「よう、じゃねーかぃ」


「総悟殿 その格好は一体?









とくに仕事もなく、
兄上が出かけてしまったため


何処へ行こうか 当てもなく歩いていたら





妙な格好をした総悟殿に出会った







頭や腕などあちこちに包帯を巻き、
手には何かの手提げ袋をぶら下げている









「あーこいつぁ、今月にハロウィンがあるんで
イメージアップの為に仮装して見回れって
お上からお達しが来ててねぃ」


「はろうぃん?」


「まぁ、簡単に言うならお祭りだねぃ」







…怪我人でもないのに、包帯を身体に巻きつけた
姿をして街を歩かねばならぬとは





一体 どんな祭りなのだろうか











「普段スカートはかない奴がスカートはいてると
もうそれだけで別人」












「よく分からぬが、大変だな」









そう言った瞬間、いきなり総悟殿が
懐にもぐりこんできた







反射的に飛びのいて、槍を





あ、あれ?!







「槍 もーらい」





ニヤッと笑った総悟殿の手には、


懐にしまっていたはずの
槍の入った信玄袋があった





「いっ、いつの間に!返してくだされ!!


「返してほしけりゃ、コイツを着てもらおうかねぃ」







言いながら総悟殿が投げて渡した手提げ袋を
受け取り 私は中身を眺めた





…こ、この衣装は…!







「いや、でも私は兄上のように美しくも
なんともないからそんな女子のような格好は」


「そうかぃ じゃ中の槍へし折るぜぃ


「そ、それだけは勘弁してくだされ!!」


「ならそこの公衆便所で着替えろよ
遅れたら 槍はコナゴナだぜぃ」







少し先の公衆便所を指差して、
総悟殿が槍をちらつかせる







「…了解した!」









私は形見の槍を折らせぬために
渡された衣装へと着替えに行った









どうせへし折るなら、





瞳孔マヨ殿の何かだけにして欲しいと
本気で思う










「意外と似合うじゃねぇかぃ


「…あの もういいだろうか?
この姿は少々気恥ずかしいのだが」







ニヤニヤ笑う総悟殿の視線が恥ずかしい









渡されたのは、黒を基調にした
ゴスロリ衣装という代物だった







以前 兄上が仕事で着ているのを見かけ
密かに憧れていたのだが、







少し恥ずかしいし 兄上と比べると
見劣りがするので





私には似合わぬと諦めていた









…まさか、今日着る羽目になるとは







ちなみに元着ていた服は、衣装の入っていた
手提げ袋に入れて 持っている









「それと、私の槍を返してもらいたい」


「いいぜぃ 返してやらぁ」







差し出された信玄袋を受け取ろうと
手を伸ばしたら







今度は、元の服が入った手提げ袋を奪い





総悟殿がきびすを返して逃げ出した







「どうせなら一日中その格好で
過してもらおうかねぃ」


「かっ…返してくだされ!!


「心配すんなぃ、一日たったら返すって」







そ、そう言う問題ではない!!







私は 奪われた服を返してもらうために





総悟殿の後をこの格好のまま追い始めた











逃げる総悟殿を追いかけていたのだが
途中で巻かれてしまい 私は途方にくれる







どうにかして見つけ出さねば





あの服は兄上に買ってもらったものなのだ…!







「おお、ちゃんじゃないか!
可愛らしい格好をしているから見違えたよ」







聞き覚えのある声に振り向くと、
仮装をした勲殿が 右手を上げていた







「…勲殿は一体 何の仮装を?」


「いやードラキュラのつもりなんだけど
似合うかなー」







どらきゅらが何かはわからない
何処かの原住民だろうか?





