クリスマス用の華美な飾り付けが
目を引く師走の空気の中





「すっかり風が冷たくなったアルな〜
定春 寒くないアルか?」


「わん!」





白い息を吐きつつ、共に公園で戯れる
小さな飼い主と大きな愛犬







時間帯が早朝に近いせいか
彼女の近くに、人の姿はほとんどない





そーれ!とって来るヨロシ定春!!」





その辺に転がっていた棒切れを
遥か彼方までふっ飛ばした神楽に答え


定春がその白い巨体で駆け出した瞬間





枝の落ちた方向で、耳障りな
ブレーキ音が響いた





「ん?待つアル定春!!」


構わず命令をこなそうとする定春に
待ったをかけ 急いで現場まで赴くと







そこには棒切れを手に佇む


スレスレで急停止したらしい車があった





「気ぃつけろバーロー!!」







悪態をついてその場を去る車に
見向きもせず、神楽は呼びかける





「おー〜何やってるネ
また三途スレスレだったアルな今の」


「む、おはよう神楽…歩いてたら落ちてきた」


「端折るなヨ、それ私が投げたね
定春に取ってこさせるつもりだったアル」


「なるほど それはすまぬ事をした」





言ってややおぼつかぬ足取りで
側までより 神楽に枝を返す





平素の無表情は変わらぬのだが


瞬きの多くなった目の下には
普段無いはずのクマが浮いている





「どうしたネその目の下のクマ
どっかの名探偵にでも憧れたアルか?」


「探偵はしておらぬが…徹夜はした」


「また仕事で朝帰りアルか?
かわいい顔して色々と激しいアルな〜」


「…確かに今回のは些か骨が折れたな」





銀時仕込みのボケの不発と珍しくぼやいた
仕事のグチに、彼女のニヤケが止まる











「冬場の温もりは最終怠惰兵器」











「そんな面倒なヤマだったアルか?」


「…何、少々寝不足なだけだ」





言ってミリ単位で口の端を上げる彼女だが


実際はほぼ二日の完徹に近い状態で
仕事を終えたばかりであった







「助けてもらった礼はいずれまた…
私は帰るからコレで、しからb」





淡々と言葉を紡ぎ 背を向けた彼女


…の黒い一まとめの三つ編みが
抜けんばかりに勢いよく引かれる





「そんなフラフラしてたらまた三途行くネ
送ってやるから乗るといいヨ」


「いや大丈夫だ神楽、弱っておる
わけでなし 自力で帰…っう」





クラリとよろめいた一瞬を見逃さず





「定春 乗っけるヨロシ!」





神楽との阿吽の連携で頭を下げて伏せり
相手を大きなその背へと乗せる定春







「本当に大丈夫だから…降ろし…降ろ…」





押さえ込まれ、声音と抵抗は段々弱まる







二日間の徹夜と仕事を終えた安心感





更には温かな定春の背が思いの他
心地よすぎた為かくたりと力が抜け







「降ろへまへ〜ん」





いやらしく笑う神楽の声も最早耳には届かず







は、眠りへと落ちた







「やっぱ相当ムリこいてたアルな
やせガマンしようなんて百年早いヨ」





得意げに言うと神楽はペチペチ頭を叩く







「にしてもコイツの寝てる状態って
意外とレアアルなー…」







しげしげ寝顔を見つめる彼女に
悪魔のささやきが舞い降りた





今の内に色々イタズラしちゃるネ!
まず顔に落書きと付けヒゲでも…おっと」


が、ほぼ手ぶらで出てきた事を思い出し





「ペンは万事屋だったネ、定春
すぐ戻るから そこにいるアルよ!」





命令を下すと油性ペンを取りに
神楽は万事屋へとダッシュしていく







伏せった体勢のまま主を待つ定春の耳に





「兄上…どこ…?」





小さなか細い声が、届く







くぅんと鳴いて返事をするも
背に眠る彼女の呟きは止まない







兄を呼ぶ声が泣き出しそうな色を帯びた時





定春は身体を持ち上げた









「…アレ?定春?定春ぅぅぅぅ!?





