七月の中くらい、扇風機がこわれました
ただでさえクーラーのないシケた万事屋で
唯一の命綱が夏の熱光線にとうとう負けました
さっちゃんはドMなので
「この暑さがたまらないわ!さぁ銀さん
一緒に汗をかいて暑さを楽しみましょぉぉぉ!」
「ガマン大会なら一人でやってろぉぉ!!」
とか言って蹴飛ばされて蒸しブロみたいな
万事屋に放置されてたけど
銀ちゃんも私ら従業員も、こんな地獄のような
職場で仕事なんかできないアル
ババアの所はクーラーついてるけど
銀ちゃんが家賃滞納してるせいで
避難させてもらえなかったヨ
「あークソ…死ぬ、一旦どっか金のかかんねぇ
涼しいトコで休まねぇとマジ死ぬコレ」
「だから支払い分とっときましょうって
言ったのに パチンコに全部つぎ込んで…」
「いや今度こそがーっと出そうだったから
これで来月の分まで確保できるかなーって
もうちょい食事グレードアップできるかなーて」
「元がこんなマダオじゃ、グレードアップも
バージョンアップもムリアル」
って言ってみたらまたガーガーわめいてたけど
照りつける殺人光線の熱気にやられてか
ほどなく銀ちゃんは黙りこんだ
「……よし、アイツん家いくか」
と思ってたけど そうでもなかったらしい
「夏ネタなのに露出低くてスンマセン」
で、アイツんち行ったけど呼び鈴押しても
誰も出てこなかった
「んだよ留守か…じゃ窓からおジャマするぞ」
「それ不法侵入じゃないですか!怒られますって
いないなら諦めましょうよ」
「こちとら緊急事態ネ、涼めなきゃ私
間違いなくくたばるアル 空気読めよ新八ぃ」
「いやいや僕真っ当なこと言ってるよね!?
何でそこまで言われなきゃなんないの!!」
カサがあっても夜兎の私に太陽光は天敵ネ
それに強い紫外線で玉の柔肌が痛んだら
どー落とし前つけてくれるアルか
「しょーがねぇだろ神楽 新八なんだから
…ちっ、やっぱカギかかってんなー割るか」
「罵り言葉みたいに言うなァァ!てか壊したら
ダメだっ「うぎゃあぁぁぁ!」て銀さぁぁん!?」
対侵入者用のヤバいトラップが作動したので
私達は命からがら どうにか屋敷を逃げ出したネ
「あ…あのヤロ…なんつー凶悪なセコムしかけてんだ」
「だから言ったじゃないですか諦めようって
あとで怒られたら銀さんのせいですからね?」
「うっせー…あーもーこうなったら腹括って
源外のジジィに扇風機の修理頼むかー…」
「何言ってるネ、まだんトコが残ってるヨ」
言った途端 銀ちゃんの顔が引きつった
「いやー、アイツんトコはなぁー…」
新八と私は顔を見合わせて確信する
"やっぱ絶対、何かやらかしたに違いない"と
でなきゃ真っ先に避難所の候補にあげてるネ
「まぁとりあえず、行くだけ行って
頼んでみましょうよ」
新八の一言に背も押されたし、背に腹を
変えられない状況も手伝って
涼を求めてピーマン兄妹の家までたどりつく
「スイマセーン、誰かいませんかー」
「あーこりゃ留守だなカギかかってっし
ムリだよムリムリ他当たろう」
ジョーダンきついネ、これ以上外歩いてたら
脱水で三途渡るヨ私!
「ちょっと貸すアル…ふん!」
軽く力をこめれば、ちゃんと玄関は開いた
「単に立て付けが悪かっただけネ」
「いや今壊したよね!バキっていったよね!
