朝方の外での稽古帰り、偶然にも
通りすがった者の手が 片目に当たった





「スイマセン!
そんなつもりじゃなかったんですが…」


「気にされるな、わざとでないのだから」





痛みはあったものの その時は
ただそれだけだったのだが





…当たり所が悪かったのか


はたまた存外強い力だったのか





しばし時が経ってから、殴られた部位は腫れ
片目が塞がれた状態となってしまった







「むぅ…片目は案外難儀だ…」





家の中だけでなく外にしても
歩くのが覚束ず 死角も多い


…九兵衛殿の苦労が分かるような気がする





腫れが引くまでの辛抱と割り切り道を
歩いていた私は、不意に後ろ腰の生地を捕まれた


立ち止まり振り返ると そこにはおかっぱ頭の少女





「ぬし、命拾いしたの」


「む?どういう」





私の言葉を遮り、甲高い破裂音が辺りに響いた







「ショーウィンドウのガラスがぁぁぁ!?」





一拍遅れて周囲がざわめき出す





「あのまま進んでおったら ぬしはガラスで
首を刎ねられていた所じゃ」







…確かに この少女に助けられなんだら
私はあの辺りを歩いていただろう





「かたじけない、おかげで助かった
…お主はこの辺りの者なのか?」





言いながら 屈んで目線を合わせる





「わしは阿国と言うのじゃ」


「幼いながら礼儀正しいな、私の名は」


「知っておる …じゃろう?」


「む?お主、以前どこかで会ったか?」





訪ねるも 阿国殿は首を横に振って続ける





「助けた礼の変わりに、ぬしにひとつ
頼みたい事がある」


「何だろうか?」


「その…街に出たのは初めてでな
色々不慣れじゃから、案内をして欲しい





初めて会ったばかりではあったものの


危機を救ってもらった恩があり、何より
困っている様子でもあったから





心得た 私でよければこの街を
案内いたそう、阿国殿」





私はその頼みを引き受けた







「なら早速じゃが、肩車をしてくれぬか?」


「…阿国殿 肩車とはなんだろうか?」


「その年で肩車も知らぬのか!?」





やり方を教えてもらい、阿国殿を肩に担ぐと
私は言われた場所へ案内を始める











「お人良しとお節介は最終的に子守係」











「おお、ここが有名なゲームセンターか」


「うむ 私は足を踏み入れた事は無いが
何やら楽しい事が出来」





言葉が終わらない内に頭を叩かれる





、一歩退がれ ペンキがかかる」







言われた通り後ろへ退がると、近くのビルで
描かれていた看板用のペンキが目の前に落ちた







「おぉ…また当たった…!」





不思議なこともあるものだ、と感心していると
阿国殿が自信ありげにこう言う





「わしには少し先の未来が見えるんじゃ」


「そうか、それはスゴイな」


「…あっさり信じるのかぇ?」


「お主の目に嘘はないし、仮に嘘としても
私を騙して得をすることなど無いからな」







思った事を口にしただけなのに、阿国殿は
驚いたように私を凝視していた







「ぬしはとても風変わりじゃな…」


「そうだろうか?」





首を傾げると"そうじゃ"と笑われた







移動しつつ話を聞くと、阿国殿は普段
屋敷から出た事は無いのだそうな





たまに訪れる知り合いや漫画などで外に興味を持ち


ついに今日 屋敷から出てきたのだとか…







「甘いものが食べたくなった、甘味所へ案内せい」


「うぬ 阿国殿は和菓子と洋菓子
どちらが好みか?」


「団子が食べたいから、和菓子がいい」







了解し、知っている店へ足を運ぶと





あれ?…だよな、どしたそのコブ
厠で足滑らせてぶつけ…ってかその子はもしや」





同じように団子を買う銀時に出会った







「偶然当たり、腫れて見えなくなった際 会った」


「いや主語を省くなよ主語を!」


、団子を買ったなら早く行くぞ」


「了解した…それではさらばだ銀時」


「って説明だけでもしろよせめて!
そこモヤっとさせたまま放置すんなぁぁぁぁ…」









団子を買い、共に食べながら向かうは遊園地







「もう少し辛抱されよ、あと少しで遊園地ゆえ」





声をかけると 予想に反し震えたように阿国殿が呟く





「すまぬ…遊園地は止めじゃ」


「何故だ?遊園地に行きたいと言っていたろう」


