茜色に染まった3Zの教卓で、オレは
頬杖を付きながら 窓の外を見ていた







「あーもう、マジめんどくせぇなぁ
帰ろっかなー全部ほったらかして」







マリアナ海溝より深いため息を吐いて
再び教卓の上に乗ってるモンを見る





ったく、こんなモンがなけりゃーなー…







二度目のため息をついた所で





廊下の方からタッタッタ、と足音が響き
ちょうどこの教室の辺りで止まる







勢いよく引き戸が開いて 入ってきたのは





「あ、こんにちは先生」





ハーフ留学生兄妹の片割れ・情事…じゃね
常時無表情妹のだった







「こんばんはだろが、あと今は下校時刻
真っ直ぐ帰れコノヤロー」


「すまぬ 忘れ物を取りに来ただけゆえ」





言いつつさっさと自分の席の引き出しを探り





オレに向かって見せたのは、検尿セット一式







確かに忘れちゃマズイもんだな、それは


忘れたら最悪学校で採尿しなきゃ
なんなくなるもんな うん





でも、そんな堂々と見せるのは女として
どうなんだと小一時間問い詰めたい







「先生、何をやっているのだ?」


「見てわかんねーか?」


「うぬ」





能面みてぇなツラで頷かれ、オレは
思わず教卓の上のソレを引っつかみ


の目の前に突きつける





「今日お前らにやった抜き打ちテストの採点だよ」







じっとその答案を見て、時計の針がきっかり
一回りしたくらいでコイツは言った







ああ、そう言えばそんなものもあったな」











「テスト諦めたヤツは空白の部分に落書きしてる」











「あったなも何もコレお前の答案だろ
せめて半日くらい記憶持たせろ」


「兄上のことならば生まれたときからずっと
記憶を手繰れるのだがな」


「こっちでくらいブラコンから離れろぉぉ!」





叫びながら、勢いでオレは捲くし立てる





「てゆうかテストの回答にも兄上連発かよ
打ちっぱなしヤリっぱなしですか?」


「先生、それを言うなら書きっぱなしだ」


そういう問題じゃねぇよ!
つーか女の子が書きっぱなしとか言わない!」


「何故ゆえ?」







首を傾げるんじゃないの、先生だって
詳しい説明はこっ恥ずかしいんだから!







「あと問題がわかんねぇからってあてずっぽな
答えいれんな 何だよ"見かけだまし"って」





再び突きつけた答案を注目し





「すまん、子供倒しだったか」


「今すぐ辞書引け」







間髪入れず答えたベシッと叩いた







「私の答案に目を通しているようだが
あとどのぐらい残っているのだ?」


「それがよぉー、集めて職員室に放置してたら
どっかのバカが窓開けやがってさぁ」





せめてジャンプ…いや出席簿
重石しときゃよかったなーアレは







「風で舞ったテストを掻き集めて、面倒だから
そのまま採点して 今やっと6枚目」


「名前順に直した方が良くは無いか?」


あん?もうめんどくせぇからこのままやるわ」


「そうか、ならガンバレ」





それだけ言って帰ろうとする
制服の襟首を引っつかみ足止めさせる





「待てよ、折角ここにいるんだから
せめてテストの採点手伝ってけ」


断る 私は早く帰って兄上と
夕食の買出しに行かねばならぬのだ」





即答ですか、そしてブラコンですか


それでもヘコたれずに再度トライ







だってウチのクラスの奴等の答案だよ?





の答案見てもわかる通り、ぜってぇ
いやになるよーな珍回答ばっかだもん





こんなんを一人でやるのは先生だって辛い







ならバカであっても道連れがいた方が
少しはなんとかなるかもしんない


言うなりゃヤケクソだな







「先生だってなぁ寂しいと死ぬんだよ
答案を一枚ずつ渡してくれるだけでいーから」


「それはご愁傷様 しかし私も用があるゆえ」


「しょーがねぇな、手伝ってくれたら
チロルチョコおごってやる」


「…余り遅くならぬのなら」





よっし、これで愚痴り相手ストレス解消
両方を一気にゲット





「あ、あくまで善意で手伝ったってことに
しといてくれよ 兄貴には」


よく分からぬが 了解した」







よし これで兄貴のうるせぇ追求もこねぇ
…とりあえず明日は









に教卓の側でスタンバってもらって
早速採点にとりかかる







「勲殿の答案は牛模様だな」







は?牛模様?





首を傾げつ受け取った近藤の答案は


白い部分が目立つ中で 用紙の半分が
ヘンな風に滲んだシミだらけ







「ってヨダレだらけじゃねぇかぁぁ!





オマケにそのシミで字ぃ滲んで読めねぇし!







テスト中寝てやがったなあのゴリラぁぁ!







「なんとヨダレだったとは…それにしても
見事な牛模様だ」


「現実を見ろー、これただのシミだから
ゴリラから出た汚ぇシミだから」







オレは迷う事無く0点をつけて、次の用紙を
から受け取る









「次は…、ヅラか」





半ば嫌な予感を感じながらも、オレは
解答欄に眼を通す







あれ、案外マトモ…って







問:「〜じゃない」を使って 文章を作れ





答:葉っぱが一枚あったとさ、
葉っぱじゃないよ カエルだよ
カエルじゃないよ エリザベ







「絵描き歌じゃねぇかぁぁぁ!
こんなもん点数つけれるかぁ!」






大きく罰印をつける横で、
黒板に何かを描いている





「…カエルからエリザベスにならん
仕方ない、今度桂殿に聞いて」


「描くなそして聞くな」





もう一発頭を叩いて、黒板消しで
描きかけのシロモノを消してやる







こら、残念そうな顔しない…無表情だけど









次に渡されたのは 土方くんの答案







…隅っこに書かれてるこれってひょっとして







「卵20個、酢5ミリリットル、サラダ油」


「うん ちゃん音読してくれなくていいから







隣で読み上げる声を止めさせる





そう、どこからどう見てもマヨネーズのレシピ







「テスト中に何書いてんだコイツ
てゆうか どんだけマヨ作る気!?







