頭の妙ちきりんな行動は今に始まった事じゃない


女子に対し片っ端から懸想する
節操の無さもまたしかり…じゃが





こいつを探すんは骨が折れたが…
ちゃんが喜ぶなら安いもんじゃな」





馴染みのキャバ嬢でもない女子の為に
ワザワザ私用で星ば寄って


あげな面倒な事を自分でやるまでになると

流石のワシもちぃと心配になってくる





「おんし…あの女子の何処が気にいっちょる?」





溜息交じりで聞けば、頭はシートに
もたせた頭を傾けニカッと笑う





優しゅーて素直ないい子じゃぞ〜!ただ
ヅラや高杉みたく真面目で不器用で固いき
どーしても笑顔にしたくなるっちゅーかのぉ」


「然程濃い付き合いでもない女じゃろうに
よくまぁそこまで言えるもんじゃ」


「なんちゅーか陸奥にもソックリなんじゃな
おんしら二人とも、もっと笑えばええがじゃ





能天気に笑う様が腹立たしかったきに


とりあえず力一杯ふぐり踏み潰しといた







ワシらの船は基本、真っ当な商いで
なりたっちょるが どんな商売も長くやっとーと

裏の話もちょろちょろ耳に聞こえる





あこぎに稼いじょった資産家の田足一派


江戸へ縄張りを移した途端、当主の兄弟が
相次いで死に…家はとうとう没落したと





どちらの当主も"有守流"の名が少なからず絡み


特に兄の事件は江戸でも一時期
広まっとーたらしゅーて





多少骨は折れたが、漁れば
当時の新聞ぐらいは手に入った











「バカの器は案外デカい」











「やはり…苗字といい、あの娘か…?」





並んだ名は兄共々同名 年頃も合う


一目会うたのみじゃが立ち振る舞いに
隙は見当たらんかったように思うし





得体の知れん相手に振り回されて


あのバカの大義を見失わすワケにもいかん





…少し、探りを入れるとするかの











「おお、こんにちは陸奥殿
こちらで会えるとは珍しいな」


「まぁ地球で仕事をしたついでじゃ
間があるき、話し相手になってくれろー」







了承を得て、近くのベンチに腰ば据える





「辰馬殿はまた迷子なのだろうか?」


「そうならんようあのバカは別の仕事と
見張りば押し付けてきた」


「なるほど…流石は陸奥殿、鋭き判断だ」





眉一つ動かさず言うとは…本気か?


それとも単なる世辞じゃろーか?





商売柄 腹の探りあいは慣れっこじゃが


どうも面と裏腹に、言葉や仕草に
一物あるようには見えん





「そう言えば辰馬殿から聞いたが
お主らの会社は宇宙を回るとか」


「ああ、それがワシらの商売じゃからな」


逆に何か探りに来たか、と相手の言葉に
台詞ば選んで牽制するが





「するとお主らはもっと沢山の世界や
美しき景色も、目にしているのだろうな」


…ああ、そうとばかりも限らんぜよ」


「そうなのか 大変だな」





掴み所の無い返答でするり会話が抜け


意図が図れんで苦戦し、溜息をつく





「……思ったより手強か女子じゃき」


む?何か申しただろうか?」


「気のせいじゃ」









表情が変わらんせいで初っ端はイマイチ
腹が読めん女子じゃったが


言葉をいくつか交わして行く内


段々と、分かって来た事がある







「ウチのバカ頭と仲がいいそうじゃが
…セクハラとかはされとらんか?」


急く腹?…ああ、兄上がたまに客から
されるようで何やらお困りらしいが」


こやつ…奴ほどのウザさは無いが
ハッキリ言って全くの阿呆じゃ…!


いやある程度モノ知っとるだけ

あのバカのがマシかもしれんろー





……正直、女子に甘い頭に上手いこと
取り入ったと買い被って後悔しちょる


絶対"類友"で打ち解けたに決まっとー!





「…どうした陸奥殿?具合でも悪いのか
先程からため息をついてばかりだ」


「何…気苦労が多いモンで
クセになっとるだけじゃ 気にするな」


「あまりため息をつくと幸せが逃げると
兄上が仰っていた故、気をつけられよ」





本気で案じとるじゃろが…余計なお世話ぜよ







そろそろ船に戻るつもりもあって、





「おんしは有守流の使い手と聞くが…」


最後に問うか、と"有守"の単語を口にすりゃ





面構えは変わらんまま 娘の気配が一変する





「私のことを探り…どうするつもりだ?」


「…あんなバカでも頭に害があっちゃ困るき
得体ば知れん災いの芽ぇは摘むに限る





睨む緑眼に、強い殺気が宿っとる


返答次第じゃドンパチやらかすかもしれんと

懐の銃へ手を伸ばしかかり―







「アッハッハッハ、だぁーれじゃっ!」


「ぬぉっ!?」


勢いよく目ぇに被された両手
互いの動きをすんでで止める







こがなことバカ笑い上げつつやらかすんは


娘の背後に張り付く、無駄に背と
テンションば高いモジャモジャ一人





…安堵と徒労の溜息を一ぉつ漏らし





、仕事はどうした?」


笠から視線を持ち上げりゃ

グラサンの奥の瞳と 見事にかち合う





「心配せんと終わってるぜよ、じゃから
おんしを迎えに来たきに!」








言って手を離した頭へ顔を向け





殺気の失せた娘は納得したように言うた





「それで先程から後ろにいたのだな
言ってくれればいいのに、水臭いな辰馬殿」







気を取られとったといえ、そ知らぬ面で
奴の気配に気付いとったがか…この娘…!







