「二度とくんな腐れゴリラアァァァ!」







凄まじい叫び声と共に、妙は店の外に
近藤を投げ飛ばす





避けたからか それとも狙ってなのか





近藤は通行人を巻き込む事無く路面に落下する







「こ、これは流行のツンデレですよね…お妙さん」





ツバを吐いて奥に引っ込んだ妙に対し
それだけを呟くと、その場に力尽きる









彼の姿はヒドイ戦場に放り込まれた
敗残兵のようにボロボロだ


もちろん、やったのは他ならぬ"お妙さん"である







いつもよりも割り増しで制裁を受けているが
倒れた彼に声をかける者は誰もいない









「勲殿、道路に寝ていては危ないぞ」







…通りかかったを覗いては





ぴく、と指が動き ゆっくりと顔を上げ





「こうなりゃちゃんでいい!
オレに付き合ってくれえぇぇぇ!!」








いきなり抱きつきかかる近藤のアゴに





瞬時に屈んだ彼女の、組み立てて反転させ
突き入れた槍の柄底がクリティカルヒット


彼は再び地面に沈没する











「いい人は大概幸薄い」











「あ、すまぬ 仕事帰りなものでつい」





分解した槍を急いでしまい、
近藤の側に歩み寄り その身体を揺する





「大丈夫だろうか 勲殿」







ややあって、近藤は弱々しく目を開ける







「あ ちゃん、オレさっきキレーな川を
渡ろうとしててさ…」


三途の川だな、お帰り勲殿」





そこで彼の意識は完全に覚醒した





「えぇぇぇ、オレひょっとしてヤバかった?」







身を起こし たずねると
表情を全く変えずにキッパリ言い切った







「川を渡りさえしなければ大丈夫だ」


「ぶっちゃけ死にかけてたってことだよね!?」


「そうとも言う」


いやいやいやいやそれマズイから!
最悪 ちゃん捕まるからぁぁぁ!!」





首をブンブン振って言うも、
立ち上がり 拳を握り締めて力説する





「何を言う、私は勲殿の生命力を信じている
私の反射攻撃などで死ぬはずないと」



「力いっぱい買いかぶられてもアゴに
クリティカルヒットは普通死ぬからね!?」








同じく立ち上がって彼は叫ぶ





そこでようやくボロボロの姿に気が付き







「また妙殿へのアタックが失敗したのか」







聞くと、近藤は目に涙をじわりと溜めて







「そうなんだよぉ〜…聞いてくれる?」





三十路間近にも関わらず 往来の真中で
グズグズと泣き出した







その背中をポンポンと優しく叩きつつ





「ここで立ち話をするよりは、場所を
移した方が良くは無いだろうか?」







問いかけるに、首を振って頷きながら





二人は少し離れたファミレスへと移動した











席に着き、それぞれ飲み物を注文する頃には
近藤の気持ちは少し落ち着いたようだった







「もうすぐオレ達が出会った記念日になるから
何かプレゼントを贈ろうと思ってさぁ」





泣きはらした赤い目で、レモンティーを一口飲み
向かいにいるに語りかける





「サイズも事前に調べて、お妙さんの色気を
引き立てる新作のモノを買ったんだよ」







いいながら、懐から 一抱えサイズの
これまたボロボロの包みを取り出す





何故か所々まだらな茶色いシミがついていて


そこから甘ったるい匂いが漂っている







「オマケにハーゲンダッツもつけたんだけど
一緒に入れたのがマズかったみたいで
お妙さんがカンカンに怒ってさぁ」









中から出てきたのは、女性モノの下着のセット





同封されていたショコラ味のアイスが
ドロッドロに溶けて容器から流れ出し





それが下着のあちこち


かなり危ないカンジに染めていた









通りがかったウェイトレスさんが
引き気味に、冷ややかな目で近藤を見やる







はオレンジジュースをすすって呟いた





「せめて保冷材を入れればよかったのに」


そっか、そうすりゃお妙さんも
これを受け取ってくれたよなぁ〜」





しみじみ言いつつ下着をしまい直し





「正直 お妙さんが振り向いてくれなくて
ちょっと自信無くしてるんだよなぁ…」







ため息をついてアンニュイにレモンティーを
すする近藤に 力強くは言う







「気を落とすことは無い、男はとにかく
アタックあるのみ と父上は言っていた」


ちゃんの親父さんに?」


「父上も勲殿同様、とある店で働いていた
母上を見初め ずっと追いかけていたのだ」





ぶほっと鼻からレモンティーを吹き出す近藤





「そ、それってマジでぇぇぇぇ!?
やべぇよ オレの恋の師匠!?」


「聞いた話なのだが…正に火の中水の中風呂の中
厠の中、どんな苦難にも負けなかったそうな」


ちゃん、ぜひその話を聞かせてくれ!」


「うぬ、では覚えている限りで語らせていただこう」







頷いて 彼女は先日、川のほとりで父親から
幾度と無く聞いた二人の馴れ初めを語り始めた











ふらりと入った如何わしい店で働いていた彼女







姿に見合った涼やかで華麗な歌声と、


艶めかしくも まるで軟体生物のように柔らかく
