「清蔵さーん…もうこんなもんで
十分じゃないすか?洗剤は」


「何を言うのです山崎さん、この量では
屯所の半分の汚れも落とせませんよ!」





男所帯のため誰もが嫌がる毎年の大掃除を
自ら志願しただけあって


カートのカゴにわんさと 洗剤積んで
張り切る一番隊隊士の清蔵さん





「てーかコレ買いすぎっすよ…絶対
持って帰るの重くなるからその辺で
勘弁してくださいってマジで」


「安易に怠惰と妥協へ流れてしまって
市民の平和を守れるとお思いですか?


住居の汚れを見逃していては
警察としての示しがつきませんよ!」





あーちょっ顔近っ ツバ飛んだツバ〜







「ったく、仕事ん時もそれぐれぇ
張り切れよなお前は」





呆れ気味に言いつつ副長が下のカートに
業務用のマヨネーズを大量追加





「副長 それ冷蔵庫のキャパ超えます」


「あん?これは年越しの消費も見越して
ちっと大目に備えてんだよ」


備蓄食料扱い!?どんだけ年またいで
マヨ摂取する気なんすか!!?」





はぁ…本来必要なモノは、カゴの中身の
半分で十分なのにこの人達は…





「てゆうか必要品の買出しだってのに
いらないモンばっかじゃないですか…」


「オィ山崎ぃ、マヨバカにしてんのか?
お前後で厠切腹な」


「よりによってそのチョイスはどうかと
そっちじゃなく洗剤の方ですって」





今度は清蔵さんが鋭くこっちを睨みつける











「掃除の指示は諸刃の剣」











「何を言いますか、まだこれから
便器に使う強力酵素洗剤もいくつか追加を」


厠用はもういいですって!
どーせスグ汚れるし適当でいいでしょ」


「いけません、厠の掃除を疎かにしては!
普段用を足す厠だからこそ年内の汚れを
一掃すべく徹底的に清掃が必要なのです!!」



「ちょっ こんな所で力説しないで下さい
タダでさえお客さんの視線痛いんですから」







唐突に 背後で拍手の音が鳴り響いた





「今のお話、大変共感できます」





振り向けばそこに 買い物カゴを
抱えた黒髪の超日本的美女…


いや、美女にしか見えない顔見知りがいた





「んだよテメェも買い物か?」


「こんばんは 夕飯も兼ねて必要なモノを
いくつか買いに来た所です」





あからさまに渋面で横柄な副長に


軽やかな笑みを崩さず応対するさんは
相変わらず流石としか言いようがない





「おや あなたはどちら様で?」


「ああ初対面で失礼しました、僕は」


「兄上!どうにか大根を確保しました!!」





嬉しそうな声と、全く合わない表情で
大根掲げてやって来たのはやっぱり…







「こんにちはちゃん」


「ちっ、槍ムスメも一緒かよ」


「兄上と共に買い物へ来て何が悪い





無表情で土方さんへ火花を散らす彼女と


隣でため息をつく彼を交互に見て
清蔵さんは首を捻るばかり





「あの、こちらは」


「放っとけ ただの胡散臭ぇ兄妹だ」


「一言余計ですよ土方さん、少なくとも
僕は模範的な市民だと自負しております」







簡単にお互いの自己紹介を終えた途端







「所でさん…アナタは先程 私の話に
興味を持たれたと言っておりましたね」


「ええ、僕も常日頃の室内清掃には
とても関心がある方で」


「なるほど…おお!アナタもその洗剤を
ご利用になられますか!」


「抗菌コートも行ってくれるので
重宝しますものね お値段も手頃ですし」





あっという間に掃除好き同士の談義
始まってしまった





「アナタも洋式派ですか 気が合いますね!」


「流石に今の主流は洋式ですし、僕は
和式で用を足すのはゴメンですからね」


「…何アレ 何で掃除談義が始まってんの?」


「兄上は清潔に気を使われるお方だからな
室内 特に厠は毎日朝晩二回清掃されるぞ」


「気を使うってレベルじゃないよね?
もはや病的な潔癖じゃないですかそれ」


「山ジャキ殿、兄上を侮辱するか?」





ちゃんにまで睨まれるって、オレ厄年?
てーかさり気にまた名前違うし!







「…では、お願いしますよ?」


「分かりました それでは」







そうこうする内にいつの間にか
二人の会話が終わり





「では僕達はこの辺で失礼いたします」


「では皆の者、しからば」





一礼し、兄妹はさっさとレジへ消えた







「…オィ 何頼まれてたんだ」


「それは後々お話いたします」







オレはその時、去り際の頼みが何かなんて
考えてもいなかった









…が、答えは翌日の朝礼で出た







「という訳で今週末まで、屯所内の
大掃除の臨時バイトとしてこの二人に
働いてもらうことになった!」





自信たっぷりに二人を紹介する近藤さんと







「不束者ですが 皆様のお力になれるよう
身を粉にして働かせていただきます」


「私も兄上の足を引っ張らぬよう
全力でご助力させていただく」





頭を下げるさんとちゃんの
割烹着スタイルに沸き立つ隊士達の中で







確実にオレと土方さんは
顔面の筋肉が、引きつってた







「オィ こりゃ一体どういう事なんだ?」


「あの後 お互いにフィーリングが
合いまして、臨時で屯所の掃除を
お願いできるか局長に掛け合ったのです」





ってあの僅かの間でそんな交渉が!?





