かぶき町の平和な昼下がりの中





「今日こそ往生しやがれ土方ぁぁぁ!」


「出来るかボケェェェェ!!」


「観念した方が身のためだ 瞳孔マヨ殿」


「上等だ、テメェも総悟と一緒に
たたっ斬ってやらぁ槍ムスメぇぇ!!」






今日も、の助勢による沖田の
土方抹殺が行われていた







「総悟殿、今だ!」





高速の突きで足止めされた土方の頭上へ





「グッジョブでぃ!」





高く跳んだ沖田のバズーカ砲が飛来する







「やられて…たまるかぁぁぁぁぁぁ!」





直前で土方が槍の柄を掴み、槍ごと
を上空へとブン投げ





そこに沖田のバズーカが直撃した







モロに胴体へ衝撃を受け、
意識を失い 天を仰いだ状態で落ちる







「…オィ、微動だにしねぇぞ 槍ムスメ」


「おーい大丈夫か〜〜」





近寄って足先でつついてみても、
何の反応も示さない事がわかると





「うーわー土方さんが殺っちまったー
一般人を犠牲にしちゃった〜」


やったのテメェじゃねーか!
つーか半分は自業自得だろコレ、どうす」


「あーオレ屯所の洗剤買いに行かなきゃ
それじゃ、これで失礼しやーす」


「待てコラ総悟ぉぉぉぉぉ!!」





彼の叫びに構わず、沖田はさっさと
その場から退散してしまった











「硬派だってギャップに弱い」











「…ちっ、全く手間のかかる」







いくらなんでも死にかけた彼女を
放って行くのは寝覚めが悪かったのか





「オィコルァ こんな所でくたばんな
目ぇ覚ましやがれ槍ムスメ」





声をかけながら、土方は倒れている
の頬をペシペシと叩く







「う……?」







身を起こしたは、きょとんとした
顔で辺りを見回す







「あ、あの…ここはどこですか?」


「どこですかって かぶき町以外の
どこに見えるっつーんだ、頭大丈夫か?」





呆れた声音と共に頭を叩かれながらも


彼女は現状を理解できない
言いたげな視線を目の前の相手に向け





「申し訳ないんですけど…どちら様ですか?」


あん?何の冗談だよ 全然面白くねぇよ」


「いえ、本気です 本当に分からないんです」





訝しげに眉を潜め、土方はグッと顔を寄せ
へと問いかける





「…お前 さっきまで何してたか
覚えてねぇのか?」


「ええ、あの もう一つよろしいですか?」







普段とはまるで違う雰囲気と言葉遣いのまま


彼女は 衝撃的な一言を放った







「私は 一体何者なんでしょうか?」









しばし、事態を理解するのに時間がかかり





やがて 彼女に起きている事が
記憶喪失だと思い至るや否や







「本編とゲームで散々やったネタが
とうとうここにも来やがったァァァァァァァ!」








頭を抱え、土方はその場で叫んだのだった











 …それが、私の?」


「そーだよ、テメェの名前だ」





煙草をくわえて火をつけながら やや
投げやり気味に言う土方へ、


おずおず視線を返しつつ は口を開く





「あの、私はどういう人間なんでしょうか?」







少し頭を掻き、彼は煙と共に言葉を吐き出す





「…槍を持ってて 時々暴れる
どこまでも胡散クセェ一般市民だな」


「ご、ゴメンなさい」


「いや別に今謝られても困るだけだし
…まぁ、兎に角着いて来い」







記憶のないを見捨てるわけには行かず


さりとて土方は彼女の家を知らないので







しばらくはこの辺りをうろつかせて
何も思い出せないようであれば





屯所に連れて行き、兄に連絡を入れて
引き取りに来てもらい ついでに医者に
見てもらうよう頼むつもりで歩きだす









やあ、いい天気だな土方さん」







道中で、見知った金髪の男に会う







「よぉ またお前か」


「そーいう言い方はないだろ
俺だって一応は一般市民なんだから」


「ウソこけ、向こうじゃ何か知らねーが
英雄とか言われてるクセに」





表情は淡々としているが、彼の口調は軽く
相手に対し どこか親しみすら感じ取れる







