ママー!早くこっちこっち!!」


「こら、前見て走りなさい
周りの人の迷惑になるでしょ」





おーやっぱあの位の子供は元気がいいな〜


楽しいのは分かるが、あんま走って
転ばないように気をつけろよー





にしても母親若っけーなぁオィ


身体はそこそこスレンダーな方なんだけど
顔と髪型がイマイチなぁ…痛て





「オイなんかしゃべれよー!」


「中身どーせオッサンなんだろー!!」





ちょ、ちょちょやめろよヤーメーローよー!


確かに中身オッサンだし 遊園地の着ぐるみに
襲撃すんのはガキの伝統だけど!


これちょっとした集団リンチだからぁぁぁ!


軽くイジメに近ぇからぁぁぁぁぁ!!





思わずしゃがみ込んで腕で頭を庇うも
群がるガキどもの攻撃は止まない


むしろ中身を確認しようと必死だ







やめて!本当やめて!!


顔露出したらクビ言い渡されるから!
本当カンベンして…











「きぐるみの中身はほぼ八割中年」











「ちぇーつまんねーコイツ」


「そんなの放っておいて、ジェットコースター
乗りにいこーぜー!!」





はぁ…はぁ…やっとどっか行ったか


息を整えつつ、立ち上がってホコリを払うと
オレはその場から歩き出す







決められたルートを巡回しつつ通り過ぎる子供や
家族やカップルに愛想を振りまくも





オレなんかにはほとんど目もくれず


誰もが楽しそうにアトラクションを満喫し


一緒に来た相手へ笑顔を向けながら
幸せ一杯の雰囲気を撒き散らしてやがる





オレだって昔はハツとこうやって


デートの一つだって出来たのに…





「くそう…皆不幸になっちまえ





奴等に聞こえないよう 小さく呟く







どーにか見つけたこのバイト
労働の割には実入りが少ねぇよなぁー


まあでも、金がもらえるだけマシっちゃマシだ







しかしたまに働いてると誰かしら仕事の邪魔したり
巻き込まれて結局クビになるんだよな…





けど、知り合いでこんなトコ
来る奴ぁいねぇだろうし





ガキの夢を壊さねぇよう、働いてる間は
無言が原則んなってるし


今の所さして問題起こしてねぇから


うまくすれば今月中は何とか食い扶持が





「兄上〜!」





…あれ?


今ものすごく聞き覚えのある声がしたような


気のせいだよな、うん幻聴だよ
風通しも悪いから耳も悪くなってんだオレ







「兄上ぇぇぇぇー!!」





…あれ?


今ものすごく見覚えのある姿が見えたような


ヤベェな幻覚も見え始めてるよ
着ぐるみの中って蒸すから気分悪くなってんだ





日本人とかガキンチョって黒髪が多いし


女の子なら三つ編みとか珍しくないし


最近じゃシンプルな服も流行ってっから
あの格好だって作務衣っぽく見えるだけだよ


うん、きっとそうだ







兄上ぇぇぇぇ!どこですかぁぁぁぁ!!」





…あれ?今目の前にいる女の子


ものすごくちゃんに似てるんだけど
他人の空似だよね!?







「兄上、何処におられるのですかぁぁ!!」





張り裂けんばかりの声で周りの客達を
若干引かせながら


ちゃんは声を張り上げ歩く







何で!?何でいるの!!?







思わず隠れたくなる気持ちを堪えながら
必死で思考を巡らせてみる





大抵遊園地っつったら、誰かと一緒
来るのが定番だよな うん


この子だったら尚更保護者がついてねぇと
危なっかしいしな、こういう所







「兄上ぇぇぇぇ…!」





あの必死な叫びを見ると 多分コレ


お兄さんと一緒に来たんだけれども
気付いたら逸れたパターン
っぽい







一緒にお兄さん探してやりたいトコだけど


迷子センターとかの場所を教えたいトコだけど





…しゃべったら、確実にこの仕事クビになる!





やっと見つけた収入源を情にほだされて
減らすわけにゃいか


「そこの着ぐるみの御仁、私と同じ目の色の
とても麗しい人を見かけなんだか!?」


ってアッチから来たぁぁぁぁぁぁ!?





「頼む、知っていたら教えてくれ!!」





必死なその様子に、どうしようか悩んでいると
どっかの鼻垂れ小僧が口を挟んだ





ねーちゃんバカじゃね?ここの着ぐるみは
しゃべんねぇんだよ 知らねーの?」


「何と…そうなのか?」





首を縦に振れば、ガックリと肩を落とし
ちゃんは別の場所へ歩いていく







お、オレは何も悪くないんだ





なのに…何?この"雨に濡れた捨て犬を見捨てて
走ったあの日の帰り"みたいな気持ちは!?









「兄上ぇぇぇぇ…」







結局、どうしても気になってしまって





アトラクションの通路をうろつきながら
彼女の姿を目で追っている







にしても幾ら今日は休日で人多いからって


あの人もあの人で目立つから
見当たらないハズねぇんだけどなぁ…





ってちゃんの後ろにいるあの黒い服着て
鎌持ったオッサンって…死神じゃね?


