「いぃ〜しぃやぁぁ〜きぃもぉ〜…」







焼き芋屋の声がズイブンと煩くなったもんでぃ





てゆかもう師走だってのに、案外
しぶとく商売してるじゃねーか







久々の非番、オレは外を適当にうろつく


…用はあるっちゃあるが 中々
これといった店が見当たらない







歩くうち、店と店の間の路地に


モノすげぇ年季の入ったダンボール
片隅の方で固まっていたもんだから





「…何だこの汚ぇダンボール」





特に何も考えずに それを思い切り踏みつける







あれ?何か今みょーに柔らけぇ感触が
ダンボールの下にウンコでもあったか?









怖いもの見たさでめくってみりゃ







下にあったのは死にかけただった







「何やってんでぃ 起きろ





言いながら、鼻フックで顔を持ち上げて
頬を二三発ぐらい叩いてやる







「……あ、総悟殿 おはよう」







無表情ながら間抜けな鼻声で、が目を覚ます







「こんな所で寝てたら風邪引くぜぃ」


「ああ スマヌな…どうやら少し
三途へ渡っていたようだ」


「へぇ、そいつはまたどうして?」





すぐ横で 焼き芋屋の車がゆっくりと通り過ぎる





「い〜っし〜やぁ〜きいむぉ〜」


「あれが原因だ」







そちらに視線を向けて、は答える







「詳しく説明しろぃ」


「あ痛たた、わかった今説明するゆえ
指に力を込めないで欲しい」







…イマイチ痛がってるようには見えねぇ
本当 筋金入りの能面だコイツ











「プレゼントで妙に高いモンもらうと
ちょっと引かね?」












とにかく省かれた部分を吐かせた所







どーやら焼き芋屋の声がやたらデケェから







「…うるさい せっかく兄上が床につかれたと
言う所なのに!」





ちょうど兄貴が朝帰りして 寝床に
入った所だっつーことで





「兄上の安眠を妨げるものは 何者であろうと
排除してくれる…!!」








それで家を出て 声を頼りに芋屋の車を
追いかけに行ったが


声はすれども姿は見えずの状態が続き







「…声が近い、ここか!





角を曲がった途端に、目当ての芋屋の車に
自分から正面衝突したとか







「本当バカだな、よく死ななかったもんでぃ」


「何かに跳ねられる事はさして
珍しくも無いからだと思われる」





まぁそれもそうか


轢かれんのも、道端でくたばりかけんのも
なら日常茶飯事だ





「ご丁寧に汚ぇダンボールまで羽織って
火葬代浮かす算段でもしてたのかぃ?」


「いや ダンボールは知らん」


「マジでか」





じゃあ一体、どこのどいつが…?







