街が例のイベントで俄かに騒ぎ始める頃…
日が近づくにつれ、男は気忙しくなる





味わうであろう幸福と絶望の足音


或いは期待 或いは落胆を胸に抱いて





「ったく毎年毎年、飽きずによーやるよ
世間も漫画もこのサイトの管理人も」


「ですよね、チョコの一つや二つで
大袈裟に騒ぎすぎですよね」





女性客の人集りを睥睨する銀時へ新八が苦笑する





ちなみに今回の話も本誌とほぼ関係ありません


ウソつくなっつの、確信して書いてんだろ」


「…銀さん、モノローグにツッコんでも
閲覧してる人しか分かりませんから」







時期はバレンタイン、軽い会話もそこそこに





「「ただいまー」」





二人が万事屋に戻れば、室内には
既に戻った神楽がくつろいでいた





「女王様、お茶のお代わりはいかがですか?」


「んー…お茶より酢昆布が欲しいアル」


「ここにご用意してございます」


「気が利くアルな そこに置いとけヨ」





偉そうにソファにふんぞり返り


柔和な笑みを張り付けて佇む
アゴでこき使いつつジャンプを読み茶をすす


「神楽ぁぁテメッそれオレのジャンプ!
何勝手に読んでんだコラァァ!!」


「ツッコミ所そこ!?」







改めて彼らは現状の説明を神楽へと求めた





「こないだ見たTV、覚えてるアルか」





逆に訊ねられ、記憶を探る二人の脳裏に
ほどなく心当たりのある映像が浮かんだ





「あー…"催眠術特集"っつってたアレか
そういやお前、食い入るように見てたな」


「確かにあれはすごかったけど…って
まさか、神楽ちゃん?





次の展開を予想し、ぎぎと首を向けた彼に


返された返事はあまりにも予想通りだった





「店先でが通りがかったから
試しにこれでやってみたアル」





取り出されたのは、タコ糸に括られている
穴の開いた円盤型のチョコレート





「よりによって五円玉チョコ!?」


オィィ!こんなちゃっちい素人の催眠に
かかるってどんだけ頭ピーマンなのお前!?」


「恐れながらその発言は少々無礼かと存じますが」





憮然と答えた彼女の姿は、むしろ気品さえ
漂わせているようであった











「この場所にチョコ(と愛)はない」











完全にキャラ違ってるよ!言葉遣いマトモだし!
一体どーいう暗示かけたの!?」


「女王に相応しいのは召使に決まってるネ」


「その通りでございます、女王様」





神楽が軽くあごでしゃくれば その両肩が揉まれる





「いつ女王になったの君、とゆうかこの人の
召使のイメージって一体…」







新八同様 呆れ気味に二人を見ていた銀時に





ふ、と出来心が芽生えた







「ちょっとその五円チョコ貸してみ」


「あ、何するアルか!」





ヒモ付きチョコをもぎ取った銀時が


そのまま神楽の背後に立つ彼女の目の前へ
それを下げ、振り子状に揺らし始める





「お前はカップルが憎い…憎くてたまらない
奴らの間で交わされるチョコも叩き割りたく
なる程憎ーい、てか叩きたくなーる」



便乗した!てか何その私怨たっぷりな内容!」







しばらく直立不動のまま緑色の目が
揺れ動くチョコを凝視していたが







振り子が止まると同時に、スッと顔を背け





「…失礼いたす」





素早い足取りで敷居をくぐり玄関へ進み
…静かに引き戸の閉まる音がした







「あれ…帰っちゃいましたよ?」


「どうしてくれるねせっかくの召使!」


「るせーよ酢昆布女王、てかあんなんで
本当に催眠術かかってんのか?」


「かけてた本人がそれを言いますか」







だが、数十分経ってもは戻らず
特に何かが起こる様子は無かった







「やっぱり素人の催眠術だったから
失敗したんですよ」


ちっ…まーいいか、目障りな奴らは
野放しだがオレらにゃ明日があるしな」


よくないアル!私の召使返せよ!!」





椅子にもたれた銀時へ神楽が掴みかかり







耳障りな悲鳴が、のどかな午後の空気を裂いた





「今の、この近くですよね!?」


「何だってんだこんな日に…」





短く吐いて三人が万事屋を飛び出し
現場へ駆けつけた所


まばらな人集りがある建物の前に出来ていた







「あーアレ、ハム子アル」


「本当だ エサのキャラメル片でも
盗まれたか?それとも首輪?」


「いや一応人間ですからアレ!!」





一通り当人が聞いたらキレそうな発言を
した後、三人も周囲に習って顔を上げれば


屋根の上にいた人物が高らかに笑った





「ふあーっはっはっは!ふくよかなる
ご夫人よ、このチョコは頂くぞ!」






タキシードにマント、怪しいアイマスクの
三点セットをつけた人物はやや小柄で


風になびく黒髪は三つ編みに編みこまれている





「ちょっと!ちょームカつくんですけど!
誰よアンタ、チョコ返せっつーの!!」






最もな文句に しかし人物は口元を
ニッと歪ませてこう返す





「我こそチョコを華麗に奪う怪盗…人呼んで
チョコクレーZ!悪いがこれはこちらの獲物」







駆けつけてきた真撰組の隊員に気付き





「諸君!私はまだ獲物を求めているのだ
努々油断するなかれ、これにて失礼!!」






一方的に宣言するとマントをひるがえし
軽やかな動きで屋根を移り 逃げていった







ざわめき収まらぬ人ごみに紛れ





三人は顔を見合わせ、潜めた声を交わす





「あの、今の声聞き覚えありませんでした?」


「てーかあの髪型、間違いなくだろ」


一昔前のカビ臭い怪盗コスチュームといい
あの動きといい ほぼ確定アル」





一拍の間を置いて…約二名が頭を抱えた





「「変な風に催眠術こじれてるぅぅぅ!!」」









重ねがけされた催眠術がどこでどう作用したか
当人や術者でさえも与り知らぬが







「ちょっとアンタぁぁぁ!客用にばら撒く
チョコ返しなさいよ!!」



「はっはっは、私に追いつこうなど
無茶というものだよ巫女のお嬢さん!」





結果的に"怪盗"へ変化した彼女は







「気高きアナタのチョコは、正に月の光に
相応しいほどの報酬となりましょう」


「なっ…何を言う、返せわっちのチョコ!





