今朝からちらついていた雨は
気付けば、半ば雪に変じていたようだ
白く曇る空から透明な欠片が
染み入る冷気をまとって降りる
思わず伸ばした手に落ちた欠片は
身体の熱で見る間に溶ける
「おいいい加減寒ぃーよ、窓閉めろ窓」
「む、すまぬ」
からりからりと音を立て
窓を閉めざまに振り向けば
背後のコタツにはいつの間にやら
銀時が生えていた
「あー冬はやっぱコタツだわ 母さんお茶〜」
「私は母ではないぞ、とゆうか銀時
上がるなら一声かけぬか」
「かけたっつの お前が洗濯物取りに
夢中で気付かなかっただけだろ」
…確かに軒先に吊るされた下着を取ることへ
集中していた故 多少の物音は構わなんだが
「神楽と新八は?」
「あー、多分外で仕事してると思う」
「ん?なら何故お主はここにいるのだ」
「こんな寒い中で働けるかっつの
休憩がてら温まりに来たんだよ」
当然のことと言わんばかりに
ふてぶてしいのは相変わらずか
「なるほど、要するにサボりか」
「おまっ普段のーたりんのピーマンなのに
どーしてそこだけ正論吐くわけ?」
「冬場は熱が出りゃなんでも暖房」
当たりか…どうせ来るなら二人にも
声ぐらいかければよいのに
「今頃二人とも怒っておるぞ…
早めに戻っておけ」
「いーの銀さん一家の大黒柱なんだし
たまに身体休めたってバチは当たんねーの」
「何と言おうと私はこれから外に
出るつもり故、お主もここにはいられぬぞ」
言いつつコタツの電源を切るが
すかさず伸ばされた手が電源を入れ直す
「あー別にオレのことは気にすんなって
帰ってくるまで留守番しててやるから」
「私がそのようなことを許すと思うか?」
「んだよ他人だからってオレのこと
疑ってるわけ?ちゃん」
「何を言う、仕事中の侍が寒さに負け
内にこもるなど不健康なだけであろう」
「ならお前だけ風にあたっとけ
大人は火にあたんねぇと風邪ひくっつの」
「怠惰な生活を繰り返す方が余程身体に悪い」
会話の合間に繰り返される電源の切り入れに
苛立ち 私は大本のコンセントを引き抜く
「あ゛ー!あにすんだテメ」
怒鳴りかけたその鼻先に槍を突きつけ
「いいから表に出ぬか穀潰しが」
仕事の状態と同じ顔と声音で宣告すれば
ようやく銀時は大人しくなった
…まったく、情けない大人だ
「もーいい!が心まで鉄面皮なんて
思わなかった、銀さん帰る!!」
…家から出た途端 機嫌が悪くなるとは
子供かお主は?
「そうか気をつけてな」
言って見送った背が
大して小さくならぬ内、道に留まる
「…やべ 家のカギ新八に渡してたんだ
あ゛ーど〜しよ〜!!」
「それはご愁傷様」
言い放ち横を通り過ぎ…るも
この男は後から着いてきた
「寒ぃーよ、こんなんじゃ銀さん
凍え死んじゃうよちゃーん」
「お主は大人なのだから いくらでも
温まる方法を思いつくであろう」
「…そのセリフ、この財布の中身を
見ても言えんのかコラァ!!」
威張って見せるモノでは無かろうに
…ああ、確かにこれでは
自動販売機の飲み物を買うので精一杯だ
「あの、悲しげな目で見ないでくれる?
むしろ見るならおごってくれる?」
「言っておくが今の私も手持ちは無いぞ」
「じゃあお前 何しに出たの?」
「決まっておろう、兄上のお出迎えだ!」
「早ぇえよ!まだ昼前だぞ!!」
普段ならそうだが 今日は少し事情が違う
「今回は夕刻に上がるらしいから
仕事も無いし、少し早めに待っておる」
「だからって限度があんだろーが!
どんだけ体張ったブラコン振り!?」
「私のことなど関係なかろう、寒いなら
二人に謝って帰るといい」
「帰るまで持たない〜誰かさんに
貴重な体力回復の場を奪われたから〜」
…そこまで大事な事ならば、先に言っておけ
なればしばし留守を任せたのに
「悪いとは思うが、私にどうしろと?
先程も言ったが手持ちは無いぞ」
「金が無いならさー身体で温めてくれよ」
「…なるほど、その手があったな」
「え?ちょ、マジで!?
