「遅いな、兄上」





ハーフ留学生のは、ぽつりと
自分の席に座ったまま零した





進路指導やら委員会の忙しい時期の放課後


進路の件で呼ばれた兄を、彼女は
3Zの教室で待ち続けている





何人かぽつぽついる生徒達は





さん、それじゃまた」


「お兄ちゃんの用事が早く終わるといいな
じゃ、オレもバイトあるから」


「気をつけてなマダオ殿」





に別れを告げ、さっさと教室を後にする





「進路相談がここまで長いとは…兄上も大変だ」





まさか自分が長引かせている原因だとは
全く気付いていないのであろう







一人、また一人と教室から生徒が減り


今ではと土方だけが3Zの教室にいる





そうなってようやく彼女は、土方が
何かしていることに気が付き 声をかける





「何をしているのだ?十四郎殿」


「…お前には関係ねぇよ」


「そうか」





短い一言によって そこで会話が終わる











「一クラスに一人は妙な持ち込み伝説を
残す奴がいる」












僅かに戸惑い 再び辺りを探す仕草をしつつも
沈黙に耐え切れず、独り言気味に土方は呟く





実は、マヨネーズが見当たんなくなってよ」


「そうなのか 大変だな十四郎殿」







再びそこから会話が途切れ、土方は
イライラしたように頭を掻き毟り 口を開く





「… お前今ヒマか?」


「兄上を待ってはいるが、一応は」


「テメェみたいなのでもいないよかマシだ
マヨネーズ探し、手伝え


「何故ゆえ?」


「っだぁぁぁ!今までの流れで分かんだろ普通!
ちっとは空気読めこのアホ娘ぇぇぇぇ!!」






イライラが頂点に達し、思わず頭を抱え
思い切り叫んだ土方の声が3Zに響き渡った









…それから簡単に語られた説明によれば





忙殺されながらもようやく自分の仕事が終わり
さて帰るぞ、って所でカバンの重さに違和感を感じ


中を見たらマヨネーズの容器が消えていたらしい







「兄上もまだ戻らぬし…私も手伝うとしよう」


「おー、頼むわ」







成り行きでマヨ探しを始めてから







トシのマヨネーズ?悪いが分からんなー
それよりお妙さん見なかった?」





辺りを探し回りながら廊下で出会った相手に
聞き込みをしてゆくだが


放課後だからか会う人物は少なく


望む情報も手に入らないようだ







「土方さんのマヨネーズ?さぁ…見た?





