かぶき町の街中を、銀時は当ても無く歩いていた


時折立ち止まり 振り返るも
首を傾げてまた歩き出す





「…ふぅ、危なかった」





道を歩く彼の遥か後ろにある電気屋


店頭に並んでいた冷蔵庫の一つが少し揺れ


そこから身を折り畳んで入っていた
が姿を現した







遡ること数日前 兄妹の自宅にて


「兄上」


「ん?なんだい


「人にプレゼントをあげる時には
どうすればいいのだろうか?」





唐突かつ経緯を省いた問いかけに
兄は敢えてつっこまず答える





「うーん…そうだなぁ、その人の好きな物を
あげるのがまず基本だねぇ」


唇に指を当てつつ 彼は言葉を続ける





「あとは、こっそり渡して驚かせてみるとか」


こっそりと?矛盾してはいませぬか?」


「皆の前で大っぴらにもらうよりサプライズを
含んだ方が喜ばれることもあるのさ」





それを本人なりに介錯した結果が である











「誕生日が嬉しいのは独り者と二十歳まで」











「…さて、これをいつ渡すか」





が用意したのは、ケーキの詰め合わせ


甘いものならば受け取ってもらえると
彼女なりに考えたのだろうが





如何せん、尾行中に持ち歩いているため


箱の中身は チーズクリームとチョコムースが
暗黒の共演をしている状態だ







「早く渡さねば腐ってしまうな…おっといかん」





我に帰ったが視線を戻すと





つけていたはずの目標がいない事に気付いた


「…あれ?銀時はいずこへ?」





前方に目を凝らせど、銀髪のあの姿は
忽然と失せたままで







そのまま物陰から視線をさ迷わせている

背後から、ぽんと肩を叩かれた





ちゃーん、さっきから何コソコソ
覗いてんだコノヤ」


こっそり忍び寄って声をかけた銀時は


しなやかな半身の動きが繰り出す
零距離の柄攻撃をもろに顔面に受けた





あがぁぁぁ!?鼻折れる鼻折れるぅぅ!!」


「…あ、すまぬ銀時」


謝ってるように見えねぇよこの能面ヅラ!
つかイキナリ攻撃とかマジねーよ!!」


「ついクセで…用があるからまたな」





眉一つ動かさず謝り、尚も追求してくる
言葉をぶっちぎり無視しては逃げた









「しまったな…どうやって銀時にこっそり
プレゼントを渡すべきか…」





歩きながら、尚もプレゼントを
渡す方法を考える





問題はそこだけではない気もするのだが


彼女の思考回路は常人とはかけ離れている為
その点には全く気付けない







「きゃあああああ〜!?」





絹を裂くような悲鳴にが辺りを見回す





屋根から落下するさっちゃん
ちょうど 彼女の真上に


気付いた時には、遅かった







ものすんごい衝撃で両者がぶつかり


お互いの所持品が辺りに弾け転がり


ついでにの首も妙な音を立て





彼女ら二人は道端に倒れこんだ









ほどなくして身を起こしたのはさっちゃん





「う…ん?あら 奇遇ね


落ちた時にメガネを落としてしまったため

ドナル○ドだと思っている





「ちょっと、返事ぐらいしなさいよ
相変わらず能面なんだから」





…せめて彼女に意識があったなら
訂正もツッコミも出来ただろう





しかし、ぶつかった衝撃のせいで


三途の川へ直行していた







「あら こんなことしてる場合じゃなかった」





あたふたと手探りで転がった自分の持ち物を
手にとって、メガネもかけなおすと





「それじゃまたね





さっちゃんはその場から立ち去った









しばらくして、は息を吹き返すと
ふらふらと身を起こす





痛た…全くあやめ殿はドジだな」


自分の事を棚に上げまくりながらも、
側に転がっているモノに目を止めるが


それはの用意したプレゼントではなかった





「これは私の物ではない もしや
先程あやめ殿とぶつかった際…」







落ちていたソレを拾い上げると





「いかん、急いで取り返さねば!





