肌にまといつくような湿り気は、空を覆う
雲が濃さを増すと共に強まっていく
…じき、雨が降り出すやも知れぬ
「梅雨とはいえ、安定せぬ天気だ」
ため息をつきつつ私はもう一度
真撰組屯所の門前を見やる
気は重いが…非は私にある、腹を括らねば
「…ワザワザ何しに来たんでぃ薄情モン」
隊員に呼んでもらい 顔を出した総悟殿は
冷めた目でこちらを見下ろしていた
「その…昨日は誠にすまなんだ」
「へー、薄情モンのクセに今更謝りにくるたぁ
殊勝なトコがあんじゃねぇかぃ」
許してもらえると思わぬが…謝らねば気は済まぬ
瞳孔マヨ殿抹殺の最中、急な仕事とはいえ
抜け出したのは私なのだから
「迷惑をかけたのは承知している…だから
今日は詫びにどのような役割も協力いたそう」
瞬間、向けられた眼差しが細く眇められる
「へぇ…その言葉、二言はねぇだろうな?」
「無論だ 二言は…ない」
「じゃー、服従の証としてコレつけろぃ」
言葉と共にどこからともなく手渡されたのは
頑丈そうな 金属製の首輪
重い鋼のソレは囚人の枷を思わせ、端から
繋がれた鎖の先は総悟殿が握っている
「獲物にかけるドSの執念は鳥肌モノ」
「あの…これは…?」
「一日下僕志願ってことでいいんだろぃ?
イヤとは言わせねぇぜぃ」
……先程の言葉通り、二言は無い
それに非のある私に選ぶ権利は無い故
一日従うという要求は構わぬのだが
これを着けねばならぬのは些か抵抗があった
枷には…苦い思い出しかない
「ああ、バカだから付け方分かんねぇか
じゃー特別に他のに変えてやる」
軽い口調で首輪を取り上げられて
ほっと息をついたのも束の間
「安心しろぃ 厠ん時くれぇは外してやらぁ」
片腕を取られ、そこに銀色に光る
手錠の輪をあてがわれて
「っふわぁぁ!」
思わず間接を外して腕を引き抜き様
総悟殿から少し距離を取る
…何をしているのだ、私は
漂う気配がどこか不穏であったことと
刹那ちらついた"逮捕"の不快さに反応したといえ
これでは約束を違えてしまうではないか!
「す…すまぬ総悟殿、つい」
遅い謝罪を述べつつも改めて腕を出そうとし…
「いつになくワガママじゃねぇか
まずシツケが必要だなー?」
薄笑いを浮かべ手錠の輪を開閉させながら
近づく総悟殿の目が妙にギラついていて
それが何故か とても恐ろしく見え―
気付けば後退さった先の壁へ槍を突き立て
駆け上ると、その場から走り出していた
が 相手は易々と見逃してはくれない
「待ぁちやがれぇぇぇぇぇー!!」
放たれた弾丸の直撃を辛うじて避け
振り返って見下ろせば、どこから出したか
バズーカ担いだ総悟殿が笑う
「逃げたいなら逃げてもいいぜぃ?
ただし、捕まった代償は覚悟しとけよ」
その場で目を閉じ、数を数え始める相手を見て
"逃げなくてはいけない"事と
"捕まってはならない"という二点だけは確信し
迷わず私は街へと走り出していった
「一体何故ゆえ、このような事に…?」
身を潜めた路地裏にて気配を窺いつつ呟く
時折総悟殿に殴られたり蹴られたり
妙な言葉を吐きかけられることはあったものの
それなりには、仲良くやっていた筈だ
…しかし現に恐ろしい気配におののいて
何故か私は身を引く姿勢をとり続け
結果 全力で街中を逃げ回る羽目に陥っている
このままではいかぬのは自覚しているが
一体どうすれば…
「、何やってるアルか?」
「ぬぉっ!?…あ、かっ神楽か」
「どしたネそんなビクついて」
振り返った私を見て、さも不思議そうに
首を傾げる神楽
…まあ事情を知らぬ故 当然か
「よく分からぬが…どうやら追われてるらしい」
「追われてるって、またハンターアルか!?」
「いやあの者達はもう江戸にはおらぬと思うが」
「見ィつけたぁぁぁぁ!」
唐突に上がる声に突き動かされて一歩引けば
先程までいた場所にバズーカの弾が着弾し
生み出された煙に、辛うじて避けた神楽共々むせる
「おーいチャイナ どいてねぇとケガするぜぃ」
「注意遅ぇんだヨ!お前ワザとだろ!」
納まりつつある煙の向こうから近寄ってくる
総悟殿を認め、慌てて踵を返すが