「まーちょっとしか出せんが、屯所を
キレイにしてもらえるんなら大歓迎だ」


許可すんの早ぇよ!つーか一般人が
警察に仕事せびるたぁいい根性じゃねーか」


「僕ら平凡な市民は、賃金をもらって
働くのが常識ですから」





うわぁ…この人も腹の中身
沖田隊長や万事屋の旦那と同レベル







「で 何でまでいるんで?」


「兄上たっての願いで、助手を
務めることとなったのだ」





助手って…この子に掃除させるのは
物凄く不安があるんだけど


余計な血痕散りそうなんですけど


事件は会議室じゃなく、屯所内で
起こってるんだ!
ってなりそうなんですけど







「まぁ僕らの働きを見て 使えなかったら
そちらの判断で解雇されて構いませんので」


「…その言葉、後悔すんなよ?





脅し交じりの土方さんの声音に対しても


彼は不敵な笑みを全く崩さなかった











かくして 不安混じりの大掃除が始まった







「畳の掃除には、掃除機よりもホウキが
適しているんですよ?」


「へーそうなんすか」





麗しきカリスマ主夫の活躍によって


汚かった屯所の汚れが徐々に落とされていく





「ああもう、出したゴミは
放置しないでくださいな」


「へーい」







随所でも色々と細かい口出しをされ


初めはそれがどうにも気に入らない
隊士も大勢いたのだが





屯所を掃除してもらってる負い目と


くるくる働く兄妹の姿が目の保養となり
表だって文句はでなかった







まーそれでも我慢が出来ずに





「指図してんじゃねぇぞコラァ!」





と彼へ掴みかかろうとした奴が、瞬時に
ちゃんの制裁受けたり







「掃除が終わったらさ、一緒に何か
食べに「生憎 妹は仕事がありますから」





逆に彼女へ粉かけようとした隊士が
軒並みさんに邪魔されたりしてたが







懸念していた部分もほとんど起こらず


概ね彼らは仕事をキチンとこなしていた









「この調子でいきゃー大晦日にゃ
キレイな屯所で年越せそうだよなー」







休憩室にたまる隊士達の話し声に
耳を傾けつつ オレもうんうんと頷く







去年までは仕事が忙しくて、掃除なんて
適当にやっつけてたからなー





あちこちキレイにされた箇所を見て


"ああ、ここってこんなキレイだったんだ"


なーんて感心しちゃったくらいだし





「にしてもお兄さんまで美人なら
臨時でなく正式に雇って欲しいよな」


分かる分かる!オレちゃん派」


「オレはどっちかっつーと大人の色気が」







スパーンと小気味いい音で襖が開き





「テメェらいつまでウダウダしゃべってんだ
とっとと持ち場に戻りやがれ!」






現れた土方さんの一括で、皆は
バカ話を中断して 一斉に散った









目をつけられない内に退避した所で
オレは足を止めた







…軒下を掃く彼と局長が何か話込んでる





「いやー二人のお陰で今年は助かったよ
本当にありがとうな」


「いえいえ、お役に立てたなら光栄ですわ」


「これならどっちかを正式にウチで
雇いたいくらいだよ」





おそらく本気で言ってる局長の一言に







「いいですね…どうです?今回だけと言わず
また僕かを雇わせるというのは」





と、さんはにっこり笑って…







ってえぇぇぇ!本気で受け取ってるぅぅ!?


そこは"お世辞でも嬉しい"とか
笑って受け流す所じゃないんですか!?





カタギではなくとも仕事ありそうなのに
どういうつもりなんだあの人は!!







「え、いやーその…」


「結論は今でなくても構いませんので
ちょっとだけでも考えてみてくださいね?」







軽やかな笑みを返す彼に


オレは、言い知れぬ不穏を感じていた





…ってアレ!?これ年越して続くの!!?








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:続きます てーか今回の話は多分
お兄さんのターンが多くなりそうです


山崎:それ夢小説としては外道過ぎません!?


土方:つくづくマトモなネタ書かねぇなテメェは
つーか年越したら季節外れんだろが


狐狗狸:まぁ本誌でもクリスマスのネタ
越年してるってことでお相子っしょ


土方:何その"釣り合いとれてる"感!?


清蔵:にしても過去の話を参照する限り
さんは洋風のモノを嫌っておいででしたが?


狐狗狸:それはさんがじっくり説得後
そこだけは我慢する形になったらしいです


沖田:オレの台詞はあの一言だけかぃ?


狐狗狸:スンマセン、次回はキチンと出番あります




今年のラス短編が引き続いててスイマセン!
後編は年明けたら なるべく早めに乗せます


様 読んでいただきありがとうございました!