トンボを追っていた兄妹が 電柱の
ポスターへ眼を止めたのが始まりだった





"かぶき町のど自慢大会"かぁ」


「のど自慢とは、歌を歌う戦いなのですよね」


「概ねそんな感じかな 本当この街って
色んなイベント次から次に催すよねー…」





派手に宣伝されたポスターを眺め
末尾の景品まで視線を移した所で


の目の色が僅かに変わった





「え、喉自慢の景品ってTSと
あのゲームなの!?」








彼でなくても普通の人ならば
誰もが目をひきつけられただろう





TSは今でも人気の高いゲーム機であり


セットとなったソフトは、人気の
ラブコメ少女漫画をゲーム化したもので


発売当初から予約が殺到しどの店でも軒並み
在庫入荷待ちとなっているシロモノなのだ





「こんなの用意できるなんて主催は誰が…
ああお登勢さんか、道理で」





かぶき町で力を持つ彼女であれば


知り合いのツテを利用し、景品用に
TSとゲームを揃えるくらいワケないだろう





「あのゲームか、ちょっといいなぁ…
でものど自慢じゃ勝ち目ないしなぁ」


「そんな事はありませぬ!兄上の歌声は
天上の音楽にも匹敵しますぞ!!」



「誉めてくれるのは嬉しいけど
僕の歌唱力は並レベルだよ」





自信を持って言う妹の頭を撫で





「それに大会の日はちょーど仕事が
重なって出られそうにないし、残念だけど」





少し寂しげに微笑んだを見た瞬間







は心の中でひっそりと誓った


(兄上の為 必ずや優勝してみせる!)











「喉自慢とか基準が素人に分かり辛い」











「と言うわけで のど自慢の大会に
優勝できそうな歌を教えて欲しい」





万事屋の居間で開口一番そう言う


三人は頭に?マークを浮かべて見やる





「何勝手に回想使ってんだコノヤロー
省かず説明しろっての」







上記のやり取りを粗方説明した後







「しかし私は歌などロクに知らぬので
何かいい曲を教えてもらおうと来たのだ」





眉一つ動かさぬまま彼女はそう付け足した







「つってもオレぁ曲なんざ殆ど聞かねぇしな」


「TVで流れるサビぐらいですもんね歌えるの」


「スタンド温泉編でも、サビ以外適当に
誤魔化しまくって中の人のオカンから注意が」


「アニ銀見てない人が読んでたらどうすんのこれ!
…まあ歌と言えばやっぱりお通ちゃ」


「サブちゃんがいいアルか?それとも
他の演歌で行ってみるアルか?」


ちょっと!
人の話横からかっさらわないでくれる!?」





それぞれの趣向を押す二人のケンカが始まりかけ







「なってないわねあなた達!」





遮るように言い放ち、近くの引き出しの
引き戸が開いてさっちゃんが這い出てくる





「歌の優勝を狙うなら、既存の歌詞に
頼ってばかりじゃダメよ!」


「オーイ何普通に引き出しから出てきてんの?
何その亀甲縛り状態


「敢えて既存から離れたオリジナリティを
見せることで自分の印象を強く見せられるの」





ガン無視で話を進めるさっちゃんを
全く動じず見つめ、は言う





「流石はあやめ殿…ぜひとも私に一つ
手本を示していただけぬだろうか?」





申し出に頬を染めつつも満更でない表情で
咳払いを一つし


「それじゃ特別に聞かせてあげるわ…
"銀さんのラブレターSMヴァージョン"