は、すぐさまそこから駆け出した











二人がぶつかった場所から少し離れた先で





さっちゃんは銀時に踏まれていた





「最近始めた、くの一カフェの出張サービス
している途中で会うなんて奇遇ねぇ」


奇遇じゃねーだろ、ぶっちゃけ
ストーカーゴリラと同手口化してんぞ」


「ううん、きっと運命の赤い糸
締め付けられているのよ」


「おーい人の話聞けよM女ー」


しかし踏んでいる銀時の言葉は、

彼女にとっては快楽でしかない







「今日はそんな銀さんの生まれた日でしょ?
だから プレゼント持ってきたのよ」


あん?プレゼントぉ?」





銀時が訝しそうな顔で 足をどける





「そうよ さぁ受け取って!







起き上がり、いそいそとプレゼントを
差し出したその時





さっちゃんの背後から伸びた手が
"プレゼント"をひったくる


瞬時にクナイを投げるさっちゃんだが

すぐさま距離を取られ、攻撃は空ぶる







彼女の視線は、自分の手からそれを
ひったくったを睨んでいる





「大人しく盗った物を返しなさい!」


「すまぬ、後で返すから預けさせてくれ」


問答無用!てゆうか逃げるんじゃないわよ!」


「本当に返すから見逃してくだされ!」





逃げようとするを追うさっちゃんが
足止めの為に納豆やクナイを放ち


それらをかわし、槍で弾き返し

逆に槍で相手をけん制する







二人の攻防が周囲を巻き込まないわけは無く





「危なっ臭っ、てーかオレまで巻き込むなぁぁ!」


被害をモロに受けまくる銀時の叫びは

しかし 彼女らの耳には届かない







さっちゃんの鬼気迫る攻めに、
次第には圧されていく







「いい加減それを返しなさい!」


「いや、違うんだあやめ殿…これは
お主の物ではなく」





ようやく説明をしようとしただが、


殺し屋モードに入ったさっちゃんには
もはや無駄であった





「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色…邪魔者成敗の理を表す!」








放った縄が片手を絡めとり、その勢いで
の手から"プレゼント"が放り上げられた





「「プレゼントが!」」





慌てて手を伸ばす二人の目の前で


銀時が、足元に転がったそれを
思い切り踏み潰した







呆然とするとさっちゃん
それぞれに拳骨を一発ずつ見舞い





「テメェら人様に
迷惑かけてんじゃねぇぞコラァァァ!」






銀時はその場に二人を正座させた







で?お前らなんで争ってたわけ?」


「私はただ、銀さんへのプレゼント
取り返そうと思って…」





済まなさそうに身を捩じらせながら
あっさり理由をしゃべるさっちゃん


対照的に は口を結んだままだ





「オイ、いつまで黙ってる気だ





問いかけるも、彼女は俯いて
口を開こうとする気配は無い


どころか 覇気すらも無いように見える





「しまいにゃ温厚な銀さんも怒るぞ
まずはお尻ペンペンからいくかんな」


そんな!にするくらいなら
私にぜひお願いします!!


「オメーはお呼びじゃねーよ!!」





申し出るさっちゃんを蹴り飛ばし、
再び彼女を睨みつける銀時







はぁ、と重いため息をつくと


「もはや兄上とお主に顔向けできんっ
いっそ死んで侘びをさせてくれ!!





叫んでは 取り出した槍の穂先を
自らの腹にあてがった





「いやいやいやそこまで言ってねぇ!!