つかどうすんのその取れた戸口ぃぃぃ!!」
うるさい新八無視して、適当なトコに
戸口を立てかけてると
「うぉっ…何で外より中がアチーんだ…」
言いかけて 銀ちゃんが入らず固まる
そこで入り口を覗き込んでみると
何でか外よりも凶悪な熱風が吹きつける
廊下の少し先に、がいた
…ただし うつ伏せに倒れてて明らかに
三途ってる真っ最中だったけど
「「熱中症で死にかけてるぅぅぅ!!」」
人間必死になれば暑さを無視して動けるもんアル
オーブンの中みたいな家にふみこんでみれば
原因はクーラーのはき出す温風だと分かって
即座に"冷房"に入れ替えて 冷蔵庫からも
あるだけ氷を取り出し、分担して動けば
部屋が涼を取り戻したあたりで、も
どーにかこっちに戻すことが出来た
「毎度危機一髪アルな、今度はなにが
三途行きの原因ネ?」
「兄上が戻られるまで部屋を涼めんと
冷房を入れたが…何故か暑さでモウロウとして」
「間違えて暖房入れたんなら、倒れる前に
気付きましょうよ!」
そこはバカだからしょうがないアル…それより
「センスが悪いのは知ってるアルけど
ずっとそんな厚着してたら、倒れても当然ネ」
呆れ混じりに言いつつ私はの服を指す
いつもの作務衣の下には、冬に着る長袖の
アウタースウェットが着こまれてた
しかもボタンきっちり全止めで
…なんで私がいくつか外して空気を送ったネ
「そう言えば、この間からずっと
厚着してますよね?どうしてですか?」
聞く新八にも やっぱりアイツは答えず
無表情のまま首振った
「それは言えぬが…ともかく
新八、神楽 助けてくれて誠に感謝する」
「おーい誰か忘れてないか?ちゃんよ」
「して二人は何故ゆえここへ?」
「あの、さん…三人なんですけど」
「…おかしな事を申すな新八、ここには
お主ら"二人"しかおらぬだろう」
「おいゴラァてめっオレは無視」
ひとカケラも人らしいあったかみのない
視線を浴びせられて
掴みかかった銀ちゃんが 逆に引かされた
…こないだからずっとこの二人の間で
こんなやり取りが続いてる
私や新八には普段通りなのに
銀ちゃんにだけ、絶対零度の対応アル
どっちに聞いても今まではぐらかされてた
けど もうこれ以上ガマンできないヨ
「…これだけさんが怒るなんて
一体何やっちゃったんですか?銀さん」
「お前らの態度見ててイライラするアル
いーかげん白状するヨロシ」
アイツがお茶を入れにいったスキに
一斉に詰めよれば、視線をチロチロ泳がせ
「…オレは単なる親切心で行動したんだよ」
この一言から続く銀ちゃんの言い訳を
簡単にまとめれば、つまりこーいうことだった
ふと、蚊が入ったのを見かけたから
刺される前に退治しようと 腕を取って
作務衣の袖を二の腕までまくったら
に全力で嫌がられたらしくて
「あ゛ん?腕見せんのが嫌なら長袖でも
着て厚着でもしとけっつーの!」
って、思わず逆ギレ起こして叫んだら
「そっからだよ…マジでが厚着したのと
オレへの態度がツンドラ並の北極んなったのは」
私達はも一度顔を見合わせて、納得してうなづく
「あっちも少し過剰反応してはいますけど…
それ、要は自分のせいじゃないですか」
「今回の三途行きの半分も銀ちゃんが原因ネ」
それでも何か文句を言おうとした天パが
お茶持って戻ってきたアイツを見て固まる
「二人とも 茶が入ったぞ…
そんな壁際に寄ってどうしたのだ?」
無表情だけど、この様子じゃまだ根に持ってるヨ
銀ちゃん いまだ完全に"いないもの"扱いアル
「正直アイツ、人の存在無視すんの上手すぎだろ
…流石の銀さんも限界に近いわコレ」
いー大人がうっすら涙目になってるって
どんだけ情けないアルか、このマダオが
「あのー…さん」
「む?どうかしたか新八」
「こないだの件は、確かに銀さんが悪いけど
本気で言ったわけじゃ無いんだし…
謝ったらお互い様って事で許してもらえませんか?」
お、新八の割にはいいこと言ったネ
「そうヨ とっとと下らない争い終わらせて
楽しくくつろがせてもらいたいアル」
水を向ければ、ちょっととまどって
緑色の目が何かを待つように銀ちゃんを見る
「え…ちょっ お前ら何その目?
ひょっとしてオレが謝んなきゃダメな雰囲気?」
「当たり前でしょ?自業自得なんだし」
「いやでもアイツだって悪い部分あるわけだし
オレが先謝るってのは何かおかしくね?」
「煮え切らないアルなーまず反省の態度を
自分から示すのが大人の男ネ」
「…わーったよ!デリカシー無くて
スンマセンでした、許してください」
よーやく腹括って、観念して頭下げる銀ちゃん
「分かった 私も意地を張ってすまなんだ」
こっちも素直に謝ったから、これで元通りネ
って新八と顔つき合わせて笑ったら
「さーて謝ったからにゃ、今度は無視られてた
オレの心の痛みについて落とし前つけてもらおか?」
銀ちゃんがまたぞろロクでもないこと言い出した
「…許しあったのでは無かったのか?」
「るせー!それとこれとは別問題だ!」
「落とし前って、一体何させる気ですか?」
「あん?まー簡単にアイス全員分おごりと
たまごアイス目の前食いで勘弁してやらァ」
あー"たまごアイス"ってアレアルか
丸くて中身白くて 吸って食べるヤツで
食べ終わるとミョーにヒワイな形になる…
「「何考えてんだエロ天パあぁぁぁぁぁ!!」」
いやらし顔でニヤつく銀ちゃんを、新八と
二人で蹴っぽっといた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:夏の暑さにやられて三途はまだだったと
思い、熱中症ネタで一つ書いてみました
新八:動機がそこ!?それより何気にあの人の
屋敷でのやり取りが含まれてんですけど
狐狗狸:しょーがないよ、MGSだし
銀時:それで済ませんじゃねーよ つかも
今更腕まくり程度で騒ぐんじゃねぇよ
神楽:何言ってるネ、乙女の二の腕無断で
まくるなんて十分セクハラアル!
狐狗狸:たまごアイスをセレクトしてる部分でも
その辺り反省してませんしね
銀時:…無視の次は糾弾責め?本気で泣きそう
新八:にしてもさん、冗談抜きで
機械音痴ですね
神楽:そこはバカでピーマンだから仕方ないアル
何だかんだいってガードの固いウチの子でありました
様 読んでいただきありがとうございました!