自分の腕を彼のそれに絡めたままで
広報委員副委員長の彼女が訊ねるが


話を振られた会長本人は微妙に眉を潜めるばかり





「うーん、五時限目の移動教室の時は
持ってたような気がしたんだけどなぁ…」


「そうか…すまぬな二人とも」


「まあ見かけたら土方さんに言っておくよ」


ちゃんも気をつけて帰ってね」





空気すら桃色に見えんばかりのラブラブっぷり
発揮させながら、バカップルは昇降口へと歩く







「んな悪趣味なもん持ってくる方が
悪いんでぃ…無くなって当然だと思うぜぃ」





話を聞く中で、こんな意見もちらほら現れたり







「オレぁ知らねーけど 見つけたら捨てとくわ」





教師にまでそう言われる所を見るとよほど
マヨ(もしくは土方)は歓迎されてないらしい







それを顕著に示すのが、ウンザリ顔の山崎







「一日に平均三本、多い時は六本くらい
持ち歩いてるんだよねカバンに」


「何と!気づかなんだ…」


「ある意味伝説になってるよ…一部では
しっかしマヨネーズ一本ごときでちゃんに
頼むほど必死に探さなくてもねぇ」





ひとしきり文句やグチを吐いておいてから


"一応、他の風紀委員に声かけとくから"
言って山崎はその場を去っていく









が、それが功を奏してか 何人目かに会った
風紀委員の男子生徒がへと継げる





「ミーティングの後ぐらいに
マヨが無いことに気付いた奴がいたらしいよ」


誠か!して、それは何処で!?」


「会議室だって 多分まだ鍵開いてると思うよ」







男子生徒に礼を言い、すぐさま
一階にある会議室に駆け込んで





「む…あれは!」







散らかった室内の 窓際の席の床下に
見慣れない容器が転がっているのを発見した





長机の席の部分に置かれた容器のフタが
元々はそこに容器があったことを物語る







「よし、あれを十四郎殿に…」





拾おうと思い駆け寄った…のがマズかった







床に落ちていた丸めた紙ゴミが
摩擦によって彼女の足を滑らせて





「ぬおぉぉぉっ!?」





慌ててバランスを取ったのも束の間


生々しい感触と微かな音が、足元でする







恐る恐る が下方へ視線を向けると





マヨネーズの容器は足で踏み潰され
中身が半分ほど勢いよく噴き出していた







「ど…どどどどどどどどどどうすれば…!」







ガタガタと振るえ 無表情が常のその顔から
誰が見ても分かるほど血の気が引いた







今ここで探し物をしていた本人が現れれば


大半は まず烈火のごとく怒るだろう





品物は本人には愛着のあるもので しかも
相手は鬼の副長もとい風紀委員副委員長の土方


切腹しても許してはもらえないと思った







しかし幸い、今なら誰もいない…





全てを処理して口を閉ざせば
己の引き起こした事が発覚しないのでは…?







そんな悪魔のささやきが浮かぶ一方で







"いいか、侍はどんな時にも言い訳せず
堂々としておる お前も常に正直を貫け"





