「むぅ…この所、空模様が悪い
まぁ梅雨なれば仕方もなし」







家へと戻る途中の道端で





曇天を仰ぎ は目を細めた







「夏になれば、晴天高く薄着の男女も増え
コート一枚を羽織る中年が夜闇を駆ける…
まさにこれぞ日本の情緒







果てしなく勘違いした常識を真顔で
しみじみ呟きつつ歩く彼女の後ろで





ゴトリと鈍い落下音が響き


足元に缶詰が転がって 止まる







「む、何だこれは…缶詰?」









やけに大きな缶詰を拾おうと、
身をかがめたその瞬間







背後から圧し掛かる重みに 意識が途切れた











川のせせらぎが聞こえ、彼女は目を開ける







「…ここは、何処だ?」


おーい、また来たのか」


「あ、父上」





向こうに、手を振る父の姿を見て


自分が三途の川に居ることを理解した





「最近はひんぱんに来るな、嬉しくはあるが
少し心配になるぞ?」





父親の言うことももっともである







とある一件を境に死神に好かれたのか





はトラブルに巻き込まれやすく
それによって死にかけることも珍しくなく


ほぼ一日に一回のペースで三途の川にやって来る





いつ弾みで川を越えてもおかしくはないのだ







「まーお前もも元気そうでよかったよ
母さんもずっと気になってたらしいからな!」


「相変わらず、母上とは仲がおよろしいのですね」


もちろんだ!死した今でもおしどり夫婦と
こっちでは評判なんだぞーウハハハハ!





豪快な笑い声を上げる父親を見て
も心なしか嬉しげに微笑んでいた







―おおい !―







どこからともなく、彼女を呼ぶ声が
その場に響き 父親が上を仰ぐ





「おお、どうやらまたあっちで呼んでる奴が
いるみたいだな お別れだな


「そのようですね父上、しからばまた会いましょう」





洒落にならない台詞を最後に


の意識は再び闇に包まれる











「呼び捨てにするタイミングってシビア」











再度目を開けると







桂が心配そうな面持ちをして
の顔を覗き込んでいた









「ああよかった、意識がないから心配したぞ」


「…桂殿 何故ゆえここに?」


「何 近々行うある計画の為に必要な
この缶詰を買いに来ていたのだが…」







彼は自分の側に山積みで置いた
異様にでかい缶詰を目で示す







「流石にこの量は重くてな、うっかり
落として お前を下敷きにしてしまった」


「…なるほど うっかりなら仕方あるまい」





生死の境をさ迷う一大事を"うっかり"で済ませ





「侘びもしたいから、ついて来るついでに
缶詰運びを手伝ってくれないか?」


「そうだな まだ夕飯時まで時間はあるし
微力ながら、助太刀いたす」





何事もなく缶詰を抱えようとしだす







頭のネジが飛んでるバカ二人がそこにいた





「持つのはいいが気をつけろよ、先程は中身が
出なかったから良かったが うっかり落としたら
大変なことになるからな」


「そういう桂殿こそ気をつけてくだされ?」


「ハハハこれは一本捕られたな、てへっ☆







昔の少女漫画にいたようなどじっ子さながらに
こぶしを頭にこつんとぶつけて舌を出す桂









ここで普通の者ならば







男がてへっ☆とかいうなキモイんじゃ、とか





いつの時代のネタだチョイス古い、とか





桂の発言や言動に対し 渋い顔で
ツッコミ入れるであろうが







そこはそれ、は普通とは既に
遥か彼方までかけ離れているからして







「うーむ桂殿はおしゃまさんだな」


…それは使い方を間違ってはいないか?」


「そうなのか、ところで おしゃまとは
何のことをさすのだ?」


「分からず使っていたのか!?」









ボケ役のはずの桂を逆に ツッコミ役に
回す被せボケを繰り出してのける





しかも無自覚なのが一番恐ろしい











「所で缶詰の中身はなんだろうか?」







変形している缶詰をバランスを保ちつ
持ち運びながら がたずねる







「何でも、ものすごく臭いニシンの燻製らしい
その匂いは科学兵器並だとか」


「兵器…銀時の足の匂いくらいだろうか?」





桂はふふん、と鼻で笑い





「そんなものは眼ではない、むしろ
銀時の足の匂いさえねじ伏せてくれるわ!


「おお…銀時が知ったらさぞ驚くだろうな
して、何故そんなものを大量に?」


「近々革命を計画しているのだがなるべく
人を傷つけぬ方向で行おうと思ってな…
それで、この臭い缶詰に目をつけたんだ」


「なるほど 匂いで革命を起こすのか」









なんともアホらしいが、飲食店などに
とってはとても恐ろしいテロである







そんなテロを引き起こされた日には





確実に店の従業員缶詰を作った人達
ごっさ泣くに違いない









「食べ物を粗末にするのはよろしくないが
人を傷つけぬよう考える桂殿の思想は…」


、前々から気になってたんだが」


「何だろうか?」







隣で立ち止まるに、桂は眉間に
しわを寄せて問いただす







「銀時達は名前で呼ぶのに
何故オレだけ苗字なんだ?」



「何故と言われても…桂だ、と強調していたゆえ
その名で呼ばれたいのかと思ったのだ」







たしかにそれは間違ってはいない





昔の友には度々"ヅラ"と言われ
反射的にそれを訂正する癖が付いており





本人にもウザいくらいの自己顕示欲
あったりするが故の行動で名前を示す







「それは…そうなのだが しかしだな」


「逆にたずねるが、何故そうまでして
呼び名にこだわるのだ?」


「う、いや そのだな…うむぅ」







問われて、桂はうろたえた









(オレだけ仲間ハズレみたいで悔しいではないか)









心中のその一言は 流石に恥ずかしくて
言えないだけなのだ







それを誤魔化すように勢いよく捲くし立てる





「じゃあ、オレが小太郎と呼んで欲しいと
頼めば そう呼んでくれるのか?」







は首を少し傾げていたが、ややあって頷く







「無論だ」





よし!と心の中で呟いてから





桂は咳払いをして、真顔で言う







「では 早速呼んでもらおう」


「了解した、小太郎殿」


「もう一回」


「? 小太郎殿?