どうせなら美味いプリンのレシピを
書いとけよな、と思いながら


マジックでマヨレシピを黒く塗りつぶす







「塗りつぶすのはやり過ぎではないか?」


「いいの、どーせアイツは頭ん中に
マヨのレシピがごっさ詰まってんだよ」


「それもそうか」









が納得した所で、次に来たのは
ドSこと沖田の答案用紙







問:次の文字を漢字に直せ


オウニンの乱/過去をセイサンする/自らをカエリみる





答:凹妊/性産/孵り







ナニこのヒワイな当て字!?
つーか三つ目逆によく書けたなオィ!!」


「こんな難しい字は始めて見た」


「いや確かに難しいけど教えてないからね
てゆうか普通ここで使わねーからね!?」





テストでもドSっぷり半端ねーなコイツ







…お、この文章問題の
"ここにいるべきは土方じゃない"はマルだな









野郎の回答もマトモじゃなかったが
女子の方も似たようなモンで





「…余程 腹が空いていたのだな神楽」


「お前もこれ、食べものの絵に見えるんだ
よかったーオレだけじゃなくて」







留学生・神楽の答案には





あちこちにタコさんウィンナーらしき
物体がちらほらと描かれてやがるし


文章問題はもはや酢昆布の詩になっている







「何でコイツ酢昆布についてこんな熱心なの
いらないだろその情熱」


「いや、何かに対するひたむきな情熱
人生において必要だと私は思う」


「黙っとけブラコン」







握り拳で力説するにそう返す









問:波線の部分の、主人公の行動に
対しての気持ちを述べろ





答:憧れの人が傷ついた姿を見て、力に
なってあげられたら…そう思って
彼との同居を始めた彼女に健気さを感じますが


始めはともかく、ヒモとなっている男に
彼女の愛情はいずれ冷めてしまうと思います





それを承知で ここは敢えて同居を条件
専業主夫として扱き使わせることにして


ゆくゆくは外で稼いでこさせるのがいいでしょう







「おお…妙殿は頭がいいな」


「うん、でもこれテストだから 実際の
ヒモ男に対するアドバイスじゃないから」







×を付けるのは何となく怖かったので
三角くらいにしておいた





女の広辞苑をこの世界で開かれても困るっつの











適当にマルやらバツやら三角やらつけて







よーやっとクラス全員の採点が終われば
窓の外は、結構暗い







あ゛ーつっかれたー、本当もう
抜き打ちなんか二度とやるか」





用紙の束を横に避けて教卓に突っ伏す





「お疲れ様…しかし、それなら何故
抜き打ちテストなどを行ったのだ?」







問いかけに 顔だけ上げてオレは答える







「んー何か校長がよぉ"最近3Zは弛んでる
抜き打ちテストでもファッキンやりたもれ"
とか言い出してさぁ」


「先生は物真似が上手いな、似ている」





いや、あの触覚校長のマネ似てるって
それ洒落でも嬉しくねーよ





…コイツは絶対大真面目に言ってるだろうけど







「やんなきゃ給料カットとかふざけたこと
言い出すから、嫌々やったんだよ」


「そうか それは災難だったな」


そー、オレにとってもお前らにとっても
苦しみしか与えねぇよなこんなもん」







吐き出したため息が空気を震わせて







そこから針が一回り半ぐらい過ぎてから
がようやく口を開いた







「…先生 何故、私を凝視しているのだ?」





何だよ 気付くの遅ぇなー


てゆうか聞きながら逆に一歩近寄るのは
新手の挑発ですか?





「…なんだ、知らねぇの?」





オレは視線を逸らす事無く、平然と続ける





「目ぇ疲れてっ時は緑色のモンを見ると
いいって言われてんだよ」







強く眼を瞬かせて、納得したように
が手を叩く







「おおそうか、てっきり眼から光線でも
出すのかと思ったぞ」


「出ねぇよ」





オレはため息混じりにチョップをかました













次の日、何でかの兄貴に呼び止められた







「先生 ウチの妹に何吹き込んだんです?」


あん?アイツなんかしたの?」


「帰ってくるなりやたら僕の眼を覗き込んでて
聞いたら"緑色は眼にいい"って先生が言ってたと」





兄貴にやったのかよ あのバカ





「あーハイハイわかった、後で人の眼は
あんまり凝視しないよう言っとくわ」







適当に答えて、オレはさっさとそこから逃げ出す







「あのちょっと 坂田先生!?
まだ話が済んでませんよ!!」









あー何か後で職員室来そうだなこりゃ
屋上に避難しようかな うん







"お宅の妹さんガン見しながらニヤついてました"
…なーんて





バレたらクビ危ねぇもん オレ








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:再びの3Z話で銀八っつぁんに
スポットを当てて書いてみました


銀八:夢じゃねーよコレ、テストの珍回答集だろ


狐狗狸:だって3Zの面子が抜き打ちテスト
なんてやったらぶっ飛んだの来るでしょ普通


銀八:まーも含めて脳みそババロア
詰まってっから ウチのクラス


狐狗狸:所で最初に言ってた採点済み答案
後の五人を知りたいです


銀八:えーと、の兄貴と新八とー
ハム子と屁怒呂くんと…アレ?


狐狗狸:どうしました?


銀八:悪ぃ、最後一人ど忘れしたわ


狐狗狸:…本当に最低教師っすねアナタ




3Zもじわじわ増やせ…たらいいな(増やせ)


様 読んでいただきありがとうございました!