そこそこ活気付いた かぶき町の街中を
珍しい二人組が歩いていた
一人は、凶悪ヅラとグラサンが
トレードマークの警察庁長官 松平片栗虎
そして隣のもう一人
ほっかむりを頭に被った背の高い青年は…
「片栗虎 あれはどんな店なんだ?」
「あーありゃレンタルビデオ屋っつってな
会員証と金さえありゃ、店のビデオを
洋モノでも何でも貸してくれるトコだ」
「ほう…寄って行っても構わぬか」
「好きにしなよ、オレぁ先にいつもの店で
待ってるぜぃ将ちゃ…んん?」
店に入ろうとした青年を尻目に
歩を進めようとした松平の足が止まる
横手の少し細い路地に作務衣姿の少女が
ぐったりと倒れ付していた
「おんやぁ?あの娘は…」
「どうかしたのか…む!
あれは 誰か倒れているではないか!!」
青年も気付き、すぐさま少女に駆け寄る
「大変だ片栗虎、意識が無いようだ…
すぐに城へ運んで手当てさせよう!」
「オメェさんも物好きだぁねぇ…
ま、別に構わねぇけどよ」
「手紙をもらうと、妙な気持ちを感じる」
少女―が目を覚ましたのは
見覚えのない立派な室内でだった
「ここは…?」
「気が付いたか」
声のする方へ反射的に目を向け
彼女は 眼を丸くして驚いた
「あ…あなた様は 将軍殿!」
「いかにも、余は征夷大将軍 徳川茂々だ」
「お目通りするのは初めてございます…
と申します」
そう…を助けたのはお忍びで
街を歩き回っていた 将軍だった
簡単に名乗った後、倒れていた所を
助けてもらった経緯を聞き
はすぐさま居住まいを正し頭を下げる
「よもや将軍殿にお助けいただけるとは
感謝で言葉もござりませぬ」
「当然のことをしたまでだ、そこまで
畏まらなくても良い」
鷹揚に手を振ってから 将軍は訊ねる
「所で そなたはあのような場所に
何故倒れていたのだ?」
「敢えて語るほどの事ではござりませぬが…」
淡々と語られた事情説明を要約するならば
ビデオ屋の隣にあるビルの屋上に
理由は知らないが争っている男女がいて
その内に男が女を突き落としかけ
それを偶然 別の屋根から目撃した
がビルを駆け上がり
男を気絶させ、女を助けようとして
…逆に自分が落ちたらしい
「見ず知らずの相手を助けんとするとは
近頃には珍しい、見上げた精神だ」
「滅相も無い 私など到底将軍殿に
誉められる立場などではございませぬ
…逆に助けていただいた恩を返したい位です」
「そうか、では恩返しとして
余から頼みがある…聞いてくれるか?」
そして彼女は…現在、そよ姫の部屋にて
「さんって面白い方なんですね」
「そうなのですか?何はともあれ
喜んでいただけて光栄でござります」
そよ姫本人と、楽しげに談笑していた
将軍の話によると、妹君のそよ姫は
自分達の身分ゆえに年頃の遊び相手がおらず
一人で過ごす事の多い身…
本来、一番多く側にいるべき将軍も
職務が控えている為 それが中々できない
「だから、そなたには今日一日そよの
話し相手をしてほしいのだ」
勿論は 一も二もなく引き受けた
「さんにもお兄さんが
いらっしゃるんですね」
「うぬ、気高く優しく麗しい兄上だ
いずれ結婚する事も考えています」
「えぇ!?