時間差で戻った神楽の咆哮が
誰もいない公園で空しく響く









鼻を鳴らしながら狭い路地を歩く定春の前に





おぉ〜定春君ではないか!
リーダーは一緒じゃないのか?」





KFCの袋を抱えた桂とエリザベスが現れた





「もしやはぐれたのか〜よーしよし
オレが案内してやろう、怖くないぞ〜





頬を染めてにじり寄る彼の肩を叩き
エリザベスは看板を掲げる





『桂さん、背中に乗ってるのって…』


「背中?…おお!あれは」





気づいたと同時に両者は突っ込んできた
定春のタックルに押しまけ吹き飛び


辺りに散乱したチキンにまみれて倒れ付す







構わずそのまま 真っ直ぐ道を駆け


屋敷の立ち並ぶエリアで足を止めて
息を整えた定春の姿を眼にし







おお!お前はあの時の狗神ではないか!
余はこれからペットを見に行く所でな〜」





ハタ皇子がつかつかと歩み寄る





「ん〜あの娘とは違う娘だな?そんな小娘を
乗せるなら余を乗せんか〜」







彼が作務衣の袖を掴むより早く
大きな前足が触角のついた頭を沈めた





ぎゃあぁぁぁぁぁ!!な、何をす」


有無を言わさず起き上がった頭へ
噛り付いて定春が天へと放り


皇子は 血をたなびかせた流星と化した







「…兄、上…」





彼女のうわ言へ答えるように鳴きながら
様々な場所を歩き回る定春と遭遇し







「あ、あれ?あのデカイのの背中に
乗ってんの さんじゃ…」





買い出し帰りの鉄子は首を傾げ







「お〜金時んトコのワンコじゃ〜
相変わらずでっかいの〜!!」





何故かサンタに変装(?)していた坂本は


笑いながら鼻先に近づいて
頭まで見事に赤くされていた









どこかへ向かう様に歩いているものの


時期と時間の経過のせいか人通りが多く





人を乗せた目立つ大きな身体が
仇となって、行く手を阻まれ続ける定春が







「おや定春君 お出かけですか?」





角を曲がってバッタリ屁怒絽と出くわし


反射的数歩下がり、器用に方向転換をして


駆け出すも 少し先の通路の横手から
飛び出した二人の人影に目の前を塞がれた





オイ止まれそこの巨大犬!大人しく
背中の少女を帰してもらおうか!!」


「いや小銭形さん、アイツは別に
さらわれたわけじゃないって多分!」


「焦るなボーイ 話は全てBARで聞いて
…ってオイ止まれ!止まれよ止まれって
うわばばばばばばば!ぶつかるぅぅぅ!!





グラサン同心が腰を抜かした刹那
定春は手前で地を蹴って飛ぶ


大きな身体が男二人の真上を
飛び越し、向こう側へと着地した







「待て定春!!」





反射的に金髪のもう一人が叫ぶが
決して定春は立ち止まらなかった











お気に入りの土手で足を緩めた所で







眠っていた娘がようやく目を覚ます





「ん…いかん、つい寝てしまった」


「きゅーん…」


「どうした定春 何だか悲しげな
声音で鳴いているではないか」





彼女が頭へ手を伸ばして撫ぜるも


尾はだらりと垂れ下がり、どこか
しょげている雰囲気をまとっている





「ここは、公園ではないようだが…?」







しばしの沈黙が時を埋め







やがて一つの心当たりが浮かび上がった





「…もしやお主 私を送ろうと?」







間を置いて、定春は"わん"と弱く吼える





「そうか…ありがとう定春」





笑みは見えずとも気配は感じたのか


もう一度わん、と鳴き声が聞こえ
今度は嬉しげに尻尾が揺れた





「しかし神楽がおらぬのなら今頃は
きっと心配しておるぞ?」


「くぅん…」







ゆっくり定春の背から降り 諭す





「お主の気持ちはもう十分だ、私一人で
帰れる…だから定春も戻れ 戻れるか?





無言で、首は縦に振られた







「じゃあ気をつけてな」





安心して彼女は踵を返し、歩き出す





…ハズが 袖の端を噛み引かれ立ち止まる







「こら、離さぬか」





静かに問うも、定春は袖を噛んだまま
首を横に振り つぶらな瞳で見つめている


まるで"帰るな"と言わんばかりの態度で





「…仕方ないな、では共に戻ろう
まずは神楽の所へな?」


「わん!」







その後、合流した神楽に叱られ


面倒をかけた分の帳消しにケーキ屋へ
連れ出される羽目になるのを知らず





擦り寄る温かな身体に 
気づかぬ内に頬を緩めていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:クリスマス絡みで万事屋絡みを書こうと
ぼんやり考えて…こんなん出ました


銀時:何でそこで定春!?夢ならそこは
銀さんで行くべきだろお前!!


新八:僕ら名前ですら出てないんですから
ここいたらマズいですって!!


神楽:てか言うほどクリスマス絡んでないネ


狐狗狸:あの後ケーキたんまり奢らせたんだし
それは言わないの てか坂本さんは
また陸奥さんの目を盗んで江戸に来たのか?


銀時:知るかぁぁぁ!ヅラやあいつまで
出すんならオレも出せよぉついででいいから!!


新八:ついにへりくだっちゃった!?




季節感とサブキャラ出演と〜と色々
欲張って結果、こんなアレに…(謝)


様 読んでいただきありがとうございました!