「とりあえず 降ろしてもらえぬか総悟殿」


「おー悪ぃ悪ぃ、汚ぇ鼻から脳ミソまで指が
つき抜けちまったらもっとバカになるもんな」







ようやく宙吊り状態から開放してやった所で







「うわぁ、死体が生き返ったぁ」





悲鳴に近い声を上げたのは


リヤカーを引いて、の上に被さってた
ダンボールを回収する武蔵のオッサンだった







「ひょっとして、こいつにダンボールを
被せたのはアンタか?」





オッサンはコクコクと頷く





「路上で死んでるのは可哀想だと思って
隅に持ってって、武士の情けでダンボールを」


「そうか それはすまぬ事をした」


「中々見上げたもんだ、自分のバカ
自覚して謝るなんてそうは出来ねーぜぃ」





オレの言葉に、緑色の目がこっちを見る





「いや、何はともあれ迷惑をかけたのは
私だから 当然の事だと思う」







土方や、他の連中なら どこかに
怒りを滲み出させんのに


こいつは皮肉が通じねぇくらいバカだから





どうにも 調子が狂っちまわぁ







「して、総悟殿は何故ここに?」


「ちょいと買いてぇモンがあって
店を品定めしてたんでぃ」


「マヨ殿を陥れる為の道具か?」


「そっちは得意の店があるから悩まねーよ」





そう 土方アノヤロー程度の買いモンなら
こんな悩んでほっつき歩きゃしない







…ここで会ったのも何かの縁


どーせの奴、芋屋追っかけて
死にかけてたぐらいだし ヒマだろ







野ざらし助けた恩返しに、
ちょいとオレに付き合ってくれ つか付き合え」


「総悟殿、そうしたいのは山々だが
私はあの焼き芋屋に物言わねばならぬのだ」







あぁそういや、この女は何をおいても
兄貴優先のブラコンだった





バカは死ななきゃ治らねぇっつーが


ブラコンは死んでも治らねぇもんか







ぼんやり考えている所、凄まじい腹の虫
こいつの腹から鳴った







「デケェ腹の虫がなったなぁ?」





が、珍しく眉を潜めて呟く





「恥ずかしながら、朝から何も食してない
餓死一歩手前だ」







近くにあった飯屋を指差し、





オレに付き合うんなら 更に恩を
売ってやってもいいぜぃ?」


「…背に腹は変えられぬ、了解した」







こうして、命とメシの恩とで下僕を一人
連れて歩く下りとなった











「私は何をすればいいのだろうか?」


「そうだな…女が欲しそうなモノって
何か分かるか?」


「私は兄上にもらえるならな」


「兄貴から離れろぃ」





チョップを食らわせると、無表情のまま
は頭をさすって答える





「…然程モノには執着せぬのだが、


花や記念に残るものなどを贈るのが
いいと父上からは聞いている」







花や記念 ねぇ…







おお、これは何だろう?
なにやら珍しいな」







唐突に がベタリと窓に張り付いた





ガラスの向こうに並ぶのは、古ぼけているが
妙な味を感じさせる洒落た品々


店の面構えも 並んだ品と変わらない







オレみてぇな芋侍にゃ、多分生涯
入らねぇような店だが…







「ちょっと入ってみるか」


「うぬ」





興味津々のを連れて
ぼろっちい店内に足を踏み入れる









案の定 中にあったシロモノは
とんと縁のねぇもんばかりだったが


一々眺めて回るの様子が


バカなガキ丸出しで面白い







「総悟殿、この箱 開けたら音が


「なんでぃ お前オルゴールも知らねぇのか」


「うぬ 初めて見た…どのような仕掛けかは
知らぬが、面白いものだな」







並んだ品の中で、何となく良さそうな物
一つ選んで 買って包んでもらってると









外で待たせてたにヘンな男が話しかけてた







「オレ、実はお兄さんと知り合いだからさ〜
安心して付いてきてよ 悪くはしないしさぁ


兄上と知り合いなのか!?
あ、いやしかし私にも約束が」


「そんなのいーじゃん いいからついて来いって」







の腕を掴む そいつの薄汚ぇ手を





この女の身体をこっちに引っ張る事で
いともあっけなく引き離す







勢いのまま片手でを抱き寄せて





「人のスケに手ェ出すたぁふてぇ野郎だな
そんなにあの世の光景が見てーかぃ?