「ゆ、遊園地にあるロケットが気に食わぬのじゃ
大分前ある国で打ち出されたと言っておったし」





…確かに、そのニュースは万事屋のTVでも見た


"出すのは股間のロケットだけにしとけ"と
銀時が愚痴を言っていたのも記憶に新しい





それに妙な気配がまとわりついてもいるし…







「それは気付かなんですまなかった
では、別の場所へと行こう」







街にある場所を転々と移動するにしたがい
災厄が多く降りかかってくるが





阿国殿の忠告により、それらを何とか回避する







「すまぬな阿国殿、怪我などはないか?」


「ぬしは死神にでも好かれておるのか?
これだけ災厄の多い者は初めて見るぞ」


「それほどまでひどいのだろうか?」





間髪入れずに阿国殿は頷く





「わしの知り合いはに災厄の相が
ある男なのじゃが、そやつよりひどい」


「ふびんな御仁がいるのだな」





納得しながらも、強くなった気配を
振り切るように行動を続ける









人気の少ない路地裏に差しかかった所で







「さて次は何処に案内いたそうか」


「次は…うわぁぁっ!?


「阿国ど、ぐっ!?





いきなり背に衝撃を受け、私は地面へ倒され


何者かの足が背中を強く踏みつける





そのままで顔を上げると 阿国殿を
掴んだ男と数人の人相の悪い者どもがいた







天眼通の阿国がこっそり屋敷を出たと
聞いた時はビビったぜ…」


「ようやく街中で見つけて、妙な女と
行動してたからこうして隙を探ってたんだが」


「まったく、手間がかかったぜ!」





台詞と同時に横腹を蹴られ、仰向けになった
胸を思い切り足蹴にされ むせ返る







っ!!」





ごろつきの腕から逃れようと阿国殿がもがく







そうか、妙な気配はこやつらの…


阿国殿を引き剥がし 死角から私を
襲うとは…卑怯極まりない…!







「女ぁ、テメェはここでくたばってもらおうか」





言い放ち 男が刀を突き刺そうとした刹那


取り出し、組み立てた槍底を思い切り
そやつのアゴへと突きいれた







倒れる男と入れ替わるように立ち上がり





貴様等…その薄汚い手を阿国殿から離さぬか!」





怒気をはらんだ声で 私は男達を一括する







『しっ知るか!やっちまぇぇぇぇ!!』







奴等は獲物を手に私へと襲いかかったが


片目が塞がれ死角が増えたとはいえ


不意打ちでなくばこんな連中の一人や二人
束になってかかったとて物の数ではない







あっさりと男達を薙ぎ倒していき





最後の一人へ身を捻り 反転させた
槍の柄底を眉間へ定め、思い切り投げ飛ばす





「ぎゃあっ!?」





狙い通り、眉間に槍が当たり


男はそのまま仰向けに倒れこんだ







「よし…これで全て倒れたか」


 この者達は…死んだのかぇ?」





こちらを見やる阿国殿の声は、少し震えている





…先程までの命の危機と 私の動作が
恐怖を与えたのやもしれぬ


自省し、出来るだけ柔らかい笑みを浮かべて





「仕事でない者にそこまでせぬ、峰打ちで
済ませておるから安心致せ阿国殿」





語りかけると 阿国殿はようやく
安堵したようであった









少し離れた所に落ちた槍を拾おうとして







「わああぁぁぁぁぁ!?」





悲鳴に振り返ると、起き上がった一人が
阿国殿へ刃を向けつつ睨んでいるのが見えた







「死ねぇぇぇぇぇ!」





男が突進すると同時に私も駆け


考えるよりも早く、二人を結ぶ直線に
ためらう事無く割り込んで





「させぬ!」





両手を大きく広げ 阿国殿を庇う


振り上げられた刃がこの身へ打ち下ろされ







直前で 男と刀があらぬ方へと吹き飛ばされた







相手の立っていた場所には…





「ったくお前ら何やってんの?」


「全蔵ぉぉぉ!!」





助かった安心感からか、その身に飛びついた
阿国殿の頭を撫でる全蔵殿







何故居合わせたかまでは分からぬが


どうやらこちらの危機を察し
男を蹴り飛ばしてくれたようだ…







「つか しばらく顔見ねぇと思ったら
まーた死にかけやがって」


「すまぬ…助けてくれてありがとう」





長い前髪で顔が半ば隠れているせいか
表情の変化は読みづらいのだが


雰囲気で、あちらの動揺を察する


…単に礼を述べただけなのだが
何か驚く事があったのだろうか?







