「よーし今から行うから見ててくれ!」


「了解した いつでもどうぞ」





人目も少ない給水場にて呼び止めた桂殿が

ペットのエリザベスと並び、やや緊張した
面持ちでやおら屈み始める





「うぅっ…じ、持病のシャクが…」


『それは大変だ!すぐ参りましょう』


すかさず看板を掲げ、ひょいっと
エリザベスが桂殿を抱え上げ


顔を合わせた両者がこちらを見やって





「『私達 結婚します!!』」


ほぼ同じ速度で台詞と看板が飛び出た





「おぉー練習したのか?すごいぞ二人とも」


「タイミングもトレーニングもバッチリ
済ませたからな なっエリザベス!


桂殿を抱えた体勢のまま頷くエリザベス





「息もピッタリで気合十分だな」


「ふふ、今年の文化祭はオレ達の漫才が
盛り上げるから大いに期待しておけ?」


「何やっとるんじゃぬしらは」







打っていた拍手を止めて振り返れば


月詠先生が私達を静かに見つめていた





「おお、こんにちは月詠先生」


ん?おお…どうやら今日は特に怪我なく
無事に過ごせたようじゃの


「む…お陰さまでどうにか」











「マナー遵守してんなら嗜好に
ケチつけないように」












「して、ぬしらはこんな所で何をしていた?」


「今度の文化祭でやる出し物のネタを
見てもらってた所です、先生もどうですか!


「いや遠慮しとく」





意気込んでいた桂殿が その一言で
空気が萎んだように落ち込むと


先生は少し困ったようにこう申した


「そこまで落ち込みなんし…折角だから
当日までの楽しみにさせてもらいんす」


「お、おお!そうですね、楽しみは
取っておくのが一番ですからね!!」


「よかったな桂殿」





共に笑うと 柔らかい目をしていた
月詠先生が一つ息をつき、姿勢を正す





「しかし文化祭に向けて気が逸るも
分かるが、勉強を疎かにしてはいかんぞ」


「心配は無用です!この漫談と勉強は
キチンと別に対処してますとも!!」


「…その真面目さが成績に影響しとったら
わっちゃ何も文句は無いんじゃがな」


「面目ない 横文字はどうにも苦手なのだ」





漢字の読みならまだしも、英文字となると
語学堪能な兄上に遠く及ばぬ





「気にするな、この世の中
勉強ばかりが全てではあるまい!」



「同感じゃがそれはわっちの台詞じゃ…
まあいい、所でぬしら銀八を見なかったか?」


「すまぬが見ておりませぬ」


「何かあったんですか?」





先生は凛とした顔つきで緩く首を振り


「いや、例の生徒の件で相談があってな…
会ったらわっちが探していたと伝えてくりゃれ」





それだけを告げると、廊下の向こうへ去っていく







「そう言えば…謹慎を受けたのは
月詠先生のクラスだったな」


「うぬ、タバコの一度くらい何故家まで
我慢できなかったのだろうな」





生徒の喫煙が禁じられているのは学校ならば
至極当たり前の規則なのだが


それを守れず、或いは自ら破る為

進んでタバコを吸う者はどこにも必ず現れる





厠にて見つかったその生徒もその一人





「全くだ 学校にいる以上は
校則をキチンと守らねばならんと言うのに…」


「桂殿の言う通りだな、第一タバコは
身体にも兄上にもよくない」


『自分だけじゃなく周りの人にも迷惑かかるし』





エリザベスの意見に頷いていると、ふと
思い出したように桂殿が言う





「喫煙と言えば…先程話題に出た銀八先生など
所構わず歩きながら吸っているな」


『たまにデカいアメで誤魔化すけどね』





それについては半ば諦め交じりで
周囲から受け入れられているようだ







銀魂高校は、理事長も煙草をたしなむからか
同じく喫煙をする者にはある程度寛容で

小さいながら教員用の喫煙所が設けられているが


それでも喫煙自体はやはり歓迎されず

教師とてここで煙草を吸うものはごく少ない





…にも拘らず、誰の目も場所もはばからず

あまりにも堂々と煙をくゆらすのが銀八先生の常だ


私も一度は禁煙を奨めたが
相手にされなかったのを覚えている







「常々あの喫煙癖をどうにかせねばと思ってたが

…いい機会だ、月詠先生の言伝ついでに
学級委員長として説得しに行かねば!」


「おお、職務熱心だな桂殿」


『でも説得材料はあるの?』





首を傾げるエリザベスへニッと笑う桂殿


「その点については抜かりない…がオレ一人
説得に言っても取り合ってもらえるか…」


『せめてもう一人、誰かいれば…』





む?何故二人ともチラチラと私を見るのだ?


後ろには誰もおらぬし…私の顔に何かが
ついてでもいるのだろうか?





