木枯らし吹き荒ぶ銀魂高校の校内で
昼休みのその時間に、
「兄上〜、兄上 どこにいらっしゃるのだー!」
廊下を駆けるのはハーフ留学生
兄妹の片方、だ
普段は仮面や能面さながらの無表情が
まるで母親と逸れて迷子になった
子犬のような不安さに彩られている
「もうそろそろ昼休みも終わるというのに
兄上は何処へ…ああ、心配だ…!」
行動の発端は 同じく昼休みの時
お弁当を食べた後、彼女の兄は
ごく普通にトイレへ赴いたのだが
片時も兄の元を離れたくないは
トイレの入り口までお供していた
「おぉ〜ちゃん、こげな所で
なにしちょるんじゃ?」
「お気になさらず 兄上待ちだ」
「そいつはお利口じゃのう〜それはそうと
職員室はどっちじゃったかの?」
兄を待つ間、通りがかりの坂本先生が
頼んだ職員室までの道案内を勤め
「お〜ここじゃここじゃ、
ちゃん本当にありがとなー!」
「礼には及ばぬ、私はこれで」
教室に戻っても、兄の姿が見えなかったので
トイレに呼びかけたのだが返事が無く
その場所からやがて校舎全体へ
捜査対象が広がったのだった
「不良は意外と動物好き」
…読者の皆様にはこっそりお教えしますが
お兄さんは まだおトイレ(個室)に
バッチリ入っていました
が、トイレ外からの呼びかけに答えるのが
大変恥ずかしかった為
いないと思われているだけです
人気の無い屋上の方まで上がった所で
「…って、引っかくんじゃ…」
微かな鳴き声と人の声らしきものを聞きつけ
「そこにいるのですか兄上!」
は建物の角を曲がり、そこで足を止めた
「あん?」
屋上の物陰の隅にいたのは
紫がかった黒髪をして、左目に眼帯を付けた
いかにも不良然とした雰囲気の男子生徒
冬の時期にもかかわらず 制服の上着を
自分のすぐ横に脱ぎ捨ててあり
しゃがんでいる彼の側の地面には
煙草の吸殻が数本散らかっている
「…何だ、兄上ではないのか」
嬉しげな表情から 一気に元の無表情に戻るも
何かに気付き、彼女はじっと彼の方を見やる
「何見てんだよ、どっか行け」
鋭い薄緑色の目でを睨みつけながら
低くよく通る声で彼は言った
気の弱い相手ならそれだけで
頭を下げて逃げ出しそうな物言いに
顔色ひとつ変えず、はこう言い返す
「お主 左目はどうしたのだ」
予想だにしなかった反応らしく
彼は端正な顔に一瞬 戸惑いを浮かべる
「え、あー…ガキの頃から何か知らねぇが
こっちだけ弱くてよぉ」
「そうか それは難儀だな
片目だと死角が増えて苦労するだろう」
「ご忠告どうも 生憎だが慣れてっから
大体の気配で周囲の動きぐらい分かんだよ」
「なるほど、鍛錬のたまものというヤツか」
どこか調子を狂わされるような返答に
男子生徒は、珍しいモノを見るような目で
彼女へ問いかけた
「お前は、オレが怖くねぇのか?」
は表情こそは変わらぬが
不可解と言わんばかりに首を傾げる
「初対面の相手を恐れる理由がどこにある?」
当たり前のように放たれた言葉に、彼は
しばし唖然とさせられる
「オレの名前を知らねぇのか?」
「すまんな、兄上と共に途中から転入したゆえ」
「…オレとの対話に関しては こっちの
設定でのみ動いてんのか」
はい、ここで本誌の設定入れちゃうと
それはそれで面倒なので
「お主 誰と話をしているのだ?」
「いや、何でもねぇ 気にすんな」
頭を少し掻き けど、と彼は続ける
「銀魂高校の高杉っていやぁ、ちったぁ
ここらで通った名前だと思ってたがなァ」
「そうか 私の名は と申す
お主の下の名は?」
「晋助だけど」
「ご丁寧な挨拶いたみいる して晋助殿
上着を羽織らず、寒くは無いのか?」
さすがに冬の時期は寒いらしく 高杉は
上着の下に長袖の赤いシャツを着ているが
それでも野外では上着がなければ
身体に当たる風が寒いはずである
そんな様子を微塵も見せず、彼は答える
「別に…って何で寄ってくんだオイ」
高杉の言葉を無視し、近寄ったが
脱ぎ捨てられていた上着を取り上げる
そこからタオルのかけられた
ダンボールが姿を現すと共に
何かの鳴き声らしきものが聞こえてくる
タオルを取り払ったの目に、
ダンボールの中身が晒される
そこにいたのは、小さな身体を震わせて
か細い声でニャーニャー鳴く仔猫達
「微かに聞こえたのは、やはり
この者達の鳴き声か」
猫に目線を合わせ が中を覗きこむ
捨て猫らしい仔猫達のいるダンボールには
タオルが敷かれており
ご丁寧にエサ用の容器まで置かれている