「ついでにちゃんにちょっとした
サプライズをと思ったんろー」


「どうせ、どこぞのキャバ嬢
会うついでじゃろ」





ズバリ言い当てれば、奴の面は
一瞬だけピキリと固まっとったが


スグに気を取り直して笑い出す





アッハッハ、陸奥には叶わんの〜」


「頭のワンパターンな行動なんぞお見通しぜよ
女遊びばっかりしとーせ、いつか病気もらって
その辺でくたばる羽目になるぜよ」


「アッハッハッハ 本当いい加減に
しとくき?このクソ女ァ」



「二人とも…ケンカはいかんぞ?」





やおら不安げな娘に溜息つきつつ言葉を付く





「安心せい この程度はワシらの間じゃ
日常茶飯じゃき、なぁ頭?」


「まーの〜それよりコレ渡しに来たんじゃ!
受け取ってもらえんがか?ちゃん」





言いつつ娘の片手を取り、半ば強引に
その手の平に乗せたんは


五百円硬貨大の不思議な色合いの石二つ







「見たことの無い石だな…キレイな色だ
兄上の麗しさには負けるかも知れぬが」





素直に魅入る相手へ、勝ち誇った面で笑う頭





「この石はある星でだけ取れるモンでの〜
手にした相手は幸せになれる言われちょる」


そ、そんなスゴイものを私に…!?
しかしどうして二つもあるのだ?」


「勿論 ちゃんのお姉さんの分じゃ」







…濃い付き合いでもない、単に気が合うた
娘を笑顔にしてみたい





それだけの為に希少価値の高か鉱物
自分の手で掘り出すがか この男は


しかも娘の兄の分まで…と息をついた直後





無表情が、見る見るウチに緩み綻んで

まっこと嬉しげな微笑みに変わる





「ありがとう、辰馬殿」





なるほど…この顔ならば苦労してでも
見る価値はあるかもしれんき







が、ゆっくりとこの女子は口にした


「…しかしこの贈り物は兄上の分だけで十分だ

だから許してもらえるならば
残る一つは、陸奥殿に渡したいのだが


「「何故じゃ?」」





不意に出た言葉が頭と重なるが、娘は
たじろぐ事無くワシを見据える





「溜息が多いから、少しでも逃げた幸せを
取り返せるように
と思った故…ダメだろうか?」


間を置かず、頭は満面の笑みで言うた





構わんぜよ!それはワシがちゃんへ
あげたモンじゃ、好きにせぇ!!」



感謝する辰馬殿…さ、陸奥殿 手を」





うっすらと笑みらしきものを見せながら

差し出す娘の手ぇから 石を受け取る







…やはり思った通りじゃった


もらった"幸せ"を相手に渡す娘といい


折角渡した"幸せ"が他人に譲られるんを
笑顔で見送る頭といい


この二人、掛け値無しの大バカぜよ





じゃがしかし…それがこ奴ららしい


思えるワシも 大概じゃな







お!陸奥も笑うたぜよ!
今日はよくよく珍しか日じゃ、アッハッハ!」



とっくりと覗き込み、やたら能天気に
笑い出すモジャがひたすらウザいんで


ワシは渾身の力ば足に乗せて

奴のふぐりを宙へ一直線に蹴り上げた





「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:陸奥さんの口調を確認するべく四巻を
引っ張り出す際、坂本さんが表紙にいなくて
作者に素で忘れられてる!?と思い書きました


坂本:アッハッハ それ以上言うたら
ワシ本気で泣くぞ?


陸奥:表紙になっとらんのは他にもいるろー


狐狗狸:まぁ神威兄さんとかもだけどさ
あの辺は控えとして押さえてるっぽいじゃん
でも、坂本さんは原作もアニメも出番少ないし


坂本:それでこっちで色々話書いてくれとるんか
いやーまっこと嬉しいのぉ!アッハッハ!


陸奥:どちらかと言うと哀れみからじゃな
娘と主に話しとるの、ワシじゃし


坂本:けど、おんしの早とちりを抑えたし
二人の笑顔も見れたから一石二ちょ(蹴られ)




空知に「描くのめんどい」とか思われて
出番少ないんじゃ、と邪推(がんばれ坂本)

…怪しい土佐弁&陸奥夢っぽい(謝)


様 読んでいただきありがとうございました!