今日は僕にとって とても大事な一大イベントだ
―寺門通 かぶき町にてライブ開催―
この情報をいち早く入手し、万全の準備を済ませ
ライブを行う予定の場所に集ったわけだ
辺りには既にマスコミ関係者や
情報を聞いたお通ちゃんのファンが人だかりを作る
「今日はお通ちゃんの応援に張り切って
行こう絶壁ぃぃぃ!」
『行こう絶壁ぃぃぃ!!』
僕の一声でお通親衛隊メンバー全員が
阿吽の呼吸でレスポンスを返す
「人込みでは騒がしい奴が注目を集める」
「そこおぉぉ!声が小せぇぇ!!」
『行こう絶壁ぃぃぃ!!』
「もっと腹から声を捻り出せぁぁぁぁ!!」
『行こう絶壁ぃぃぃ!!』
声を枯らして そりゃもう
ごっさ気合の入った指導をする
なんたって元祖ファンクラブは僕達だ
人気になってから寄ってきた
にわかファンなんぞに負けるわけには行かない
しかし、そんな僕の意気込みに水を差すように
情けない声が斜め後ろから近づく
「すっスイマセン隊長 遅刻しま…グアァッ!」
「テメェ…神聖なお通ちゃんの
ゲリラライブに遅刻してくるとは
それでも寺門通親衛隊の一員かあぁ!」
慌てて駆け寄る 不心得で弛んだその隊員に
鼻フックデストロイヤーをかまし
「テメェらあぁぁ!お通ちゃんのステージに
遅刻はあるまじき行為だ!肝に銘じとけぇ!」
「イエッサルガッソォォォォ!!」
「声が小せぇぇ!もっと大きな声で
返事しろぉぉぉぉ!!」
「あ、やはり新八殿」
今度は誰だよ 空気読めントスガイザー!
間に滑り込んだ ものすごく
聞き覚えのある声に振り返ると
すぐ至近距離に緑色の目があった
「近っ!ちょっ近いんですけど!?」
「すまぬ、少し距離感がつかめなくてな」
「それにしたって限度があるでしょ!
少し離れてくださいよ!!」
むぅと唸って一歩分 後ろに下がるさん
…あれ?
そういや何でここにいるの?この人
頭に浮かんだ疑問は 一つのだみ声に
よって掻き消された
「隊長ぉぉ!その人は隊長の
何でありますから揚げぇぇ!!」
気が付けば、親衛隊の面々が僕を
疑わしげな目で見つめている
もしや…さんとの関係を疑われてる!?
寺門通親衛隊隊規二十三条
隊員はみだりに婦女子と密通することなかれ
この禁犯すものはスパイと見なす
さんと密通なんてあり得ない話なのに
万が一でもこう思われてしまったら
隊長資格剥奪の危機!?
0.2秒でそこまでが頭を過ぎり
僕はとっさにごまかしを図る…が
「いやいや知らない ゼンゼン知らない
初めて会いましたよこんな人ぉぉ」
「何を言うか、私達は
同じ釜を掘った仲間ではないか」
「意味間違ってるぅぅぅ!つか
さんは黙っててえぇぇぇ!!」
やはり予想の通り、KYなさんに
苦肉の策をぶち壊され
一気に窮地へと追い込まれた
とりあえず その場を何とか言い逃れ
親衛隊のメンバー達を副隊長や軍曹らに
任せ、隊員たちから離れた場所に移動し
僕はさんに改めてたずねる
「で、僕に何の用ですかさん
てゆうか何でここにいるの?」
「いや…はぐれて歩いてたら見つけた」
「言葉を足してぇぇぇ!」
彼女は表情を変えず、少し唸って
「この人込みで兄上とはぐれてしまって
探している所 お主を見つけたのだ」
「それ迷子ってことですか!?
アンタ一体いくつだよ!!?」
「齢は17になる」
「真面目に答えるなぁぁぁ!!」
「いくつと問うたから答えただけだ」
ダメだ…この人 別の意味でほんっとダメだ
「ああもう、それじゃお兄さんを探しますよ?」
僕は会話を適当に切り上げ
メガネを持ち上げてから、さんと
一緒に辺りを歩くことにした
まったく 何で僕が迷子の親探し
みたいなことをしなきゃいけないんだ
てかこの人 本当に僕の一個上なのか?