懐っこい一匹の頭を撫でてから、
顔を上げては訪ねた
「晋助殿 お主がここで世話を?」
少し横を向いて、高杉はぶっきらぼうに答える
「知るかよ、オレの場所にこいつらが
勝手にいて うぜぇから目隠ししてただけだ」
「なら その手の引っかき傷は私の幻視か?」
の指摘通り、今しがた引っ込めた
高杉の左手の甲には
よく見なければ分からぬほどの
小さな三本傷が刻まれていた
「…初対面のクセに良く見てんじゃねぇか」
「お主の嘘が下手なだけだ、しかしこの者達を
ここに置いておいて平気なのか?」
高杉はどこか皮肉げに笑ってみせる
「可愛がってたクセに手前の都合で捨てられた
こいつらに、居場所を作っちゃ悪いのか?」
道端に捨てられた犬を飼いたいと言った事も
兄と父に了解をもらえず、しばらくは
その箱にエサをやりに通っていた事もあり
「…いや、その気持ちは分かる
私も幼少の頃 同じようなことをしていたゆえ」
は、彼のその行為も言葉も否定できなかった
「それより上着がなければ寒かろう 返すぞ晋助殿」
言ってが 上着を両手に
持ち直して彼へと差し出す
「ふん、悪ぃな」
腕を伸ばし 自分の上着の端を
高杉が掴んだタイミングで
左ポケット辺りから、何かが地面に落ちた
素早くしゃがんで取ろうとするが
僅かの差でにそれを取られてしまう
「タバコは百害あって一利無しだぞ
兄上もよくそう言っている」
「うるせぇ」
取り返そうと手を伸ばすが、高杉の手が
届く前には立ち上がり
スカートのポケットに煙草の箱を隠した
釣られて高杉も立ち上がる
「オィ、ヒトの煙草返せよ」
「返したら吸うのであろう ならそれは出来ぬ」
「…まさか先公にチクんじゃねーだろーなぁ?」
下手な教師でさえ射竦められるような目と
どこか怒りの滲むような声音を発する高杉だが
「私は風紀委員ではないから、そんな面倒はせぬ
これは捨てさせてもらうだけだ」
動ずる事も怯みもせず…所か表情すら変えず
見つめ返しながらキッパリと答えたに
毒気を抜かれたようで
呆気に取られ、それからクッと笑みを漏らす
「変わってんな、見た目も口調も性格も」
「口調は父上が時代劇好きゆえ、あとは
兄上と同じく生まれつきだ」
ああそう、と興味無さそうに返してから
「そろそろ昼休み終わるんじゃねぇのか?
ここでオレとくっちゃべってていいのかァ?」
続けた彼の言葉が終わらない内に
昼休み終了のチャイムが鳴り始めた
「おぉマズイ、急がねば授業に遅れてしまう
兄上も教室に戻ってるやもしれんな
晋助殿も急がれた方がよいぞ」
「オレぁそろばん塾があっから授業は出ねぇ
だから教室戻んなら勝手に戻れ」
「…そうか、ではお言葉に甘えて」
猫に礼をして移動しようとするを
「おい!」
高杉がほんの少し呼び止めた
「っつったか…お前ェ
ここでの事は誰にも言うんじゃねぇぞ」
「よく分からぬが 了解した」
鳴り響くチャイムの中、は3Zの教室へ
戻るべく急いで駆け出していく
黒髪の三つ編みが揺れるその背中を見つめ
「こいつらの世話ついでに来たが…まさか
あんな面白ぇヤツが転入ってたなんてなァ」
足元の猫達に視線を落とし、
「 、か…」
小さく呟くと 高杉は口の端に笑みを浮かべた
「……クク、こーいう扱いも満更じゃねぇな」
後に、一部の生徒や教師に猫の存在は知られ
こっそりとエサをやったりされてはいるようだが
昼休みなど、ふと気になった時などに
は猫のエサを手に 屋上へとやってくる
「おお、晋助殿も猫のエサやりか」
「バーカ たまたま来ただけだよ」
「ではその手に見える猫缶は何なのだ?」
「チッ、お前ェ 案外目ざといじゃねぇか」
「だからお主の嘘が下手なのだ」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:3Z話では、初の杉様夢なワケですが
色々想像で補った所があります
高杉:SQは読んでねぇからな手前ェは
狐狗狸:うん 何で小説3巻のイラストだけで
杉様のキャラを作りまくってます
高杉:…一体、どう見えてるってんだぁ?
狐狗狸:校内一の不良なのはガチかと
ケンカの強さと冷静さ、そして怖さで
近寄り辛いけれど 本当は不器用でちょっと天然
高杉:ククク…よくまぁベラベラと
捲くし立てるモンだな
狐狗狸:想像とか妄想も入ってるので…
ありがちネタでスイマセン そして
銀八先生は猫の存在に気付いてると妄想
様 読んでいただきありがとうございました!