お兄さんと結婚が出来るものなのですか?」
「皆は法律がどうだのよく分からぬ事を言うが
私は兄上と結婚し 生涯護り抜くつもりです」
やや微妙にズレた部分がありながらも
二人の会話は比較的楽しげに進んでいく
「む?そよ姫殿…それは酢昆布でしょうか?」
彼女が手にした箱に気付き、が訊ねる
「はい、前に街の方にお忍びで出て来た時
仲良くなったお友達が好きだったので」
「奇遇ですな、私の知り合いにも
酢昆布が好きな女子がおりますぞ」
言ったその途端 そよ姫の表情が変わる
「それって…もしかして、神楽っていう
赤い髪の女の子ですか?」
「何故分かったのです?」
「やっぱり!あの、さん
唐突に失礼とは思いますがお願いがあるんです」
一旦、机に移動してから 一通の白い封筒を
携えてそよ姫が彼女の目の前に戻る
「この手紙を…神楽ちゃんに届けてください」
「これを 神楽に?」
「私は滅多に外に出られなくて…神楽ちゃんの
住所も知らないから 今まで手紙も出せなくて」
「それで…私に?」
「はい、出来たら…神楽ちゃんが手紙を
読んだ返事も聞かせてほしいのですが」
は 頷いて手紙を受け取った
「引き受けました、必ずやこの手紙を届け
返事を承ってまいります」
それから城を飛び出していったまでは良かったが
死神にストーキングられる日常なは
これでもかと言うほど災難に遭いまくった
何かの乱闘とかは言わずもがな 上から
水がぶっかかるとかもありがちで…
吹いた突風にさらわれた手紙を犬が咥えかけ
「メルちゃん、そないなゴミ食うたら
腹壊すで!やめとき」
それを勝男が手紙を拾い、空いた手に
取り出したライターへ火をつけ
「こいつはワシがきっちり燃やしt」
端から燃やそうとした刹那
瞬時にの槍底攻撃が飛来して吹っ飛んで
「組長ぉぉぉぉぉ!?」
驚き惑う組員達と倒れた勝男を他所に
手紙を確保して進む一幕もあったり
横手の看板に使われるペンキの飛沫を避けつつ
「!これは最近始めたペンキ塗りの
仕事なんだが、どうだお主も
「折角だがお断り申す!」即答!?」
ペンキの缶とハケを手にした桂を
ショックで固まらせたりもしながら歩いた
途中、リアカーのオジさんにぶつかって
手紙を失くしかけて慌てる事もあった
「おーちゃぁん、ひょっとして
探してるのコレ?」
が 幸い居合わせた長谷川のお陰で回避できた
「それだ!感謝いたすマダオ殿っ!!」
「いやーそれほどでも、お礼なんて金稼ぎの
良さそうなトコ教えてくれるだけで…」
しかし長谷川の言葉を最後まで聞かず
はそのまま万事屋へと走っていく
「あれ?放置プレイ?オレ、ここの管理人に
ずっとこんな扱いじゃね!?」
手紙を保護する為に自分の身を普段よりも
割り増しで汚しながらも
「あと少しで万事屋へ…!」
歩みを止めないが、背後から殺気を感じ
唐突に飛来してきた一抱えほどの煉瓦を
どうにか紙一重で交わす
煉瓦を投げたのは…屁怒絽だった
「さん…急いでいるのも分かりますが
危うく花を踏む所でした 殺生はよくない」
「む…申し訳ない屁怒絽殿」
ペコリと謝り、足元に注意しつつ
はようやく万事屋へと辿り着く
出迎えたのは 仕事の関係で留守番を
言い渡されたらしい神楽
「あれ?、どうしたアルかそんな
ボロボロで汚れまくったカッコして」
「色々あってな…それより神楽
お主宛に手紙を預かってきた」
「マジでか!誰からね、寄越すヨロシ!」
手渡された手紙の主を確認し 嬉しそうに
笑って神楽が封筒から手紙を取り出し
その顔から、笑顔が消えうせた
「中身 全然読めないアル…」
慌てて手紙を確認すれば
綴られた文の所々に、焦げ後やドロなどが
こびり付いて滲み 内容を識別不可能にしていた
「す、すまぬ神楽!私が至らぬばかりに…!」
僅かに悲しげな雰囲気を醸しながら
俯くの頭を、小さな手が撫でる
「気にすんなヨ ちょっと待ってるヨロシ」
そう言って、神楽は読めぬ手紙を持ったまま
自分の押入れにもぐりこんで何かを始めた…
しばらくして がそよ姫の元へと戻ってくる
「ただいま戻りました、そよ姫殿」
「あの…どうでしたか?」
不安と期待が入り交ざる表情でそよ姫は問う
彼女は答えず無表情で懐に手を差し入れる
「返事の変わりに これを神楽から
預かって参ったのでお納めいただきたい」
そう言って差し出されたのは、一通の手紙
受け取ってそよ姫が手紙を開くと
そこには神楽の筆跡でそよ姫宛てのメッセージと
"これからも文通しましょう"と書かれた文字が
拙いながらも並んでいた
「…ありがとう、さん」
手紙を抱き嬉しそうに微笑むそよ姫
釣られても 僅かに顔を綻ばせ
そんな二人をそっと見つめていた
将軍も…満足げに笑っていた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:折角なんで将軍兄妹も書きたいなーと
思って書いてみました
松平:どぅあぁぁぁれが凶悪ヅラだごらぁぁ!!
狐狗狸:ぎゃぁぁぁ銃向けるな!乱射もヤメテ!
桂:ヅラじゃない桂だ!!
狐狗狸:アンタは関係ないトコで反応しない!!
勝男:このサイトでのワシの扱いは
どないなっとんねん!しばくぞワレぁぁ!
長谷川:そーだそーだ!
オレにもマトモな出番寄越せぇぇぇぇ!
神楽:永遠に黙るがイイねマダオどもが
狐狗狸:ちょ!それ私の台詞…
屁怒絽:皆さん、争いは良くないですよ?
全員:スイマセンでした
ビルの男女は、多分痴情のもつれかなんかで
争っていた社員でしょう(いらんわそんな情報)
様 読んでいただきありがとうございました!