「すまぬが一旦厠に行っても構わぬか
少し鏡で顔を確認しておきたい」


「『いやいやいやいや!空気読んで空気!!』」


おお、またもや息がピッタリだな二人とも





やや頬を赤らめつつ咳払いをし 桂殿は言った





不都合が無ければオレと共に
先生を説得に行かぬか?」


「む…了解した」









私達はエリザベスと別れた後


折りよく準備室に戻ってタバコを吹かしてた
先生を捕まえ、言伝を伝えると

間髪入れずに本題へと続ける


「「先生 禁煙してください」」


「つーか何で銀河系バカ二人揃って
オレへの禁煙陳情しに来るわけ?ねぇ」





普段通りのとろんとした目でタバコ咥えつ
眉根を寄せて先生は言う





「オレ以外にも吸ってるヤツ結構いるよ?
教師とか生徒とかさぁ〜そいつらから
まず先に奨めるべきじゃねぇの?そういうの」


「こういうのはまず足元から固める、すなわち
身近から攻めるのが定石ってモノでしょう!」


「そういうエラそーな物言いはヅラを外して
カミングアウトして出直してからにしろ」


「訴えますよ先生 何度でも繰り返しますが
これは正真正銘地毛ですから」






…飽きずに繰り返された言動ではあるが
何故ゆえ先生は桂殿の頭髪を疑うのだろうか?


まあいつもの事なので深くは追求せぬが





「そーいう元から絶とうとかするヤツがいっから
タバコ税とか東京都青少年健全育成うんちゃらとか
ワケ分かんねぇ法律がポコポコ出てくんだろーが」


「東京都青少年健全育成条例だったはずです先生」


「はーい訂正ありがとよKY娘


「先の条例についてはオレも否定派ですが
それと所構わぬ喫煙とは別問題だと思います!


教職である以上、生徒への示しをつけるべく
禁煙を生活に取り入れて下さい!



「だーから無理だってオレ煙吸わないと
生きられないし、むしろ煙がオレの一部ですぅー」


「ならせめて校内だけでも禁煙しては」


どうか、と言いかけた言葉を差し止めて





「いや先生の場合、元から絶たないと意味がない
そこでこちらから提案があるのですが」





不敵に笑った桂殿がおもむろに取り出したのは


「この機会にぜひ、巷で流行りの
電子煙草へ切り換えてみませんか先生!」





なにやらタバコらしきモノの描かれた用紙だった





「「電子タバコぉ?」」


「そう!日々進歩する科学が生み出した
奇跡の禁煙グッズです!!」








そのまま流れるように行われた説明を要約すれば





タバコのニオイの水蒸気で、吸った気分を味わい


使用者も周囲も問題なく過ごせるようになる
正に驚くべき機械とのこと






「今なら専用ケースにカートリッジもニ個つけて
特別価格一万円!お買い得ですよ先生!!」



深夜通販ショッピングの回しモンかテメェは!
そもそも薄給のオレにゃそれでも高ぇよ!!」


「後々の事を考えれば安いですし、おじさんの
ツテで融通利「それはもういいっつーんだよ!」


「先生…確かに値段は高いが、それを考慮しても
買って損は無いシロモノだと思うのですが」





桂殿の後押しをすれば メガネを少し上げ
先生は深い溜息を一つ





「…どっちかからのプレゼントってーなら
まだありがたく使わせてもらうけ「「断る」」
間髪いれず即答ぉぉぉ!?


「兄上にならまだしも
先生にそんな高価な物を買う気はない」


「じゃあ何か、もしオレが兄貴だったら
お前買ってくれんの?電子タバコ」


「当然だ」





……む?どうして二人で私を見て固まるのだ





「いやっ、ダメだぞ
こんないい加減な大人が兄だなど!!」



テメェに言われたくねんだよヅラぁぁぁ!
つーかあくまで仮定の話だろうが!!」


「よく分からぬが落ち着け桂殿、先生のような
だらしのない男は兄上と同等になりえぬ故」


「あーそうかい こっちもテメェみてぇな
能面でKYの妹なんざゴメンだね!」








よく分からぬ騒ぎで禁煙の話題をうやむやにした
銀八先生は 準備室から私達を追い出すと


言伝に従い月詠先生を探しに行った









説得失敗か…手ごたえはあったのだが
詰めが甘かったようだ、すまぬな


「気にされるな、桂殿は十分健闘しておったぞ
こちらこそ差して力になれずすまぬ」





頭を下げれば 桂殿は先程同様強くかぶりを振った





「何を言う!お主が共にいてくれただけで
どれだけ心強かった事か!!」



「そ…そこまで言われる程の者でも無いぞ」





妙な力強さに少し驚かされたが…





「だが、微力ながらも力になれたなら嬉しい」


言いつつ笑えば、何故だか赤くなりつつも
桂殿も"そうか"と頷いた





よし、まずは先生に歩きタバコだけでも
止めてもらう説得から進め直すか」


「小さな事からコツコツとだな桂殿」





廊下で新たに熱意を燃やすその横顔を見て


何故だか心が…少し温かくなった気がした








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ぶっちゃけタバコ話と月詠さんと
冒頭のエリザベス抱っこが今回のポイントです!


銀八:色々間違ってね?てゆうか月詠も
とっつぁんも吸うのに何でオレだけ糾弾対象?


月詠:わっちはキチンと喫煙所で携帯灰皿
持参して吸っておりんす


桂:校内でのべつまくなしに歩きタバコを
行ってるのは先生だけだからです!


エリザベス:『二人とも相手の嗜好は否定しないが
ある程度ルールは守って欲しいだけなんだよ
(特に桂さんは真面目だから)』


銀八:校内にオメー連れてきてる時点で一名
ルール破ってんだろ!つーかまさかあとがきで
参戦するとは思わなかったわ!


桂:エリザベスにだって参加する権利はあります


狐狗狸:いやー…殆ど台詞だから表現しづらくて
今まであんまり出せなかったんd『オィィ!』




皆さんもルールを守りつつ、楽しい一時を!


様 読んでいただきありがとうございました!