厠を出て何とはなしにテレヴィジョンを見れば


偶然にも、銀時が懸想する女子アナウンサーの
占いが始まったところであった





『今日一番ツイているのは蟹座のアナタです』


ほう、これは早朝から幸先がいい





『特に蟹座で長い黒髪でちょうど厠から
出てきたアナタ…思わぬ縁を深められます』


おお!正に今のオレではないか!





思わぬ縁…これは銀時やあやつを攘夷志士に
引き込める吉兆と見ていいな


と俄然気持ちが上向いていたのも束の間





画面の女子アナウンサーはにこやかな笑顔のまま





『但し、女性…それも猛々しい獅子のような
知り合いの方が災難を運ぶかもしれませんので
浮かれて 努々油断なされませんように





何とも不吉な事を言い捨てたのだった







「…全く、世も末だ」


「アンタも占いなんて気にするタチなんだ」





眉をしかめソバをすするオレを見て、幾松殿は
面白そうに小さく笑う





「巷では"よく当たる"と評判のようだが
所詮は占い、さして気にするまでも無いさ」


「確かラッキーカラーがピンクで
アイテムが…鼻メガネっつってたっけ?」


「これは変装用具の帽子と鼻メガネだ」


やや食べるのにうっとうしいが、一応は
オレも攘夷志士として追われている身だからな











「占いは都合のいいトコだけ信じよう」











「まーアンタがそれでいいんならいいけど別に
金さえもらえりゃ客は客だから」





察してもらえたようで助かる…にしても


本気でうっとうしいな、帽子と鼻メガネ


変装に必要な装備といえ 気になるし視野が
狭くなってソバつゆ飛ぶし…ああ食いづらい!





"女性…それも猛々しい獅子のような
知り合いの方が災難を…"か、しかし

幾松殿は当てはまらんな(獅子座でもないし)





梅雨の時分で客目も少ないことだし

一時くらい外しても構わんだろう


正直鼻メガネが邪魔で食いづらいからな







「腹へったー!すんませーんラーメンひ…!?





変装を解いた、正に直後


ガラリと開いた扉から現れるは…近藤!?





テメッ桂ぁ!ここで会ったが百年目ぇぇ!
神妙にお縄につけぇぇぇぇぇ!!」


「断る!こちらはまだ食事中だ!!」


「ソバなら後で取調室に差し入れしてやるから
今は大人しくお縄につけって!」


「む…いやいやいや!そんな条件にオレが
乗ると思うてかぁぁぁぁ!!」





何ぞと言葉の応酬を交わしつつ距離を詰める
相手から退がりながら 逃亡用のんまい棒を


取り出した刹那、背後から衝撃を食らう





「店で騒がれると迷惑なんだよ!
あんたら二人とも出ていきな!!」






鉄鍋構えた幾松殿に 物凄い剣幕で怒鳴られ

近藤共々 店の入り口に締め出された







「…えーと…何かその、スマン」


「気にするな、こっちこそラーメンを
食いそびれさせた…詫びにこれをやろう」


「ありがたい腹が減ってたトコだ
んじゃ、このんまい棒ありがたく頂くわ」





思惑通りに封を空けた途端、立ち込めた煙
(と悲鳴)に乗じてその場から逃げ出した









「くっ…とんだ災難だ」





まだソバ半分ほど食べ残してたのに…

どころか、朝から余計な体力使った


おまけに鼻メガネも落として紛失した





…いやまだ帽子は残っているし

"思わぬ縁"が成就するチャンスはまだある!





気を取り直し帽子を被り 顔を上げれば





「あ、桂殿 こんにちは」


側の植え込みを裂いて、が現れる





「おおこんにち…どうしたそんなボロボロで?」


「兄上への宅配便ゆえ失礼致「いや頭から
説明頼む、歩きながらで構わんから!