は土方の後ろで、二人の様子に戸惑う





「…あの、土方さん この方は
お知り合いなのですか?」


「何だもいたのか…って 何で
土方さんと一緒にいるんだ!?」





整った顔が たちまち驚きに崩れる





彼もどうやら、元々のが沖田と
共に土方抹殺に協力している事と


そのせいか 土方との仲はごっさ
険悪だった事は知っているようだ







「半分はテメェの身から出たサビなんだが
残りは総悟のヤロウが原因でなぁ」


「…一体、何があったんだよ」







煙草を燻らせながら、土方はの身に
起きている事を簡潔に語った









「そうか 沖田君も困ったもんだな」







ため息をつきつつ、心配そうに見上げる
の頭を 彼は優しく撫でながら







、急に記憶を失って不安だろうが
焦らずゆっくり思い出していけばいい」


「はい、ありがとうございます」


「こちとら悠長に言ってられねぇんだよ
手早く記憶を戻す方法とかねぇのか?」





腕を組み、不機嫌そうに足踏みする土方







「荒療治だか 方法が無いことも無い」





言って 彼は手の平に二つのカプセル
取り出してへと見せつつ





、ひとまず知り合いが
送ってきた薬を試してみないか?」


お薬…ですか?」


待て待て待て、薬って何飲ます気だコラ」





訊ねる土方に 彼は自信満々に親指立てて





「大丈夫 加減さえ間違えなければ
無事蘇生できるぜ土方さん」


「蘇生って言ったああぁぁぁ!
黄泉送り確定してんじゃねぇかぁぁぁ!!」



「いや記憶を戻すのに同程度のショック
有効って言うだろ?だから一旦」


一旦もクソもねーよ!ヤバイ薬でまた
キャラ崩壊したらオレの責任になんだろが!」


そっちの薬と一緒にすんなぁぁぁ!
ちょ、待てよ土方さん……!」







彼の声を振り切り、土方はの手を引いて
その場から足早に離れていった











別の大通りを並んで歩きながら





「なんだかご迷惑おかけしてすみません」





チラリと視線を向けつつ、
済まなさそうに 頭を少し下げる







無表情めいていたのは元々なのだが


自分の記憶をスッパリ忘れているせいか
普段よりも表情は豊かになっている





そうなって、初めて土方は気付いた







(こいつ…案外可愛いんだな)





あの、どうかされました?土方さん」


あ?何でもねぇよ それより
なんか思い出せそうか?」





思っていた事を誤魔化しながら、
ぶっきらぼうに土方は尋ねる





「…いえ、どことなく通りにも見覚えが
あるみたいなんですけど」


「まぁ なるべく早く思い出してもらえると
こっちとしちゃありがたいな」


「はい、がんばります」





常時と真逆のに、
土方はつい言葉を詰まらせてしまう









それからも通りを歩く途中で





「聞いたぞトシぃ!
ちゃんが記憶喪失だって!?」



「な!?あのヤロウしゃべりやがったな…!」





真撰組のメンバーが記憶を失くした
一言声をかけにと、ひっきりなしに現れ







ちゃん、まさか忘れちゃったの?
オレ達恋人だったよね?


「そうなんですか!?」


「オィコルァ山崎ぃぃ!
ドサクサでウソ教えてんじゃねぇェェ!」








その内何人かは、彼女へ偽りの記憶を申告し

土方に怒鳴られて逃げ出していた









(万事屋辺りに会ったら、絶対ぇ
トンデモねぇデタラメこかれそうだ…)





土方は痛む頭を抑えながら彼と
その仲間達の出現を恐れ、視線を





「……あれ!?」





人ごみの中に紛れたのか、隣にいたはずの

の姿が 消えていた





「っヤベ、アイツどこ行きやがった?」







慌てて人ごみを掻き分け 土方は
柿色の作務衣姿を捜し求める







「おーい 槍ムス…じゃねぇ、
どこにいる、返事しやがれ!!」







雑多な大通りから少し離れた路地に
の後姿を見つけ、そちらを注視すると





三下のチンピラ三人が彼女の腕を掴み


路地の奥へと引き込もうとしていた





痛い、何をするんです!止めてください!
放して…ムー!ウゥー!!


