外出準備をしつつ、二人は呆れたように
寝室の病人へ視線を寄越す





「まったく…何度風邪引く気ですか?」


バカは風邪引かないってあれウソアルな」


「おーい、お前だって前に引いてたろ
おもっくそ引いてたろ…うぇっほえほ!





布団から身を起こしながら抗議して
咳き込む銀時を宥める新八





「必要なものは僕らが買いに行きますから
銀さんは休んでてくださいね」


「…一人いりゃ足りるだろ、どっちか残れ」


「無茶言わないでくださいよ」


「銀フルエンザにかかって、また
ウィルス・○スになるのはゴメンね」







あっさり言い捨て
万事屋から出て行った二人へ





「ったく薄情なガキどもめ…」





呟くと、銀時は天井を見上げる







「あの仕事でまさか依頼人の風邪もらうたぁ
オレも年なのかねぇ…えほえほっ」





やや苦しげにセキをしつつ、ため息をもらし





「あぁ…ナイスバディのお姉ちゃんが
エロい看病サービスしに来てくんねぇかな〜
主に下の世話中心で」





ここで書けないような18禁規制
ぶっちぎり妄想を脳内に繰り広げて


いつしか銀時は深い眠りについた…











「ただのバカは風邪を引かん
極度のバカが風邪を引く」












静かに天井の戸板を外し 室内に下りる





「こんにちは…何だ、寝ているのか銀時」







辺りを伺うも、和室には銀時が寝ているだけ


応接間や他の部屋に新八や神楽の姿はない





仕事で来れぬ あやめ殿に頼まれ見舞い品を
渡しに来たのだが…





しかし恐らく二人は買い物で
出ているに違いないだろう


ここは品を枕元に置いて、帰るが吉か







起こさぬように足音を殺し 銀時の
枕元へ見舞い品の風呂敷包みを置く





そして天井裏から戻ろうと腰を上げかけ







「う…うぅ…」





微かにもれる呻き声に気付く





「何だ、それほど風邪が辛いのか?」







もう一度屈んで顔を覗こうとした途端





素早く片腕を掴まれた





「痛っ…!痛いぞ銀と」





込められた力が余りに強く、振り払おうと
もがきながら銀時を見やる





いつの間にか起きて 玄関から入らなんだ事を
咎めているものとばかり思っていたのだ


でも、それは間違いだと知った







…銀時は いまだ夢の中にいる





寝顔は苦しげに歪み、脂汗が止め処なく流れ


口から吐き出される呻きが段々酷くなる





まるで罪に苦しむ者のように







―握り締める腕の痛みなど 忘れた








「銀時、大丈夫か 銀時!