「「どんな印象植え付ける気!?」」





歌いだす前に二人が彼女を蹴り飛ばし


倫理的に問題ありまくりな歌詞の描写を
直前で阻止する





「てーかそれ完全に童謡パクってますよね?
パクリの上に改悪してますよね!?」


「しかも勝手に人の名前組み込んでくれちゃって
新手の羞恥プレイですか?」


「何よ!蔑みなさいよ!作詞アレンジ
三日間の苦労を無残に踏みにじればいいわ!!」



「「ムダに時間かかってんなオィィ!!」」


「むぅ、歌で優勝するのは大変なのだな」





一人納得する彼女に声をかけたのは





「そう…歌の世界はそれだけ厳しいのよ
悪いけどちゃん、優勝は私が頂くわ


居間の出入り口に姿を現した妙





「「「(姉上・姐御・妙殿)!」」」


「ねぇ何で勝手にあがりこんでんのアンタら」







驚く四人を尻目に、妙とさっちゃんは
互いを認識して目から火花を散らす





「私の歌を聴きもせずに、既存の安い歌詞で
よくそんな不敵な宣言が出来るものねお妙さん」


「あら、トップを走り続けるB'zこそが
鉄板なのよ?猿飛さん」


「今時B'zで優勝狙いだなんて
流行らないんじゃなくて?」


「そんなに童謡が好きなら"さっちゃん"歌って
カネ一つ退場されなさいな」


「うるさいわね!アナタこそしょぼい持ち歌
熱唱して理屈ぬきで空気白けさせなさいよ!」





戦いのゴングが 今高らかに打ち鳴らされた





「平日なら料金安いし、近場のカラオケで
決着付けようじゃないのコラァ」


「望む所よ 私の美声の前に
ひれ伏させてあげるわ」





そのまま立ち上がったさっちゃんと共に
妙は万事屋を後にする







「ちょ、あの人ら本当に何しに来たの!?」


「歌にも色々な種類があるのだな
私にも歌えそうなのはあるだろうか」


「そんなの歌わなきゃ分からないネ
だから私オススメの演歌を」


神楽の言葉半ばに勢いよく窓が開き
桂がひょっこりと顔を出す





「水臭いではないか、学びたいのなら
オレが歌の一つや二つ快く伝授するぞ!」



「だから何でどいつもこいつも勝手に
上がり込むわけ?お邪魔しますくらい言えヅラ」


「ヅラじゃない桂だ」


「桂殿はどのような曲が得意なのだ?」





聞かれて桂はDJよろしくスクラッチを
する真似をしながら答える





「主にK−JOY系のラップだな」


「ラップというのは食事を保存する」


「ベタベタすぎるボケはいらねぇんだヨ
要するにやたら早口な歌と思えばいいね」


「てーかこいつにラップなんて
出来るかっての 舌噛んで三途行きがオチだ」





桂は背後にベタフラを背負った





「あり得る」


「納得するの早っ!頷いてますけど
それでいいのさん!?」


「ならば、ラップが出来るように
今日から早口を特訓するのはどうだ?」


「おお!なるほど」


舌噛む点については改善されて
ねぇじゃねぇか!バカだろお前ら!!」





Wバカに銀時のチョップが炸裂した所で


玄関から入ってきたエリザベスが居間に現れ
息を切らしつ立て札を取り出す





『桂さん、奴等が迫ってるから逃げるよ!』


「む そうかエリザベス…では邪魔したな」





シュタ!と手を上げ、入ってきた窓から
桂とエリザベスが出て行くと







外が俄かに騒がしくなり


入れ違いで隊員数人を外に待たせた
土方と沖田が万事屋に上がりこむ





「さっきここに桂が来てたろ?
奴の行き先について何か知ってんなら教えろ」


ざけんなゴラァ、アイツが勝手に
上がりこんだだけだっつの
さっさとあのバカ捕まえろよな税金泥棒」





流石に立て続けで不法侵入され機嫌の悪い
銀時と土方が睨み合う





「勲殿は別の仕事なのだろうか?」


「あー近藤さんなら普段通り新八君の
姐御追っかけてったから、今頃三途だろぃ」


そいつの前で言うな演技でもねぇ!
てか何でお前がいんだよ槍ムスメ」


「歌を教えてもらいに来たのだ」







無表情ながら自信満々に言い切る
へピタリとくっついて





「アイドルオタクの媚び歌やロクに歌も
知らない野郎どもに聞いても無駄アルよ」





男達を見下す神楽に約三名の怒りが爆発した





「お通ちゃんなめんなゴラァァァァ!」


「そいつぁ戦線布告と受け取るぜぃチャイナ」


「演歌趣味のクソガキが偉そうに
オレだって知ってる歌くらいちっとはあらぁ!」


「オィオィくだらねぇ話なら他所でやれよ」


『黙っとけニコチンマヨラー!!』


「総攻撃!?オレなんか悪いこと言った!?」







こうして土方を他所に男達による
プチのど自慢が始まった







トップバッター:銀さん





