市松模様のタイルに、様々な書物を詰めた
白いスチールの本棚が並ぶ閑静な書店の


やや奥まった辺りに平積みされた雑誌を手に





「ようやく見つけた…今回お通ちゃんの
特集載ってるから逃せないし、危なかった」


安堵の表情を浮かべた新八は


一転して、そわそわと落ち着かない心持で
店内で立ち読みをする客を気にしだした





「にしても、今回の表紙はいつにも増して
露出度が高いよな…」





水着同然の姿で挑発的なポーズを取り
目線を送るグラビアガールの表紙は


年頃の青少年にとって、時にエロ本と
同じ位に購入を気恥ずかしくさせる





「べ、別にやらしい雑誌ってワケじゃないし
普通にお会計済ませればいいよねウン」


と独り言を呟く新八だが


やはり割り切れず 私服のフードを被り
本を抱え気味にしてまばらな人の背を抜ける







「よし…レジまで後ちょっ…おわぁ!?





会計に並ぶ作務衣の人物に気付いた彼は
思わず足を止め、身を隠す





「な、何でこんな所にさんが…!?」





休日とはいえ 予想だにしなかった場所での
想定外の相手の出現に戸惑いつつ


(いや…あの人がレジから立ち去った
すぐ後にこっそり並べば問題ない!)


レジの側に移動し様子を伺う新八だが…





台に乗せられた本の表紙を目にして
先程以上の叫びを上げかけた





"真剣勝負中"らしき血塗れの侍の小説


彼が手にしたアイドル雑誌よりも
エロさが高い少女マンガの二本立て


(何その相反し過ぎなラインナップ!?)





そこで彼はもう一つ


あからさまに顔が引きつっている
レジの店員にも気がついた











「級友バッタリは大抵アレな買い物中」











支払いを済ませ、短く礼をして
持参していた淡い色の手提げに本を入れ





店を出る黒い三つ編み姿を店員と共に
見送ってから 新八は呟く







「危なかった…しかし、さんって
私服も本編と変わんないんだなぁ」





はは、と乾いた笑いをしつつも
会計を済ませて店を出るまで


(あの人が本を買う姿なんて初めて見たなぁ
アレ…どっちか自分で読むのかな)


などと取り留めの無い思考が
彼の頭に浮かんで消える







「いやいや、休日にあの人が何してようが
僕には関係ないし…さっ帰ろうかな〜」





気を取り直し 我が家へと足を踏み出した
直後に耳慣れた着メロが鳴った





『新ちゃん 悪いんだけど
ちょっとお使い頼まれてくれない?』


「ええっ僕がですか?」


『あら、何か文句でもあるのかしら?


「…いえ、スミマセンでした大丈夫です」





ささやかな抵抗をあっさり覆されながら





会話の合間に買う物を頭の中で復唱しつつ
新八は近くにある店へと歩き出す







「…うーん、値段的にはこっちが安いけど
これあんまり効かなかったんだよなぁ」





ドラッグストアにて二種類の風邪薬を比べ
さんざ首を傾げた彼は、顔を通路の脇で
作業をする店員へと向けた





「やっぱり店員さんに聞こう、スイマセ」


すまぬが店員殿、お尋ねしてもよろしいか?」


遮るように現れた先程振りの作務衣姿が
一瞬早く、店員を掻っ攫っていった





「はい、どのようなご用件でしょうか?」


「って何でこんな所にもいるの!?」





勢いで出たセリフにより通りすがりの
ご老人夫妻から妙な視線を受け、口を噤む彼





「べ…別にさっきみたいな状況でも無いし
顔合わせても平気だよね」





と言いつつも何故か気まずく
説明が終わるのを真反対の棚で見計らう







「コンドロイチンで一番効くのは
どの種類だろうか?」


「そうですねぇ…どなたがお使いですか?」


「父上だ」


ちょ!娘に何頼んでんのお父さん!?)





心内ツッコミとは裏腹に、店員はあくまで
丁寧かつ迅速な対応を乱れなく行った





「こちらでよろしいでしょうか?」


「あ、あと頻尿系の薬も頼まれたのだが
何処にあるのだろうか?」


(お父さんんんんんんん!?)







その後も妙な偶然のイタズラは重なり続け





ニュースで紹介されていたパンを買っていた所





「何あの状況?何で正座!?」


ウィンドウから斜向かいに見える路地にて
原住民の方に説教されてる彼女を目撃したり





蛍光灯を購入した直後に、側の修理レジへ


店員に案内されたが現れる始末





「それで頼んだものは何処に…?」


「ああはい、こちらですね」


(しぇ…シェーバー!?







立て続けのニアミスとツッコミ所満載の
クラスメートの行動に 新八は口から心から
聞く人のいない反射的ツッコミを繰り返す





「こ、これじゃまるで僕がストーキング
してるみたいじゃないか…いやいやいや!
僕は買い物をしてるだけだし!全部偶然だし!