いやいやいやいや今のは冗だ―」
止める言葉を聞かず、懐へ手を忍ばせ
するりと解いた紐から出でたそれを
手のひらで握り締め
「さぁ!どこからでも参られよ!!」
死んだ魚の如き瞳が、更に焦点を失った
「あの…何ですかその構えは」
「手合わせの基本的な型だが?」
「お前の脳みそホントどうなってんの!?
そこで何でバトル展開にいくんだよ!!」
「他にどう解釈しろというのだ?」
「そりゃーお前、その…言葉通りと
いうか何つーかよぉ…」
目を泳がせ口ごもるとは…何をそんなに
動揺しておるのだ銀時は
ひとまず槍を解体し袋にしまい直し、懐へ
「手合わせが不服ならおしくら饅頭でも
行って身体を動かすのはどうか」
「何で寒空の下、オメーと二人で
空しくガキの遊びをしなきゃなんねぇの?」
「二人とて真剣にやれば身体は温まろう」
しかし相手は身体を震わせながら
イヤイヤと首を横に振るばかり
「そんな年じゃねーから、他所から見たら
オレ本当痛いオッサンになるから!
てーか寒いのマジ苦手なんだから
この辺で勘弁してくれよぉ〜」
眉根を寄せたその顔を見るうちに
だんだんと可哀想になってきてしまった
…仕方の無い男だな
私はため息を一つつくと、大きな手をとり
元来た道へと引いていく
家に戻ったら銀時をコタツに入れて
それから熱い茶と甘い菓子でも食べさせよう
「勝手に話を進めるな、私達は
ここから一歩も動いてはおらぬぞ」
よく練った暖かいココアでも入れて
ビスケットと共に差し出そうか
「ココアなぞ家にはないぞ…
寒さでおかしくなったか?銀時」
「空気の読めねぇテメェは黙っとけ」
こうしてニコヤカにチョップをもらいつつ
私達は温かな家へと戻ったのだっtttt
[警告:あまりしつこい改変をするなら
オチがヒドくなります]
「ちょ!?何勝手に注意報発令してんの
管理人んんんんん!!」
「ぬ?お主誰に話しかけておるのだ?」
本格的に寒さでおかしくなった銀時は
やがて諦め、新八と神楽の待つ場所へ
戻っていった…
白い欠片は静かに勢いを増し
佇んでいた路上は すっぽり白に包まれる
…兄上、まだかな
「 お前まだ兄貴待ってんの?」
声のする方へ顔を向ければ、白を縫って
歩み寄ってくる 少し前に別れた顔
「どうやら仲直りは出来たようだな」
「あー…おかげさんで」
青アザだらけだが、それは仕事を
サボっていて怒られた分であろうな多分
「ったく手加減しねぇからなアイツら…
にしても とっくに夕方だぞ今」
「きっとお忙しいのだろう、よくある事だ」
「なら軒下か近くの店にでも入って待てよ
頭が白髪になってんぞ 雪で」
「おお、それは気付かなんだ」
頭を軽く払うと 冷たい雫がぱらぱら落ちた
「ってお前…指真っ赤だぞ」
続けざまに言われ、両の手を顔へ持ってゆく
指の先は一目で分かる赤に彩られ
改めて、身を蝕む冷気を自覚した
「見てて痛そうなんだけどソレ
何で平気なワケ?ねぇ」
「路上で寝ておった頃よりはマシだ
あの時は、たまに起きたら身体の感覚が」
「ちゃん止めてぇぇ!お前の台詞
現在進行形でシャレにならないから!!」
何故か大仰に戸惑った後、銀時は急に
素っ気無い顔つきに戻って問う
「…まだ そこで待つつもりか?」
「当然だ、兄上の為だからな」
ああそうと呟き、どこかへ去ったかと思えば
近くの自動販売機から何かを買って
程なく戻ってきた銀時は
「カイロ代わりに持っとけ 指だけでも
ちったあ温まんだろ」
私の手に、温かな缶を握らせた
「…かたじけない」
滲むような温もりは 笑みを零すのに
十分に過ぎた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:ベタではありますが、テーマはズバリ
"缶コーヒーカイロ"ですね(笑)
新八:(笑)じゃねーよ!仕事サボったと
思ったら何普通に家宅侵入してんのあの人!?
神楽:銀ちゃんだけコタツ堪能してズッりーね
もっとシメときゃよかったアル…(指慣らし)
狐狗狸:…もうあの辺で勘弁したげてよ
新八:大体、さんも無用心すぎですよ
家のカギを開けっぱなしだなんて
銀時:だよなぁ もう少し気をつけろっての
二人:お前が言うなぁぁぁぁぁ!!(蹴)
いつも通り、甘くなくオチも無くで
大変失礼致しました〜
様 読んでいただきありがとうございました!