寒気が穏やかさを含み始める頃合 巡回中に
目を向けたTVの映像がオレを釘付けにした





「うおぉぉ〜!カッケェェェ!
何アレカッケェ!何あのクルクル回る奴!」



「っせーなフィギュアスケートだろ五輪の
それより今勤務中だから近藤さん」


マジで!てゆーかフィギュアって
ネオ秋葉とかで売ってる人形じゃねぇの!?」


「全然別モンだから、つか一緒にしたら
トッシーが怒り出すから止めてくれ」





簡単な説明によれば何でも氷で滑る競技の一つで
宙でクルクル回ったりして点数を競うとか





衝撃がイナズマとなって頭に落ちた


これだ…オレに足りなかったのはこの華麗さだ!


軽やかに氷上を舞う妖精のような躍動感
宙を舞いながら回る技の見事さ


きっと これをスケート場で繰り出せたなら
お妙さんの視線もオレに釘付けに!?





「トシ頼む!今度の休み
スケートの特訓に付き合ってくれ!」



「はぁぁ!?」





頓狂な声で返事をし、トシが
咥えていたタバコを取り落とした







そして…オレは一人スケート場に赴いていた


ただ一人、そう!たった一人





「あのな近藤さん、素人の練習程度で
あんな動きが出来るわけねーだろ」


懇々と言い募る渋面のトシを筆頭に





「いくら夢見てもゴリラは舞えないんでさぁ」


「すいません…オレ明日ミントンの大会あるし」


「局長、幾らなんでもそれは無茶ってモンじゃ…」





隊士のみんなはことごとく、挑戦する前から
オレの特訓を無謀だと言い


理由をつけてスケート場への同行を断った











「氷は滑るより事故る方が大多数」











うぅ…みんな冷たい ちょっとぐらい特訓に
付き合ってくれたっていいじゃないか別に


それに可能性はゼロじゃないんだから
揃って否定してくれなくたって…





いいもんいいもん、オレ一人でこっそり
特訓してお妙さんに褒めてもらうから!







滲む視界を他所に貸し出された靴を履き


ふらつく足取りでリンク
(って言うらしいあの氷の部分は)へ近づいて…





まばらな人込みに顔馴染みを見つけた





おお、ちゃん!
こんな所で会うなんて奇遇だな!!」


ぬ!?勲殿っ何故このような」





くりっと振り向いた勢いがマズかったのか


彼女はバランスを崩して後ろ頭を撃ちつけ
それから、ピクリとも動かなくなった





うわあああああああ!?
大丈夫かちゃ、うぎゃ!!







慌てて出た氷上で 何度か派手にすっ転んで
尻餅をつきながらも側へと寄り


係員さんの手を借りて倒れたこの子を運び出していく







据え付けられたベンチに腰かけ


リンクで滑る人々のざわめきを脇に
ちゃんがオレへと頭を下げた





「迷惑をかけたようで済まぬな勲殿」


「いやいやオレの方こそ…つか本当大丈夫?
痛かったら無理しないで病院いった方が」


「三途に行く程度ゆえ、大したものではない」


「大した事ある!それ大したことある全然!!」





全くもうこの子ったら無茶ばっかりして!





「しかし君が一人でこういう所にくるとは
珍しいな〜どうかしたのかい?」


「あー実は…その、ゆえあって…」


ん?何だか言いづらそうだな…
チラチラとリンクの方見たりしてるし…





あ、そうか!そういう事か!





分かった オレと同じフィギュアの技に
憧れて練習しに来たクチだろ?」


「あの…そういうワケでは無くてだな」


「いいんだよテレなくたって、お兄さんに
TVで回ってたアレ見せたかったんだろ?」





深く頷いて、オレは彼女の肩へ手を置く





「よかったら一緒に滑りの特訓しないか!」





きっとこれも何かの縁だ 志が一緒の
知り合いとなら特訓も上手く行くに違いない!







…がちゃんはどこか乗り気じゃ無さそうだ


少なくともオレにはそう見えた





「勲殿、折角の気持ちは嬉しいのだが
私は初心者ゆえ足を引っ張るやも…」


平気平気!オレも実は初めてだから
初心者同士ってことでいいじゃないか」


「なるほど…しかし本日は門限があるゆえ
長くは付き合えぬ、日を改めてでは」


「じゃ、じゃあ門限まででいいから!」





現在のオレの姿をみっともないと思う君!


入学したクラスでようやく見つけた友人に弁当食おうと
誘ったのに断られ 一人もそもそ食う様を想像するべし


今それ級の悲しみ負ったらオレは泣く!確実に!





「頼むよぉぉ〜帰るまでの間と思ってさ!
ねっ!?お願い、この通りだ!」








拝み倒し続け…返って来たのは微かな笑み





「…門限までの短き間でよいのなら」


おお!ありがとう!!
こっちこそよろしく頼むよ!!」





輝かしいオレ達の氷上デビューへの
第一歩が今この瞬間、始まった









なんて、その時は思ってたんだ


曲がりなりにも剣術を学んで
身体を動かすのにはそこそこ自信があったし


なんたって氷だから滑るのは楽だと考えてた





…滑走して数分で思い知らされた


うわばばばば、とととと止まっぶるあっ!