「行きずりで会ったわしを身を挺して
護ろうとするとは…お主本当に無茶しすぎぞ」


「すまぬ、所でお主らは知り合いなのか?」


「この男こそが件の知り合いじゃ」


「なるほど」


いや納得早ぇよ!
オレどーいう紹介されてたの!?」


「要所要所は端折ったが、まぁごく普通の紹介じゃ」


「ああそう…で、と阿国は
どやって知り合ったわけ?」


「救われた恩に報「省くな」





つかつかと歩み寄った全蔵殿に
思い切り両頬を抓られた…痛い





「しっかしこれまた見事にデカいコブこさえた
モンだな…岩みてぇー、触っていい?」


「……眼球を抉られぬのなら」


「何処の拷問!?」







…何にせよ、この状況は好ましいかも知れぬ







「二人が知り合いならば話は早い
阿国殿を無事屋敷まで送り届けてもらえぬか?」


「え、何でいきなり?」


「駄目だろうか」


「いや引き受けないワケでなく、どういう経過
その結論に至ったか教えてくんない?」


「何となく分かるから、それはわしが教える…」









全蔵殿ならば私と違い、阿国殿を
危険になどさらさぬだろう







引き受けてもらえそうな空気に安堵し





これで一安心だな阿国殿、しからば私はこれで」







立ち去ろうとした刹那、袖を強く引かれた







ダメじゃ!送られるならも一緒じゃ!」





戸惑う私達に阿国殿は首を振りながら続ける





「片目の見えぬぬしを一人にしたら
また災厄に見舞われるではないか!
それでわしだけ助かるのは不公平じゃ!!」


「えっ、ちょっとオレに決定権は?」


「いや私と共に行動していたら、弾みで再び
阿国殿が巻き込まれぬとも限らぬし」


オレを無視?
ねぇそんなにオレって存在感薄いの?」







私と阿国殿の押し問答に
とうとう痺れを切らしてか





っだぁぁしょーがねぇガキどもだな!
わかったよ、お前ら一緒に送ってやる」







右側に片手で支えられての肩車で阿国殿を


死亡防止も含め、空いた手で
手を繋いだ状態での側歩きで私を担い


全蔵殿が帰途を付き合ってくれた







「…本当にすまぬな」


別に、阿国送るついでだし」







帰途へと歩く、その間も





の髪も柔らかい手触りじゃのう」


「む、そうだろうか」





支える身体をまたぎ、小さな手で
私の髪へと触れながら







「お主の頬も案外伸びるのぅ」


「おふに殿 少々いひゃいのらが」





かと思えば前から思い切り頬を抓り







「ちょお前ら顔近い!つかほぼ密着してるし!
オレ歩きづらいんですけどぉぉ!?」






若干全蔵殿の歩行に迷惑をかけつつも


たくさん語りかけてくる阿国殿へ、出来る限り
相手を勤めだのだった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:阿国の話って事で二人はあんまり
目立った登場にしない…つもりだったのになー


銀時:何でオレより痔忍者のが出番多いの!?
オレ主人公なのに何この扱い!!


狐狗狸:…キャラが阿国ちゃんだし
今 紅蜘蛛篇やってるからって事で許してくれ


銀時:んじゃ次は絶対ぇオレがカッコイイ所
バンバン書けよな!!


狐狗狸:長編でカッコよくするから贅沢言うな


全蔵:話の展開が飛んでるのはいつもの事だが
眼球抉るって何?ホント


狐狗狸:あー、これ実は田足篇が終わった的な
時間軸で書いてるから(苦笑)




子供にすらいいように使われるのがウチの子の
スタンスです(いいのかそれは!?)


様 読んでいただきありがとうございました!