえない


…が、浮かない表情と雰囲気を何となく察し

は見当違いの言葉をかけた





…すまぬあやめ殿、お主の分は
後ほど持ってくる故 しばし待たれよ」


「団子の事じゃないわよ!もう知らない!!」





短く叫ぶと、さっちゃんは万事屋の窓から
外へと飛び出していってしまった







唐突な展開に理解できぬまま日が経って…









「…何だよ猿飛、あからさまに機嫌悪くね?


「関係ないでしょう放っといて」


さっちゃんは素気無い返事を全蔵へ寄越す





その態度はいつぞやから帳降りる現在まで
へ向けられているものと変わりなく


当人の纏う空気もどこか刺々しい





「よくは分からぬが…この間の万事屋での
一件以来あやめ殿はあの調子でな」


「オレがお前らの間のコト知ってる前提
言うの止めてくんない?そこの能面娘」





一つ唸るとは簡単にその時の様子を語る







…生憎と彼は人の機微に聡い方でもあるので
大まかな原因がすぐ思い当たった





「あー、そりゃお前女の嫉妬ってヤツだろ」





途端 さっと彼女の顔面に朱が吹いた


「べっべべ別になんか眼中に無いし!
敵視とか焼きもちとか無いんだから!!」



「いやー、案外思わぬ伏兵っつーヤツは
怖いんだぜ猿飛よ まあコイツ相手じゃ
油断する気持ちも分かるけどよぉ」


「伏兵?どういう意味だろうか」


激鈍め 猿飛はお前にジャンプ侍が取ら」


ニヤつく相手の背後へ瞬時に回ったさっちゃんが

迷い無くクナイを肛門にぶち込んだ





「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」





悲鳴を上げて悶える全蔵を、一瞥すらせず
彼女は薄闇の中へと消えていく





「……口は災いの元だな全蔵殿、お大事に」





状況を半分しか飲み込めてない
それだけを告げて、その後を追う





「ちょっ…助けてけよぉぉぉぉ…!


苦しげな悲鳴なんかは無論完全スルーだ







追いつかれ手首を取られて足を止めた
さっちゃんが、レンズ越しに冷めた視線を寄越す





手を放しなさい





すかさず聞き入れられるが 行動するより早く
彼女が言葉を紡いだ


「あやめ殿……すまない」


「何よ、どうして謝るのよ」


「よくは分からぬが…あの一件、私の何か
お主のシャクに触ったのだろう」





ある意味正鵠を射た台詞に 本人はただ無言





「無礼を詫びる故、どうか怒りを納めて欲しい」


目の前で深々と黒髪が下がり…







「…別に怒ってないから 頭を上げなさい」





ため息混じりにさっちゃんは柔らかくそう言う





「それにしてもアナタって結構しつこいのね」


「お主には世話になってる故、放って置けなんだ
過ちが私にあると知ったなら尚の事」





妙な所に対する潔さは、何だか男らしくて

彼女は思わず小さく笑った





「ねぇ…せっかくだし、今から一緒に
月でも見に行かない?」



「む…それは構わぬが、どこへ向かうのだ?」


「いいから着いて来て」





軽々と屋根上へ飛んださっちゃんに続いて
もまた、上へと飛び上がる









屋根から屋根へ移り辿りついたのは、建物の屋上


そこからは天の月の輝きと 江戸の灯りが
遮るものも無く存分に楽しめた





ありがとうあやめ殿…とても素敵な場所だな」


「でしょう?」


「兄上も、この月を見ているだろうか…」





その一言が あの一件以来抱いていた苛立ち
思い過ごしであった事を彼女へ悟らせる





(…そうよね、元々この子が見てるのは一人だけ







「アナタって本当正直よね…最早尊敬の域だわ」


呆れ混じりにわざと茶化すさっちゃんだが





そうか?私はお主を尊敬しているが」





予想だにしない返事がよこされ、目を丸くする





「…え、それ、本当?」


「うぬ 一風変わってはいるが何事にも
全力を尽くし、何度失敗しても堂々と身体ごと
ぶつかる姿はスゴいと思ってる」





眉一つ動かなくとも 言葉に、瞳に気配に

込められた"心"には一点の曇りが無かった


彼女の頬が、ほんのりと赤く染まる





嬉しい台詞ありがと…アナタがもし男だったら
恋人として付き合う事もちょっと考えたかも」


「私は男なのだが」


「例えばの話よ おバカさん」


軽く指で小突かれ、頭を擦った

"そうか"と呟き微かに笑うのを見て


さっちゃんも…宵闇の光に映える笑みを浮かべた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:少しばかりズレましたが、お月見ネタ


銀時:なぁ 月が絡むなら普通ここに
出てくるのって月詠じゃね?


狐狗狸:ストレート過ぎるし メギネ篇で
乙女ちっくなさっちゃんが可愛かったから
敢えてその辺りを押し出してみました


神楽:某サイトの影響もあるだろーけど
あんましつこいと相互取り消されるアルよ


新八:まあ、影響されるほどいい作品
ある所だって宣伝しておこうよ


全蔵:お前らいいのかそれで…てか久々に
出番だと思ったら結局こんな目に合うのかよ


さっちゃん:余計な口叩いたアンタはソレで十分よ


狐狗狸:…まー今後に期待しなって




女の子相手でも違和感無くまとまる辺り
ウチの子は"魂の漢娘"なんj(ピチューン)


様 読んでいただきありがとうございました!