所構わず無差別に 女性の持つチョコを狙い







『クリステル様のチョコは渡さんでやんす』


手強い相手ほど燃える性質でしてね…!」





様々な騒ぎが街の至る所で繰り広げられ







「ここの洋酒チョコ…何だかんだ言いつつも
気に入ってたし、きっと食べてくれるハズ」


「お相手は硬派な方なのですね?」


「違うのよ、あの人マダオになる前から
気取んのは嫌いだとかカッコつけてて…え?





被害は留まる事を知らなかった…









怪盗騒ぎを収めるべく立ち上がった三人は
の家へと向かう





「怪盗にはアジトがつきものネ、アイツの
アジトっつったら自宅で間違いないアル」


「まず奴の集めたチョコを奪って
こっちから誘き寄せてやるんだ」


取り返しに来た所を捕まえて催眠術を解く
それは分かりますけど、上手く行くんですか?」


「任せとけ 銀さんにいーアイディアがある」







玄関付近に置かれた植木鉢というお決まりの
場所から出した合鍵で入り口を開け





居間に山積みにされていたチョコの山
袋に詰め込んで静かにそこから抜け出し







「きゃっほー!このチョコ全部私のネ!!」


「オィ神楽!まだ食うなよオレの分も
入ってんだから 特に結野アナのは!





寂れたビルの屋上で二人が品定めを始めた





「いやおかしいでしょ!何勝手に包み開けて
人様のチョコに手ぇ出そうとしてんの!?」








鋭い指摘に、しかし手に取られたチョコは離れない





「だってチョコは銀さんにとっての栄養源だし」


「自重しろよ糖尿のクセに、銀ちゃんが
甘いもん食ったって肉は甘くなんないね」


「別の意味で甘くなれるからいいんですぅー」


「お前ら、牧場でひと働きして来い」


「私のアジトを乗り込み獲物を奪うとは
やってくれるじゃないか明智君…!」





静かな第三者の声音に顔を向ければ


いつの間にか、マントを風にはためかせ
怪盗が三人の背後に佇んでいた





「誰が明智君?」


「しかしそのチョコは私のモノだ!返し給え!







言って彼女は床を蹴ってチョコの袋へ迫る





阻止すべく放たれた神楽の拳をひらりと避け
振るわれた銀時の木刀をも掻い潜り


チョコはいとも簡単に奪い返された





「しまった…チョコが取り返された!」


悔しげに呻いた新八へ勝ち誇った笑みを向け





「ふはははは!呆気なかったな諸君!
それではコレで失礼させていただくよ!!」








袋を担ぎその場を離れようとした
ぶつけるように、銀時が言った





「おぃ怪盗モドキ!コレを見やがれ!!


「失礼な、訂正したまえミスターサムラ…!?







マスク越しに彼女の目が…神楽の用意した
五円玉チョコの振り子に釘付けになる





「お前はだんだん眠ーくなーる…お前は
だんだん眠ーくなーるー…」



「ぐ…や…やめろ…」







覚束ない足取りになった怪盗へ距離を詰めた
銀時が、強烈なバックドロップをお見舞いした







「ぱっつぁん、神楽、ナイスアシスト」


「ここまで上手く行くとは…まぁいいや
後はチョコの回収だけですね」





言って新八が袋を奪うよりも早く







「君達に…獲物を渡さな…死なば諸共!





意識を失う寸前では袋を天高く放った







「「「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」







放物線を描いてサンタの荷物に似た袋は
追いかける三人の手をすり抜けて







ビルから落下し、ゴミを回収していた
収集車へ見事なまでに吸い込まれていった






「私のチョコぉぉぉぉ!!」


「結野アナのチョコも入ってたのにぃぃ!
オレ、まだ一つも食ってねぇのにぃぃぃ!!」



「持ち主に返す気ナシかアンタらぁ!?」





悲劇は、三度繰り返された








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:このサイトでの銀魂VD=悲劇の日という
暗黙の不文律に乗っ取ってお話を作りました


銀時:コレはヒドい…本当にヒデェよ、普通
最後は銀さんがチョコを独り占めウハウハだろ!?


神楽:何言ってるネ!奪われたフリして催眠術で
足止めして気絶させる作戦に乗る代わり
あたいにも半分分け前寄越す約束だったネ!


新八:んな黒い裏取引どーだっていいわぁぁ!
何だよ怪盗チョコクレーZって!!


狐狗狸:読んで字の如しです


銀時:何にせよアイツは後でパフェおごりの刑な


神楽:酢昆布一年分もつけさすネ


新八:元はあんたらのせいだろがぁぁぁ!




さり気に被害者となった阿音さん・月詠さん
結野アナ(と外道丸)・ハツさんに謝罪しつつ


様 読んでいただきありがとうございました!