ネジが一本所か二十本くらい抜けてる
常識のなさは神楽ちゃんと変わらなく見える
いや、変なところでずる賢いだけ
神楽ちゃんの方が頭の回転早そう
…今はそんなことどうでもいい
早くさんの所に連れて行こう
ぶっちゃけさっきの会話で僕の面目が
丸つぶれになったし
それにもう少ししたらゲリラライブが
始まっちまうじゃねぇかヨロレイヒィィ!
お通ちゃんのライブを見逃したら
それこそ末代にまで悔いを残すことになる!
寺門通親衛隊隊長として絶対に
致命的な あるまじき行為!!
だから、さんには悪いけど
早いトコ何とかしなくっちゃ…ってアレ?
側にいたさんの姿が見当たらず
僕は慌てて辺りを見回し、硬直した
「あん?なんじゃいガキ」
「少し人違いをしてぶつかっただけゆえ」
「それなら先に謝らんかぃ 能面みたいな
ツラァしおってからにぃ」
なんかやばそうなオッサンに囲まれてるぅぅ!
「離れないでさんんんん!」
仕方ないなぁ、もう!
僕は彼女の手を繋いで
腕を引きながら少し早足でその場から逃げる
「待てやコラ、ガキどもっ!」
正直 自分でも恐ろしい行動をしていると
頭の中では自覚している
こんな行動を隊員に見つかったら
まず間違いなく 切腹ものだ
「そんなに急いではコケるぞ新八」
「誰のせいだと思ってるんですかっ
それに僕はそこまでドジじゃありません」
「いや油断は禁物だ、現に私はそれで
三途の川を渡りかけたことも」
「どんだけ嫌な臨死体験!?」
短く答えて歩き続けながら
さんの姿をお互いに探すけれど
人が多すぎて 中々相手が見つからない
ああもう 早く来てよさん!!
「…迷惑をかけ、色々とすまぬ 新八」
ちょっ なんでさっきからずっと
しおらしい感じになってるの!?
余計な所で気を回さないでよぉぉ
兄上兄上って 呪文のようにいつもみたく
連呼しててくれてないと
こっただって対応に困るんだから…!
「!」
聞こえた声に、二人でそちらを見ると
さんが困ったような安心したような
表情で 駆け寄ってきたので
僕は、繋いでいた手を離す
「兄上!はぐれてしまい すみませなんだ」
「いや、いいんだよ…よかったわ会えて」
ほっとするさんの気持ちも分かる
この人 目を離したら三途の川を
渡ってるような気がするもん
「迷惑かけたね新八君 ありがとう」
柔らかい笑みでさんが頭を下げる
「いえ、当然のことをしたまでです」
着ているものは至って普通の着物なのに
男に見えない色気があるから、目が合うと
思わず顔が赤くなってしまう
…いや 別にそーいうアレじゃないけど
「本当にかたじけない、見直したぞ新八」
僅かにだけど さんもほほえんでいて
"キレイだな"、と不覚にもそう思った
「いや そんな…」
「みんなー!今日はライブに来てくれて
ありがとうきびウンコォォ!!」
『とうきびウンコォォォ!!』
お通ちゃんの声に反応し、つい条件反射で
レスポンスを行った
そりゃもう 周囲の声に負けないくらい
腹の奥底から搾り出す魂の大音量で
我に帰って二人を見るも時既に遅く
「あー…僕らお邪魔みたいだし
帰ろうか、」
「う、うぬ それではまたな新八」
ドン引きしてます的な雰囲気を漂わせ
会釈してその場から退散していた
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:初新八文も誕生日に間に合って
よかっタンドリーチキン
新八:なんでお通語!?いや、いいけどさ
狐狗狸:いいんだ(苦笑)てゆうか杉様と誕生日
メチャ近な割にはツッコミだから書きやすか
新八:ちょ、消されますよ高杉さんに!(汗)
狐狗狸:おっとこれは失礼しました
新八:まったく…そう言えばさんと
さんはなんでライブの近くにいたんです?
狐狗狸:あー…きっとライブ会場が
スーパーとかの近くだったんだよ うん
新八:明らかにとってつけた様な設定だろぉぉ!
狐狗狸:アハハ バレたか
新八:わからいでか!
やっぱりギャグなオチで締めました(苦笑)
様 読んでいただきありがとうございました!