ある日の昼休み、ちょうど廊下に
兄妹の姿を見かけ 声をかける
「おーい、妹の方の」
「先生 私にはという名があるのだ」
「あぁハイハイ そしたらさん」
立ち止まった三つ編み娘の方へ顔を向け
「お前、放課後日本史の補習あっから
社会科準備室まで来るように」
「嘘だ…兄上と帰れぬなど…!」
比喩表現一切ナシでorzって
どんだけ兄貴と帰るの楽しみにしてたんだよ
オィオィオィ、とりあえず立ち上がってくれよ
お兄ちゃんだって引いてるじゃんホラ!
説明しても全く耳に入ってない状態の妹を
見かねて 兄貴が本人を説得にかかる
「、僕なら一人でちゃんと帰れるから」
「本当に大丈夫ですか?途中で不埒な輩が
兄上に襲い掛かりでもしたらっ」
「本編じゃないし平気だって、家で待ってるから
きちんと補習を受けて帰ってきなよ…ね?」
「わかりました!兄上がそう仰るのなら!!」
え…先生の立場ナシ?泣きそうなんだけど
「いくつになっても
花丸もらえるのは嬉しいモンだ」
一応、オレの担当は日本史なので
中間・期末等のテストで赤点取った奴は
補習対象として指定日時 空き教室で
テストの補習を行っていた
…が一人だけ、風邪で休む等で
結果的に補習を受けてない奴がいた
それが 3Zの というわけだ
放課後、準備室にやって来たを
適当に開けた席に座らせて
「補習が残ってる生徒はお前だけなんで
基準点を取れたら帰らせてやるからガンバレ」
補習対象者に渡したものと同じプリントを
目の前に配って自分用の椅子に座れば
用紙を見つめたまま、がフリーズする
秒針が非情に進んでいく中 一向に手は動かず
逆に眉間のシワがちょっとずつ深くなっていく
「…なんで初っ端からそんな悩むの?」
「悩んではいけませぬか?」
「いや そーいうワケじゃねぇけど」
釈然としない現状に オレは首を傾げる
兄妹の授業態度は、3Zの中じゃ
そこそこ真面目にやってる方だ
でも受けたテストの点は必ず兄貴より
妹の方がブッチギリで低い
(っても兄貴の方も秀才なワケじゃないが)
この矛盾はどっから来てんだろーか
…それでもどうにか解答欄へ記入を始め
制限時間ギリギリで は全ての答えを
書き込み終えて、プリント用紙をこっちへよこす
「出来た、採点を頼む」
「ほいほい ちょっと待ってろ」
兄ちゃんほどじゃねーけど、兄妹揃って
案外字ぃキレイなんだよな こいつも
お陰で他の奴等よりはややテストの採点はしやすい
…点数は差して変わりはないんだが
採点を始めるオレの手元へ まっすぐな
緑色の視線がやたら絡み付いてくる
や、やり辛ぇ…何?オレの採点が不満なワケ?
「…ちょっ、じっとこっち見ないでくれる?」
「私のことは気にされるな」
「するわ!」
「早く帰りたいのだ…点数が合格点に
なってるか気になって仕方が」
「あーはいはい、ちゃんと採点するから
目でもつぶっててくれ やり辛いし」
呆れ混じりに適当に呟いたのに
「了解した」
あっさり真に受け、はしっかり
両目と口を閉じる
正直だなコイツ…普通の生徒なら
携帯いじったりして可愛げねーのに
「あー…この点数はちょっとなぁ
悪ぃけどまた赤点だからもっかいテスト」
「むぅ…やはり難しい」
「プリント渡す前に10分間は教科書や
ノートの見直しありだから、勉強しなおせ」
「おおそうか ありがとう先生」
納得してカバンから緑色のノートが取り出され
パラパラとページが捲られれば
遠目ながらに並んだ文字が垣間見える
やっぱり真面目にノートも取れてんじゃ…
あれ?何この空白んとこの端っこの文字
やたら"兄上"って字が目立ってるように
見えるのは気のせい!?
よく読めばビッシリ書いてあったのは
全部兄貴に対する賛美の言葉
「 お前授業中も兄貴の事で
頭が一杯だったんだろ?」
「ぬ!何故分かったのだ!?」
「分からいでかぁぁぁぁぁ!!」
マヨネーズ筆記用具代わりとか
テストに食い物らしき落書きだとか
謎の人形みたいなのの絵とか
しまいにゃロッカー爆発する
ハタ迷惑すぎるバカップル留学生とか…
坂田先生 お宅んトコの生徒って本気で
ロクなのいやしねぇよな!