…どうやら今朝、槍の稽古から戻ると
既に兄はどこかへ出かけていたらしいが


リップクリームを置き忘れていることに気付き

届けるべく勤め先まで進む最中、災難
巻き込まれて回り道をしたとの事







「何とまぁ…相変わらず難儀な奴だな」





共に歩むそのままで ふい、と緑眼が見上げてくる





「して、何故ゆえ桂殿はついて来るのだ?」


「いや特に用向きも無いので お前の用事に
付き合おうかと思ってな」


「そうか」





ふふ…今度こそオレはやるぞ!


例え占いの一件があろうと、帽子もあるし


"猛々しい獅子のような"知り合いでなければ
こやつの縁を深められるやもしれん





知識さえ足してやればの持つ力と
真っ直ぐな志は、必ずや革命のプラスとなる!








度の強い兄崇拝と所々の抜けている所作に
ついては、まあ諦めるとして…ん?





「肩口にくっつき虫がついているぞ、ほら」


「おお すまぬな」


「何だ頭に木の葉まで乗ったままだ」


「茂みの中を歩いていたのでな」


「取れた…頬からも血が出てるぞ?まったく
女子なのだから身なりに気を使わんか」


面目ない、しかし気にされるな
この程度の傷なら放っておけば塞がるゆえ」


「ダメだってそんなんじゃ…
手当てするからじっとしてなさい


「どこのお母さん?」





聞きなれた声音へ顔を向ければ


スーパーマーケットの駐車場に止まる単車に
寄りかかり、いちご牛乳あおる銀時と目が合う





何だ銀時、こんな所で会うとは奇遇だな!
ぜひともお前も攘夷浪士として江戸の明日を」


「一人で語ってろ、オレぁ鬼の戻らぬ間に
息抜きしゃれ込んでんだからよぉ」


「鬼?」


「あのババアが大家の権限でこっちを
特売の足代わりにコキ使ってやがんだよ」





その台詞に、オレの脳内で占いの忠告が甦る







お登勢殿は元来から 気性の荒々しい女傑

もしや彼女こそ災難を運ぶ存在か!?





どうする…ここは引くか、それとも敢えて


「それは大変だな、私も兄上へのお届け物が
無ければ手伝う所なのだが」


マジ?助かるわぁーババア今日も緑茶
箱買いするっつってたし一雨来るらしーし」


「いや手伝うと言うておらぬ…第一兄上への」


んなもん後ででも大丈夫だって、兄ちゃんも
人助けの後だったら許してくれるって」





って何か勝手に話が進行してるし!?





待て銀時!何故そこでオレを頼らん?」


「テメェはお呼びじゃねーから帰れヅラ
荷物持ちは一人で十分だっつの」


「素っ気無い奴め、今度攘夷会議に出席すると
誓うならここは退いてやらんでもないぞ?」


「ホント帰れお前だけ、ウザイから帰れ
頼むから帰れ三百円あげるからぷよぷよして帰れ」



「ぷよぷよとは何なのだろうか?」





なっ…の奴、あの名作を知らんとは!





「あん?そりゃーパイオツみたいなのが
二つ並んで落ちてくんのを重ねてだな」


「落ちゲー至上不朽の名作だぞ〜アレは!

筐体を挟み白熱する連鎖!右方向のみの回転!
迫る制限時間と共に増加するおじゃまぷよ!!


「何で旧アーケード版んんん!?古りーんだよ
今じゃ時代はフィーバーだっつーの!!」



「路上で喧しいわおのれらぁぁぁ!!」


背後から現れた仁王立ちのお登勢殿に

揃って横殴りにどつかれた





イダっ、買い物じゃなかったのかよババア!」


「とっくに終わったわ!とっとと荷物を
運んどくれ!今日は三箱もあんだから早くしな」


「買い過ぎだろぉぉ!?流石のオレでも
運搬量オーバーなんですけどぉぉ!!」



「情けない男だねぇ…と帽子のアンタ
ちょいと積むのに手伝っとくれよ







有無を言わさぬ迫力で店内へ引っ張られかけ


隣で惑うの目が、虚空で留まった





「ん?どうしたんだぃ…ありゃ火事の煙かねぇ」


「兄上の勤め先の方角…!?兄上!!