夢から起こすべく、側で名を呼び続ける







病人を無闇に起こすのはよくないと
兄上から教わってはいた





けれど 銀時のこの様子は尋常ではない


何故だか分からぬが…一刻も早く
目覚めさせねばいかぬ気がした







幾度も幾度も呼びかけ続け





そこでようやく目を見開いて
銀時が、半身を勢いよく起こす





っは!はぁ…はぁ…ゆ、夢か……」


「おはよう、大丈夫か銀時」





目をしばたかせ やっと銀時が
こちらを向いて…驚いていた





「あれ?何でがオレの隣にいんの?」


「あやめ殿からの見舞い品を置きに来たのだ
それより、腕を放してくれ 痛い


「え?あ…悪ぃ悪ぃ」





ようやく解放された腕は、じわじわと
痺れ始めていた


袖の上からにも関わらず手の痕が強く残っている





…夢の中の何が、この痣と変わったのだろう







悩む私を他所に 銀時が枕元に置いた
あやめ殿の見舞いの風呂敷包みに手をかけ





「しかしさっちゃんからの見舞い品ねぇ〜
どれどれ…うげ





楽しげに風呂敷を解くが…中身を覗き込んだ
銀時の動きが止まる





形容しがたいような妙な顔のまま


ゆっくりと風呂敷が硬く結び直されてゆく





「何が入っていたのだ?」


「あーちゃんは見ちゃダメ魂が穢れる!」





中を見ようとする私を押さえ込みつつ


打って変わって俊敏な動きで銀時が
風呂敷包みを掴むと窓から放り捨て


一拍遅れ 微かな破損音が響いた





「ちょいと!何投げ捨てとんじゃ
こんの穀潰しがぁ!」



「後で片付けっから見逃せババァ!」





下から怒鳴るお登勢殿に叫び返し、銀時が
窓を強く閉めて床に座り直す







「お登勢殿に迷惑かけるのはよくないぞ
それに、病人なのに無理するな」





何だかやたらと渋い顔で、こちらを
じっと見ていた銀時だが





「…うん お前に罪はねぇな今回は
本人にちゃんと言っとくから大丈夫だ」





と言って、一人納得しているようだった





よく分からぬが 何かが収まるのなら
それはそれでよいか







「そうか…所でひどい夢でも見たのか?
苦しそうにうなされていたぞ」





訪ねると 銀時の表情がどことなく沈む





「あぁ…ちっと、昔の事を…な」







その様子は、銀時の過去がひどい苦しみ
満ちたものだと容易に想像させ





「そうか」





私は 敢えて何も聞かずに立ち上がる







「それでは私は用を終えたゆえ
このまま帰らせてもらおう、邪魔し…」





立ち去ろうとしたその時







腕が強く引かれ 前のめりに倒れこみ


気づけば銀時に抱きしめられていた





「ぎ、銀時?」


「なぁ 情けねぇ事言うようで悪ぃけど」





動けぬままの私に、横から言葉が降ってくる





「しばらく…お前のぬくもりを貸してくれよ」







痛いくらいに強い両腕の力とは裏腹に


その声音は、普段の銀時からは
想像もつかぬほど弱々しく聞こえた





「…分かった 他に私に出来る事は
何か無いだろうか?」


「ん…後は話し相手してくれりゃそれでいい
ガキ二人はしばらく帰ってこねぇし」


「そうなのか、やはり買い物か?」


「大正解〜よくわかったじゃ…ん?」





言葉が途切れ 鼻を動かす音が間近で響く





「つかお前、何か甘いモンでも食った?
やたらいいニオイがすんだけど」


「おお よく気付いたな
ここに来る少し前に甘味をおごってもらった」


「そいつぁ珍しくもうらやましい事で…
やっぱり兄ちゃんとか?」


「いや、全くの初対面だ」


「それ危ない人ォォォォ!
絶対ぇヤバいとこ連れてかれるって!」



「うぬ、やたらとどこかへ行こうとしつこくて
用があると説明しても通じぬので気絶させ」


案の定かぁぁ!いいかちゃん今度から
知らない人のおごりとか絶対断んなさい頼むから」





あまり良くは分からぬが、頷きつつ


そのまま私達は他愛のない事を語り合う





会話を交わす事で、私がここにいる事で


お主の心をほんの僅かでも支えられるなら


過去の悪夢の悲しみを 少しでも
癒す事が出来るのならば






いつだって 力になってみせよう







「しかし、新八と神楽は遅いな」


「うっうん…遅いね〜」







会話する内に気は落ち着いてきたらしいが





時が経つごとに 何故か銀時が目を泳がせ
だらだらと汗を流し始めている







「汗がひどいな銀時、水分を取った方が
いいぞ…何か飲むモノを持ってこようか」


「そうだね!それじゃあ思い切って
お願いしちゃおっかな〜」







外に出て買いに行こうとした所、冷蔵庫に
あるものでいいと言われたので





中に入っていたいちご牛乳を


拝借したコップに注ぎ、銀時の手前まで運ぶ







「気をつけて飲むのだぞ銀時」


「いや、そこは普通ちゃんが
飲ませてくれるとかしてくれよ 口移しで」


「…そこまで具合が悪いようには見えぬが」


「悪いって!風邪なめちゃダメなの!
前の時だって皆ウィルス・○スんなってたし!」






何だかよく分からぬ事を言っているが


確かに、風邪は治りかけが危ないとも聞くから
少しは丁重に扱う方がいいのかも知れぬ





…色々と世話にもなっているしな







「仕方が無いな、動くでないぞ」





いちご牛乳を口に含み そのままで
コップを少し離れた畳の上に置き


両手を伸ばしつつ顔をゆっくり近づけ…





左手が、ふわりと銀髪へ触れるか触れないかで





天井からあやめ殿が舞い降りた


ちょうど銀時の真上から 私の目の前に






「銀さぁぁん!風邪で弱ってるって
聞いて急いで仕事切り上げたわ!!大丈夫!?」



「…あやめ殿、銀時ならお主の下でもがいているが」


「もう、そんな事言って〜私は騙されないぞ☆」





…落下の際に外れたらしいメガネを拾い


手渡してかけた所で銀時がグッタリしていたので





「ここは私が看病しておくから、あなたは
もう帰ってもいいわよご苦労様


「そうか では頼んだぞあやめ殿」





自信満々なあやめ殿にその場を任せ
私は天井から帰ったのだった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ベタながら風邪のお見舞いネタです
遅くなりましたが銀フルとも絡めてお届け


銀時:え、何でオレまた風邪引いてんの?
普通こーいうのは逆じゃね?


狐狗狸:はお兄さんの管理が徹底してるので
風邪引きません、引く率高そうなのは管理が
ズボラな銀さんだと思いまして


銀時:…まあいい感じに話が甘いのはGJだが
お見舞いの品があんなヤベェもんなのはどーよ


狐狗狸:さっちゃんですから仕方ないんですよ


さっちゃん:私は銀さんになら何度風邪を
移されたって構わないわ!むしろ蝕んでぇぇ!


銀時:うるせぇぇ帰れお前はぁぁぁぁ!!




前の誕生日ネタと同じ組み合わせで失礼しました


様 読んでいただきありがとうございました!