しかも今入ってったあの辺って


確か、外れかかってて今度修理に出すハズの
看板かなんかぶら下がってたような…







急いで後を追ってみれば





「そんなベタなぁァァァァァァ!!」





ややデカめの看板に下敷きとなって
倒れたあの子の側で


今まさに魂の緒を刈り取ろうとする死神が





だぁぁぁ!首に鎌当てんなぁぁぁ!!


しっしっ!あっちいけリアル死神ぃぃ!!







「…よし、どっか行ったな」







ふぅと息を吐いてからその場を離れれば





「む 油断した」





ちゃんは何事もなかったかのように
むっくりと起き上がって また歩き出す







ったく普通はこんなトコ入んないっての


ちゃんと周りを見て行動してくれよ


本当、気になって気になって仕方ない







ん?なんかこれ片思い男子のセリフっぽくね?





いやオレはこれまでもこれからもずーっと
つか一生"ハツ一筋"を貫くつもりだよ!?







でもちゃんを見てるとさ…


何ていうか、放って置けなくなる





変な奴に騙されるんじゃないかとか


下手したらどっかで死んじゃったりするんじゃ
ないんだろうかってマジ、ヒヤヒヤすんだよね





銀さん辺りはわかってくれるんじゃねーかなー









「兄上ー!」







果敢に向こうのエリアへ走るあの子を
追おうとして…オレは見た







「もし逸れたらここで待つって決めてたのに
どこ行ったんだろ…





いたぁぁぁぁぁ!お兄さんいたぁぁぁぁ!!


何でこんな分かりやすい所で気付かないの!?
ほぼ数十メートル位の距離だよね!!


てか何ソノ周囲のリアルorzな男ども!?


アンタ一体何やったのぉぉぉぉ!!?





…いや そんな事はどーだっていい
とにかくどうにかして教えてあげないと!







慌てて駆け寄ろうとして、見てしまった





派手に宙返りするアトラクションの客席から
放り落とされた黒いもの


あの子の頭上めがけて落下してくるのを





「危ないちゃん、上!





思わず叫んだ言葉の半分が
けたたましい時報と叫び声で掻き消される







だぁぁぁぁぁ!間に合えぇぇぇぇぇ!!


目覚めろオレのジョーカーメモリィィィ!!







走りざまスライディング気味に
彼女にタックルをかませば





ぬぉ!?何をす」


文句の途中で ガシャンと重たそうな音がした







うわぁ…これ、なんかやたら重そうな
キャリーケースっぽくね?


こんなもん頭に当たってたら確実に死ぬわ


てーかこんなの持ったまま
あんな激しいアトラクション乗るな客!







「お主、助けてくれたのか…すまない」


「いいんだよ 仕事だし」





身を起こすこの子に答えてから
あっと口を押さえる


やっべ うっかりしゃべっちゃった…!





「ん?お主の声、どこかで聞き覚えが…」


「気のせいだよ それより探してる人が
あっちで君を待ってるよ」


真か!すぐ行かねば
感謝するぞ着ぐるみの御仁!!」


「あ、ちょっと待って!!」





クルリと振り返った彼女に、口の辺りで
指を立ててオレは頼み込んだ





「…僕がしゃべれる事は 内緒にしてね」


「恩人の頼みとあらば…しからば!」









頭を下げ、嬉しそうにお兄さんの方へ
走ってったちゃんを見送って


オレは思わず額の汗を拭う







ふー…どうやら上手く誤魔化せたみたいだ
よかったよかっ





「オイ、お前今しゃべったろー!


「やっぱ中身オッサンだぜコイツ!
なーにが"内緒にしてね"だよ!!」


げっ…さっきのガキどもぉぉぉぉ!





逃げようとしたけれども、時既に遅く
取り囲まれたオレは集中砲火を喰らいまくった







痛い痛い痛い痛い!何でオレがこんな目に…!







「いい加減にしろよテメェらぁぁぁぁぁ!!」





我慢できずに全員の頭を引っぱたけば
ビービー泣いて 親の所まで走って逃げてった





ザマーミロ、クソガキどもが


しっかし何処の親だこんなシツケの悪いバカを…





「…君、それウチの子なんだけど」





げぇぇぇぇ!おおおおお、オーナー!?







泣きじゃくるおガキ様の頭を撫でながら
青筋の立った笑顔で オーナーは穏やかに言った





「ご苦労様…帰っていいよ君
あと明日からもう来なくていいから








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:某所でのネタを拝借させていただきまして
マダオで話を書いてみました


長谷川:しかし二人が遊園地に来るのは珍しいよな


狐狗狸:多分安くでチケットを
手に入れたんでしょ、お兄さんが


長谷川:てーかお兄さんホント何やったの!?


狐狗狸:ああ、あの人は言い寄ってきた男を
片っ端から精神的に再起不能へ貶めてました


長谷川:怖っ!ちゃんのお兄さん超怖っ!!




限りなくマダオ視点でのテンションでお送り
…出来てたら、本当に幸いです


様 読んでいただきありがとうございました!