不思議そうに瞬きをする
穴が開くほど見つめてから









「…気持ち、声を高めに 殿を省いて」







先程よりも更に真剣に要求する桂





ちょっぴり頬を赤らめていたりする所が
人々の怒りを妙に誘う







「細かい注文だな…しかし人の名を
呼び捨てにするのは親しくなってからと」


「そうか…と親しいと思っていたのは
オレだけだったのか…」







途端 寂しげな顔で影を背負い
桂が地面に体育ずわりをし始める







「す、すまぬ そこまで落ち込まないで欲しい!」


「いいさ どうせオレはその辺に転がる
石ころと同価値なのだろう…」







彼は缶詰抱えたまま 器用にも
地面に"の"の字まで書き出し





ダークなオーラも垂れ流す







その陰気さはぶっちゃけ
人一人呪い殺すような力がある









大の大人が名前を呼んでもらえない位で





そこまでネガティブにならなくても…と
も思ったらしく







「わかりもうした、呼ぶから面を
上げてくれぬだろうか…小太郎」





珍しく、困惑の表情を浮かべながら
ぼそりと彼の名前を口にする









桂は顔だけを上にあげ





「もう一度 声を気持ち高めに」


「…小太郎?」





要求にが答えると、一転して
嬉しそうに顔を綻ばせた







「鼓膜に焼き付けたいから、もう一回
今の調子で―」



「おーう、缶詰抱えて何やってんだヅラぁ」







通りからひょっこり現れた銀時の言葉に
反応し 桂はすぐさまこう返す







「ヅラではない!桂だ!!」


「…やはり桂殿の方がいいのか?」


「いや、そういうわけじゃなくて
でもあながち間違いでも…ああああ!









自問自答に陥っている桂をよそに







銀時がに気づいて よぉ、と
軽く挨拶を交わす









「何だ もいんのか
つーか何その缶詰、桃缶?


「いや、お主の足よりも強い兵器だ」


「意味わかんねぇよ、缶詰っつったら
桃缶だろぉ基本よぉ」





彼女の抱えていた缶詰のうちの一つを


何気なく、ひょいと持ち上げて
しげしげ眺める銀時





「オイオイオイオイ これ缶の原型
留めてねーだろ、中身ヤバいんじゃね?」


「貴様それを返さんか銀時!」


「返すって桃缶じゃねーしよ
ほれ パース」


「投げて返すなぁぁぁぁ!」







慌てて地面にスライディングしながら
直前で缶をキャッチする





それに桂がホッとしたのもつかの間







「桂殿っ他の缶が」


「あっ、しまったついうっかり!」







いくつかの缶が宙へと放り出され





そのうちの数個が膨張に耐え切れず噴き出し
中身もろとも落下した









ちょうどの頭の上に







「あ!」


「おあっ!?」


「え」











まるで狙っていたかのように







中に入っていたドロドロの内容物の直撃を
頭から浴びてしまい





悪魔の毒○モンスターになった









一拍遅れて 周囲に悲鳴が轟いた







「ぎゃあああああああ!!」


「何だこの匂い!
テロか生物テロかあぁぁ!!」


「毒ガスがあたりにいぃぃぃうおぇっ







顔を苦悶の表情に変え、鼻と口を押さえ





込みあがる吐き気と生臭スメル
悶え苦しむ辺りの人々









そんな悪臭を身にまとって尚
表情が硬いままのが口を開く







「桂殿 銀時…すごく臭いのだが…
まさに最終兵器だこれは……」


「すまん!大丈夫…うわクサッ!


「おまっクセェんだよ、寄るなぁ!」





銀時と桂も周囲の人達同様 鼻と口を押さえ
なるべくから離れていく













直後、この事件はニュースで
『毒ガステロか!?』という内容で放送され









の身体はしばらく生臭かったそうな








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回の話はまず、桂さんのウザさ
表現するのが難しかったです


銀時:あん?何言ってんだ、ヅラは存在自体
ウゼーだろーがよぉ それより桃缶ねぇか?


桂:ヅラではない 桂だ!


狐狗狸:いやでも桂さんももボケ属性だし
天然だからねーそれより何で桃缶?


銀時:最近妙に蒸し暑いから食いてーなーって


桂:って無視するなそこの二人ぃぃ!


銀時:んだようるっせーなヅラ、ついでに
テメーそのウザい長髪切って来い


桂:ヅラじゃない桂だ、貴様 
ヒドイ目に合わせておいてよくものうのうと


狐狗狸:いや、あなた死なせかけてたじゃん


桂:責任を取って缶詰を弁償するか
オレと手を組んで攘夷活動をぐぶふぉ!(殴)


銀時:誰がするかぁぁんな金あったら
オレが欲しいわあぁぁぁぁ!!


狐狗狸:…ダメだこの大人二人は




前にもシュールネタやってます、こういうネタで
扱っててゴメンなさい職人さん


話がかなり飛んでるのはスルーの方向で(謝)


様 読んでいただきありがとうございました!