睨みつけるそいつに、空いた手で取り出した
バズーカを構えて低く言い放つ







「す、スイマセンでしたぁぁぁ〜!!」







なんでぃ スタコラ逃げやがって
根性のねぇ野郎だ







「スマヌな総悟殿」


「ったく手間かけさせるなぃ、行くぜ





さっさと手を離して、代わりに買ったモノを
持たせて一歩前を歩く







「さて、次は花だっけか?」


「それなら いい場所を知っている
ここから遠くは無い、案内しよう」









いわく 知り合いのやってる花屋には


オレ達以外の客は誰もいなかった





「なんでぃ、商売時なのにガラガラじゃねぇか
本当にこの花屋で大丈夫か


「あら何よこの子」


「案ずるな総悟殿、閑古鳥が鳴いていても
ここの花の質などは保障する」


「アンタまでそーいう言い方ないんじゃなぃの?」







店主の化粧はケバかったが、包んでもらった花束は
そこそこ見栄えもいいモンだった









花束をに持たせて 道を歩ってると





少し先の飯屋でマヨ丼かっこんでる
土方の姿を見つけた







「今日もお仕事お疲れさん、
まーた犬の餌食ってんですかぃ土方さん」


「犬の餌じゃねぇ土方スペシャルだ、つーか
槍ムスメぇ 何でテメェも一緒だ」


「二つの恩返しだ」


「意味わかんねぇよ端折んなコラ」







二人で散々土方に嫌がらせをしまくって





怒鳴りながら追っかけるあんちくしょうを
目に付いた店に入って撒いた







「総悟殿、これは何だろうか?何かの呪物か?」


あん?こりゃ鍵につける根付けだろ
本当にモノ知らねぇのなお前」


「ほほぅこれが…言われてみれば
兄上の持つ鍵にも付いていた」





ジャラジャラとぶら下がった根付けを
物珍しそうに見やる





その内の一つは、なんかとぼけたツラをしてる







目と口の部分は、目の前にいる能面と
案外良く似ていて笑える







ソイツを一つ摘んで 問いかける







「こーいうのも記念になるもんか?」


「大事なのは気持ちらしいから、それでも
十分贈り物になれると思う」


ふぅん、そうかぃ」







ついでにそれも一つ買って店を出れば







もう夕暮れが沈んで、夜の帳が降りてきていた









「時間も遅ぇし、こんなもんでいいだろ
荷物持ち ご苦労さん」







オルゴールと花束を返しながら





が 神妙なツラでこっちを見る







「…総悟殿」


「なんでぃ?」


「先程までの買い物…誰か女性への
贈り物なのだろうか?」


「察しが悪ぃな、普通は最初の質問で
大体分かるもんじゃ」


「それも 私に対する兄上のように、
お主にとって大切な相手だろう」







遮った言葉に、ちょいと驚かされた









こいつにゃ オレの素性を明かした覚えは
全くねぇハズなのに…







バカ正直モンのメス犬のくせに
ヘンな所で勘がいいなぁ、お前」







どうも、こいつに嘘はつけねぇらしい









「世話になった姉上に、贈り物の一つ
してやりてぇと思ったんでね」


「そうか」


「…他の奴には しゃべんなよ?」


「了解した」







バカ正直のこいつなら
約束を破る心配もねぇだろう









花束と、オルゴールは姉上へ







最後に残った とぼけたツラの根付けを









「最後まで付き合ったし、まぁアリよりゃ
役に立ったから くれてやらぁ







差し出すと、はそれをまるで
壊れ物かなんかの様にバカ丁寧に受け取る







しばらくはじっと それを眺めて







「ありがとう 総悟殿」









…なんでぃ、そーいうツラも
やりゃ出来るんじゃねぇか








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:沖田夢ふたたびです 遅くなって申し訳


沖田:本当に遅ぇよ(バズーカ突きつけ)


狐狗狸:スンマセンでしたバズーカは勘弁を
てか最近バズーカ攻撃多すぎ…


沖田:所でこの話はどの辺りの設定でぃ


狐狗狸:時期は冒頭でも言ってた通り師走で
初旬辺りっすね、てゆうかバズーカ降ろして


沖田:で、本編での時系列は?


狐狗狸:一応ミツバさん篇の前でも後でも
いいカンジですが 個人的には墓前
捧げて欲しいかなと…あの、バズーカ


沖田:まあ、貸しが出来たのは
よしとしようか(黒笑)


狐狗狸:何企んでるんですか怖いです
てゆうかバズーカ降ろしていい加減


沖田:あ、指が滑った(引き金引き)


狐狗狸:ぎゃあぁぁぁぁぁ!(吹っ飛ばされ)




花屋の店主は、勿論忍者のあの方です(笑)


様 読んでいただきありがとうございました!