「採点をお願い申す」
「…おー」
最初ほどじゃないにしろ悩むのに時間を
かけつつ答えを埋めて、プリントを渡し
目を閉じるを尻目に採点開始
…続けて二回目ならさすがにそこそこは
答えが書けてるもんだ
オマケして補習を切り上げてもいいんだが
そこまでするにはもーちっと点足んねぇし
あと、授業ん時にも頭の中兄貴まみれだった
衝撃の事実がアレなんで
「もうちっと合格点下げてやるから、再テストな」
言うとはこちらを見て ちょっと眉を潜めた
普段のこいつの無表情ぶりから察するに
流石に、嫌になってきてるって所か
「…三度もやるのか?」
うん それハッキリ言ってオレのセリフだよね
「オレに恨み言を言っても仕方ねぇだろ
こっちも仕事でやってんだから」
「それはそうなのだが…」
「それに早く終わらせりゃ それだけ早く
兄貴と帰れるだろ?頑張れよ」
はそれ以上追求せず、ただ黙々と
ノートチェックとテストに集中する
表情は無ぇけど必死なのは丸分かり
普段もこれぐらい真面目に授業してくれりゃ
言うことはねーな うん
…しかし、高校生にしても実年齢でも
珍しいくらい素直な奴だな
無表情でバカなトコ差っ引いても
案外まぁ 可愛いやつなのかって
(性格単体で見るなら、だけど)
「…先生、服部先生 終わったので
採点をお願いしたいのだが」
「ん、おおそうだったな ほれ」
受け取って早速採点すると…お、おぉ?
オィオィオィやれば出来る子じゃんこの子!
三度目の再テストと兄貴会いたさからの
集中ぶりを省いてもスゲェよこれ!
始めからまともにやればババロアブレーン
常駐から一気に秀才になれんだろお前!?
ちょっと驚きつつ採点終わったプリントを
渡そうと近寄って
目を閉じたまま大人しく
オレの返答を待ち続けるに目を奪われた
高い点を取れたかもしれない自信と期待が
口元にうっすら笑みとなって現れている
…ちょ、その表情は反則じゃね?
そっと顔を近づけ、オレはの額に唇を……
っだぁぁぁ無理!やっぱり無理!!
ラブコメじゃあるまいしオレにそんな芸当
出来るわけねーだろバーカ!!
「…む?」
上げた声に心臓が更に大きく跳ね上がり
が目を開ける前に とっさに素早く
手を頭の上に乗せてしまった
ああああ、何やってんだ本当…
「先生、何をしているのだ?
なんだか顔が赤いようだが…風邪だろうか?」
うるせぇよ、こっちが聞きたいそんな事!
置いた手をそのままにしておくのも何なので
勢いついでにやや乱暴に撫でつつ
「補習だけど高い点取ったから
こいつはへ、先生からの花丸代わりだ」
口元にはニヒルな笑みを浮かべる
でも内心は銀行強盗の騒ぎや動物脱走の件の
比じゃないくらい心臓ばっくばく
やっべ……さっきの バレてねーよな?
あれだけでも下手したらクビになるだけでなく
"ロリコン教師"だの"変態"だののレッテル貼られる
間違いなく貼られる!!
一体何だってんだ今日は!?
魔か?魔が差したのか?
差すならせめて好みのブスっ娘がよかった…
よりによって何でこのバカ?
「花丸…花丸をもらったのは生まれて初めてだ」
可哀想なその発言にツッコむ前に
嬉しそうに微笑んでるその顔に、撃沈された
…あーよかった オレが普段から
髪で目ぇ隠れたキャラで
じゃなきゃ今考えてる事モロバレだもんな
「それでは先生、兄上が待っているので
失礼させていただく…しからば」
プリントを手にして頭を下げて
が社会科準備室から出て行った
本編のクセまんまだろ、と思いつつ
ふと視線を向けた机の上に緑色のノート発見
「って!お前ノート忘れ…あっ」
こ、こんな時に痔がぁぁぁぁぁ!
扉を開ける手前で不覚にも痛みに耐えられず
その場にしゃがみこんでしまい
「おーぅい、何してんのそこで」
「いえちょっと…持病で動けなく…」
夜勤の先生が来るまで、ずっとそこで
苦悶し続ける羽目になった…
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:時系列的には夏休み手前くらいとか
二学期くらいなんじゃと思ってます
全蔵:適当すぎだろ…てかオレも苗字呼び?
狐狗狸:本編じゃ二つ名で呼んでるし
かといって名前で呼ぶのも違和感なんで苗字呼び
全蔵:あそ、それはいいけど…何で3Z?
狐狗狸:3Z小説では一巻に一話の割合で
出てきてたから書いとこうかと一つ
全蔵:てかオレ何気にこのサイトでちょこちょこ
出番あるよね?嬉しいけど本当何で?
狐狗狸:イジりやすいからと、様々なキャラの
ポジションとを鑑みた結果です
松平:オジさんの話は増えねーの?
オジさんもちゃんと絡みたいんだけど
狐狗狸:いやそれやったら確実に犯罪臭いし
全蔵:確かに、オレよりヤバイってそれ
えーと…書き逃げ失礼しました〜!(脱兎)
様 読んでいただきありがとうございました!