しなって曲がる体躯を強調した舞踊





そして 闇の中でも強く鮮やかに輝く緑の瞳







全てが、彼を虜にした







「あの人と…結婚してぇ!」









店の常連になることはもちろん


プライベートも付回し、手紙やプレゼントなども
貢ぎ続け 愛の言葉を何十回と交わし





時にはしばらく入店禁止にされたり
警察の世話になることもあったが





不器用な彼はただただ愚直に彼女を追い続けていた







初めのうちは冷たくあしらっていた彼女も


段々と彼の優しさに触れ、





時を過ぎる内にいつしか二人の間にが生まれ
徐々にそれは深まっていった







しかし実は店とある犯罪組織に深い繋がりが…











とまぁ、笑いあり涙ありスペクタクルありの
てんこ盛りの展開でなんやかんやで組織を滅ぼし









「…長い道のりの末、晴れて夫婦になったとか」





締めくくる頃には 近藤は思い切り号泣していた





「おおおおおお、いい話だぁ〜!!」


「そう言ってもらえると私も嬉しい」







心持ち、無表情を柔らかく笑みに歪める





父親のその話は二割捏造臭い事に二人は
気付かないが、昔話などそんなもの





涙を拭いてついでに鼻も店の紙ナプキンで咬み







「やっぱりちゃんのお母さんは
さぞかしベッピンさんだったんだな〜」







朗らかに笑いながら言った近藤の一言に
帰ってきたのは、静かな否定







「…実は 母上の事は覚えてないのだ」


「え…?」


「私が三つにならぬうちに病で死したから
微かな思い出でしか知らぬのだ」







姿形を思い出せないせいなのか





三途の川へやってきた時も、母親だけは
会うことが叶わないようだ







「そうか…すまない」


「気にされるな、勲殿に悪気は無い」


あー…お父さんはお母さんと結婚して
幸せに過ごせていたかな?」







首を縦に振り、はこう返した







幸せだ、と言っておられた
だから 勲殿も妙殿を諦めなければ…!」


任せとけ、愛情には自信アリだ!
オレは寝ても覚めてもお妙さんの事を
思わない日は一日とてないからな!!」





誇らしげに言う近藤に、続いて頷き





「私も同じだ、四六時中兄上と結婚すること
考え 日夜色々と情報を」


うぉぉい!ちゃん それはさすがに
ダメだからっオレが言うのもなんだけど!」







ツッコミをいれ、彼は店内の時刻に目を止める







「…いい時間帯になってきたな、じゃあ
そろそろここを出てもいいかな?」


 うぬ、了解した」





両者が席を立って レジへと向かい







「勲殿…私は自分の分くらいは自分で払うゆえ」


「いーから、元々オレにつき合わしちゃったんだし
この位おごるから気を使わなくていいって!」





会計の支払いでちょっと揉め
(結局 近藤が全額支払ったのだが)


少し苛立った店員の視線を浴びながら店を出て









「オレのグチに付き合ってくれて…励ましてくれて
本当にありがとうな、ちゃん」








真摯な瞳で、近藤は彼女を見つめて続ける







困った時は、オレが君のお父さんの代わり
力になるから いつでも頼ってくれ」


「…うぬ その時はよろしくお願い申す」





視線を受け止め、僅かに微笑みながら
ペコリとおじぎをする







ニコリと微笑むも束の間、近藤は辺りを
見回したりして少しずつ落ち着きをなくしていく





「勲殿、どうしてそわそわしているのだ?」


「いや そろそろのはず…ああ、いた!





彼の目は、数十メートルも先にいる
妙の姿を捕らえていた





「そうか、妙殿を出迎えるつもりだったのだな
気が利かず失礼つかまつった」


なーに言ってんだちゃんは悪くないし
オレが追いかければ済むことさ」


「…健闘を祈る 勲殿」







差し出した手を握り返して 短い握手を交わし







ありがとな!それじゃ、気をつけて!」





近藤は晴れやかな笑顔でそう言うと、
通りの向こうへ消える妙の姿を追って駆けていく









は、彼の姿を嬉しそうに見つめていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:サイトでの扱いが可哀想過ぎるので
救済のつもりで初書きしました…近藤さん夢


近藤:今ゴリラって言おうとしたよね!?
てゆうかこの話同情で書かれてるの!!?


狐狗狸:なんですか、書かない方が良かったと?


近藤:いや書いてくれて嬉しいけどさ
オレちょっと死にかけたよね初っ端!


狐狗狸:まあそれはしょうがない、お妙さん&
うっかりコンボ攻撃だもん


近藤:つーかあのプレゼントマジやばくね!?
あれじゃお前、明らかウンk


狐狗狸:(遮り)死にかけさせられてて、相手に
感謝できるアナタの懐の広さはスゴイよ!



近藤:いやーでもちゃんはいい子だよ
オレみたいにいい人見つけて うんと幸せに
なって欲しいよ、マジで


狐狗狸:…お兄さんは苦笑いするかもね




下ネタ部分の表現がロコツでスイマセンでした
…作者は、近藤さん好きですよ?これでも


様 読んでいただきありがとうございました!