小さな頃に自分へとそう継げた父の言葉に
喚起された良心が悪魔のささやきを一蹴し


「土方に平身低頭謝るべきだ」と叫ぶ









だが散々葛藤し、謝る決心を固めかけた所で





「そこで何してんだ、マヨ探しはどうした?」





少し離れた所から当の本人の声が聞こえたので


慌てた彼女は咄嗟に容器を見えない位置へ
足でズラして隠してしまった





そうしておいて、自らが窓へ近寄って
土方をそれ以上近寄らせないよう牽制する





「とっ十四郎殿、何故外から?」


「山崎の奴を追っかけて外まで出てたモンでな
時間を無駄にしちまった」





苦い顔でちっと短く舌打ちをする土方







どうやらマヨ探しにささやかな協力をしていた
山崎が、何かやらかしたのか土方を怒らせ


二人グラウンドまで逃走劇を続けていたのだろう







「で、マヨ見つけたのか?どうなんだよ」





語気を強めて追求する土方を前にして


彼女は己の取った行動を後悔し、口ごもった









…時同じくして 通りかかった沖田が
会議室にいるの姿を目撃する







「お、ありゃと土方さんじゃねぃかぃ
ようやくオレの置いたマヨに気付いたのかねぇ」







楽しげに呟きじっと彼女に視線を移すも
生憎 土方の方を向いてるので顔は見えない


まぁ見えても元が無表情だから分かり辛いが





微妙に聞こえる会話内容と土方の表情と


あと、醸している雰囲気から





何となーくが現在進行形で
窮地に立たされている、と確信し







「…何か面白ぇことになってるじゃねぇかぃ」





事態を引っ掻き回すべくSな笑みと思考を浮かべ
沖田は足を進める









その時 戸惑っていた彼女はようやく
謝る決意を固めた所であった







すまぬ十四郎殿!お主のマヨは
「うわっなんじゃコリャ!!」…へ?」







頭を下げかけ、不意にすぐ側で上がった声に
驚き は顔をそちらに向ける





釣られるように土方も窓へと近寄って







「うぉぉぉい総悟ぉぉぉ!テメッ
なーに人のマヨネーズ踏んづけてんだぁぁ!!」






床に転がるマヨネーズの容器を踏んづけて
顔をしかめる沖田の姿を目撃した







彼はしばらくそのまま足元を見つめていたが





二人の視線に気付くと、足を持ち上げ
改めて力を込めて容器を踏みつけにじる


それはもうグリグリと擬音が聞こえるほど





お陰で容器は無残にヘコみ 中身のマヨは
ほとんどが床に四散してしまった







その惨状を確認した上で


眉一つ動かさぬ涼しい顔で、沖田は口を開く





「こんな邪魔クセェ場所に放置しとくたぁ
新手の罠ですかぃ?土方さん」


誰がマヨネーズを罠に使うかぁぁぁ!
人のモン踏みつけて台無しにしやがっ」


「マヨで上履きとズボン汚れたんで、今すぐ
クリーニング代として有り金全部くだせぇ」


「ざけんなよゴラァァァ!
むしろマヨ代弁償しやがれぇぇぇぇぇ!!」






叫びながら窓から室内へと侵入した土方と


ワクに手をかけた段階で早々に身を引いて
距離を取り始める沖田は





そのまま追いかけっこの形で走り出す







会議室に取り残されたは無表情ながら
呆然としていたが、ややあって我を取り戻すと





「…とりあえず マヨネーズは片付けておこう」





室内にあるロッカーの掃除用具で
床に転がった容器の残骸とマヨを片付け始めた









ついでに会議室の床も全体的にキレイにし







掃除を終えて立ち去ろうとした彼女の動きは





「ったく総悟のヤロー、いつかシメる





会議室へと戻ってきた土方によって止まった







「おお、戻られたか十四郎殿」


「おぅ…マヨネーズ片付けたのか」


「申し訳ないが 放置するワケには…」


「まーしょうがねぇか、踏まれて中身が
出ちまったらもうゴミだしな」







少し残念そうにため息をつく土方の姿に
再び罪悪の念を呼び起こされ





すまぬ、もう少し早く気付いていれば…」





珍しく表情にまで申し訳なさを表しながら
頭を下げるだが…







「何でテメェが責任感じてんだよ
マヨをダメにしたのは総悟の野郎だろーが


ほんっと、あんにゃろ本編でもこっちでも
憎たらしさだけは変わんねぇな」







謝る段階で言葉が足りない彼女が悪いのか
それとも怒りを煽った沖田が悪いのか…


いずれにせよ土方の脳内で本件は沖田のせい
決着が付き 揺るぎないモノとなっている





悪いと思いつつもは、面倒故に訂正を諦めた







「…それでは私は兄上を迎えに行くゆえ」


「おま、ちっとはブラコン自重しろよ」


「お主に言われたくない」







憎まれ口を二三交わし、廊下へと出た彼女に





「おい





言葉がぶつかり 無言で振り返れば
そこには視線を逸らし気味な土方が







「一応…マヨ探し手伝ってくれて
その………あ、ありがとよ」







目を丸くして絶句し、それから
口元だけで微笑んだ





「礼には及ばぬゆえ」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:3Z設定だと若干本編より関係が
良好になる土方話でお送りしました〜


長谷川:若干つーならオレの名前も


狐狗狸:(無視)それより犯人、沖田君だったんだ
やっぱりと言うか 床に転がすまでやらずとも…


沖田:おっと 盗ったのと置いたのは認めるけど
床に転がした覚えはねぇぜぃ?
あと、を庇ったつもりも更々ねぇし


狐狗狸:さらっと言ったよ…どこまで本気だか
で、山崎くんは何やらかしたの?


山崎:オレは純粋にマヨ探しを手伝っただけですよ
…ちょっと文句はいいましたけど


狐狗狸:それが余計なんだって


銀八:にしてもマヨ持ってくる奴のいる
ぶっとんだ高校なんてウチぐれぇだなーマジで


狐狗狸:いや私の通ってた高校もぶっ飛んでたよ
携帯や小型扇風機は当たり前、机と同じ幅の
戦車の模型持ってきたツワモノもいたし


新八:デカっ、それどうやって隠すんですか!
つか何処に置いて授業受けてたんですその人!?


狐狗狸:むしろ机に置いたまま堂々と授業受けてた
先生もそれ公認して授業してたし


土方:ウチの高校並にぶっ飛んでんやがんな
あと、さり気にMGSのバカップルはウゼェ


近藤:まぁそう言ってやるなってトシ…
オレもお妙さんといつかああ―


お妙さん乱入により、強制終了)




お兄さんの指導内容はご想像にお任せで(笑)


様 読んでいただきありがとうございました!