いや、それはどうでもいい それより







「勲殿、総悟殿の行方を知らぬだろうか?」


「スマン わからないなー
けど、どうかしたのか?」


「あの、総悟殿に服を取られてしまって…」









私は 先程のやり取りを説明した









「しかし、一日くらいなら今のままでも
いいんじゃないかな?」







勲殿の言葉に 私は首を横に振る







あの服は兄上にもらったもの、その上
この格好のままは恥ずかしいから…」


そうか?結構似合うと思うけどな?」









朗らかな笑みと共に放たれたその言葉は
父上のそれによく似ていて







少し、顔が熱くなった









「まーオレとしてはお妙さんに是非着てもらい」







勲殿の言葉が終わるよりも早く





妙殿の投げた岩の塊が勲殿の後頭部を直撃した







「いっ…勲殿!?







倒れた勲殿を踏み通り、妙殿が
近くまでやってきた







「あら ちゃん、駄目よ
変なゴリラ男に会ったら張り倒さないと」


「妙殿、あの この方は変質者ではなく勲殿」


「分かってないわね このゴリラはいつだって
変質者でしょ?」







笑顔と声音は普段と同じだが
だからこそ、背後で膨らむ殺気が恐ろしい







頭を擦りながら起き上がった勲殿が妙殿に気付き







おお丁度よかったお妙さん!是非とも
ちゃんみたくお妙さんもゴスっ」





伝えようとした言葉半ばで





「テメェが着ろやゴリラアァァァ!!」







妙殿の阿修羅の如き攻撃が勲殿を襲った









…私には妙殿を止める術は無い







スマヌ勲殿、と心の中で呟き
その場から早々に立ち去った











「はぁ…一体 総悟殿はどこへ…」


「あれ?君って確か ちゃん…だよね?」







路上で声をかけてきたのは、
地味な黒いローブの男だった







「やっぱりちゃんだ 何で
またそんな可愛らしい格好を?」


「…生憎と 死神に知り合いはおらぬ」


人間だから、オレは山崎って言うの
真撰組の隊員の!」







…言われてみれば、顔にうっすら見覚えが





しかし 今はそんなことはどうでもいい







「そうか、では山崎殿 総悟殿を
見なかっただろうか?」


「沖田隊長?いや、見てないかなー」







あっさり言われ 私は落胆する







「けど 副長の側にいたら現れたりして
毎度ながら副長の座を狙ってるみたいだし」





その言葉に 思わず山崎殿に詰め寄った





「…瞳孔マヨ殿は 今何処に?」


「たっ多分 この先の料亭で警備中だったはず…」


「そうか、かたじけない」







やや視線を逸らす山崎殿に礼を言い
私はその料亭まで向かった









常日頃から 総悟殿と瞳孔マヨ殿は仲が悪い







なれば、何も知らずとも 瞳孔マヨ殿の
側にいれば向こうから来るかもしれぬ











「…おい、テメー何のつもりだその格好は」


「瞳孔マヨ殿に言われたくない」







目的地にたどり着き、些か勝手ながら
潜入させてもらって





庭園に一人警備をしていた
瞳孔マヨ殿に挨拶をした









…瞳孔マヨ殿の仮装は、禍々しい角
シッポのついた悪魔のような代物







今まで見た真撰組の仮装で





一番似合っている気がするのは 気のせいか









「スカートなんか穿きやがって別人の
つもりかコラ てか侵入してきたろテメ」


「用あって訊ねたまでのこと」


「何の用だよ 言ってみろ」







正直に言うと、問答無用
追い出されるだろう







「服を取り返しにきた」


主語がねぇよ!つーか服なら
似合わねぇくらい女っぽいの着てんだろ!!」


「そうではなく…兄上に買ってもらった
物の方だ!!」


「ますます意味がわかるか!!」







などと、話し合っていたら
いきなり バズーカの弾が飛んできた





二人同時に難なく避け





私は飛んできた方へ視線を向けた







「お、 いい所にいるじゃねぇか」







目論見通り、総悟殿が現れた







先程の姿に 服の入った手提げ袋と
大き目のバズーカが追加されている







「やはり来たか、総悟殿」


「テメ総悟!いきなり撃ったろ!
つかお前今 やはりっつったか!?」



「いやだなぁ土方さん これはオレの
愛のムチって奴ですよ」


「確実に息の根止める気で撃ってるだろ
てか 今勤務中だボケ!」








瞳孔マヨ殿の言葉は無視して、私は考える







どうやったら 総悟殿から服を取り返せるか





…答えはすぐに出た







総悟殿!私も瞳孔マヨ殿の討伐
手伝わせていただきたい!!」


「最初からそのつもりかテメェェ!」


「いいぜぃ オレ達のコンビネーション
見せてやろうや」


「オイ オレの意思は完全無視か!!」







瞳孔マヨ殿への攻撃を手伝いながら、
隙を見て 服を取り返す!