「あー急に手を離されたら…痛」





"運動神経有=スポーツ全般で通用"でない事実を





てゆーかスケート靴って何で靴底の裏に
刃がくっついてんの!?バランス悪っ!!


こんなん履いて回ったり飛んだりした日には
間違いなく氷と顔面衝突するっつーの!!





「勲殿…鼻血がヒドいようだ本当に大丈夫か?」


「ばいびょぶ、オレ結構血の気は多ひから…
それよりゴメンね巻き添えで転ばせてばっかで」


「気にされるな 大半は自分で転んでいる」





…そうだ、文句ばっかり言ってらんない
彼女だって頬を張り詰めてまで練習に励んでる





「ごめんね…転ばないようにがんばるから!」





オレも見習って、目指せお妙さんと氷上デート!







習うより慣れろとはよく言ったモンで





おっかなびっくり滑るウチに転ぶ回数が減り


ゆっくりとならリンク内を人とぶつからず
手放しで一周出来るぐらいに成長して





「今、一周出来たよ!見てた!?


「うぬ…初めてとは思えぬ
勲殿は私よりも筋がよいのだな」





滑る楽しさに目覚めてお互い熱中していたから







じわじわと身を侵す苦しみに気付けなかった







…ヤバイ、腹が冷えてウ○コしたくなってきた


感触からいって多分十分以上は
こもりそうな大物が腸からオレを刺激する


一刻も早く厠に行きたいが、特訓を頼んだ手前
それを口にするのはどうにも…ぐぅっ!





「勲殿…顔色が悪いようだが」


「いいいいいやだだだ大丈夫全然平気!
そそそっそれより門限は大丈夫かなぁ!?」


「おお…言われれば、そろそろであった
重ね重ね迷惑をかけてすまぬ」





おおっ、願っても無い光明が!





「いやーいいっていいって!じゃ今回は
これで終わりにしてまた次の機会に」


…すまぬが最後に一度だけ
TVの回る技を見せてもらえぬか?」





イヤアァァァ!お願い空気読んでぇぇぇぇ!!





あんな動きやったら確実コケる!
正直プロなめてましたスンマセン


てゆうかこれ以上余計な負担を身体にかけたら
間違いなくパンツが大惨事に…


この子には悪いが背に腹は変えられん!





「ゴメン!オレ人と会う約束があったんだ!
じゃ、後で連絡するから!!」








勢いよく頭を下げ、答えを待たず
その場を離脱すべく滑走を開始する





「ダメだ勲殿っ、危ない!


「え!?」





必死な声音に振り返ってから、滑走中だと思い出し


顔の向きを戻す前に靴の刃が横倒れした


あ゛あ゛あ゛これ脳天直撃コースぅぅぅ!





「「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」」





悲鳴が二重に響き、固く冷たい氷でなく
なんだか弾力のあるものとぶつかって止まる







…客の一人を巻き込んで下敷きにしたらしい





ああっ申し訳ありません お怪我は…」





言いつつ身体をどければ客の手から


氷上に、黒々とした銃が転がった





「え…ええええええええええ!?









正直、そっから先はオレも周囲も大混乱
大まかな部分でしか出来事を覚えてないが


騒ぐ客達を落ち着かせて大半を留め


銃を没収し、気絶したままの客をふん縛って
他の隊士達の到着を待つ段まで来た所で


協力してくれた係員の一人が尋ねてきた





「警察の方がいてくださって助かりました
にしても…物騒な世の中になりましたね」


「ええ、何やら犯罪のニオイがしますが
我々警察がついてますのでご安心を!」


「…まずは尻とパンツについた悪臭を
どうにかしていただけるとありがたいです」





言わないでください…自分でもパンツが
バイオハザードってもっそいヘコんでんです







しかし…ちゃんの姿がどこにもない


あのゴタゴタに紛れて帰っちゃったかな
何だか門限を気にしてたみたいだったし…





「…そういえば、あの三つ編みの子から
あなたに伝言を頼まれましたよ」


「なっなんて言ってましたあの子!」


"巻き込んで申し訳なかった、また後日
侘びと楽しい時間の礼に伺う"
とか」





正直、半分くらいは意味が分からなかった


ひょっとしたら捕まえた客や今までの様子も
何か関係があったのかもしれない…が





特訓を心から楽しんでたのと、オレの身を
案じてくれたのは何となく分かったから



今度会った時かける言葉だけ 胸へとしまい
オレは一人納得をした





お妙さんとペアで滑る為の"特訓の約束"








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:再びの近藤さん夢…やっぱ保護者的
つーか下に走っちゃうっつーか


近藤:オレだってちゃんと仕事してんだから
その辺キチンと書いてくれよぉぉ!


狐狗狸:まーダメダメな部分と器の大きい所
両方合わせて近藤さんだからね(笑)


近藤:何その(笑)って!?ひどくね!?


狐狗狸:まー何はともあれ胡散臭いウチの子の
肩を持てる優しさは素直に買ってますよ


近藤:何言ってんだ、あの子は優しいいい子だ
お妙さんが女神とするなら天使っつっても


狐狗狸:あー…その辺で黙っていた方が
近藤背後にわだかまる殺意に気付き冷や汗)




遅い五輪ネタでお茶を濁しつつ退場します
展開飛び飛びの駄文で失礼しました…ホント


様 読んでいただきありがとうございました!