「ちょっと、こんな大通りで切腹なんて
処理が大変だからやめなさい!」


「言ってる場合かぁぁ!つーかお前も
このバカ止めろおぉぉぉ!!」










どうにかして二人は切腹を止めさせ


そして、これまでののいきさつを
全て聞き出した







「ほー、そういうことか…プレゼントを渡すんなら
 まず先に常識を身につけてからな」


「私のプレゼントは無くなってしまった…
残ったのは、あやめ殿のプレゼントだ」





人の話を利かず は持っていたモノを差し出す





勢いで 差し出されたそれを受け取って





「ぜひとも開けてちょうだい、銀さん」


嫌な予感がバリバリしつつも じっと見つめる
さっちゃんの視線に負けて開ける銀時







中身は、やはりというか予想通り





可愛らしい猫しっぽのついた

うねうね動く棒的なアレだった


ご丁寧に猫耳ローションまで同封されている





活字にしていてなんだが、かなり
際どさ抜群の内容である







「具合でも悪いのか?銀時」


「あーうん、無知ってある意味素敵だな」


苦虫を噛まずに飲んだ顔で答える銀時







「銀さん プレゼントは私も込みなのよ
さあっ、それを使って思う存分私を


頬を赤らめ 自らを示すさっちゃんの言葉半ばで


もらったプレゼント類を銀時は力一杯踏み壊し
近くのドブ溝に蹴り捨てて





「お前プレゼントっつーなら、今週のジャンプ
買って来いよ 金はもち自腹な?」


「ええっ…そ、そんなぁ…」


「オレの誕生日だろ?言う事が聞けねぇの?」





見下し気味に意地悪く呟くや否や


見る見るうちに頬を高潮させて
さっちゃんはもじもじと身悶えし





「ああ…いい…!その顔よっ…!
もちろん買ってくるわ!!





目を輝かせて何処かへ駆けていった







その様子を、微動だにせず
見守っていたがようやく口を開く





「気をつけてなあやめ殿…
さて それではまたな銀時」





歩き始めるの後ろ襟を、伸ばした手が
むんずと掴んで引き止める





「どこ行く気だコラ」


「帰るつもりだ、もうお主に渡す物も
無くなってしまったゆえ…」


僅かに表情を暗くして答える彼女だが

襟から手が離れる様子は全く無い





ああ?あんだけのことをしといて
タダで済むと思ってんのか?」


「す、すまぬ…やはり懲罰だろうか」


年幾つだよ、んな重いもんやったら
サイト閉鎖になるだろが」





ベン、と頭を一つ叩いてから





「お詫びとプレゼントを兼ねて銀さんに
パフェおごりなさ〜い、つーわけで付き合え





襟首から左手へとその手を移し

銀時はファミレスへと歩き始める







「え、あの…それでいいのか?」





引きずられる様に歩きながら聞く


振り返りながら 銀時は笑う





、今日はオレの誕生日だろ?
言う事が聞けねぇの?」








言葉こそは先程と変わらないが


態度の差は、端から見ても明らかだ





「それならば仕方がないな…しかし
あやめ殿はあのままでいいのか?」


「いいのいいの、どうせオレの居場所を
見つけて やってくんだから」


「…それもそうか」







納得したように呟くと、


それきりは 何も聞かずに
彼の側を付いて歩いた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:銀さんの誕生日に間に合ったから
よかったけど…なんか、危ない内容だなぁ


銀時:危なすぎだろ!つーか明らか
大人のオモチャ混じってんじゃねーかぁぁ!!


狐狗狸:前回の長編の反動かもしれません


銀時:だからってこのグダグダさは何?
オレの夢なのにオイシイ思いほとんどねーし!


さっちゃん:私は満足よ…銀さんに沢山
いじめてもらったし


銀時:頬染めながらの発言やめろやM女


狐狗狸:この場所でのSMプレイ
やめてね 裏ページじゃあるまいし


さっちゃん:アナタが裏に引っ込めば?


狐狗狸:ちょ、仮にも管理人になんつー事を


銀時:ったくのヤツも もうちっと
まともに誕生日祝ってくれよなぁ


狐狗狸:それがクオリティ(笑)




トンデモ誕生日話で失礼しました…アハハ


様 読んでいただきありがとうございました!