瞬間 煙の立ち上がる方へ駆け出す





「ちょ、何処へ行くのだ!待たぬ…グエ


「逃げようったってそーは行くかヅラぁ!」


「野郎二人いりゃスグ用は済むだろう?
とっとと荷積みを済ませてからにしな!







…後ろ襟を掴む銀時と肩口を握るお登勢殿に
強制連行され 腕がやや痺れる思いを
しながらも手早く荷運びを終えて


解放された頃にはあの煙も消えてはいたが

やはり気になって、オレもそちらへと足を向ける







ほどなく ある通路にて別れた顔を見つけ出す





「ったく駆けつけ様に死にかけんじゃねーよ!
余計な手間増やしやがって」


「面目ない」


「いや辰巳さん、こいつのはある意味
不可抗力だからあまり責めないでやってくれ」


「原因作った兄ちゃんは口出しすんな!」





…あやつと共にその場に正座し、火消し姿の
女子になにやら険しく説教されているようだ





「何だ、何かあったのか?」


「誰だよコイツ 兄ちゃんらの知り合いか?」


「かつr「ああ、まあそんなトコだ」


苦々しい顔で呟くその隣、火消しの女子が
いまだ眉をしかめて舌打ち一つ





「水元の見回りやってる最中に煙騒ぎ
来てみりゃコレだよ、紛らわしい」


「だから悪かったって、たまたま誤作動で
グレネードの煙が漏れたんだって!」


「なるほど…で、は何故正座を?」


「煙にむせて気が遠くなった」





災厄に見舞われやすいとは知ってたが…





「まあ何はともあれ二人も反省しておるし
ここは許してもらえぬか?辰巳殿」


やかまし黙ってろ部外者、こちとら
今朝から二度目の煙騒ぎで参ってんだ」


すげない返答と、"二度目"の単語に固まるオレへ





「そういえば今朝方も近くで煙を見たな
いたのは兄上ではなく勲殿だったが…」





更に追い討ちが 無表情のままかけられる





「…なんでアンタが固まってんだ?まさか」


いやオレは知らんぞ!全然関係などない!」







こちらを疑わしげに見やり、ややあって
ギッと鋭い視線がへと向く





「現場の近くにいたなら テメェ何か見てねぇか?」


「…人は見ておらぬが、モノなら拾った」





言ってすかさず懐から取り出されたものは、


あー!オレの鼻メガ…しまった!!」


「「テメェかぁぁぁぁぁ!!」」





二人分の体重が乗ったフライングキック
オレの顔面目がけて炸裂した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:話的には原作の四十五訓みたくなりました
ボキャ貧サーセン、個人的には女子とかぷよ話とか
お登勢さんと原付で買い物銀ちゃん書けて満足


桂:知らん!結局占いは災難しか当たらなかったぞ


狐狗狸:"思わぬ縁"もちゃんと当たってますよ

…あとラッキーアイテムのお陰で真撰組に
見つかってないでしょ?今までのやり取り内で


桂:おお!本当だ!!


銀時:あっさり騙されてるぅぅ!バカだコイツ!


幾松:バカなのは今更じゃん


お登勢:つーか誰が獅子のように猛々しいって?


狐狗狸:…いや銀魂のスタメン女子はほぼ全員
猛々しいつか男前ですよ(も含め)


辰巳:にしても兄ちゃんといいアイツらといい
こっちの手間を増やすなっつーの


狐狗狸:ごめんね辰巳さん、初出演がこんなで




後日談として、後でお兄さんも保護者として
辰巳さんに怒られてます(蟹座だから)


様 読んでいただきありがとうございました!