「いーからこっち来なって…悪いようには
しねぇからよぉ お譲ちゃん」







いつもならばこの程度のチンピラは
物の数などではないだが


自分の記憶を失くしているため
"反撃"のコマンドが使用不可になって


「コマンドっておま、どこぞのゲーキャラ!?





ツッコミを入れてから いまだにチンピラと揉める
を見やり、舌打ちをして







チンピラの腕から 彼女を助け出す





「あ、ありがとうございます土方さん」


「…普段のテメェなら放っておくが、今は
ただの一般人だからな 面倒な事に」





面倒そうに呟きつつもを後ろへと庇い







「公衆の面前でガキさらおうたぁ
いい度胸じゃねぇかコルァァァァァ!」






土方は突っかかってくるチンピラ共をなぎ倒す









ものの五分もかからず二人は倒れ、残る一人が
土方の隣からよろよろと逃げ出していく際に


チンピラと後ろにいたがぶつかった







「キャアっ!」







勢いで車道に飛び出した彼女を助けようと





土方が手を伸ばす寸前


見覚え抜群のスクーターに押し潰された


「って、またお前か万事屋ァァァァァ!!


「オレが聞きてぇよ!何でまた
轢いちゃう展開になるわけ!?」



「轢く所か踏んづけてるだろがぁぁぁ!」


「あっホントだ、上に乗っかってたわ
やっべ血ぃ垂れてるよ 生きてっかー」





スクーターから降りて、下敷きになっている
を救出する銀時だが


一目見て分かるほど 手遅れっぽかった





「いやコレもうダメだろ…
殺人の現行犯で逮捕、屯所まで来いや」


「いやいやいやコレひょっとしたら股から
垂れてる血じゃね?ちょうど運悪く
月のモンが大量に」


「頭から出るかぁぁぁ!見苦しい言い訳
してんじゃねぇぞ天パぁぁぁぁ!!」








口論を始める二人を、微かな物音が止めた







「うぅ…ここは、どこだ?」





流血しつつ 何事も無かったかのように
身を起こし、は二人を見やって訪ねる





「なぜ銀時が瞳孔マヨ殿に逮捕を?」







すっかり己を取り戻したその様子に


土方は、一瞬だけ安堵の表情を浮かべ
すぐさま仏頂面へと戻る





「…ったく、やっと思い出しやがったか」


「おーい土方くぅん、被害者生き返ったし
逮捕取り消してくんねぇ?」


あん?ざけてんじゃねーぞ万事屋ぁ
こんなんでも傷害現行だろ、観念しやがれ」


被害者?誰のことだ?」


「「状況に気付けぇぇぇぇぇ!!」」





二人のツッコミが路上に木霊した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:一応これで三度目の土方夢…なのかな?
にしてもやっぱりを名前で呼ばんのね


土方:当たり前だバカ野郎 つかあの野郎
槍ムスメに何飲まそうとしてたんだホント


狐狗狸:恐らく仮死薬蘇生薬でないかと


土方:マジで三途送りにする気だったのかよ!?


狐狗狸:だからショック療法の一環だって


山崎:それよりちゃん、記憶ないと
普段よりも更に可愛くなってませんでした?


狐狗狸:…まー色々あって半ば意図的
無表情作ってる部分あるからねぇ 


銀時:な事より、オレ最近こんなんばっかし?
色々納得いかねぇんですけどぉぉ!


沖田:てか土方がんな面白い事態なのに
オレが出てこねぇ事の方が納得いかないでさぁ


土方:テメェら二人そこに直れやぁぁぁ!




退助さん家のあの人も絡んで、アレな話
大変失礼致しました〜


様 読んでいただきありがとうございました!