「よーし、右から回り込んで
土方さんを挟み取りでぃ!」


「了解した」







言われた通り 素早く瞳孔マヨ殿を
挟み込み、総悟殿がバズーカを撃つ







「死ねぇ土方ー!」


「そう簡単に死ぬかぁ!」







瞳孔マヨ殿が弾を避け、そのまま
こちらに切り込んできた







剣撃を槍で捌き 総悟殿の方に寄る







「ちっ、外したか」


「そのようだ…な!







好機と見て、私は素早く右手を伸ばしたが





動きを悟られ 僅かに手提げ袋に
指先が掠っただけだった







「おっと、取られたもんを取り返そうったって
そうはいかねーぜィ」


「く…上手くいくと思ったのだが」


「テメェら叩っ斬ってやっから覚悟しろやあぁぁぁ!!」









それからしばらく、瞳孔マヨ殿の
攻撃を避けながら







総悟殿と協力して瞳孔マヨ殿を攻撃







かつ、服を取り返すための攻防を総悟殿と
繰り広げる―という





異質な三つ巴の戦いを繰り広げていた











「ぐああぁぁぁっ!?」







ようやくバズーカが炸裂し、瞳孔マヨ殿が倒れ伏す







「やったぜぃ!」


「当たったな総悟殿!」







手を交差させて打ち鳴らし、お互い
はたと気付く









見事な庭園は先程の戦いで見る影も無く







被害は仕切りの壁や料亭の縁側にも
大きく及んでいた









「あー…オレ 知ーらねっと」





ぼそりと呟いて





「ヒマも潰せたし、こいつぁ返しとくぜぃ
またなー







言いながら、総悟殿が私に服を渡して
その場から逃走した









改めて周囲を見渡してみれば







ボロボロになった庭のあちらこちらから
真撰組の隊員が駆けつけてきた





マズイな 私も逃げた方が…







動こうとして、背後の殺気に振り向く





「…とりあえずテメェだけでも付き合えコラ」







怒気を孕んだ瞳孔マヨ殿が手をボキボキ鳴らし





私は、その場からも後の仕置きも
逃れられないと悟った











このあと、小一時間ほど説教を食らわされ









以来、はろうぃんと聞くと どうしても
このことを思い出してしまう








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:銀魂でハロウィンネタを書くぞー!と思い
ついでなんで真撰組を絡めてみました


沖田:ち、どうせなら槍で脅して
他の衣装も着せりゃ良かったか


狐狗狸:うわ、ドSかつ外道なこと言うね


沖田:まぁヒマは潰せたし、衣装着てる写真も
取ったから こいつぁ売れるかもねぃ


狐狗狸:さっ、更に外道だ…(汗)


近藤:今回 オレ何もしてないのに、何故
お妙さんに殴られねば!?


狐狗狸:多分通りすがって、あなたの会話に
軽くムカが入ったからだと


山崎:あの…ちゃんが無表情で
詰め寄ってきたの、正直言って怖かったんすけど…


狐狗狸:んなもん気合で何とかしなさい(ヒド)


土方:つーか勤務中にあんだけ大暴れしといて
あの二人が切腹じゃねぇってどーいうことだ!


狐狗狸:沖田はいつもの如くのらりくらり逃げて
は半ば沖田に騙された形でお咎めなし?


土方:ウソつけ!納得いくかコルァ!




あんまりなオチでどうもスミマセン(確かに)


様 読んでいただきありがとうございました!