「朝〜目が覚めたらぁ〜」


「おお、上手いな銀時」


「バラード形式ですね」





歌詞は著作権の問題により省かれるが


そこそこ流行ってた時に流れた歌が
終わり頃まで流れ…





「あーまい、あーまい 僕のマグナm
「「どんな意味でもアブねぇぇぇ!」」


そこで新八と土方のストップがかかった





「何だよそのいらないアレンジ!」


「アレ?こんな感じじゃなかったっけ?」


「全然違います これ以上この人に
説明し辛い知識植えつけないで下さい」





勝手なアレンジにより銀時は失格し







「じゃ、次はオレが歌わせてもらうぜぃ」





セカンドバッター:沖田





やっぱり著作により歌詞は省略され





「殺せ殺せカツラを殺せ…殺せ殺せ土方殺s
「そっちも著作とかで訴えられるからぁ!!」


「つか何その妙なシンクロ率!
ドSによる魂の共鳴ですか!?」


またしてもWツッコミによりストップが入る





「銀時、人は掘れないと思うのだが」


「ゴメン頼む忘れて今聞いた歌のフレーズ全部」







澄んだ緑色の眼差しに罪悪感を覚える銀時を
面白そうに見やり、悪びれず沖田は答えた





「まぁオレぁ落語しか聞かねぇんですが
こないだ隊士の一人が聞いてたフレーズが
妙に耳に残ったんでつい」


「で 桂はともかくオレの名前を
当てはめるたぁいい度胸だなコラァ!」








思わず刀に手をかける土方を止めたのは





「あーもうウルサくて寝られないんだけど
頼むから静かにしてくれない?」


和室から欠伸交じりに出てきたマダオだった





長谷川さん!?アンタいつからいたの!!」


「話は聞いてたぜ 歌ならオレもちょっとは
自信あるから起き抜け一発披露させてもらうぜ」


「何で今日こんな不法侵入多すぎアルか」







飛び入り参加:マダオ





「僕が落ちぶれてるのは〜とても貧しいk」


「「「お前の人生哀歌はいらん!!」」」


「最後まで聞いてくれよぉぉぉ!!」


「ハイハイ じゃ続きは屯所で聞こうか」


不法侵入の現行犯で逮捕っと」


「ちょちょちょちょっと待ってくれよ!
オレは別にそーいうアレじゃ…」





手錠をかけられ待機中の隊員に引き渡されて
長谷川は場所的な意味でも退場を喰らった







「マダオ殿が捕まった 何故だ?」


「マダオだからさ」


さんダム知らないハズですよね?
…まあいいや、じゃ最後は僕が」





ラストバッター:新八





「おぉまぇぇぇそれでも」


『退場!』


「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛
まだ出だしの部分ですよ!?」






己の音痴さを自覚してない新八は
とても遺憾そうな顔をしていた







「それ見たことか、トップもぎ取れんのは
演歌の重みと拳だけヨ!」


「勝ち誇んのはオレの落語を
聞いてからにするんだなチャイナ!」


「それもう歌じゃねーし!」







負けてもなお諦めの悪い彼らと神楽が
争う様子を見つめ、はため息を一つ







「困った 私は何を教わればいいのだ」


「あ゛ーもう面倒だし"アナロ熊"とかで
いいんじゃねぇの?声も似てる気がすっし」


まさかのTVソング提案!?
確かにソレ流行っちゃ流行ですけど…」





瞬間 天啓を得たかのように目を輝かせ





「なるほど、その手があったか
早速帰って兄上に教えてもらおう」







呆気に取られた彼らを他所に
空気を読まず万事屋を後にした









後日 本当にそれで出場し


かつジャンルの斬新さと歌唱力が受け
彼女は見事に優勝したのだった





『マジで!?』








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:何となく始めた歌ネタがここまで
長いシロモノになるとは思いませんでした


銀時:欲張ってレギュラー出そうとしすぎて
結局グダグダになっただけだろーが


新八:万事屋気安く出入りされ過ぎでしょ!


神楽:私もサブちゃん歌いたかったネ!


沖田:オレだってとっておきのネタが
あったってのによぉ


さっちゃん:私に至っては歌わせてすら
もらえなかったわ!


妙:私のB'zレパートリーなめてるのかしら?


桂:おのれ、あと少し時間があれば
早口を伝授できたと言うのに…


長谷川:オレの扱い本当何とかなんないかなぁ


土方:つか著作権でサイト閉鎖になんのも
時間の問題じゃねーのか?


狐狗狸:orz




かなり好き勝手やらかして反省している
多分後悔はしていない(ダメだろ!)


様 読んでいただきありがとうございました!