誰にとも無く力説するも ニアミスは
夕飯を買いに訪れたスーパーでも起こった





(これレジに行ったら気付かれるよなー…)





相手がいるのはレジから丸見えの化粧品売り場


対するこちらのカゴにはいかにも家庭的
食材や調味料類がしっかり入ってる


普段ならさほど気にする部分でも無いのだが


今まで顔を突き合せなかった分 今更
"偶然会った"感で話すのはキビしいものがある





早く移動しないかな…と念を送りつつも


何を見ているのか、ふと気になって
緑眼の先を辿ろうとした新八は


刹那 目を奪われ立ち尽くす





それは"見蕩れる"といった表現が
何よりも合う様な表情


今にも並んだ化粧品に手を伸ばしそうな


教室では見たことの無い の顔







化粧品の類は、教室でクラスメートや
姉が施す際に見る程度の印象しかなく


アイドルといえど派手なメイクや
着飾りすぎた衣装を好む方ではない彼だが





(あの人も、お化粧とか興味あるんだ…)





薄い色の紅を口に引き 仄かな香水をまとう
彼女の姿を、刹那脳裏に思い浮かべ







「…ぼ、ぼぼぼ僕はお通ちゃん一筋だ!」





頭を振って浮かんだ想像を掻き消し
我に返った新八は 見てしまった





淡い色の手提げ袋の中へ不安定な
化粧品のビンが落ちて…消えた


当人は全く気がつかず出口へと…







「ちょ、ちょっと待ってさ」


注意するべく駆け出す新八よりも


出入り口に据え付けられたセンサーと
それに対応する男性店員の方が早く





「スミマセンがお客様、少々こちらで
お話を聞かせていただけますか…?」






少し強めに促され 彼女は従業員通路の
奥の方へと連れて行かれる


「あ…どうなっちゃうんだろ…」









カゴを置き、トイレに行くフリをして
彼はこっそり通路へと入り込む







と…控え室の扉から密かな会話が聞こえてきた





「…誤解だ 確かに売り場にはいたが
この化粧品に手を出してはおらぬ」


嘘をつけ!全く最近のガキは性質が悪い」





先程と打って変わり、端から万引きされたと
決めてかかった様子で店員は畳み掛ける





「白状しないなら家か学校に直接連絡して
お前を退学にすることも出来るんだぞ?」


「そ、それだけは勘弁願えぬだろうか!」







僅かに零れた戸惑いにやや間を置いて





「…じゃあ服を脱いで、ざっと身体検査
させてもらえたら黙って帰してやるよ」





返って来たのは、下卑た言葉





「そんな、私は盗んでなどおらぬ!」


「うるっせぇな!なら連絡してやろうか!
それがイヤならさっさと脱げ!」






高圧的な物言いにが言葉を詰まらせ―







「待ってください!」





たまらず、新八は中へと飛び込むと
自分の出現に驚く二人に構わず言う





「僕…見てたんです この人の手提げ袋に
偶然そのビンが入ったのを」


「黙れ部外者が、とっとと失せろ!


失せません!この人が無実だって
証明されるまで僕はここから出ません!」


「テメェ…痛い目みてぇか!





今にも殴りかかろうと立ち上がる店員に
肩を震わせながらも新八は向かい合っていた







何してんだそこ 部外者は立ち入り禁止―」





と室内の空気を換えたのは、ドアを開けて
怪訝そうに入室してきた中年の店員





「げっ…て、店長!」


あ!お前確か先月バイト辞めたハズだろ?
何で制服来て勝手に控え室使ってんだ!」





瞬間、泡を食った男は新八を突き飛ばし
店長を殴り倒して走り出す





「新八、そこのモップを!」


えっ!?は、はい!!」





投げ渡されたモップを手に通路を駆け


は瞬く間に店の外へと逃げ出しかけた
元店員の男をしばき倒した







…この後、監視カメラが彼女の潔白を証明し


同時に制服を利用し店にもぐりこんでいた
元店員は 無事警察へと引き渡された







「ありがとう新八、私を助けてくれて」


「気にしないでくださいよ…僕ら
クラスメートじゃないですか」





急展開のゴタゴタが片付いて


外の路地で、新八は目を細めた微笑みと
感謝の言葉とを受け取って


去っていく二度目の後姿を見送ると


少しの満足感と嬉しさを胸に帰路を―







『新ちゃん、お買い物終わったの?』





受話器の姉の一言が 現実を思い出させた





「…あ!夕飯買い忘れてた!」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:展開が色々無茶ですが、一応テーマは
"休日でのクラスメートバッタリ"で


新八:無理過ぎ!何あの異常事態のオンパレード!
そもそも3Zでやんなくてもよくね!?


狐狗狸:何言ってんの、3Zでなきゃお父さんの
買い物(小説・薬)が出せないじゃん


新八:理由そんだけ!?じゃ…じゃあマンガと
シェーバーとかは…


狐狗狸:あれはお兄さんの(さらっと)


新八:当人のじゃないの!?てゆーか何気に
本編の戦闘力発揮してませんあの人!!


狐狗狸:モップを持った時限定
本編の十分の一だけどね、出してる力は


新八:どうでもいいからその補足ぅぅぅ!




少し3Zチックの日常と新八のいい部分を
出したかったんです…出したかった(挫折)


様 読んでいただきありがとうございました!